■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その46,杉岡幹生)

 これまでのゼータ分割の結果をまず示します。

 ζ(s) 仮想?実2次体Q(√1)ゼータ、導手N=1  ⇒ n分割可能。

  L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4    ⇒ n分割可能。

  LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3    ⇒ 1〜10分割可能。n分割可能と考えられる(予想)。

  LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5    ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か?(問題)

 注記:nは1以上の整数

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 今回から虚2次体Q(√-7)ゼータLP(s)の分割を調べていきます。

 私の方では12分割まで計算が終わっているのですが、先にLP(s)分割の最終結論から述べておきます。

 「LP(s)は3n分割可能」となります。LP(s)ではいきなり3分割からスタートするため、”3分割×n”で「3n分割が可能」となります。ζ(s)やL(s)のようにn分割は無理なようです。

 さて、LP(s)はディリクレのL関数L(χ,s)

  L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・

 の一種であり、次のものです。

  LP(s)=1 +1/2^s -1/3^s +1/4^s -1/5^s -1/6^s +/8^s +1/9^s -1/10^s +1/11^s -1/12^s -1/13^s +・・

 LP(s)は虚2次体Q(√-7)のゼータ関数で、導手N=7を持つ。

 ディリクレ指標χ(n)は次の通り。n≡1 or 2 or 4 mod 7のときχ(n)=1, n≡3 or 5 or 6 mod 7のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。----@

 よってs=1のLP(1)は次となる。

 LP(1)=1 +1/2 -1/3 +1/4 -1/5 -1/6 +/8 +1/9 -1/10 +1/11 -1/12 -1/13 +・・ -----A

 明示的に求まる特殊値LP(1),LP(3),LP(5)・・のうち、LP(1)を代表選手として考察していきます(それで十分。LP(3)、LP(5)・・も同様の結論になる)。

はじめに少し準備します。Aは次のように変形できる。

 LP(1)=1 +1/2 -1/3 +1/4 -1/5 -1/6 +/8 +1/9 -1/10 +1/11 -1/12 -1/13 +・・・

=1 -1/3 -1/5 +1/9 +1/11 -1/13 +1/15 -1/17 -1/19 +1/23 -1/25 -1/27 +・・・

+1/2(1 +1/2 -1/3 +1/4 -1/5 -1/6 +/8 +1/9 -1/10 +1/11 -1/12 -1/13 +・・・)

=1 -1/3 -1/5 +1/9 +1/11 -1/13 +/15 -1/17 -1/19 +1/23 +1/25 -1/27 +・・・

+1/2・LP(1)

 右辺の2項目を移項して整理すると、次のようになる。

1 -1/3 -1/5 +1/9 +1/11 -1/13 +/15 -1/17 -1/19 +1/23 -1/25 -1/27 +・・・=1/2LP(1)

 ここで、1 -1/3 -1/5 +1/9 +1/11 -1/13 +/15 -1/17 -1/19 +1/23 -1/25 -1/27 +・・・=Lp(1)

とおくと、

  Lp(1)=1/2LP(1)  -----B

  これより、Lp(1)はLP(1)と本質的に同じとわかります。以下でLp(1)が出てきます。

 なお、LP()やLp()は私が便宜的に用いているもので、一般的なものではないので注意してください。

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 それでは、LP(1)またはLp(1)の分割を示します。分割に関係のない級数は”⇒無視”としました。

■LP(1)3分割

A1= 1 -1/6 +1/8 -1/13 +1/15 -1/20 +・・ =(π/7)tan(5π/14)

A2= 1/2 -1/5 +1/9 -1/12 +1/16 -1/19 +・・ =(π/7)tan(3π/14)

A3= 1/3 -1/4 +1/10 -1/11 +1/17 -1/18 +・・ =(π/7)tan(π/14)

 A1 +A2 -A3=LP(1) であることを確認ください。

 Excelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”A1 +A2 -A3”もLP(1)級数の収束値に一致しました。

■Lp(1)6分割

 A1= 1 -1/27 +1/29 -1/55 +1/57 -1/83 +・・ =(π/28)tan(13π/28)

 A2= 1/3 -1/25 +1/31 -1/53 +1/59 -1/81 +・・ =(π/28)tan(11π/28)

 A3= 1/5 -1/23 +1/33 -1/51 +1/61 -1/79 +・・ =(π/28)tan(9π/28)

 A4= 1/7 -1/21 +1/35 -1/49 +1/63 -1/77 +・・ =(π/28)tan(7π/28) ⇒無視

 A5= 1/9 -1/19 +1/37 -1/47 +1/65 -1/75 +・・ =(π/28)tan(5π/28)

 A6= 1/11 -1/17 +1/39 -1/45 +1/67 -1/73 +・・ =(π/28)tan(3π/28)

