■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その52,杉岡幹生)
< L(1)の分身たちの値を生み出す方程式(2) >
(その51)でL(1)ゼータの分身たちの値を解に持つ方程式を1〜4分割の場合で求めました。さらに5分割、6分割の場合を求めたので報告します。
L(1)の1分割から6分割まで全て合わせて示すと、次のようになります。L(1)=π/4 です。
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<1分割の分身?の値を解にもつ方程式>
x -1(L(1)/1)=0
<2分割の分身たち(A1,-A2)の値を解にもつ方程式>
x^2 -2(L(1)/2)x -(L(1)/2)^2=0
<3分割の分身たち(A1,-A2,A3)の値を解に持つ方程式>
x^3 -3(L(1)/3)x^2 -3(L(1)/3)^2・x +(L(1)/3)^3=0
<4分割の分身たち(A1,-A2, A3,-A4)の値を解に持つ方程式>
x^4 -4(L(1)/4)x^3 -6(L(1)/4)^2・x^2 +4(L(1)/4)^3・x +(L(1)/4)^4=0
<5分割の分身たち(A1,-A2, A3,-A4, A5)の値を解に持つ方程式>
x^5 -5(L(1)/5)x^4 -10(L(1)/5)^2・x^3 +10(L(1)/5)^3・x^2 +5(L(1)/5)^4・x -(L(1)/5)^5=0
<6分割の分身たち(A1,-A2, A3,-A4, A5, -A6)の値を解に持つ方程式>
x^6 -6(L(1)/6)x^5 -15(L(1)/6)^2・x^4 +20(L(1)/6)^3・x^3 +15(L(1)/6)^4・x^2 -6(L(1)/6)^5・x -(L(1)/6)^6=0
以上。
分身の姿は下記<付録>を参照してください。導出方法は(その51)で示したので略します。
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得られた方程式は対称的な形をしていますが、並んでいる係数が気になりました。眺めているうちに係数の並びが”パスカルの三角形”になっていると気づきました。
1 1
1 2 1
1 3 3 1
1 4 6 4 1
1 5 10 10 5 1
1 6 15 20 15 6 1
上記方程式とこれを比較してください。パスカルの三角形になっていますね。
さて、上の方程式のままでも十分にきれいですが、もっと単純な形にしたい、つまり本質をあぶりだすために、あえてもっと単純にしたいと思いました。
例えば、3分割を例にとると下記<付録>から、右辺値の(π/12)は皆共通の定数なので(これはこれで大事ですが)、本質はtan()に集約されていると考えられます。そこで
B1=(12/π)A1=tan(5π/12)
B2=(12/π)A2=tan(3π/12)
B3=(12/π)A3=tan(π/12)
などとして、tan()だけのB1, -B2, B3を解に持つ方程式を出したいと思いました。そうやってその方程式を求めると、次のものが得られた。
x^3 -3x^2 -3x +1=0 ----@
まさに単純明快です。この@と冒頭の結果を比較すると、”L(1)/3”を1に置き換えたものが@になっているとわかります。
同様にして、他の分割の結果も全部同じように変形してしまいますと、結局、次のようになります。
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<1分割の分身?の値を解にもつ方程式>
x -1=0
<2分割の分身たち(B1,-B2)の値を解にもつ方程式>
x^2 -2x -1=0
<3分割の分身たち(B1,-B2,B3)の値を解に持つ方程式>
x^3 -3x^2 -3x +1=0
<4分割の分身たち(B1,-B2, B3,-B4)の値を解に持つ方程式>
x^4 -4x^3 -6x^2 +4x +1=0
<5分割の分身たち(B1,-B2, B3,-B4, B5)の値を解に持つ方程式>
x^5 -5x^4 -10x^3 +10x^2 +5x -1=0
<6分割の分身たち(B1,-B2, B3,-B4, B5, -B6)の値を解に持つ方程式>
x^6 -6x^5 -15x^4 +20x^3 +15x^2 -6x -1=0
以上。
これらの方程式が分身のtan()を解にもつことは、Excelでも数値的に検算済みです。
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このように非常にシンプルになりました。パスカルの三角形がはっきりとわかります。
これらを解くと、L(1)ゼータをn分割した分身たちの値(右辺のtan()値)が得られることになります。例えば、3分割なら、B1=tan(5π/12) 、-B2=-tan(3π/12) 、B3=tan(π/12)が三つの解として得られます。
ただ・・上記方程式では係数の符号(+、-)が混じって出てきています。この複雑さがまだ残っています。これらを構成的に求められないでしょうか。
すこし試した結果、規則的に求める方法を見つけました。次のようにします。iは複素数の虚数単位です。
