■学会にて(直観幾何学研究会2019,その17)

 (その12),(その13)を補足.

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【4】拡大体F2^n

 ここでは,F2係数既約n次方程式がその中に根をもつような有限体F2^nを構成します.この体は,近年,符号理論・暗号理論などの分野でますます重要な枠割りを果たしています.

 まず,素体F2の2次拡大:F4=F2^2をつくることにしますが,

  f(x)=x^2+1

  f(0)=1,f(1)=2=0

より,

  x^2+1=(x+1)^2

のように因数分解されます.したがって,既約多項式ではありません.

 F2係数2次方程式のうち,F2の中に根をもたないものは,

  x^2+x+1

だけなのです.そこで,

  F2[x]/(x^2+x+1)={ax+b|a,bはF2の元}

では,剰余の次数は高々1次で,F2=Z/2Zの元の集合は{0,1}ですから,

  {0,1,x,x+1}

の4個の剰余類からなります.

 ax+bをabとして2進数表示すれば,集合としては

  F4=F2^2={00,01,10,11}={0,1,2,3}

加算はビットごとのF2の加法なので省略して,かけ算だけを示しますが,

  x^2=−x−1=x+1  (F2では−1=1)

に置き換えると

  ×  0  1  2  3

  0  0  0  0  0

  1  0  1  2  3

  2  0  2  3  1

  3  0  3  1  2

 また,素体F2の3次拡大

  F8=F2^3={ax^2+bx+c|a,b,cはF3の元}

の原始方程式は

  x3+x+1=0

より,

  x^3=−x−1=x+1

に置き換えると,例えば,

  3×5=011・101=(x+1)(x^2+1)=x^3+x^2+x+1

     =x+1+x^2+x+1=x^2=100=4

  ×  0  1  2  3  4  5  6  7

  0  0  0  0  0  0  0  0  0

  1  0  1  2  3  4  5  6  7

  2  0  2  4  6  3  1  7  4

  3  0  3  6  5  7  4  1  2

  4  0  4  3  7  6  2  5  1

  5  0  5  1  4  2  7  3  6

  6  0  6  7  1  5  3  2  4

  7  0  7  5  2  1  6  4  3

 以上より,F4もF8も体であることが確認されました.

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 一般のnに対するF2^nの計算も,原始方程式を見つけることができれば,まったく同様にできます.したがって,問題は原始方程式を見つけることです.任意のn次既約多項式はx^(p^n)−xの約数なのですが,1次因子〜高次因子をすべて求める方法にはこれ以上深入りせず,nが比較的小さいときの原始方程式をいくつか掲げておきます.

 最高次数の係数が1の多項式をモニックな多項式というのですが,多項式の場合,モニックで既約な多項式が,整数における素数に対応します.ここでは,F2[x]において,モニックな既約多項式のみを考えます.

1)1次のモニックな既約多項式は,

  x,x+1,の2個.

2)2次のモニックな既約多項式は,

 x^2+x+1,ただひとつです.

 定数項が0のものはxで割り切れますから,候補はx^2+1とx^2+x+1の2つしかないのですが,x^2+1=(x+1)^2なので不可.x^2+x+1は0,1を代入しても0にならないので,1次因子をもたない.従って既約多項式です.

3)3次のモニックな既約多項式は

  x^3+x+1,x^3+x^2+1,の2個.

 x^3+ax^2+bx+cに0,1を代入すると,c,1+a+b+cで,これがどちらも0にならないのはa+b+1=0,c=1のとき.つまり,

  a=1,b=0,c=1またはa=0,b=1,c=1.

4)4次のモニックな既約多項式は

  x^4+x+1,x^4+x^3+1,x^4+x^3+x^2+x+1,の3個.

 x^4+ax^3+bx^2+cx+dに0,1を代入すると,d,1+a+b+c+dで,これがどちらも0にならないのはa+b+c+1=0,d=1のとき.これは1次因子をもたない条件.

 2次の既約多項式はx^2+x+1だけ.これで割ってみると余りは,(b+c+1)x+a+b+d.これが0でないのは,b+c=0またはa+b+d=1.合わせればa=1,b=cまたはa=b,c=1.よって,

 a=1,b=c=0とa=b=c=1とa=b=0,c=1

5)5次の既約多項式は

  x^5+x^2+1,など5個.

  x^5+x+1=(x^3+x^2+1)(x^2+x+1)

はF2[x]上で既約ではない.

6)6次の既約多項式は

  x^6+x+1,など9個.

7)7次の既約多項式は

  x^7+x+1,など18個.

8)8次の既約多項式は

  x^8+x^4+x^3+x^2+1,など30個.

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【5】p進数

 有限体の話とよく似た例にp進数があります.p進数は,有理数から実数とは違う方向に枝分かれした数といってもよい数体系なのですが,たとえば,7進数の世界では

  1+7+7^2+7^3+・・・=−1/6

2進数では

  1+2+2^2+2^3+・・・=−1

が正しいのです.正数の総和が負になって、一見して目がくらんでしまいますが,別に冗談をいっているのではありません.

 また,有限体の場合と同様,p進数を係数とする方程式を考え,その根をどんどん新しい数としてつけ加えていくと,ついにはどんな方程式からもそれ以上新しい根がでないような数の体系にいきつきます.

 有限体とかp進数とか,どちらもpが素数のとき体をなすのですが,われわれの知らない数はまだまだあるのです.

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