 A7= 1/13 -1/15 +1/41 -1/43 +1/69 -1/71 +・・ =(π/28)tan(π/28)

 A1 -A2 -A3 + A5 +A6 -A7=Lp(1) であることを確認ください。

 Excelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”A1 -A2 -A3 + A5 +A6 -A7”もLp(1)級数の収束値に一致しました。

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 上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。次の部分分数展開式を使います。

 G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・ =(π/(4x))tan(πx/2)

 このxに次の値を代入することで、分割された級数とその値が求まります。

 G[1](x)のxに5/7を代入すると、LP(1)3分割のA1が得られる。

 G[1](x)のxに3/7を代入すると、LP(1)3分割のA2が得られる。

 G[1](x)のxに1/7を代入すると、LP(1)3分割のA3が得られる。

 G[1](x)のxに13/14を代入すると、Lp(1)6分割のA1が得られる。

 G[1](x)のxに11/14を代入すると、Lp(1)6分割のA2が得られる。

 G[1](x)のxに 9/14を代入すると、Lp(1)6分割のA3が得られる。

 G[1](x)のxに 7/14を代入すると、Lp(1)6分割のA4が得られる。 ⇒無視。7/14代入は1/2代入であり、L(1)が出る。A4を見てください。

 G[1](x)のxに 5/14を代入すると、Lp(1)6分割のA5が得られる。

 G[1](x)のxに 3/14を代入すると、Lp(1)6分割のA6が得られる。

 G[1](x)のxに 1/14を代入すると、Lp(1)6分割のA7が得られる。

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 このようにしてLP(1)の3分割、6分割ができました。

 これまで見てきたL(s)、ζ(s)、LA(s)、LN(s)などと同類の規則性で分割がなされていることに注目してください。

 「LP(s)ではなぜ1分割がないのか?なぜいきなり3分割から始まるのか?」をすこし考えてみましょう。

 導手Nが7であることにまず着目します。

 N=7だから分割をするためには○/7を代入しますが、○には7より小さい奇数1,3,5が入ります。1/7, 3/7, 5/7と三つを代入することになるので、3分割から始まるのです。

 これがLP(s)で1分割がない理由です。

 現在上記のG[1](x)という生成核関数を考えているからこのようになるわけですが、他にもっと別の生成核が存在して別の数値を代入することで1分割が実現される可能性はないのでしょうか?そのような生成核は存在しないのでしょうか? これは大問題ですが、まったくわかりません。

 これまでも指摘しましたが、さらに別視点の構造を見てみましょう。

 6分割では、7/14代入は1/2代入なのでこれはL(1)となり(A4の級数を見てください)、無視されています。このように「1/14, 3/14, 5/14, 7/14, 9/14, 11/14,13/14」代入で7つ出てきた分身のうち、一つを無視してちょうど6分割となっています。非常にうまい具合になっていて巧妙な構造が隠されているのです。これはこれまで見たゼータでも同じですが。

 なお次回見る9分割では「1/21, 3/21, 5/21, 7/21, 9/21, 11/21, 13/21, 15/21, 17/21, 19/21」代入と10個の分身が出ますが、やはり1個を無視してきれいに9分割が実現されます。ゼータは別種のゼータの侵入を嫌っているかのように見えます。

 さらに別視点を見てみたい。(その45)で見た規則性「右辺値の和においてもディリクレ指標が保存される」がLP(1)でも成り立っているのか?を見ておきましょう。

 上記6分割を例にとって見てみます。

 Lp(1)=A1 -A2 -A3 + A5 +A6 -A7であり、右辺値和全体に(-1)を掛け{ }内の符号を反転させると次となる。

  Lp(1)=A1 -A2 -A3 + A5 +A6 -A7=(-1)×(π/28){- tan(13π/28) + tan(11π/28) + tan(9π/28) - tan(5π/28) - tan(3π/28) + tan(π/28)}-----C

  @のディリクレ指標χ(n)を再掲すると、次の通り。

  n≡1 or 2 or 4 mod 7のときχ(n)=1, n≡3 or 5 or 6 mod 7のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。----@

 Cのtan(kπ/28)のkに対し@の規則に従っているか?を見ると、tan()の±の符号はまさにこの規則通りになっています!!

 なお、3分割でもちゃんと成り立っているので確認してみてください。面白いですね。このようにLP(s)でも、右辺値の和でディリクレ指標が保存されています。どこまでいってもゼータは調和がくずれないのです。

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 冒頭の表を更新しておきます。

 ζ(s) 仮想?実2次体Q(√1)ゼータ、導手N=1  ⇒ n分割可能。

  L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4    ⇒ n分割可能。

  LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3    ⇒ 1〜10分割可能。n分割可能と考えられる(予想)。

  LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5    ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か?(問題)

  LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7    ⇒ 3分割、6分割可能。

 注記:nは1以上の整数   以上。(杉岡幹生)

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