■n次元ユークリッド空間の有限合同変換群?
群の概念は,代数方程式の解の置換の研究として誕生した歴史をもつが,今日では自然科学の多くの分野に応用され,たとえば,化学における分子構造やタンパク質やDNAの配列の決定に関しても,群論が重要な役割を果たしていることはご存知であろう.
コラム「エルランゲン・プログラムと変換群」では,クラインの主張「幾何学とは変換群(運動)が与えられたとき,この群で不変な図形の性質を研究する学問である」ことを紹介したが,それは当時整理のつかない状況にあったいろいろな幾何学を別々の幾何学としてそのままにせず,「変換群」の概念のもとに統一する画期的な見解であるとして高く評価されている.
ところで,x−y平面の(ユークリッド)合同変換とは,直交変換を行ったのちに平行移動を行うことであって,写像の式で書けば
f:[x]→A[x]+[a]
[y] [y] [b]
と書ける.
ここでa,bは平行移動の定数,Aは直交行列
A’=A^(-1)
すなわち,転値行列が逆行列となる行列である.直交行列の行列式|A|は1か−1であって,|A|=1のとき,Aの作用は回転運動,|A|=−1のとき,Aの作用は裏返し(鏡映)となる.空間の合同変換も同様に定義される.
直交変換Aの形を少し変えて,cA(c:正の定数)で与えられる変換は相似変換,また,Aが正則行列(行列式≠0)ならばアフィン変換となる.
証明は簡単なので略すことにするが,平面の合同変換全体の集合は写像の合成に関して群をなす.すなわち,群の公理系
(1)単位元をもつ(恒等変換)
(2)逆元をもつ
(3)結合法則a・(b・c)=(a・b)・cが成立する
を満たすので,「合同変換群」と呼ばれる.直交変換,平行移動は合同変換の特別な場合であり,直交変換群,平行移動群は合同変換群の部分群をなしている.
一般に,ユークリッド空間の合同変換とは,写像fが2点間の距離や角度(内積)を変えないものをいう.図形を変形しないで動かすだけ,すなわち,回転,並進(平行移動),鏡映などがその例となる.また,平行移動も回転も鏡映の積に書けるので,n次元ユークリッド空間の合同変換はみな高々n+1個の鏡映の積として表されることも知られている.
そこで,今回のコラムでは「n次元ユークリッド空間の合同変換からなる有限群(有限合同変換群)をすべて決定し分類すること」を目的にするが,2次元,3次元の有限合同変換群の分類はよく知られていて,まったく古典的な結果であるという.
また,4次元以上のユークリッド空間の有限合同変換群の分類についても,既に解決済みの問題である可能性が高い.不勉強のため,一般のn次元ユークリッド空間の有限合同変換群についての分類結果に憶えはないが,それでも,有限単純群の分類と比べて格段に易しい問題に思えるのである.→【補】有限単純群の分類
いまさら紹介するまでもないことかもしれないし,少々ためらったが,結局書くことに決めたのは,この問題は群論におけるマイ未解決問題であって,前述のコラム「エルランゲン・プログラムと変換群」を補完したいという思いに駆られたからである.
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【1】用語の解説から
新しい概念を学ぶことはとても疲れるものであるが,もう少しだけご勘弁願いたい.
アミダクジのように,元と元を1対1で置換する写像も群をなす.この群を対称群,その部分群を置換群と呼ぶ.また,偶置換全体も対称群の部分群になっていて,これを交代群と呼ぶ.置換群は元の数が有限である群(有限群)であるが,無限群の例もあげておこう.
n次元正則行列A,Bに対して,積ABは正則行列で,単位行列E,逆行列A^(-1),B^(-1)も正則行列である.また結合法則を満たすので,行列の積を2項演算とする群になる.すなわち,行列は群の例である.
直交行列とは,n次正則行列Aの転値行列が逆行列となる行列のことである.
A’=A^(-1)
直交行列も群をなし,n次元空間のn次直交変換全体のなす群をO(n)で表す.直交変換はベクトルの長さや角度を変えない変換であるから,それはまた(n−1)次元単位球面を自分自身に移す変換と考えることもできる.
また,n次直交群O(n)のなかで行列式が1のものがn次特殊直交群SO(n)であり,SO(n)はO(n)の部分群になっている.行列式が1の合同変換を回転運動とよび,行列式が−1の合同変換が裏返しである.
