■学会にて(直観幾何学研究会2019,その2)

【1】オイラーの恒等式</P>

  1/(a−b)(c−a)+1/(b−c)(a−b)+1/(c−a)(b−c)=0

  (b+c)/(a−b)(c−a)+(c+a)/(a−b)(b−c)+(a+b)/(b−c)(c−a)=0

  bc/(a−b)(c−a)+ca/(a−b)(b−c)+ab/(b−c)(c−a)=−1

などの一連の式は「オイラーの恒等式」と呼ばれるものだそうである.単なる分数式の練習問題ではなく,由緒ある式なのである.

 しかし,オイラーの恒等式は算術平均と幾何平均の不等式(←フルヴィッツ・ムーアヘッドの等式)や巡回行列式のように2次式の和の形

  F=ΣkP^2

にも表せそうもない.これでは面白味に欠けるが「オイラーの恒等式」に何か面白い性質は隠れていないのだろうか? オイラーの恒等式は巡回行列式でなく,ファンデルモンドの行列式と近い関係にあることは推測できるのだが,もう一度じっくりみてみることにしよう.

k=3のとき,F=−(a+b+c)

k=4のとき,F=−(a^2+b^2+c^2+ab+bc+ca)

k=5のとき,F=−(a^3+b^3+c^3+a^2b+ab^2+a^2c+ac^2+b^2c+bc^2+abc)

はk−2次の同次項(係数1)がすべて出現している組合せであることに気づかれたであろう.

 その項数は

  3Hk-2=kCk-2=k(k−1)/2

すなわち,k=3(項数3),k=4(項数6),k=5(項数10)と計算される.そして,k=6の場合は

  F=−(a^4+a^3b+a^3c+a^2b^2+a^2bc+a^2c^2+ab^3+ab^2c+abc^2+ac^3+b^4+b^3c+b^2c^2+bc^3+c^4)

(項数15)になるものと推測されるのである.

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 オイラーの恒等式では3変数の場合が取り上げられているが,4変数ではどうだろうか? その前に3変数の場合について,都合上

  F={a^k(b−c)−b^k(a−c)+c^k(a−b)}/(a−b)(a−c)(b−c)

と書き直しておく.

 2変数の場合,差積は1次交代式(b−a)であるから

  F=a^k/(a−b)−b^k/(a−b)=(a^k−b^k)/(a−b)

Fk=A(a−b)とすると

  A=a^(k-1)+a^(k-2)b+・・・+ab^(k-1)+b^k

すなわち,k−1次の同次項が重複なくちょうど1回ずつ現れ,その項数は

  2Hk-1=kCk-1=k

となる.

k=1のとき,F=1   (項数1)

k=2のとき,F=a+b   (項数2)

k=3のとき,F=a^2+ab+b^2   (項数3)

k=4のとき,F=a^3+a^2b+ab^2+b^3   (項数4)

 4変数の場合,差積は6次交代式

  (a−b)(a−c)(a−d)(b−c)(b−d)(c−d)

また,

  Fk=a^k(b−c)(b−d)(c−d)−b^k(a−c)(a−d)(c−d)+c^k(a−b)(a−d)(b−d)−d^k(a−b)(a−c)(b−c)

とかなり厳めしくなるが,Fkは差積と対称式Aの積

  Fk=A(a−b)(a−c)(a−d)(b−c)(b−d)(c−d)

で表されるはずであるから,k=0,1,2のときF=0,k=3のときFは定数となることがわかる.

 項数は

  4Hk-3=kCk-3=k(k−1)(k−2)/6

k=3のとき,F=1   (項数1)

k=4のとき,F=a+b+c+d   (項数4)

k=5のとき,F=a^2+a(b+c+d)+b^2+b(c+d)+c^2+cd+d^2   (項数10)

k=6のとき,F=a^3+a^2(b+c+d)+a(b^2+c^2+d^2+bc+cd+da)+b^3+b^2(c+d)+b(c^2+cd+d^2)+c^3+c^2d+cd^2+d^3    (項数20)

 次にk=−1,−2,−3,・・・としてみたらどうだろうか? k=−1の場合だけを記すが,

  2変数の場合,F=−1/ab

  3変数の場合,F= 1/abc

  4変数の場合,F=−1/abcd

 この分数式に数学的背景があるとは思いもしなかったが,すべての同時項(係数1)が出現するなど意外な事実があることを知った.オイラーの恒等式と関係していることを知って少しは楽しくなっただろうか.

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