■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その33,杉岡幹生)
(その29)では虚2次体Q(√-3)ゼータLA(s)のs=1のLA(1)の分割を見ました。そこでは分割された結果の本質的な所のみを書き、付加的に出ていた(無視した)級数は略していました。導出過程で少し言及した程度でした。
しかしよく考えると、今後、様々な2次体ゼータを考察していく上で、その無視した級数も略さずに書いた方がよいと気づきました。そのほうが全体的な分割の構造をつかみやすいと思うからです。
よって本質的な結果は変わりませんが、その無視した級数も含めた形で、今回(その29)を書き直していきます。虚2次体Q(√-3)ゼータとは何か?が気になる読者は下に書いた(その34)に掲げた[付録]を先に読んでください。
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復習になりますが、LA(s)ゼータはL関数L(χ,s)の一種で、次のディリクレ指標をもつ虚2次体Q(√-3)ゼータです。
LA(s)=1 -1/2^s +1/4^s -1/5^s +1/7^s -1/8^s +1/10^s -1/11^s +1/13^s -1/14^s +1/16^s -1/17^s +1/19^s -1/20^s +1/22^s -・・
(Q(√-3)ゼータ、導手N=3, n≡0, 1, 2 mod 3に対し、それぞれχ(n)=0, 1, -1)
明示的に求まる特殊値LA(1),LA(3),LA(5)・・のうち、次のLA(1)を代表選手として考察します。
LA(1)=1 -1/2 +1/4 -1/5 +1/7 -1/8 +1/10 -1/11 +1/13 -1/14 +1/16 -1/17 +1/19 -1/20 +1/22 -・・=π/(3√3) ----@
LA(1)の値は右辺の通りですが、これは虚2次体の類数公式というものから求まります。下記の通り”1分割”からも簡単に出ます。
はじめに少し準備します。(その7)で示した通り次のように変形できます。
LA(1)=1 -1/2 +1/4 -1/5 +1/7 -1/8 +1/10 -1/11 +1/13 -1/14 +1/16 -1/17 +1/19 -1/20 +1/22 -1/23 +1/25 -1/26 + ・・・
=(1 -1/5 + 1/7 -1/11 +1/13 -1/17 +1/19 -1/23 +1/25 -・・)+ (-1/2 +1/4 -1/8 +1/10 -1/14 +1/16 -1/20 +1/22 -1/26 +・・)
=(1 -1/5 + 1/7 -1/11 +1/13 -1/17 +1/19 -1/23 +1/25 -・・) - 1/2(1 -1/2 +1/4 -1/5 +1/7 -1/8 +1/10 -1/11 +1/13 -・・)
=(1 -1/5 + 1/7 -1/11 +1/13 -1/17 +1/19 -1/23 +1/25 -・・) -1/2LA(1)
右辺の2項目を左辺に移項して、
1 -1/5 + 1/7 -1/11 +1/13 -1/17 +1/19 -1/23 +1/25 -1/29 +1/31 -1/35 +・・ =3/2LA(1)
となります。
ここで、1 -1/5 + 1/7 -1/11 +1/13 -1/17 +1/19 -1/23 +1/25 -1/29 +1/31 -1/35 +・・=La(1)
とおくと、
La(1)=3/2LA(1) -----A
となります。
La(1)はLA(1)と本質的に同じゼータというわけです。以下でLa(1)が出てきます。
また@、Aより、
La(1)=π/(2√3)-----B
です。
なお、LA()やLa()の記号は私が便宜的に用いているものです。一般的なものではないので注意してください。
それでは、LA(1)またはLa(1)の分割を示していきます。統一的に見たいので1分割も含めます。(その29)と区別するため、分割級数をB1,B2・・で表現しました。分割に関係のない級数は”無視”としました。
■LA(1)1分割
B1=1 -1/2 +1/4 -1/5 +1/7 -1/8 +1/10 -1/11 +1/13 -1/14 +1/16 -1/17 +1/19 -1/20 +1/22 -・・=(π/3)tan(π/6)
あえてtan()の形を残しました。tan(π/6)=1/√3であり、右辺は@右辺に一致します。
■La(1)2分割