すなわち,O(n)はn次元空間の直交変換全体のなす群,SO(n)は回転運動全体のなす群であって,合同運動群は合同変換群の部分群をなすのである.
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【2】SO(2)の有限合同変換群
おおまかな用語の説明が済んだところで,既成事実の羅列の如くになってしまうのであるが,わかっている結果から述べてみたい.まず最初に,SO(2)の有限部分群Gを決定しよう.
SO(2)のすべての元は
[cosθ,−sinθ]
[sinθ, cosθ]
の形に書ける.2次の行列式が1の直交行列はすべてこの形に書けることは容易に証明される.
自然数kが与えられたとき,
θ=2π/k
ω=[cosθ,−sinθ]
[sinθ, cosθ]
とおく.そうするとω^k=1(単位元)であるから
G={1,ω,ω^2,・・・,ω^(k-1)}
となる.
このように,群Gの元が皆一つの生成元ωのベキの形で表されるとき,「巡回群」という.また,群Gの元gについて,g^k=1(単位元)となる自然数kが存在するとき,kのなかで最小のものをgの位数と呼ぶ.
巡回群は,正n角形の原点を通る1つの軸を中心とした2π/n回転から生成される群と等価と見なすことができるので,SO(2)と絶対値1の複素数のなす乗法群とは同型になる.
なお,ω^jが生成元となるための条件は
{1,ω^j,ω^2j,・・・,ω^(k-1)j}
が互いに相異なることであるから,生成元の個数はオイラーの関数:φ(k)個である.φ(k)は{1,2,・・・k}の中でkと互いに素な自然数の個数として定義される.たとえば,k=6ならφ(6)=2となり,{1,2,3,4,5,6}のなかで6と互いに素なものは1と5の2つで,生成元はωとω^5である.
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位数nの巡回群とは,平面上の正n角形の重心を通る垂直軸を中心とした回転軸のまわりの2π/nの倍数だけの回転の集合(回転群)であり,SO(2)の有限部分群はすべて巡回群となる.巡回群を「正多角形群」といい換えてもよかろう.
これをスローガン的に書けば,
「SO(2)の有限合同変換群は巡回群につきる」
となる.一方,O(2)の有限合同変換群には,巡回群を部分群にもつ正2面体群が含まれる.これについては次節で述べることにしたい.
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【3】SO(3)の有限合同変換群
[1]正2面体群
平面の回転群をそのまま空間の群と見なしたものが巡回群であるが,SO(3)ではその裏返しも存在し,位数kの巡回群(回転運動)とその鏡映sからなる
{1,ω,ω^2,・・・,ω^(k-1),s,sω,sω^2,・・・,sω^(k-1)}
が正2面体群(位数2k)である.
「正2面体群」とは,正n角形をそれ自身に移す回転全体のなす群であって,重心を通る垂直軸を中心とした回転と対称軸を中心としたπ回転から生成される位数2nの群と幾何学的に考えることができる.この正2面体という奇妙な名前は,2枚の正多角形を貼り合わせたものをつぶれた多面体と見なすことから由来している.
ここで,1つの正三角形を考えよう.三角形の中心まわりの角度120°の右回り回転をaとすると,aは3回やると元に戻るので
a^3=1
また,頂点を通る中心線に関して裏返す作用をbとすると
b^2=1
2種類の作用の相互関係は
ab=ba^2
と書けるので,位数6の正2面体群は2元{a,b}によって生成される
{1,a,a^2,b,ab,a^2b}
である.
すなわち,位数3の巡回群{1,a,a^2}とその裏返し{b,ab,a^2b}とからなる(回転∪鏡映).群表を書けば,どの元も各行各列にちょうど1回ずつ登場し,魔法陣のようであることが理解されるだろう.2つの生成元a,bが
a^2=b^n=(ab)^2=1
という関係を満たすことを確かめられたい.
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[2]正多面体群
SO(3)はR^3の回転全体のなす群でもある.ではどのような回転が正多面体を保つであろうか?
正多面体の回転を考えると,
(1)頂点と原点を通る軸を中心とした2πk/q回転
(2)辺の中心と原点を通る軸を中心としたπ回転
(3)面の重心と原点を通る軸を中心とした2πk/p回転
の3つが可能な回転軸である.
