■クロネッカー・ワイルの定理(その1)

 無理数の性質に関するワイルの一様分布定理を紹介する.

 ワイルの一様分布定理とは,無理数γを与えたとき,nγの非整数部分{nγ},n^2γの非整数部分{n^2γ}のn=1,2,3,・・・としたときの分布についての定理で,

[1]γが無理数であれば{nγ}は区間[0,1)において一様分布する

[2]γが無理数であれば{n^2γ}は区間[0,1)で一様分布する

 クロネッカーの稠密定理とそれに密接に関連したワイルの一様分布定理により,長方形ビリヤード問題に幾何学的証明を与えることができる.クロネッカー・ワイルの定理に入る前に,ディリクレの定理を紹介したい.

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【1】ディリクレの定理

[ディリクレの定理]任意の無理数αに対して

  |α−p/q|<1/2q^2

を満たす既約分数p/qは無数に存在する.

 近似分数列{an/bn}で非常によく近似できる実数αについて

  |α−an/bn|<1/bn^2

が成立するならば,αは無理数です(ディリクレの定理).

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【2】ディリクレの定理の証明

 ディリクレの定理,すなわち「任意の実数αについて

  |α−an/bn|<1/bn^2

を満たす有理数an/bnが存在する.」の証明を掲げる.

(証)αが有理数で,α=p/qと表されたとする.{bn}は次々に大きくなる整数列であるから,q<bnである番号をとると

  |α−an/bn|=|p/q−an/bn|=|pbn−qan|/qbn

 しかし,an/bnはαとは一致しないので分子は1以上.したがって

  |α−an/bn|≧1/qbn

であるが,これが<1/bn^2なのでq>bnとなり矛盾.すなわち,αは有理数ではあり得ないことになる.

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 このように,「ディリクレの定理」の証明は,引き出し論法あるいは鳩の巣原理と呼ばれるものから容易に導かれる.この原理はn個の巣箱にn+1羽の鳩が入っているならば,ある巣箱には少なくとも2羽の鳩が入っていなければならないというものである.

 xの小数部分x−[x]を{x}と書くことにすると,0≦{x}<1である.ここでq+1個の数,0,1,{α},{2α},・・・,{(q−1)α}を考えると,これらの数はすべて区間[0,1]に属する.

 区間[0,1]をq個の互いに交わらないながさ1/qの小区間に分割すれば,q+1個の数のうちの2個は同じ小区間に入ることになる.その2数の差はbnα−anで,また,0<bn<qであるから,|bnα−an|≦1/qが成り立つ.

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