■ポリトープを巡る人々(その6)
高次元図形では,高次元球や高次元正多面体の理解が進んでいるわりに,高次元準正多面体をなるとさっぱり(お手上げ状態)であった.高次元図形の数え上げ理論が必要とされる所以である.
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特殊な多面体クラスについては,ミンコフスキーが原始的平行多面体として取り上げた2(2^n−1)胞体などがあるが,私の知る限り,
石井源久「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに関する研究」
Motonaga Ishii: On a Generel Method to Calculate Vertices of N-Dimensional Product-Regulat Polytopes, Forma 14,.221-237,1999
が具体的で本格的な図形研究の最初のものであろう.
この論文を読んで,私は高次元多面体論の研究を始めたのであるが、当時、この論文の存在自体がすでに忘れ去られたものであった。
当初は頂点座標を求めて計量的に多面体の構造を詳しく調べていた.図形の問題ではどうしても座標を設定して計算したくなるものであるが,面数を数えるだけならば座標にこだわらず扱えると考えて,最終的には座標を使わずに位相幾何学的な組み合わせ論を用いた.
初歩的・古典的な位相幾何学的組み合わせ論が不思議なほどにうまく使えて,多面体の構造を詳しく調べていくのは(困難がなかったわけではないが)実に楽しいものであった.こうして,私は高次元準正多面体は直感が働かないという難問を克服することができた.
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こういうときの心境は,漱石の「夢十夜」の運慶が仁王を刻む話と同様,実は私が考え出したのではなく,数学という木のなかの埋もれていた理論を,シュレーフリ記号とワイソフ記号,そして紙と鉛筆を使って掘り出したに過ぎないというのが実感である.
漱石の「夢十夜」は,数学的真理はあらかじめ存在しており,発明されるのではなく,発見されるのだという喩え話によく引き合いに出されるものである.英単語のdiscover(発見する)は覆っていたもの(cover)をはがす(dis-)ということで,私たちも年齢を問わず先入観を捨て,好奇心をたぎらせれば日常の身近なところに多くの発見をすることができるのである.
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石井源久さんによって描かれた高次元準正多面体のCGをひとつみてほしい.われわれ3次元人は所詮高次元図形を見ることはできないけれど,ソリッドモデルはリアリティーの高い図形を供給してくれるので,見る人のイマジネーションをかき立て,多くのインスピレーションを生み出すことができる.つまり,ソリッドモデルは高次元図形の世界の風景を一変させてくれるのである.
また、高次元になるとワイヤーフレームモデルはブラックアウトしてしまうが、ソリッドモデルでは決してブラックアウトしないのも特徴だろう。
私は「多次元半正多胞体のソリッドモデリングに対する研究」をご本人から謹呈して頂いたのであるが,その考察はすばらしいの一言につきる.このような立派な研究が行われていたことをまったく知らなかったこと,忘れ去られた(あやうく忘れ去られるところであった)論文があったことを恥じ入るばかりであった.
この論文は現在の多面体論の発展の基礎になっており,いまなお学ぶに値することを強調しておきたい.
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