これらの回転によって,正4面体(位数12)では4つの頂点の偶置換を引き起こすので4次交代群A4と同型,正8面体(位数24)では対面する面は4組あり,これらの組の置換を引き起こすので4次対称群S4と同型,正20面体(位数60)では30個の辺を5組に分ける偶置換として作用するので5次交代群A5と同型になることがわかる.
SO(3)の有限部分群A4,S4,A5はR^3の5種類の正多面体と密接な関係があり,総称して「正多面体群」と呼ばれている.正多面体の回転群は3次の特殊直交群SO(3)の有限部分群である.
また,群Gの元の個数は|G|と書かれ,Gの位数と呼ばれる.正多面体群の位数|G|は
(面の個数)×(1つの面の辺の個数)
で与えられることも理解されよう.
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SO(3)にはこのほかに2種類の有限部分群がある.一つは巡回群,もうひとつは正2面体群であり,これらでSO(3)の有限部分群をつくすことが知られている.つくすというのは,共役を除いてただ一通り存在するという意味である.正2面体群とA4,S4,A5とを併せて(広義の)正多面体群と呼ぶこともある.
以上より,SO(3)の有限合同変換群は,
(1)巡回群(Cn:位数n)
(2)正2面体群(D2n:位数2n)
(3)4次交代群(A4:位数12)←→正4面体群と同型
(4)4次対称群(S4:位数24)←→正6(8)面体群と同型
(5)5次交代群(A5:位数60)←→正12(20)面体群と同型
のいずれかである.
もっと大まかに
(1)巡回群とその裏返し
(2)正多面体群
とまとめることもできるだろう.
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[3]置換群的アプローチ
前節のように,幾何学的・直観的にアプローチした結果だけを見ると,SO(3)の有限部分群の分類問題は容易に解けたように見えるかもしれない.ところが,それとは裏腹に,群論的な分類方法はかなり複雑である.この節では,正攻法すなわち群論的に考えることにする.
群Gの元の個数は|G|と書かれ,Gの位数と呼ばれる.シローの定理により,群Gの位数|G|を割るすべての素数pに対するシローp部分群が複雑に絡み合って群G全体の構造が決まってくる.
ここで,証明を相当部分端折ることになるのだが,置換群的アプローチによって,
1+2/|G|=1/|G1|+1/|G2|+1/|G3|
が得られる.G1,G2,G3はGの部分群であり,固定化群と呼ばれる.また,|G1|≧|G2|≧|G3|としても一般性を失わない.
こうして得られた|G1|,|G2|,|G3|,|G|を一覧表にすると,
|G1| |G2| |G3| |G|
D2n n 2 2 2n
A4 3 3 2 12
S4 4 3 2 24
A5 5 3 2 60
になる.
少し補足しておきたい.D2n型部分群は正2面体群である.前述したように,巡回群は正2面体群の部分群となっている.4文字1,2,3,4の置換全体のなす群が4次対称群S4で,その位数は4!=24である.S4は2つの生成元a,bによって生成され,基本関係式は
a^3=b^4=(ab)^2=1
4次交代群A4はS4中の偶置換(偶数個の互換の積)全体からなる部分群で,位数は24/2=12,基本関係式は
a^3=b^3=(ab)^2=1
また,5次交代群A5の位数は,5次対称群の位数が5!=120であるから,120/2=60,基本関係式は
a^3=b^5=(ab)^2=1
となる.
A4,S4,A5の3つの群は,R^3の5種類の正多面体と密接な関係にあり,S4は正6面体(正8面体:中心に関して点対称)を変えぬ運動の集合,A4は正4面体(点対称性はもたないが,面対称性をもっている)を変えぬ運動の集合,A5は正12面体(正20面体:中心に関して点対称)を変えぬ運動の集合であって,総括して正多面体群と呼ばれている.
なお,O(3)の有限部分群は,SO(3)の有限部分群5系列と原点に対する対称変換(裏返し)を部分群にもつ5系列,どちらにも属さないもの4系列が加わるため,合計14の系列に分類される.
