■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その56,杉岡幹生)

<付録1>

(ゼータの香りの漂う公式の「その21」「その14」より抜粋,一部編集)

■L(1)6分割

A1= 1 -1/23 +1/25 -1/47 +1/49 -1/71 +・・ =(π/24)tan(11π/24)

A2=1/3 -1/21 +1/27 -1/45 +1/51 -1/69 +・・=(π/24)tan(9π/24)

A3=1/5 -1/19 +1/29 -1/43 +1/53 -1/67 +・・=(π/24)tan(7π/24)

A4=1/7 -1/17 +1/31 -1/41 +1/55 -1/65 +・・ =(π/24)tan(5π/24)

A5=1/9 -1/15 +1/33 -1/39 +1/57 -1/63 +・・ =(π/24)tan(3π/24)

A6=1/11 -1/13 +1/35 -1/37 +1/59 -1/61 +・・ =(π/24)tan(π/24)

 A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6=L(1) であることをご確認ください。上記6式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、全て左辺の級数は右辺値に一致しました。

■L(1)8分割

 A1= 1 -1/31 +1/33 -1/63 +1/65 -1/95 +・・ =(π/32)tan(15π/32)

 A2=1/3 -1/29 +1/35 -1/61 +1/67 -1/93 +・・ =(π/32)tan(13π/32)

 A3=1/5 -1/27 +1/37 -1/59 +1/69 -1/91 +・・ =(π/32)tan(11π/32)

 A4=1/7 -1/25 +1/39 -1/57 +1/71 -1/89 +・・ =(π/32)tan(9π/32)

 A5=1/9 -1/23 +1/41 -1/55 +1/73 -1/87 +・・ =(π/32)tan(7π/32)

 A6=1/11 -1/21 +1/43 -1/53 +1/75 -1/85 +・・=(π/32)tan(5π/32)

 A7=1/13 -1/19 +1/45 -1/51 +1/77 -1/83 +・・=(π/32)tan(3π/32)

 A8=1/15 -1/17 +1/47 -1/49 +1/79 -1/81 +・・=(π/32)tan(π/32)

  A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6 +A7 -A8=L(1) であることがわかります。

 上記8式に対しExcelマクロで数値検証もしましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。

また右辺値の和”A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6 +A7 -A8”がπ/4となることも確認しました。

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<付録2> 「虚2次体の類数公式」と「ゼータ分割」との関連

ゼータの分割(ゼータの分身たち)と類数公式との間にどんな関係があるか、粗くスケッチします。今後の考察へのステップになればと思います。

 まず虚2次体の類数公式とは、次のものです。

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[虚2次体の類数公式]

 L(χ,1)=2πh/(w√N)

 ここに、hは虚2次体Fの類数、Nはχの導手、wはFに含まれる1のベキ根の個数でwは次の三つの場合に分かれます。

 w=6・・・F=Q(√-3)の時

 w=4・・・F=Q(√-1)の時

 w=2・・・それ以外の時

 またL(χ,1)は、L(χ,s)におけるs=1の次のものです。

 L(χ,1)=χ(1)/1 +χ(2)/2 +χ(3)/3 +χ(4)/4 +χ(5)/5 +χ(6)/6 +・・・

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 虚2次体Q(√-2)ゼータL2(s)で、この類数公式を考えてみましょう。

 まずすぐにわかるのは、wの値です。L2(s)はF=Q(√-2)なので、w=2とすぐにわかる。

 導手Nもすぐにわかり、N=8となる。冒頭に記した通り、L2(s)はディリクレ指標χ(n)が”mod 8”で構成されるのでNは8となる。

 また、2次体はすでに深く研究されていて、虚2次体Q(√-2)の類数hは、h=1であることが知られています。

 類数に関しては、私のテイラーシステム(任意の実数点でのゼータ特殊値を簡単に出せる方法)を使って、L2(1)=π√2/4を出したときの記事

http://www5b.biglobe.ne.jp/sugi_m/page161.htm

なども参考になるかもしれません。

 以上をまとめると、L2(1)では、w=2、N=8、h=1です。

上記の類数公式より、L(χ,1)=2π・1/(2√8)=π√2/4 となって、たしかにL2(1)の値に一致します。OKです。

 さて、類数公式とゼータ分割との関連をさぐりましょう。L2(1)6分割は、次のようになりました。

 L2(1)=A1 +A2 -A3 -A4 +A5 +A6=π√2/4

 これをtan()で表現し直すと、次となる。

 L2(1)=(π/24){tan(11π/24) +tan(9π/24) -tan(7π/24) -tan(5π/24) +tan(3π/24) +tan(π/24)}=π√2/4

