■学会にて(形の科学会・その2)

【2】カブトムシの角の成長メカニズム

 カブトムシの角はサナギになってから2時間たらずの短い時間で現れることから,幼虫の頭部に蛇腹状に折りたたまれた角原基があって,それが展開されるという成長モデルが想定されている.自然界にはこのような折りたたみ式構造の展開例は結構多いのではないかと推察されるが,蛇腹が物理的に展開されるための駆動力は素材自体の復元力だけに負っているのだろうか?

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 以下に述べる三角柱の変身模型はカブトムシの角の成長メカニズムなど立体構造の形成原理について,その駆動力も含めうまく説明してくれる(希望).

[1]空間充填可能な四面体

 Sommervilleの四面体はA(0,0,0),B(2,0,0),C((1,1,1),D(1,1,-1)を4頂点とし,3辺の長さ[2,√3,√3]の合同な二等辺三角形4枚からなる等面四面体である.一方,Hillの四面体はA(0,0,0),B(1,0,0),C(1,1,0), D(1,1,1)を 4頂点とする直角錐で,前者の4等分体になっている.これらの四面体には自己複製的な空間充填性が備わっていて,前者を積み上げると正三角柱,後者では正三角柱に加え直角二等辺三角形柱を作ることができる.

[2]三角柱の変身

 Sommerville三角柱から側板を外した棒状の辺のみで構成されたスケルトンを考える.長さ2の対向する2辺が√3に短縮すると,正四面体が面と面を接合して正三角形面よりなるねじれた柱に変形する.円筒に内接するこの構造体はBoerdijk-Coxeter helixと呼ばれ,ねじれ角arccos(-2/3)=131.8°はこの非等長変換によってもたらされる.その際,辺の長さの変化量とねじれ角の大きさの間には美しい変換式が成立するのであるが,詳細は別の機会に譲りたい.

 それに対して,長さ2の対辺が√6に伸長すると三角柱は折りたたまれて,平面に押しつぶされた図形へと退化する.Hill三角柱では長さ√3の最長辺が長さ1まで短縮すると,Sommerville三角柱の場合と同様に体積が0の図形へと変身する.

 以上のプロセスを逆向きにたどればカブトムシの角の成長モデルが得られるはずであるが,実際の工作となると素材の厚みを無視することはできないし,各辺の長さの可変量をどのような素材でもって実現させればよいのか,また,辺の長さを連続的に変化させ頂点を同時に動かすためのカラクリも工作上の問題となる.

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