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【4】n次元ユークリッド空間の有限合同変換群
以上より,
「SO(2)の有限合同変換群は巡回群」
「SO(3)の有限合同変換群は巡回群とその裏返し+正多面体群」
であることがわかったわけであるが,これと同じ有限合同変換群の決定問題が,一般のn次元ユークリッド空間についても考えられる.
正多面体では
正4面体 ←→正4面体(自己双対)
正6面体 ←→正8面体
正12面体←→正20面体
という双対関係が成り立つ.そのため,3次元ユークリッド空間の正多面体群は
(1)4次交代群(正4面体群と同型)
(2)4次対称群(正6面体群,正8面体群と同型)
(3)5次交代群(正12面体群,正20面体群と同型)
の3系列ですべてであった.
R^2の正多角形は無限個ある.しかし,R^3のなかの正多面体としては5種類,R^4では6種類,5次以上では正(n+1)胞体(正4面体の拡張),正2n胞体(正6面体の拡張),正2^n胞体(正8面体の拡張)の3種類しか存在しないことが知られている.
二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類である.三次元の正多面体は5種類であり,五次元以上でも3種類しかないのに,四次元では6種類もあることは四次元の不思議ともいうべき事実と考えられる.
また,二次元空間の正三角形に相当する三次元図形は正四面体,正方形は立方体,正五角形は正十二面体に相当するが,正24胞体に相当する3次元正多面体は存在しない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.4次元正多胞体の双対性を調べることにしよう.
4次元空間の正多胞体 双対性
正5胞体(4次元正4面体) 自己双対(非中心対称)
正8胞体(4次元正6面体:超立方体) 16胞体と双対
正16胞体(4次元正8面体) 8胞体と双対
正24胞体 自己双対(中心対称)
正120胞体(4次元正12面体) 600胞体と双対
正600胞体(4次元正20面体) 120胞体と双対
五次元以上のd次元の場合は,2d個の頂点と2^d個の辺をもつ双対立方体(三次元では正八面体),2^d個の頂点と2d個の辺をもつ立方体,d+1個の頂点とd+1個の辺をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多胞体をつくしている.
n次元空間の正多胞体(n≧5) 双対性
(n+1)胞(n次元正4面体) 自己双対
2n胞体(n次元立方体) 2^n胞体
2^n胞体(n次元正8面体) 2n胞体
正4面体,正6面体,正8面体の多次元への拡張はわかりやすいと思われるが,3次元空間の正12面体,正20面体,4次元空間の24胞体,120胞体,600胞体はより高次元においては対応するものをもたないというわけである.
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上の論法を高次元に敷衍していくと,SO(4)の合同変換群は,
(1)巡回群とその裏返し
(2)正多面体群とその裏返し
(3)正多胞体群(4次元の場合は正24胞体があるので,4系列)
SO(5)の合同変換群は
(1)巡回群
(2)正多面体群とその裏返し
(3)4次元正多胞体群とその裏返し
(4)5次元正多胞体群(正12面体,正20面体に相当するものはなくなるので,2系列)
になると予想されるのだが,私の直観が正しいとはまず考えられない.落とし穴にはまっているだけかもしれないのである.
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このことを確かめようとしたのだが,私が調べた限り,どの本にもn次元ユークリッド空間の合同変換群についての記載はなかった.しかし,なぜ記載されていないのだろうか?
このコラムを書き始めたのちにわかったことだが,実は,一般のnについての答は知られていないようで,n=5位でも大分難しくなるとのことであった.→【補】合同変換群と結晶群
R^2の場合,簡単に解決できたのは,2次の行列式が1の直交行列がすべて
[cosθ,−sinθ]
[sinθ, cosθ]
の形に書けたからである.
ところが,R^3では次元がたった一つあがるだけなのにもかかわらず,分類の決定問題は大分複雑化する.
[sinθcosφ,cosθcosφ,−sinφ]
[sinθsinφ,cosθsinφ, cosφ]
[cosθ ,−sinθ , 0 ]
は3次の行列式1の直交行列ではあるが,すべてがこのように書けるわけではない.すなわち,2次元の直交変換はそのまま平面の回転であるが,3次元の直交変換は一般に空間の回転にはならない.
これは,言い換えれば,R^2を複素平面とみなすことによって,合同変換が見やすい形に書けたのに,R^3では単純な形にならないことによるのである.
