■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その54,杉岡幹生)
最初にこれまでのゼータ分割の結果を示します。
===================================
リーマンゼータζ(s)、導手N=1 ⇒ n分割可能である。
L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4 ⇒ n分割可能である。
LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3 ⇒ 1〜10分割可能である。n分割可能と考えられる(予想)。
LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5 ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。
LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7 ⇒ 3/6/9/12分割可能である。3n分割可能と考えられる(予想)。3n分割が最良か(問題)。
注記:nは1以上の整数
===================================
今回から新しく虚2次体Q(√-2)ゼータL2(s)の分割を調べていきます。
私の方では12分割まで計算が終わっているのですが、L2(s)の最終結論から先に述べておきます。
特殊値が明示的な場合に関し「L2(s)は2n分割可能」となります。L2(s)ではいきなり2分割からスタートするため、”2分割×n”で「2n分割が可能」となります。今回は2分割、4分割を示します。
さて、L2(s)はディリクレのL関数L(χ,s)
L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・
の一種であり、次のものです。
L2(s)=1 +1/3^s -1/5^s -1/7^s +1/9^s +1/11^s -/13^s -1/15^s +1/17^s +1/19^s -1/21^s -1/23^s +・・
L2(s)は虚2次体Q(√-2)のゼータ関数で、導手N=8を持つ。
ディリクレ指標χ(n)は次の通り。n≡1 or 3 mod 8のときχ(n)=1, n≡5 or 7 mod 8のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる
よってs=1のL2(1)は次となる。
L2(1)=1 +1/3 -1/5 -1/7 +1/9 +1/11 -/13 -1/15 +1/17 +1/19 -1/21 -1/23 +・・
これまでと同様に、虚2次体ゼータでは明示的に求まる特殊値L2(1),L2(3),L2(5)・・のうち、L2(1)を代表選手として考察していきます(それで十分。L2(3)、L2(5)・・も同様の結論になる)。
なお”L2(s)”という表記は私が便宜的に用いているもので、一般的なものではないので注意してください。
===================================
それでは、L2(1)の2分割、4分割を示します。
■L2(1)2分割
A1= 1 -1/7 +1/9 -1/15 +1/17 -1/23 +・・ =(π/8)tan(3π/8)
A2= 1/3 -1/5 +1/11 -1/13 +1/19 -1/21 +・・ =(π/8)tan(π/8)
A1 +A2=L2(1) であることを確認ください。
■L2(1)4分割
A1= 1 -1/15 +1/17 -1/31 +1/33 -1/47 +・・ =(π/16)tan(7π/16)
A2= 1/3 -1/13 +1/19 -1/29 +1/35 -1/45 +・・ =(π/16)tan(5π/16)
A3= 1/5 -1/11 +1/21 -1/27 +1/37 -1/43 +・・ =(π/16)tan(3π/16)
A4= 1/7 -1/9 +1/23 -1/25 +1/39 -1/41 +・・ =(π/16)tan(π/16)
A1 +A2 -A3 -A4=L2(1) であることを確認ください。
===================================
上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。次のタンジェントの部分分数展開式を使います。
G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・ =(π/(4x))tan(πx/2)
xに次の値を代入することで、分割された級数とその値が求まります。
G[1](x)のxに3/4を代入すると、L2(1)2分割のA1が得られる。
G[1](x)のxに1/4を代入すると、L2(1)2分割のA2が得られる。
G[1](x)のxに7/8を代入すると、L2(1)4分割のA1が得られる。
G[1](x)のxに5/8を代入すると、L2(1)4分割のA2が得られる。
G[1](x)のxに3/8を代入すると、L2(1)4分割のA3が得られる。
G[1](x)のxに1/8を代入すると、L2(1)4分割のA4が得られる。
===================================
L2(1)の2分割、4分割が求まりました。
導出過程を見ると、1分割もタンジェント部分分数展開式から簡単に出るのではないか?と一見思います。
1分割は1/2を代入すればよいとすぐに気づく。1/2を代入すると、左辺は”2(1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +・・)”となり、右辺は(π/2)tan(π/4)となる。
よって、 1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +・・=π/4となる。これはL2(1)ではありません。L(1)が出てしまいました。
このようにL2(1)1分割を部分分数展開式から出そうとするとL(1)が出てしまうので、n分割を求める場合、L2(1)では2分割スタートとなります。面白いですね。
ところで、今回の結果を見て「どこかで見た風景だ・・」と思った人は、たいへん鋭い感覚の持ち主です。じつは、L2(1)の分身たちは、L(1)の2分割、4分割の分身たちとまったく同じなのです!
L(1)の2分割、4分割は(その11)で示しましたが、下記<付録>でそれを抜粋したので見てください。
L(1)もL2(1)も同じパーツから作られていることがわかります。
違いは、パーツ(A1, A2, A3, A4)の組み合わせ方(加減の演算)の違いだけです。次の通り。
L(1)=A1 -A2
L2(1)=A1 +A2
L(1)=A1 -A2 +A3 -A4
L2(1)=A1 +A2 -A3 -A4
このような面白いことになっているのです!
この仕組みには驚きます。このことはL2(1)6分割、8分割、10分割・・でも成り立ちます。
いえ、それだけではありません。他の虚2次体ゼータでも、L(1)のパーツ(分身たち)から構成されていく場合がかなり多くあります。
その分類と研究は、ゼータにおける大テーマです。おいおい見ていきたいと思います。冒頭の表を更新しておきます。
===================================
リーマンゼータζ(s)、導手N=1 ⇒ n分割可能である。
L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4 ⇒ n分割可能である。
LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3 ⇒ 1〜10分割可能である。n分割可能と考えられる(予想)。
LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5 ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。
LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7 ⇒ 3/6/9/12分割可能である。3n分割可能と考えられる(予想)。3n分割が最良か(問題)。
L2(s) 虚2次体Q(√-2)ゼータ、導手N=8 ⇒ 2/4分割可能である。
注記:nは1以上の整数
===================================
以上。(杉岡幹生)
===================================
<付録>(「ゼータの香りの漂う公式 その11」より抜粋,一部編集)
L(s)のL(1)の場合を考察します。つまりライプニッツの公式の分割を試みます。
L(1)=1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +1/13 -1/15 + 1/17 -1/19 +・・ =π/4
■2分割
1 -1/7 +1/9 -1/15 +1/17 -1/23 +1/25 -1/31 +・・ =(π/8)tan(3π/8) ---A1
1/3 -1/5 +1/11 -1/13 +1/19 -1/21 +1/27 -1/29 +・・ =(π/8)tan(π/8) ---A2
A1 -A2=L(1)です。
■4分割
1 -1/15 +1/17 -1/31 +1/33 -1/47 +1/49 -1/63 +・・ =(π/16)tan(7π/16) ---A1
1/3 -1/13 +1/19 -1/29 +1/35 -1/45 +1/51 -1/61 +・・ =(π/16)tan(5π/16) ---A2
1/5 -1/11 +1/21 -1/27 +1/37 -1/43 +1/53 -1/59 +・・ =(π/16)tan(3π/16) ---A3
1/7 -1/9 +1/23 -1/25 +1/39 -1/41 +1/55 -1/57 +・・ =(π/16)tan(π/16) ---A4
A1 -A2 +A3 -A4 =L(1)であることがわかります。
===================================