B1= 1 -1/11 +1/13 -1/23 +1/25 -1/35 +・・ =(π/12)tan(5π/12)
B2=1/3 -1/9 +1/15 -1/21 +1/27 -1/33 +・・=(π/12)tan(3π/12) ⇒無視
B3=1/5 -1/7 +1/17 -1/19 +1/29 -1/31 +・・=(π/12)tan(π/12)
B1 -B3=La(1) であることを確認ください。B2は無視します。上記式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”B1 -B3”もB右辺値に一致しました。
■LA(1)3分割
B1= 1 -1/8 +1/10 -1/17 +1/19 -1/26 +・・ =(π/9)tan(7π/18)
B2=1/2 -1/7 +1/11 -1/16 +1/20 -1/25 +・・=(π/9)tan(5π/18)
B3=1/3 -1/6 +1/12 -1/15 +1/21 -1/24 +・・=(π/9)tan(3π/18) ⇒無視
B4=1/4 -1/5 +1/13 -1/14 +1/22 -1/23 +・・=(π/9)tan(π/18)
B1 -B2 +B4=LA(1) であることを確認ください。B3は無視します。上記式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”B1 -B2 +B4”も@右辺値に一致しました。
■La(1)4分割
B1= 1 -1/23 +1/25 -1/47 +1/49 -1/71 +・・ =(π/24)tan(11π/24)
B2=1/3 -1/21 +1/27 -1/45 +1/51 -1/69 +・・=(π/24)tan(9π/24) ⇒無視
B3=1/5 -1/19 +1/29 -1/43 +1/53 -1/67 +・・=(π/24)tan(7π/24)
B4=1/7 -1/17 +1/31 -1/41 +1/55 -1/65 +・・=(π/24)tan(5π/24)
B5=1/9 -1/15 +1/33 -1/39 +1/57 -1/63 +・・=(π/24)tan(3π/24) ⇒無視
B6=1/11 -1/13 +1/35 -1/37 +1/59 -1/61 +・・=(π/24)tan(π/24)
B1 -B3 +B4 -B6=La(1) であることを確認ください。B2, B5は無視します。上記式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”B1 -B3 +B4 -B6”もB右辺値に一致しました。
■LA(1)5分割
B1= 1 -1/14 +1/16 -1/29 +1/31 -1/44 +・・ =(π/15)tan(13π/30)
B2=1/2 -1/13 +1/17 -1/28 +1/32 -1/43 +・・=(π/15)tan(11π/30)
B3=1/3 -1/12 +1/18 -1/27 +1/33 -1/42 +・・=(π/15)tan(9π/30) ⇒無視
B4=1/4 -1/11 +1/19 -1/26 +1/34 -1/41 +・・=(π/15)tan(7π/30)
B5=1/5 -1/10 +1/20 -1/25 +1/35 -1/40 +・・=(π/15)tan(5π/30)
B6=1/6 -1/9 +1/21 -1/24 +1/36 -1/39 +・・ =(π/15)tan(3π/30) ⇒無視
B7=1/7 -1/8 +1/22 -1/23 +1/37 -1/38 +・・ =(π/15)tan(π/30)
B1 -B2 +B4 -B5 +B7=LA(1) であることを確認ください。B3, B6は無視します。上記式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、左辺の級数は右辺値に一致しました。右辺値の”B1 -B2 +B4 -B5 +B7”も@右辺値に一致しました。
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上の分割式の導出過程を簡単に述べます。次の部分分数展開式を使います。
G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・ =(π/(4x))tan(πx/2)
このxに次の値を代入することで、分割された級数とその値が求まります。
G[1](x)のxに1/3を代入すると、LA(1)の1分割が得られる。(2/3を代入すると、La(1)の1分割が得られる)
