■因数分解の算法(その29)

【4】4元数と行列

 積の交換法則が成り立たない代数として「行列」があります.

  E=[1,0]   J=[0,−1]   J^2=−E

    [0,1]     [1, 0]

とおけば,

  A=[a1,−a2]

    [a2, a1]

  A=a1E+a2J

と表されます.

  A=a1E+a2J,B=b1E+b2J

の形の行列全体は加法および乗法に関して閉じています.

  A+B=(a1+b1)E+(a2+b2)J

  AB=(a1b1−a2b2)E+(a1b2+a2b1)J

乗法の可換性は成立しません.すなわち,(その25)では行列による表現を利用して複素数を導入したわけですが,類似の方法で4元数を行列の中に実現させる方法もあります.

  E=[1,0,0,0]

    [0,1,0,0]

    [0,0,1,0]

    [0,0,0,1]

  i=[0,−1,0, 0]  j=[0, 0,−1,0]

    [1, 0,0, 0]    [0, 0, 0,1]

    [0, 0,0,−1]    [1, 0, 0,0]

    [0, 0,1, 0]    [0,−1, 0,0]

  k=[0,0, 0,−1]  A=[a1,−a2,−a3,−a4]

    [0,0,−1, 0]    [a2, a1,−a4, a3]

    [0,1, 0, 0]    [a3, a4, a1,−a2]

    [1,0, 0, 0]    [a4,−a3, a2, a1]

とおけば

  A=a1E+a2i+a3j+a4k

と書くことができます.

 この体系では,4元数同様,

  i^2=−E,j^2=−E,k^2=−E,

  ij=k,jk=i,ki=j,

  ji=−k,kj=−i,ik=−j

なる性質をもっていて,加法および乗法に関して閉じています.また,乗法の可換性は成立しません.

 この体系を用いると,

  (x^2+y^2+z^2)E=−(xi+yj+zk)^2

  (x^2+y^2+z^2+w^2)E=(x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)

のように,虚数単位iを陽に用いることなしに2つの行列の積に分解できますが,それでは4元数そのままであって,虚数単位iを使ったパウリ行列やディラック行列よりも面白味に欠けるかもしれません.

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