 類数公式L(χ,1)=2πh/(w√N)に対して、L2(1)の場合のw=2、N=8を代入すると(hは今わからないとしてhのまま置く)、次のようになる。

 L(χ,1)=L2(1)=2πh/(2√8)=πh√2/4

 これとすぐ上のtan()の式から次式を得る。

 πh√2/4=(π/24){tan(11π/24) +tan(9π/24) -tan(7π/24) -tan(5π/24) +tan(3π/24) +tan(π/24)}

よって、

  h=(1/(6√2)){tan(11π/24) +tan(9π/24) -tan(7π/24) -tan(5π/24) +tan(3π/24) +tan(π/24)}

6分割では、類数hはこのように表現されるとわかった。右辺を計算すれば、もちろんh=1となる。

 同様に、8分割では、

  h=(1/(8√2)){tan(15π/32) +tan(13π/32) -tan(11π/32) -tan(9π/32) +tan(7π/32) +tan(5π/32) -tan(3π/32) -tan(π/32)}

 右辺を計算すれば、もちろんh=1となる。

 まとめます。

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<まとめ>

 虚2次体Q(√-2)ゼータL2(s)の類数hは、次のようにして求めることができる(6分割、8分割のケースを利用)。

  h=(1/(6√2)){tan(11π/24) +tan(9π/24) -tan(7π/24) -tan(5π/24) +tan(3π/24) +tan(π/24)}

  h=(1/(8√2)){tan(15π/32) +tan(13π/32) -tan(11π/32) -tan(9π/32) +tan(7π/32) +tan(5π/32) -tan(3π/32) -tan(π/32)}

 どちらでも、虚2次体Q(√-2)ゼータの類数h=1を得る。

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 上記の右辺のtan()の()内の分子に対し”L2(s)のディリクレ指標に従って”個々のtan()の±の符号が決定している({}全体にかかる±符号は無視して)ことにも注意してください。

(n≡1 or 3 mod 8のときχ(n)=1, n≡5 or 7 mod 8のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。)

 ところで、「類数が1である虚2次体Q(√-d)は、d が、1, 2, 3, 7, 11, 19, 43, 67, 163の場合に限る」というベイカーとスタークによる定理(1966年)があります。

 現代数学でも、2次体の類数の一般的な決定というのは、むずかしいことのようです。

 私は、類数とtan()を結びつけたいがために今回のことを行ないました。今回のことが、類数という重要な量への別方面からの研究のきっかけになればと思います。

 ところで、”類数”とはいったい何でしょうか。この意味は私には難しいのですが、数学者の加藤和也氏によれば大要次のことのようです。

『数論において、イデアル類群という大切な群がある。イデアル類群は、「数」と「イデアル」の”ずれ”を表すものである。虚2次体などの代数体のイデアル類群は、有限個の元から成る。その元の個数が類数である。Q(√-2) の類数は1、Q(√-5)の類数は2である。類数の大きな虚2次体は、数の世界とイデアルの世界のずれが大きいことを示す。』

  

 ゼータの分身たち(A1,A2・・An)も、上記<まとめ>のような式を通じて、イデアル類群とつながっていると考えられます。加藤氏によれば「イデアル類群は整数論の宝箱」なのだそうです。

(参考文献)

・「解決!フェルマーの最終定理」(加藤和也著、日本評論社)

・「数学のたのしみ」No.15(1999年10月), No.17(2000年2月)(加藤和也氏の記事)

・ベイカーの定理と類数1の虚二次体の決定 (tsujimotterのノートブック) http://tsujimotter.hatenablog.com/entry/class-numbers-of-imaginary-quadratic-fields

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