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【補】有限単純群の分類
分類とは,分類結果を単に整理するという静的な行為ではなく,分類を追求する過程において,自然現象や社会現象に働きかけ,その構造を分析するという動的な行為である.
コラム「群と月光」では有限単純群の分類に関する解説を試みた.
a^(-1)Ha=H (Ha=aH)
がGのすべての元aに対して成立するとき,HをGの正規部分群とよぶのだが,単純群とはGがG自身と単位元以外に正規部分群をもたないものをいい,単純群は群の構造を調べるときにはいわば原子の役割をしている.
したがって,G自身と単位群しか正規部分群をもたない群をすべて決定することは重要な課題となる.今日では有限単純群の分類は完成し,有限単純群は
(1)素数位数の巡回群
(2)5次以上の交代群
(3)リー型の単純群
(4)散在型単純群
の4種類に大別され,合計18の無限系列と26個の散在群に限ることがわかっている.
有限単純群は無限個存在するが,n次交代群Anはn≧5のとき,非可換かつ単純である.これは対称群Snの性質にも直接反映して「5次以上の次数の代数方程式が,一般には代数的には解けない」というガロア理論の根拠になっている.
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【補】合同変換群と結晶群
ユークリッド変換群(合同変換群)とは,回転,並進,鏡映などがその仲間であって,図形を変形しないで動かすだけですから,長さや角の大きさは変わりません(=不変性).すなわち,ユークリッド合同変換とは長さと角度を変えない変換として特徴づけられます.
平行移動だけでなく,点中心の回転や直線に関する鏡映も考えてみると,平面上での等長変換は,平行移動,回転,鏡映,すべり鏡映,恒等変換の5種類あります.直交変換だけに限って具体的に書くと,
A=[1,0] (恒等変換)
[0,1]
A=[1, 0] (x軸での鏡映)
[0,−1]
A=[−1,0] (y軸での鏡映)
[ 0,1]
A=[−1, 0] (原点での点対称)
[ 0,−1]
A=[cosθ,−sinθ] (角度θの回転)
[sinθ, cosθ]
のいずれかになります.
同様に,空間での等長変換は,平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類です.直交変換を少し略して列挙すると
A=[1,0,0] (恒等変換)
[0,1,0]
[0,0,1]
A=[1,0, 0] (座標面での面対称)
[0,1, 0]
[0,0,−1]
A=[1, 0, 0] (座標軸での線対称)
[0,−1, 0]
[0, 0,−1]
A=[cosθ,−sinθ,0] (角度θの回転)
[sinθ, cosθ,0]
[ 0, 0,1]
A=[cosθ,−sinθ, 0] (回転鏡映)
[sinθ, cosθ, 0]
[ 0, 0,−1]
ここで,回転鏡映とは,角度θの回転とその回転軸に直交する鏡映との合成のことです.
ところで,自然界には結晶と呼ばれる対称性の高い物質が存在していて,対称性の群の数学は結晶学で重要な役割を演じます.結晶群は合同変換群の部分群なのですが,2次元結晶群は
f:[x]→A[x]+m[a]+n[c]
[y] [y] [b] [d]
ここで,Aは4つの対角行列
A=[1,0] [1, 0] [−1,0] [−1, 0]
[0,1],[0,−1],[ 0,1],[ 0,−1]
のいずれかの形をしています.
等長変換および2次元結晶の回転角は,60°・90°・120°・180°・240°・270°・300°しかないことを考察することにより,2次元格子で異なる対称性をもつものは17種類存在することがわかります.この17種類の対称性は,2次元結晶群としてとらえることができます.壁紙のパターンは無限にあるわけですが,平面結晶,すなわち2次元結晶群は17種存在することがわかっていて,どのようなパターンも対称性という意味では17種類のどれかに一致してしまうのです.わずか17種しか存在しないといったほうがよいかもしれません.
また,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在しています.結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれているのですが,これは変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからです.
これらの事実の証明は非常に困難であり,これ以上追求しないことにしますが,とくに3次元の格子状配置は,19世紀の初めから,結晶内の原子の配列を記述するのに使われてきたものであり,対称性の群の分類についての仕事の大半は19世紀の結晶学者によってなされたこと,4次元のフェドロフ結晶群は4783種類(4895種類)存在することを付記しておきます.
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