■おかあさんのための数学教室(その60)
【5】ラマヌジャン数(保型形式論の端緒)
保型形式が最初に現れたのは,1750年のオイラーによる五角数定理
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) m(3m-1)/2は五角数
ですが,ヤコビの公式(三角数定理:1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (m^2+m)/2は三角数
を経て,ラマヌジャンの保型形式論の時代に突入します.
ラマヌジャンは,
Δ(z)=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)
を考え,その係数τ(n)を計算しました.
τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,・・・
ここでも,無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式
Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)
と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式の拡張(24乗版)と考えられます.
τ(n)はオイラーの分割数のアナローグであり,ラマヌジャン数と呼ばれます.この数は驚くような性質をもってるのですが,このことについては次回紹介することにします.
また,ラマヌジャンは保型形式を用いて,たとえば,
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)
を証明しています.ここで,πとωはそれぞれ,
π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)
ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)
です.
これらの等式は,積分表示
ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
の離散化とみることができますが,プランク分布(Bose-Einstein統計)そのものです.
熱せられた物体からはさまざまな波長の電磁波が放射され,それは熱放射と呼ばれます.どのような波長の電磁波がどんな強さででてくるのか,これを熱放射のスペクトルといいます.プランクは,全波長領域にわたって測定結果と一致する式を導出することに成功しました(1900年).
その際,プランクは,式を導出する過程で熱放射のエネルギーは不連続の値を取るという条件を設定したのですが,このような条件を設定しないと,計算の途中で式が無限大に発散するからです.これがエネルギー量子仮説ですが,プランクは自分の息子に「私はニュートンに匹敵する発見をしたらしい」と語り,量子仮説の重大さを訴えたことが伝えられています.
このように,エネルギーの量子化の概念は,熱放射に関連してプランクが提唱したのですが,これをきっかけにして量子力学の概念が体系化されたことはあまりにも有名です.
さて,ラマヌジャンの計算の近似値を求めてみることにしましょう.ベルヌーイ数{Bn}の指数型母関数
x/{exp(x)-1}=ΣBn/n!x^n
を使って,あるいは,
∫∫(0,∞)=∫(0,1)+∫(1,∞)
と分けて厳密に考察すべきなのでしょうが,細かいことは気にせずに計算すると,
ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
において,x=2πyとおくと,dx=2πdyより,
∫(0,∞)y^(s-1)/{exp(2πy)-1}dy=ζ(s)Γ(s)/(2π)^s
これより,
Σn^(s-1)/{exp(2πn)-1} 〜 ζ(s)Γ(s)/(2π)^s
ここで,ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945を代入すると,
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504 〜 1/504
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240 〜 1/240
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π 〜 1/24
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