■オイラーと整数の分割関数(その20)

【1】制限付き分割数

  オイラー数は非制限分割数ですが,任意の正の整数に対して,ある一定の条件を満たす分割と別の分割が同数存在するという主張を分割恒等式といいます.1948年,オイラーは異なる数への分割と奇数への分割が同数あるという注目すべき結果を証明しています.

(証)

  q(n):nの奇数のみを用いた分割の総数

  r(n):nの互いに異なる数を用いた分割の総数

とすると

  Σq(n)x^n=1/(1-x)(1-x^3)(1-x^5)・・・

  Σr(n)x^n=(1+x)(1+x^2)(1+x^3)・・・

であり,

  (1+x)(1+x^2)(1+x^3)・・・

  =(1-x^2)/(1-x)・(1-x^4)/(1-x^2)・(1-x^6)/(1-x^3)・・・

  =1/(1-x)(1-x^3)(1-x^5)・・・

と書き換えることができますから,両者の母関数は一致します.

 例えば5を異なる数に分割するのは5,4+1,3+2の3通り,奇数に分割するのは5,3+1+1,1+1+1+1+1の3通りというわけです.オイラーの分割恒等式が最初のものですが,分割恒等式はいくらでも存在し,ここに掲げたもの以外にも多くの予期せぬ分割恒等式が存在するのです.

[1]ロジャーズ・ラマヌジャンの第1恒等式

  「1の位が1,4,6,9の数への分割と各因子の差が2以上ある分割とは同数ある.」

 1の位が1,4,6,9の数とはmod5で±1と合同になる整数のことです.分割の構成数の差が2以上という制限を設けた分割と構成数が5n+1または5n+4の分割は恒に等しいというののが第1恒等式で,例えば5を1,4,6,9に分割するのは4+1,1+1+1+1+1の2通り,各因子の差が2以上ある分割は5,4+1の2通り.

(証)ヤコビの3重積公式を使えば

  Σs(n)x^n=Σq^(k^2)/(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^k)=1/(1-q^5m-1)(1-q^5m-4)

すなわち

  1+q/(1-q)+q^4/(1-q)(1-q^2)++q^9/(1-q)(1-q^2)(1-q^3)+・・・

  =1/(1-q)(1-q^4)(1-q^6)(1-q^9)(1-q^11)(1-q^14)(1-q^19)・・・

である.

 この分割恒等式は無名の数学者ロジャーズ(1894),また彼とは独立にラマヌジャン(1913)によって得られました.ロジャース・ラマヌジャン恒等式は,最初ロジャースにより発見されたのですが,誰の興味も惹かず忘れ去られていたところ,ラマヌジャンにより別証明が与えられたというわけです.

[2]ロジャーズ・ラマヌジャンの第2恒等式

  「1の位が2,3,7,8の数への分割と因子は2以上で各因子の差が2以上ある分割とは同数ある.」

 これはmod5で±2と合同になる整数のことです.例えば5を2,3,7,8に分割するのは3+2の1通り,因子は2以上で各因子の差が2以上ある分割は5の1通り.

(証)ヤコビの3重積公式を使えば

  Σt(n)x^n=Σq^(k(k+1))/(1-q)(1-q^2)・・・(1-q^k)=1/(1-q^5m-2)(1-q^5m-3)

[3]シューアの分割恒等式

  「mod6で±1と合同になる整数への分割と,各因子の差が3以上あり,連続する3の倍数を含まないような分割とは同数ある.」

 例えば5をmod6で±1と合同になる整数に分割するのは5の1通り,各因子の差が3以上あり,連続する3の倍数を含まないような分割は5の1通り.

(証)

  Σu(n)x^n=Π1/(1-x^6k-1)(1-x^6k-5)

  Σv(n)x^n=Π(1+x^3k-1)(1+x^3k-2)

  Σw(n)x^n=Π(1+x^k+x^2k)

の母関数は一致する.

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 これらの分割恒等式は狭い範囲の興味の対象にすぎないと思われるかもしれませんが,もし,物理状態がn個の基本粒子の分割に関係しているとすると,驚くほど深い物理学への応用をもっていることが理解されます.

 実際,整数の分割問題は,現在では,統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.

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