■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その59,杉岡幹生)
今回から実2次体Q(√2)ゼータL1(s)の分割を調べていきます。L1(s)は”2n分割可能”となるのですが、今回は2分割、4分割を示します。
L1(s)はディリクレのL関数L(χ,s)
L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・
の一種であり、次のものです。
L1(s)=1 -1/3^s -1/5^s +1/7^s +1/9^s -1/11^s -/13^s +1/15^s +1/17^s -1/19^s -1/21^s +1/23^s +・・
L1(s)は実2次体Q(√2)のゼータ関数で、導手N=8を持つ。
ディリクレ指標χ(n)は次の通り。n≡1 or 7 mod 8のときχ(n)=1, n≡3 or 5 mod 8のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。
よってs=2のL1(2)は次となる。
L1(2)=1 -1/3^2 -1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 -1/11^2 -/13^2 +1/15^2 +1/17^2 -1/19^2 -1/21^2 +1/23^2 +・・=(√2/16)π^2
L1(2)が(√2/16)π^2となることは、下記の2分割分身での計算”A1-A2”から簡単にわかります!(4分割からも出ます⇒B1 -B2 -B3 +B4)
以下では、明示的に求まる特殊値L1(2),L1(4),L1(6)・・のうち、L1(2)を代表選手として考察していきます(それで十分。L1(4)、L1(6)・・も本質的に同じ)。
なお”L1(s)”という表記は私が便宜的に用いているもので、一般的なものではないので注意してください。
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それでは、L1(2)の2分割、4分割を示します。
■L1(2)2分割
A1 = 1 + 1/7^2 +1/9^2 +1/15^2 + 1/17^2 +1/23^2 + ・・ =(π/8)^2 /{cos(3π/8)}^2
A2=1/3^2 +1/5^2 +1/11^2 +1/13^2 + 1/19^2 +1/21^2 +・・=(π/8)^2 /{cos(π/8)}^2
1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。
1/{cos(3π/8)}^2= 4 +2√2 、1/{cos(π/8)}^2 = 4 -2√2
A1 -A2=L1(2)=(√2/16)π^2 であることが容易にわかる。A1,A2式に対しExcelマクロで数値検証を実行しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。
■L1(2)4分割
B1= 1 +1/15^2 +1/17^2 +1/31^2 +1/33^2 +1/47^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(7π/16)}^2
B2=1/3^2 +1/13^2 +1/19^2 +1/29^2 +1/35^2 +1/45^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(5π/16)}^2
B3=1/5^2 +1/11^2 +1/21^2 +1/27^2 +1/37^2 +1/43^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(3π/16)}^2
B4=1/7^2 +1/9^2 +1/23^2 +1/25^2 +1/39^2 +1/41^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(π/16)}^2
1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。
1/{cos(7π/16)}^2= 8 +4√2 + 4√(2+√2) +2√(4+2√2)
1/{cos(5π/16)}^2= 8 -4√2 + 4√(2-√2) -2√(4-2√2)
1/{cos(3π/16)}^2= 8 -4√2 - 4√(2-√2) +2√(4-2√2)
1/{cos(π/16)}^2 = 8 +4√2 - 4√(2+√2) -2√(4+2√2)
B1 -B2 -B3 +B4 =L1(2)=(√2/16)π^2であることがわかる。B1〜B4式に対しExcelマクロで数値検証を実行しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。
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上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。
タンジェントの部分分数展開式をG[1](x)と表現すると、次のようになります。
G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・=(π/(4x))tan(πx/2)
これを1回微分して得られる次のAの生成核G[2](x)を得ます。
G[2](x)=1/(1^2-x^2)^2 +1/(3^2-x^2)^2 +1/(5^2-x^2)^2 +・・=(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2 + Others(x) ---A
ここで右辺のOthers(x)は、Others(x)=-{π/(8x^3)}tan(πx/2)ですが、今回は無視してよい個所なので、Others(x)としました。
Aのxに特定の値を代入することで、L1(2)の分割級数を求めることができます。
注記:左辺はL1(2)分割級数だけを拾い、右辺はそれに対応する(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2の値だけを拾います。(左辺ではL1(2)分割級数以外の級数を無視し、右辺ではOthers(x)の値は無視する。それでOK)
以下の通りです。
Aのxに値3/4を代入すると、A1が得られる。
Aのxに値1/4を代入すると、A2が得られる。
Aのxに値7/8を代入すると、B1が得られる。
Aのxに値5/8を代入すると、B2が得られる。
Aのxに値3/8を代入すると、B3が得られる。
Aのxに値1/8を代入すると、B4が得られる。
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このようにしてL1(2)の2分割、4分割が求まりました。
導出過程を見ると、1分割もA式から簡単に出るのではないか?と一見思います。1分割は1/2を代入すればよいとすぐに気づく。
1/2を代入すると、左辺は”4(1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・) +「他」”となり、右辺は”(π/2)^2 /{cos(π/4)}^2 +「他」”となる。
「他」は無視し左辺と右辺を比較して、 Z(2)=(3/4)ζ(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +・・=π^2/8を得る。これはL1(2)ではありません。Z(2)すなわちζ(2)が出てしまいました。
このようにL1(2)1分割を部分分数展開式から出そうとするとζ(2)が出てしまうので、L1(2)では2分割スタートとなります。2分割スタートなので2分割×nの「2n分割可能」となります。すなわち「L1(2)は、2分割、4分割、6分割、8分割・・ができる」となる。
今回の結果を見て「どこかで見た風景だ・・」と思った人がおられるかもしれません。じつはL1(2)の分身たちは、ζ(2)の2分割、4分割の分身たちと全く同じなのです!
