■おかあさんのための数学教室(その133)

 数学の巨人と称されるヒルベルトは,ポアンカレを議長とする1900年の国際数学者会議で「数学の諸問題」という講演を行っています.ヒルベルトのあげた23の問題は数学のほとんど全分野にわたっていて,彼自身の研究と密接に関連しています.そのなかで,数学の発展をもたらした問題の例として,最速降下線の問題,フェルマーの問題,三体問題,正多面体の問題,代数関数論におけるヤコビの逆問題などをあげていますが,フェルマーの問題がまったく純粋な思考の産物であるのに対して,三体問題は天文学上の必要性から生じたもので好対照をなしています.

 第7問題が2^(√2)やe^πの超越性を問うものです.その後,1919年に,ヒルベルトは数学の難問について講義し,2^(√2)やe^πの超越性の証明はリーマン予想やフェルマー予想を解くよりはるかに難しいと考えたのですが,e^πは1929年に,2^(√2)は1934年に超越数であることが証明されました.

===================================

【1】超越数

 古代ギリシャのピタゴラス学派は√2や黄金比を発見し,それらが有理数ではないことを知って驚きましたが,超越数の研究が本格的に始まったのは,1844年,リューヴィルによる超越数の発見以後のことです.

 リューヴィルは

  2^(-1!)+2^(-2!)+2^(ー3!)+・・・+2^(-n!)+・・・

が超越数であること,すなわち,超越数の存在をはじめて示したのです.後にカントールは,ほとんどの数は超越数であることを証明しています.

 1873年,エルミートは

  e=1+1/1!+1/2!+・・・+1/n!+・・・

が超越数であることを証明しました.これはリューヴィル数のような人為的に作った数ではない最初の超越数です.

 リンデマンは,エルミートの方法を一般化して,πの超越性を証明するのですが,リンデマンの定理(1882年)より,

  e,π,e^(√2),e^α,log2,logβ

   (α,βは代数的数で,α≠1,β≠1)

の超越性が導かれます.

 πは超越数ですから√πも超越数なのですが,したがって,√πは代数方程式の解とはなりえず,ギリシャの三大作図問題のひとつ,円積問題(円の正方形化問題)は作図不能となるのです.また,これにより,指数関数:y=exp(x)は,点(0,1)を除き代数的点を通ることができないことになるのですが,指数曲線や対数曲線が超越曲線と呼ばれる所以です.

 1900年,ヒルベルトはパリの国際数学者会議において,2^(√2)が超越数であるかどうかを当時の数学の問題のひとつとしました(ヒルベルトの第7問題).この問題は,「0または1でない代数的数αと有理数でない代数的数βに対し,α^βが超越数であることを示せ」というものですが,1934年,ゲルフォントとシュナイダーによって独立に,肯定的に解決されました.

 その結果,

  2^(√2),e^π,α^β,log102,logba

がいずれも超越数であることが判明しました.なお,

  e^π=(-1)^(ーi)

は,ゲルフォント・シュナイダーの定理によって超越数なのですが,

  π^e,π^π,e^e

は有理数かどうかもわかっていませんし,π+eは無理数かどうかも知られていません.

 ついでに述べますと,1929年,マーラーは

  2^(-2^1)+2^(-2^2)+2^(ー2^3)+・・・+2^(-2^n)+・・・

の超越性を示し(マ−ラーの定理),さらに1961年には,自然数を順に並べて得られる正規10進法小数(チャンパーナウン数)

  0.12345678910111213・・・

が超越数であることを示しました.

 また,Γ(1/2)=√πは超越数ですが,ネステレンコの定理より,

  Γ(1/3),Γ(1/4)

も超越数であることが導かれます.

 この辺の話を詳しく知りたい方には「無理数と超越数」塩川宇顕(共立出版)をお勧めします.

===================================