■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その14,杉岡幹生)
ゼータの分割に関し、新しい事実がわかってきたので報告します。
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これまでゼータの香りの漂う公式に複素数を代入して、ゼータの分身たち(分割)を求めてきました。しかし研究の結果、複素数など用いなくとも、単に実数の範囲でゼータの分割が実現できることがわかりました。それは三角関数の部分分数展開式を用いる方法で、その式は次のものです。
tanx=8x{1/(π^2-4x^2) +1/(9π^2-4x^2) +1/(25π^2-4x^2) +・・} ---@
これは「マグロウヒル 数学公式・数表ハンドブック(Muray R. Spiegel著、氏家勝巳訳)」に載っていますが、上記の形はゼータの分割を求める上で少し扱いにくい面があります。
実際は@を変形した次のAを使います。
1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・
=(π/(4x))tan(πx/2) ---A
@でx=πt/2とすればAが得られます。マグロウヒル本には、三角関数の部分分数展開がいくつも載っていて私は昔からその公式が好きでをよく眺めてきました。そし実際ゼータ研究にも利用し15年前の小結果も部分分数展開を使って出したものでした。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page033.htm
しかし、まさかゼータ分割という”宝石のような級数たち”が部分分数展開(A)から出てくるとは思いもよりませんでした。
実際は、次のゼータの香りの漂う公式でa=ixとすれば(iは虚数単位)、Aが得られます。
1/(1^2+a^2) +1/(3^2+a^2) +1/(5^2+a^2) +・・
=(π/(4a))・{e^(aπ)-1}/{e^(aπ)+1} ----B
このようにA式に到達して、これがまさにマグロウヒル本にある部分分数展開式と同じであることに気づいたという次第です。
Bのゼータ香り式とAのタンジェント部分分数展開式は、ウラ・オモテの関係になっていて双対的な関係にあります。Aでx=ia(iは虚数単位)とすると、今度はBが得られます。面白いことです。
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さて、これまでゼータの香りの漂う公式で求めてきたものを、Aの部分分数展開式で求め直していきます。結果は当然、香り公式で出したものと同じになるので了解ください。
今回は、L(s)=1 -1/3^s +1/5^s -1/7^s +・・のs=1の場合、すなわち
L(1)=1 -1/3 +1/5 -1/7 +・・=π/4
の2分割、4分割、8分割の結果を示します。
■L(1)2分割
A1= 1 - 1/7 +1/9 -1/15 + 1/17 -1/23 +・・ =
(π/8)tan(3π/8)
A2=1/3 -1/5 +1/11 -1/13 + 1/19 -1/21 +・・=
(π/8)tan(π/8)
tan()を計算した結果は、以下の通り。
tan(3π/8)=1 +√2、tan(π/8)= -1 +√2
A1 -A2=π/4=L(1) であることは容易にわかります。上記2式に対しExcelマクロで数値検証をしましたが、左辺の級数は右辺値に収束しました。
■L(1)4分割
B1= 1 -1/15 +1/17 -1/31 +1/33 -1/47 +・・ =(π/16)tan(7π/16)
B2=1/3 -1/13 +1/19 -1/29 +1/35 -1/45 +・・=(π/16)tan(5π/16)
B3=1/5 -1/11 +1/21 -1/27 +1/37 -1/43 +・・=(π/16)tan(3π/16)
B4=1/7 -1/9 +1/23 -1/25 +1/39 -1/41 +・・ =(π/16)tan(π/16)
tan()を計算した結果は、以下の通り。
tan(7π/16)=1 +√2 +√(4+2√2)、tan(5π/16)=-1 +√2 +√(4-2√2)
tan(3π/16)=1 -√2 +√(4-2√2)、tan(π/16) =-1 -√2 +√(4+2√2)
B1 -B2 +B3 -B4=π/4=L(1) であることがわかります。上記4式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。
■L(1)8分割
C1= 1 -1/31 +1/33 -1/63 +1/65 -1/95 +・・ =(π/32)tan(15π/32)
C2=1/3 -1/29 +1/35 -1/61 +1/67 -1/93 +・・ =(π/32)tan(13π/32)
C3=1/5 -1/27 +1/37 -1/59 +1/69 -1/91 +・・ =(π/32)tan(11π/32)
C4=1/7 -1/25 +1/39 -1/57 +1/71 -1/89 +・・ =(π/32)tan(9π/32)
C5=1/9 -1/23 +1/41 -1/55 +1/73 -1/87 +・・ =(π/32)tan(7π/32)
C6=1/11 -1/21 +1/43 -1/53 +1/75 -1/85 +・・=(π/32)tan(5π/32)