G[1](x)のxに5/6を代入すると、La(1)2分割のB1が得られる。
G[1](x)のxに3/6を代入すると、La(1)2分割のB2が得られる。⇒無視。3/6代入は1/2代入。これはL(1)そのもの。
G[1](x)のxに1/6を代入すると、La(1)2分割のB3が得られる。
G[1](x)のxに7/9を代入すると、LA(1)3分割のB1が得られる。
G[1](x)のxに5/9を代入すると、LA(1)3分割のB2が得られる。
G[1](x)のxに3/9を代入すると、LA(1)3分割のB3が得られる。 ⇒無視。LA(1)1分割。B3を見られたし。
G[1](x)のxに1/9を代入すると、LA(1)3分割のB4が得られる。
G[1](x)のxに11/12を代入すると、La(1)4分割のB1が得られる。
G[1](x)のxに 9/12を代入すると、La(1)4分割のB2が得られる。 ⇒無視。9/12代入は3/4代入。L(1)2分割の一つ。
G[1](x)のxに 7/12を代入すると、La(1)4分割のB3が得られる。
G[1](x)のxに 5/12を代入すると、La(1)4分割のB4が得られる。
G[1](x)のxに 3/12を代入すると、La(1)4分割のB5が得られる。 ⇒無視。3/12代入は1/4代入。L(1)2分割の一つ。
G[1](x)のxに 1/12を代入すると、La(1)4分割のB6が得られる。
G[1](x)のxに13/15を代入すると、LA(1)5分割のB1が得られる。
G[1](x)のxに11/15を代入すると、LA(1)5分割のB2が得られる。
G[1](x)のxに 9/15を代入すると、LA(1)5分割のB3が得られる。⇒無視。9/15代入は3/5代入、別種のゼータか。研究中。
G[1](x)のxに 7/15を代入すると、LA(1)5分割のB4が得られる。
G[1](x)のxに 5/15を代入すると、LA(1)5分割のB5が得られる。⇒LA(1)1分割。B5を見られたし。
G[1](x)のxに 3/15を代入すると、LA(1)5分割のB6が得られる。⇒無視。3/15代入は1/5代入。別種のゼータか。研究中。
G[1](x)のxに 1/15を代入すると、LA(1)5分割のB7が得られる。
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このようにしてLA(1)の分割ができました。
L(s)やζ(s)のときとすこし違った形で、真の分割が実現されていることにお気づきでしょうか。
そうです、LA(s)ゼータの場合は得られた級数を全部を使っていないのです!(L(s)やζ(s)の場合は全部使っていたのに)
LA(1)ゼータの場合は捨てる級数が出てくる。”無視”としたのが捨てられた級数です。例えば、4分割ではB1〜B6まで得られますが、B2とB4以外の残りの4つの級数たちによって4分割が実現されています。これは考えれば当たり前といえば当たり前です。
『1/3代入でLA(1)1分割が出る。よって「4分割を出したい」ときは○/(3×4)として、x=○/12を代入すればよい。』という分割の基本規則から、必然的に(4つより多い)6つ出てしまうからです。1/12, 3/12, 5/12, 7/12, 9/12, 11/12の6つの代入のうち、どれか二つは不要になるように運命づけられているというわけです。
この中のどれが要でどれが不要となるのでしょうか? 不要の候補は約分できるものです。しかし約分は必要条件で十分条件ではありません。上の「導出過程」の約分できるケースを見ても、ある合は要で、ある場合は不要です。この辺の細かいところは研究課題といえます。しかしL(1)などの根本的に違うゼータが出た場合は、捨てることになりそうです。
さらに、もう一つ面白い事実を指摘しておきましょう。
La(1)4分割に出ている6つのB1,B2,B3,B4,B5,B6は、L(1)の6分割となっているのです! どうしてそんなことになっているのか? その理由は、読者で考えてください。
ヒント:G[1](x)のxに1/2を代入するとL(1)1分割が出る。分割の基本規則を考えてください。わからなければ(その21)に答えあり。
今回、このようなことがわかってきました。すこし多い目に出てくる分割級数のどれかによってLA(1)の真の分割が実現されているのでした。そして、このことは無数にある2次体ゼータでも同じようになっているにちがいありません。 (杉岡幹生)
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