■因数分解の算法(その26)
【2】パウリ行列
(その25)で述べたことにより,行列を使うと因数分解ができるようになる可能性が開けてきます.円に相当するx^2+y^2ができたわけですから,球に相当するx^2+y^2+z^2も分解してみたい・・・.そして実際に,
x^2+y^2+z^2
の因数分解を可能にするのが「パウリ行列」です.
パウリ行列は
σx=[0,1] σy=[0,−i] σz=[1, 0]
[1,0] [i, 0] [0,−1]
の3組の2×2行列で与えられるのですが,いずれも2乗すると単位行列になります.
σx^2=E,σy^2=E,σz^2=E
また,行列のかけ算は非可換なのですが,パウリ行列では,
σxσy=iσz,σyσx=−iσz
のように符号が逆となり,
σxσy+σyσx=O(ゼロ行列)
σxσy−σyσx=2iσz
のような関係が成立します.
ここで,行列
xσx+yσy+zσz=[ z,x−yi]
[x+yi, −z]
を考え,この行列を2乗してみます.すると,
(xσx+yσy+zσz)^2=[x^2+y^2+z^2,0]
[0,x^2+y^2+z^2]
=(x^2+y^2+z^2)E
結局,(x^2+y^2+z^2)Eという行列は,(xσx+yσy+zσz)^2に分解できたことになります.4元数を使わないとできなかった因数分解が,行列を利用すると分解できるトリックは,行列の成分として虚数単位を含んでいるうえに,行列自体にも虚数の働きがあり,普通の数にはない機能を2重に使っているからと考えられます.
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