■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その69,杉岡幹生)

 今回から実2次体Q(√3)のLB(s)ゼータの分割を調べます。今回はまずLB(2)の4分割を示します。

 LB(s)はディリクレのL関数L(χ,s)

  L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・

 の一種であり、次のものです。

  LB(s)=1 -1/5^s -1/7^s +1/11^s +1/13^s -1/17^s -/19^s +1/23^s +・・

 LB(s)は実2次体Q(√3)のゼータ関数で、導手N=12を持つ。

 ディリクレ指標χ(n)は次の通り。n≡1 or 11 mod 12のときχ(n)=1, n≡5 or 7 mod 12のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。よってs=2のLB(2)は次となる。

 明示的な特殊値のケースのLB(2)、LB(4)、LB(6)・・のうちのLB(2)を代表選手として調べます(それで十分。他も同類の結果となる)。

 LB(2)=1 -1/5^2 -1/7^2 +1/11^2 +1/13^2 -1/17^2 -/19^2 +1/23^2 +・・=π^2/(6√3) -----@

 右辺値π^2/(6√3)は、2007年にテイラーシステムを使って求めた結果を使いました。http://www5b.biglobe.ne.jp/sugi_m/page157.htm

 上記URLサイトでは、次のようにLB(2)、LB(4)、LB(6)、LB(8)の値を求めている。

 (√3/2)LB(2)=L(1)(π/3)^1 /1!  ----A

 (√3/2)LB(4)=L(3)(π/3)^1 /1!- L(1)(π/3)^3 /3! ------B

 (√3/2)LB(6)=L(5)(π/3)^1 /1!- L(3)(π/3)^3 /3!+ L(1)(π/3)^5 /5! ------C

 (√3/2)LB(8)=L(7)(π/3)^1 /1!- L(5)(π/3)^3 /3!+ L(3)(π/3)^5 /5! - L(1)(π/3)^7 /7! -----D

   これは今見ても、見事な結果です。

 LB(2n)特殊値は、L(2n+1)特殊値とこんなにも綺麗な関係でつながっていることに驚きます!

 ちなみに、L(1)=π/4、L(3)=π^3/32、L(5)=5π^5/1536、L(7)=61π^7/184320 ですが、これはよく知られていて有名です。

 Aから@のLB(2)=π^2/(6√3)が出ることは容易にわかります。A、B、Cの右辺を計算してまとめてしまうと、次となります(Dは略)。

  LB(2)=π^2/(6√3)

  LB(4)=23π^4/(1296√3)

  LB(6)=1681π^6/(933120√3)

 なお、上記で述べたテイラーシステムというのは2006年に開発した、ζ(s)を含むL(χ,s)の特殊値を”任意の実数点で”簡単に求めることができる超強力な手法です。

@の級数の値を求めることなど現代でも難題ですが、それがテイラーシステムを使うと、まったく簡単に求めることができます。上記URLサイトで、読者もぜひその簡単さを味わってください。

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 それではLB(2)の4分割を示します。※は無視して残りの4つで4分割となります。次のようにZ(2)6分割(つまりζ(2)6分割)を利用しているため、あえて※を残しました。

■LB(2)4分割

 A1 = 1 + 1/23^2 +1/25^2 +1/47^2 + 1/49^2 +1/71^2 + ・・   =(π/24)^2 /{cos(11π/24)}^2

※A2 = 1/3^2 + 1/21^2 +1/27^2 +1/45^2 + 1/51^2 +1/69^2 + ・・=(π/24)^2 /{cos(9π/24)}^2 ⇒無視

 A3 = 1/5^2 + 1/19^2 +1/29^2 +1/43^2 + 1/53^2 +1/67^2 + ・・=(π/24)^2 /{cos(7π/24)}^2

 A4 = 1/7^2 + 1/17^2 +1/31^2 +1/41^2 + 1/55^2 +1/65^2 + ・・=(π/24)^2 /{cos(5π/24)}^2

※A5 = 1/9^2 + 1/15^2 +1/33^2 +1/39^2 + 1/57^2 +1/63^2 + ・・=(π/24)^2 /{cos(3π/24)}^2 ⇒無視

 A6 =1/11^2 + 1/13^2 +1/35^2 +1/37^2 + 1/59^2 +1/61^2 + ・・=(π/24)^2 /{cos(π/24)}^2

  A1 -A3 -A4 +A6=LB(2)=π^2/(6√3)となります。A1〜A6式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。

 じつは上記A1〜A6は、Z(2)6分割(つまりζ(2)6分割)の分身たちとまったく同じものです!⇒(その60)の「付録」参照。

  Z(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・=(3/4)ζ(2)=π^2/8

  A1 +A2 +A3 +A4 +A5 +A6=Z(2)=π^2/8です。美しいものです。

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 上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。

 次のタンジェントの部分分数展開式を微分した式を利用します。

 1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・=(π/(4x))tan(πx/2)

 上を1回微分して得られる次式を使います。

 1/(1^2-x^2)^2 +1/(3^2-x^2)^2 +1/(5^2-x^2)^2 +・・=(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2 + Others(x) ---E

 ここで右辺のOthers(x)は、Others(x)=-{π/(8x^3)}tan(πx/2)ですが、無視してよい個所なのでOthers(x)としました。

 Eのxに特定の値を代入することで、次のようにLB(2)の分割級数(分身たち)が求まります。

 Eのxに値11/12を代入すると、A1が得られる。

 Eのxに値 9/12を代入すると、A2が得られる。 ⇒無視。9/12=3/4代入で、これはZ(2)2分割の分身となる。

 Eのxに値 7/12を代入すると、A3が得られる。

 Eのxに値 5/12を代入すると、A4が得られる。

 Eのxに値 3/12を代入すると、A5が得られる。 ⇒無視。3/12=1/4代入で、これはZ(2)2分割の分身となる。

 Eのxに値 1/12を代入すると、A6が得られる。

注記:左辺はLB(2)分割級数だけを拾い、右辺はそれに対応する(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2の値だけを拾います(すなわち、左辺ではLB(2)分割級数以外の級数を無視し、右辺ではOthers(x)の値は無視する。それでOK)。

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 LB(2)の4分割が求まりました。

 くり返しますが、LB(2)の分身たちは、Z(2)の6分割(ζ(2)の6分割)の分身たち(の一部)と同じものです。

 LB(2)は、Z(2)の6パーツ(分身)のうちの4パーツを使って作られていることがわかります。まとめると次の通り。

  Z(2) =A1 +A2 +A3 +A4 +A5 +A6

  LB(2)=A1 -A3 -A4 +A6

 このようにゼータ関数は分身たちから構成されていきます。これまでの結果を更新しておきます。

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 ζ(s) リーマンゼータ、導手N=1       ⇒ n分割可能である。

  L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4    ⇒ n分割可能である。

  LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3   ⇒ 1〜10分割可能である。n分割可能と考えられる(予想)。

  LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7   ⇒ 3/6/9/12分割可能である。3n分割可能と考えられる(予想)。3n分割が最良か(問題)。

  L2(s) 虚2次体Q(√-2)ゼータ、導手N=8   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  L1(s) 実2次体Q(√2)ゼータ、 導手N=8   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  LE(s) 虚2次体Q(√-6)ゼータ、導手N=24   ⇒ 4/8/12分割可能である。4n分割可能と考えられる(予想)。4n分割が最良か(問題)。

  LB(s) 実2次体Q(√3)ゼータ、 導手N=12   ⇒ 4分割可能である。

 注記:nは1以上の整数  以上。(杉岡幹生)

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