■格子のボロノイ細胞(その43)
次に,Na+とCl-が交互に正方格子を組むときのマーデルング定数を求めてみよう.
碁盤の目状に交互に並んだ2次元結晶の場合も,足し合わせる順序をでたらめにすると,まっとうな結果を得ることができなくなってしまう.たとえば,間隔Rで交互に並んだx軸上のイオンのクーロンポテンシャルの総和を考えると,
U=-e^2/R*2[1-1/2+1/3-1/4+・・・]=-e^2/R*2log2
で収束するが,直線y=x上にはNa+イオンだけが存在するから,y=xに沿ったクーロンポテンシャルの総和は,
U=e^2/R*2/√2[1+1/2+1/3+1/4+・・・]
すなわち,括弧の中の和は調和級数となり,無限大に発散してしまう.
いきあたりばったりのやり方では,2次元結晶におけるマーデルング定数を書き下すことができそうにもない.そこで,第n近接を求めて,原点からの距離の近い順に足し合わせてみることにする.一般に,無限級数が収束する場合,それぞれの項のなかで絶対値が小さいものほど寄与が小さくなるから,正にせよ負にせよ絶対値の大きいものから足しあげていくのが常套であり,妥当なところであろう.
2次元結晶において,1つのNa+イオンに注目すると,第1近接は上下左右にある4個のCl-イオンであり,第2近接は斜め隣にある4個のNa+イオンです.第3近接には2Rだけ離れて4個のNa+イオン,第4近接には√5Rだけ離れて8個のCl-イオンがある,第5近接には√8Rだけ離れて4個のNa+イオンがある,・・・.最終的に,
U=-e^2/R[4-4/√2-4/2+8/√5-4/√8+・・・]
が得られたことになる.
3次元の結晶になっても原理的には同じで,Na+イオンに最も近いCl-イオンは,距離Rのところに6個あり,次に近いイオンは,√2Rのところにある12個のNa+イオン,第3近接には√3Rだけ離れて8個のCl-イオン,第4近接には2Rだけ離れて6個のNa+イオン,第5近接には√5Rだけ離れて24個のCl-イオン,・・・という具合になる.
U=-e^2/R[6-12/√2+8/√3-6/2+24/√5-・・・]
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1次元の場合,すなわち,
U=-e^2/R*2[1-1/2+1/3-1/4+・・・]=-e^2/R*2log2
とは違って,2次元・3次元では解析的な解は得られそうにないが,数値的には求められるであろうと気楽に考えていた.ところが,この無限級数の場合,距離の近いものから足し合わせるという(馬鹿正直な)正攻法では振動が激しく,一向に収束しないのである.
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