C7=1/13 -1/19 +1/45 -1/51 +1/77 -1/83 +・・=(π/32)tan(3π/32)
C8=1/15 -1/17 +1/47 -1/49 +1/79 -1/81 +・・=(π/32)tan(π/32)
tan()を計算した結果は、以下の通り。
tan(15π/32)= 1 +√2 +√(4+2√2) +√{8+4√2+2√(20+14√2)}
tan(13π/32)=-1 +√2 +√(4-2√2) +√{8-4√2+2√(20-14√2)}
tan(11π/32)= 1 -√2 +√(4-2√2) +√{8-4√2-2√(20-14√2)}
tan(9π/32) =-1 -√2 +√(4+2√2) +√{8+4√2-2√(20+14√2)}
tan(7π/32) = 1 +√2 -√(4+2√2) +√{8+4√2-2√(20+14√2)}
tan(5π/32) =-1 +√2 -√(4-2√2) +√{8-4√2-2√(20-14√2)}
tan(3π/32) = 1 -√2 -√(4-2√2) +√{8-4√2+2√(20-14√2)}
tan(π/32) =-1 -√2 -√(4+2√2) +√{8+4√2+2√(20+14√2)}
C1 -C2 +C3 -C4 +C5 -C6 +C7 -C8=π/4=L(1) であることがわかります。√はきれいに相殺されて消えます。
上記8式に対しExcelマクロで数値検証しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。また右辺値の和がπ/4となることも確かめました。
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上の分割式の導出過程を簡単に述べます。Aの部分分数展開式を使います。
1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・
=(π/(4x))tan(πx/2) ---A
このxに次の値を代入することで、分割された級数が求まります。
Aのxに値3/4を代入すると、A1が得られる。
Aのxに値1/4を代入すると、A2が得られる。
Aのxに値7/8を代入すると、B1が得られる。
Aのxに値5/8を代入すると、B2が得られる。
Aのxに値3/8を代入すると、B3が得られる。
Aのxに値 1/8を代入すると、B4が得られる。
Aのxに値15/16を代入すると、C1が得られる。
Aのxに値13/16を代入すると、C2が得られる。
Aのxに値11/16を代入すると、C3が得られる。
Aのxに値 9/16を代入すると、C4が得られる。
Aのxに値 7/16を代入すると、C5が得られる。
Aのxに値 5/16を代入すると、C6が得られる。
Aのxに値 3/16を代入すると、C7が得られる。
Aのxに値 1/16を代入すると、C8が得られる。
このように複素数を登場させることなく、簡単にゼータの分割級数が求まっていきます。香り公式を使っても簡単でしたが、さらに簡潔明瞭になったと言えるでしょう。
上記の結果から、L(1)分割級数がきわめて美しい秩序から出ていることがわかります。眺めているだけでL(1)の16分割(2^4分割)、32分割(2^5分割)なども簡単に求めることができます。例えば1024分割(2^10分割)がどうなるか?もすぐにわかってしまいます。単純なアルゴリズムの世界です。
L(1)は少なくとも2^n分割可能です。無限分割可能なのです。L(1)のみならずL(3)、L(5)・・もまたζ(2)、ζ(4)・・も同様に無限分割可能ですが、これは私には本当にショッキングな出来事でした。ゼータにこんな世界があったとはまったく気づきませんでした。
古典的な三角関数の部分分数展開から、このような結果が出るのですから驚き以外の何物でもありません。これはたとえれば、自分の家の庭を掘っていたら巨大なダイヤモンドの鉱石がごろごろ出てきたようなものです。足下に宝石が転がっていた・・。部分分数展開式やゼータ香り公式の世界は、想像以上に深い森でした。
さて、この部分分数展開式を使うことにより、ζ(2)、L(3)、ζ(4)、L(5)、ζ(6)、L(7)、ζ(8)、L(9)・・という高次の分割も求めていくことができます。しかし、n=4以上の高次の場合は計算量が増えてきてなかなかたいへんです。前回「なんとか高次の場合も簡単にわからないか?と色々調べているうちに、計算量を劇的に減らせる方法を見つけられたと思います」と述べ、「確かだと分かればまた報告します」としましたが、研究の結果、その方法は正しいことがわかりました。高次の分割も簡単に求まる方法が見つかったのです。
その方法は、部分分数展開式(or 香り式)の背後に潜む”よい性質”を利用するもので、求めたいゼータに関係する関数だけに着目し、あとの興味のないゼータに関係するものは全て「その他」へ押し込んで無視するというものです。いわば、押入れに要らないものを全てしまい込んでしまう”押し込み法”ともいうべき方法です。それは目的のゼータを生み出してくれる生成核(核関数)だけを取り出してくる方法とも言えますが、詳細は次回のζ(2)以降で述べていきます。
これまでζ(4)、L(5)、ζ(6)、L(7)・・などの高次の分割(分裂)は気が遠くなる計算が必要でしたが、”押し込み法(核関数法)”の発見により、計算が楽々できるようになりました。以上。 (杉岡幹生)
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