2分割、3分割の場合を例として説明します。
F=x -i から出発する。
Fを2乗すると次となる。
F^2=(x -i)^2=x^2 -2ix -1=0 ----A
Aのiを払いのけると、次の<2分割の分身たち(B1,-B2)の値を解にもつ方程式>が得られる。
x^2 -2x -1=0
Fを3乗すると次となる。
F^3=(x -i)^3=x^3 -3ix^2 -3x +i=0 ----B
Bのiを払いのけて、次の<3分割の分身たち(B1,-B2,B3)の値を解に持つ方程式>が得られる。
x^3 -3x^2 -3x +1=0
他も同様にして、すべて得られます。このようにして符号の問題も解決しました。もっとスマートな方法もあるのかもしれませんが、とりあえず規則的に構成していく方法が見つかりました。
これまでの結果で、思いつくことを書きます。
●L(1)のn分割の値を解にもつ代数方程式がわかった。n分割の値は、パスカルの三角形の数を係数としてもつn次方程式を解けば出る。
●この代数方程式は分割級数の値を解にもつが、その”級数の形”はわからない。分割級数の形を求めるには「部分分数展開式」か「ゼータの香りの漂う公式」のどちらかを使う必要がある(こちらは”順次代入”で分割級数の値も出る)。
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<付録>
■1分割
L(1)=1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +1/13 -1/15 + 1/17 -1/19 +・・ =π/4
■2分割
A1= 1 -1/7 +1/9 -1/15 +1/17 -1/23 +1/25 -1/31 +・・ =(π/8)tan(3π/8)=(√2 +1)π/8
A2=1/3 -1/5 +1/11 -1/13 +1/19 -1/21 +1/27 -1/29 +・・=(π/8)tan(π/8)=(√2 -1)π/8
A1 -A2=L(1)=π/4です。これは”真の分割”となっています。
■3分割
A1= 1 -1/11 +1/13 -1/23 +1/25 -1/35 +・・=(π/12)tan(5π/12)
A2=1/3 -1/9 +1/15 -1/21 +1/27 -1/33 +・・=(π/12)tan(3π/12)
A3=1/5 -1/7 +1/17 -1/19 +1/29 -1/31 +・・=(π/12)tan(π/12)
A1 -A2 +A3=L(1) であることを確認ください。
■4分割
A1=1 -1/15 +1/17 -1/31 +1/33 -1/47 +1/49 -1/63 +・・ =(π/16)tan(7π/16)
A2=1/3 -1/13 +1/19 -1/29 +1/35 -1/45 +1/51 -1/61 +・・=(π/16)tan(5π/16)
A3=1/5 -1/11 +1/21 -1/27 +1/37 -1/43 +1/53 -1/59 +・・=(π/16)tan(3π/16)
A4=1/7 -1/9 +1/23 -1/25 +1/39 -1/41 +1/55 -1/57 +・・ =(π/16)tan(π/16)
A1 -A2 +A3 -A4 =L(1)であることがわかります。
■L(1)5分割
A1= 1 -1/19 +1/21 -1/39 +1/41 -1/59 +・・ =(π/20)tan(9π/20)
A2=1/3 -1/17 +1/23 -1/37 +1/43 -1/57 +・・=(π/20)tan(7π/20)
A3=1/5 -1/15 +1/25 -1/35 +1/45 -1/55 +・・=(π/20)tan(5π/20)
A4=1/7 -1/13 +1/27 -1/33 +1/47 -1/53 +・・ =(π/20)tan(3π/20)
A5=1/9 -1/11 +1/29 -1/31 +1/49 -1/51 +・・ =(π/20)tan(π/20)
A1 -A2 +A3 -A4 +A5=L(1) であることを確認ください。
■L(1)6分割
A1= 1 -1/23 +1/25 -1/47 +1/49 -1/71 +・・ =(π/24)tan(11π/24)
A2=1/3 -1/21 +1/27 -1/45 +1/51 -1/69 +・・=(π/24)tan(9π/24)
A3=1/5 -1/19 +1/29 -1/43 +1/53 -1/67 +・・=(π/24)tan(7π/24)
A4=1/7 -1/17 +1/31 -1/41 +1/55 -1/65 +・・ =(π/24)tan(5π/24)
A5=1/9 -1/15 +1/33 -1/39 +1/57 -1/63 +・・ =(π/24)tan(3π/24)
A6=1/11 -1/13 +1/35 -1/37 +1/59 -1/61 +・・ =(π/24)tan(π/24)
A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6=L(1) であることを確認ください。
以上。 (杉岡幹生)
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