■奇数ゼータと杉岡の公式(その9)
(その6)ではベルヌーイ多項式,(その8)ではオイラー多項式に基づいて
(1)奇数ゼータと偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される
(2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される
ことを示したところ,杉岡幹生氏より,
(3)正の奇数ゼータのみならず,負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和として表現できる
というコメントを頂いた.
しかし,(2)に関しては,どのように”偶数ゼータの有限和”で表現できるかを具体的に示さなかったため,かえって誤解を与えてしまったようである.
また,(その8)では
L2(1)=1/1+1/3−1/5−1/7+1/9+1/11−1/13−1/15+(正負は8ごとに繰り返す)・・・=π/2√2
を示したものの,
L1(1)=1/1−1/3−1/5+1/7+1/9−1/11−1/13+1/15+(正負は8ごとに繰り返す)・・・=1/√2log(1+√2)
や
1/1−1/2+1/4−1/5+1/7−1/8+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=π/3√3
については証明しなかった.
これらは,ディリクレのL関数と総称される一群の関数の値についての公式である.今回のコラムではこれらの値を求めることにしたい.
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【1】ベルヌーイ多項式
1次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開は
Σsin(2nx)/n=π/2-x
で表される.
この式の両辺を区間(0,x)で定積分すると
(1回積分)
-1/2Σcos(2nx)/n^2+1/2ζ(2)=(π/2)x-x^2/2
(2回積分)
-1/4Σsin(2nx)/n^3+1/2ζ(2)x=(π/2)x^2/2-x^3/6
(3回積分)
1/8Σcos(2nx)/n^4-1/8ζ(4)+1/4ζ(2)x^2=(π/2)x^3/6-x^4/24
(4回積分)
1/16Σsin(2nx)/n^5-1/8ζ(4)x+1/12ζ(2)x^3=(π/2)x^4/24-x^5/120
(5回積分)
-1/32Σcos(2nx)/n^6+1/32ζ(6)-1/16ζ(4)x^2+1/48ζ(2)x^4=(π/2)x^5/120-x^6/720
(6回積分)
-1/64Σsin(2nx)/n^7+1/32ζ(6)x-1/48ζ(4)x^3+1/240ζ(2)x^5=(π/2)x^6/720-x^7/5040
(7回積分)
1/128Σcos(2nx)/n^8-1/128ζ(8)+1/64ζ(6)x^2-1/192ζ(4)x^4+1/1440ζ(2)x^6=(π/2)x^7/5040-x^8/40320
(8回積分)
1/256Σsin(2nx)/n^9-1/128ζ(8)x+1/192ζ(6)x^3-1/960ζ(4)x^5+1/10080ζ(2)x^7=(π/2)x^8/40320-x^9/362880
となる.
これらの定積分に,x=π/2,π/4を代入すると
x=π/2 x=π/4
Σcos(2nx)/n^s -(1-2^(1-s))ζ(s) -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
Σsin(2nx)/n^s 0 L(s)
となるから,たとえば,(8回積分)にx=π/4を代入すると,
1/256L(9)-1/128ζ(8)π/4+1/192ζ(6)(π/4)^3-1/960ζ(4)(π/4)^5+1/10080ζ(2)(π/4)^7=(π/4)^9/40320-(π/4)^9/362880
なる式が得られる.
このことより,奇数ゼータが偶数ゼータの有限和
L(2n+1)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n)
で一般的に表されることがわかるだろう.
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また,(8回積分)にx=π/2を代入すると,
-1/128ζ(8)π/2+1/192ζ(6)(π/2)^3-1/960ζ(4)(π/2)^5+1/10080ζ(2)(π/2)^7=(π/2)^9/40320-(π/2)^9/362880
となって,偶数ゼータ自身も偶数ゼータの有限和
ζ(2n)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n-1)
で表されることが理解される.
こうなると偶数ゼータがすべてζ(2)に由来することになり,杉岡氏の偶数ゼータDNA説に抵触(?)してしまうかもしれない...
さらに,7回積分にx=π/4を代入してみよう.すると,
-2^(-8)(1-2^(-7))ζ(8)-1/128ζ(8)+1/64ζ(6)(π/4)^2-1/192ζ(4)(π/4)^4+1/1440ζ(2)(π/4)^6=(π/2)(π/4)^7/5040-(π/4)^8/40320
となる.
しかし,これは(8回積分)にx=π/2を代入した式
-1/128ζ(8)π/2+1/192ζ(6)(π/2)^3-1/960ζ(4)(π/2)^5+1/10080ζ(2)(π/2)^7=(π/2)^9/40320-(π/2)^9/362880
とは異なる式である.
すなわち,
ζ(2n)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n-1)
の表し方は1通りではないのだが,これはζ(2i)が互いに線形独立ではないことを意味している.
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なお,1次のベルヌーイ多項式
Σsin(2nx)/n=π/2-x
にx=π/3を代入すると,冒頭に掲げた公式
1/1−1/2+1/4−1/5+1/7−1/8+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=π/3√3
が得られる.