ζ(2)の2分割、4分割は(その13)または(その15)で示しました。下記<付録>でそれを抜粋したので見てください。L1(2)は、ζ(2)と全く同じパーツ(分身)から作られていることがわかります。
違いは、パーツの組み合わせ方(加減の演算)の違いだけです。次の通り。
Z(2) =A1 +A2
L1(2)=A1 -A2
Z(2) =B1 +B2 +B3 +B4
L1(2)=B1 -B2 -B3 +B4
このようになっているのです!この仕組みには本当に驚きます。このことはL1(2)6分割、8分割、10分割・・でも成り立ちます。そしてこれは少し前に見たL(1)と虚2次体Q(√-2)のL2(1)との関係の類似でもあります。
最後に。級数”1 -1/3^2 -1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 -1/11^2 -/13^2 +1/15^2 +・・”がいくらになるか?は、本来難しい問題です。それが直接アタックではなく、パーツ(分身)から簡単に出るというのも興味深いことです。まず先にパーツを求めることで、ζ(s)のみならず、周辺の実2次体ゼータの値まで簡単に出る(たんなる四則演算!)のですから面白いというほかありません。
なお、”1 -1/3^2 -1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 -1/11^2 -/13^2 +1/15^2 +・・=(√2/16)π^2”となることはオイラー(1707-1783)が導いています。
すこし前にSugimoto氏から教えられた神戸大・野海先生のオイラーの『無限解析序説』に関する論文に上式が出ています。ゼータの分割という思想はありませんが、オイラーは部分分数展開式を用いて様々な級数の値を求めています。次のp.19に出ています。[オイラーの数学から −『無限解析序説』への招待]
http://www.sci.kobe-u.ac.jp/old/seminar/pdf/noumi2007.pdf
これまでの結果の表を更新しておきます。
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リーマンゼータζ(s)、導手N=1 ⇒ n分割可能である。
L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4 ⇒ n分割可能である。
LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3 ⇒ 1〜10分割可能である。n分割可能と考えられる(予想)。
LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5 ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。
LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7 ⇒ 3/6/9/12分割可能である。3n分割可能と考えられる(予想)。3n分割が最良か(問題)。
L2(s) 虚2次体Q(√-2)ゼータ、導手N=8 ⇒ 2/4/6/8/10/12分割可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。
L1(s) 実2次体Q(√2)ゼータ、導手N=8 ⇒ 2/4分割可能である。
注記:nは1以上の整数 以上。(杉岡幹生)
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<付録>
(「ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造」のその15」より抜粋,一部編集)http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu2/12091_dx.htm
Z(2)=(3/4)ζ(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・=π^2/8
上記の通り、Z(s)は本質的にリーマンゼータζ(s)と同じものです。
■Z(2)2分割
A1= 1 + 1/7^2 +1/9^2 +1/15^2 + 1/17^2 +1/23^2 +・・ =(π/8)^2 /{cos(3π/8)}^2
A2=1/3^2 +1/5^2 +1/11^2 +1/13^2 + 1/19^2 +1/21^2 +・・=(π/8)^2 /{cos(π/8)}^2
A1 +A2=Z(2)=π^2/8 であることがわかります。
1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。
1/{cos(3π/8)}^2= 4 +2√2 、1/{cos(π/8)}^2 = 4 -2√2
■Z(2)4分割
B1= 1 +1/15^2 +1/17^2 +1/31^2 +1/33^2 +1/47^2 +・・ =(π/16)^2 /{cos(7π/16)}^2
B2=1/3^2 +1/13^2 +1/19^2 +1/29^2 +1/35^2 +1/45^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(5π/16)}^2
B3=1/5^2 +1/11^2 +1/21^2 +1/27^2 +1/37^2 +1/43^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(3π/16)}^2
B4=1/7^2 +1/9^2 +1/23^2 +1/25^2 +1/39^2 +1/41^2 +・・ =(π/16)^2 /{cos(π/16)}^2
B1 +B2 +B3 +B4 =Z(2)=π^2/8 であることがわかります。
1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。
1/{cos(7π/16)}^2= 8 +4√2 + 4√(2+√2) +2√(4+2√2)
1/{cos(5π/16)}^2= 8 -4√2 + 4√(2-√2) -2√(4-2√2)
1/{cos(3π/16)}^2= 8 -4√2 - 4√(2-√2) +2√(4-2√2)
1/{cos(π/16)}^2 = 8 +4√2 - 4√(2+√2) -2√(4+2√2)
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