同様に,3次のベルヌーイ多項式
Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
にx=π/3を代入すると,
1/1^3−1/2^3+1/4^3−1/5^3+1/7^3−1/8^3+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=4π^3/81√3
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【2】オイラー多項式
0次のオイラー多項式のフーリエ展開は
Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4
であり,ベルヌーイ多項式の場合と同様に
(1回積分)
-Σcos(2n-1)x/(2n-1)^2+(1-2^(-2))ζ(2)=(π/4)x
(2回積分)
-Σsin(2n-1)x/(2n-1)^3+(1-2^(-2))ζ(2)x=(π/4)x^2/2
(3回積分)
Σcos(2n-1)x/(2n-1)^4-(1-2^(-4))ζ(4)+(1-2^(-2))ζ(2)x^2/2=(π/4)x^3/6
(4回積分)
Σsin(2n-1)x/(2n-1)^5-(1-2^(-4))ζ(4)x+(1-2^(-2))ζ(2)x^3/6=(π/4)x^4/24
(5回積分)
-Σcos(2n-1)x/(2n-1)^6+(1-2^(-6))ζ(6)-(1-2^(-4))ζ(4)x^2/2+(1-2^(-2))ζ(2)x^4/24=(π/4)x^5/120
(6回積分)
-Σsin(2n-1)x/(2n-1)^7+(1-2^(-6))ζ(6)x-(1-2^(-4))ζ(4)x^3/6+(1-2^(-2))ζ(2)x^5/120=(π/4)x^6/720
(7回積分)
Σcos(2n-1)x/(2n-1)^8-(1-2^(-8))ζ(8)+(1-2^(-6))ζ(6)x^2/2-(1-2^(-4))ζ(4)x^4/24+(1-2^(-2))ζ(2)x^6/720=(π/4)x^7/5040
(8回積分)
Σsin(2n-1)x/(2n-1)^9-(1-2^(-8))ζ(8)x+(1-2^(-6))ζ(6)x^3/6-(1-2^(-4))ζ(4)x^5/120+(1-2^(-2))ζ(2)x^7/5040=(π/4)x^8/40320
これらの積分にx=π/2,π/4を代入すると
x=π/2 x=π/4
Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s 0 L1(s)/√2
Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s L(s) L2(s)/√2
となる.
(8回積分)にx=π/2を代入すると,
L(9)-(1-2^(-8))ζ(8)π/2+(1-2^(-6))ζ(6)(π/2)^3/6-(1-2^(-4))ζ(4)(π/2)^5/120+(1-2^(-2))ζ(2)(π/2)^7/5040=(π/4)(π/2)^8/40320
となって,ベルヌーイ多項式の場合と同様,
L(2n+1)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n)
で表されることがわかる.
また,(8回積分)にx=π/4を代入すると,
L2(9)/√2-(1-2^(-8))ζ(8)π/4+(1-2^(-6))ζ(6)(π/4)^3/6-(1-2^(-4))ζ(4)(π/4)^5/120+(1-2^(-2))ζ(2)(π/4)^7/5040=(π/4)^9/40320
すなわち,
L2(2n+1)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n)
で表されることも理解されるだろう.
L1(2n)=Σwiζ(2i) (wi:重み,i=0〜n)
についても同様に示すことができる.
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しかし,オイラー多項式からは
L2(1)=1/1+1/3−1/5−1/7+1/9+1/11−1/13−1/15+(正負は8ごとに繰り返す)・・・=π/2√2
は求められても,
L1(1)=1/1−1/3−1/5+1/7+1/9−1/11−1/13+1/15+(正負は8ごとに繰り返す)・・・=1/√2log(1+√2)
は求まらなかった.
別の式が必要になるのだが,
Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
を用いることにしよう.この式は
Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
に対応する式と考えられることは(その8)で述べたとおりである.
そして,この式にx=π/4を代入すると,当該の
L1(1)/√2=1/2*log(cot(π/8))=1/2*log(1+√2)
が得られるというわけである.
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(0回微分) Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
(1回微分) Σsin((2n-1)x)=1/2*cosecx
(2回微分) Σ(2n-1)cos((2n-1)x)=-1/2*cosecxcotx
(3回微分) Σ(2n-1)^2sin((2n-1)x)=-1/2*(2-sin^2x)/sin^3x
(4回微分) Σ(2n-1)^3cos((2n-1)x)=cosx(6-sin^2x)/sin^4x
ここで,
x=π/2 x=π/4
Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s 0 L1(s)/√2
Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s L(s) L2(s)/√2
であるから,
x=π/2 x=π/4
(0回微分) 0=0 L1(1)=1/√2*log(1+√2)
(1回微分) L(0)=1/2 L2(0)=1
(2回微分) 0=0 L1(-1)=-1
(3回微分) L(-2)=-1/2 L2(-2)=-3
(4回微分) 0=0 L1(-3)=11
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