■奇数ゼータと杉岡の公式(その15)


 最近,杉岡幹生氏は

  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)

  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)

のそれぞれにx=mπ/nの代入を試みて,ディリクレのL関数と2次体の関係についてまとめておられる.

 

 たとえば,

  L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−1)

  L1(s)=1/1^s−1/3^s−1/5^s+1/7^s+・・・→Q(√2)

  L2(s)=1/1^s+1/3^s−1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−2)

  L3(s)=1/1^s−1/2^s+1/4^s−1/5^s+1/7^s−1/8^s+・・・→Q(√−3)

  L4(s)=1/1^s−1/5^s−1/7^s+1/11^s+1/15^s−1/19^s+・・・→Q(√3)

などはその例であって,そこから氏は実2次体,虚2次体となる法則性を見いだしたようである.

 

 残念ながらいま杉岡氏の結果について検討する時間がとれないので,それについてはまた後日報告したい.(HPの移転が済んだのに,まだ自分自身の移転(転職)が完了していないためである.)

 

 ところで,杉岡氏の法則のキーワードとなる式は

  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)

のように三角級数の形で表されていて,これに円をk等分する値x=mπ/nを代入することによって得られたものである.

 

 それでは三角関数のベキ乗の逆数和に円をk等分する値を代入したらどうなるのかというのが今回のコラムのテーマである.いますぐ役に立つわけではないが,ゼータ関数と深く関係することは確かなので報告したい.

 

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【1】三角関数のベキ乗の逆数和公式

 

[1]カロジェロ-サザーランド模型

 量子可積分系で相互作用をもつ系の場合,一般に相関関数の計算を厳密に行うことはとても困難で近似計算するしかない.しかし,その点,ポテンシャルに三角関数解を仮定したカロジェロ-サザーランド模型は解析的な結果を期待することができる価値のある模型である.

 

 その母体となるカロジェロ-モーザー模型には,ポテンシャルHとして

  有理関数解:H=Σ1/x^2,

  三角関数解:H=Σ1/sin^2(ax),

  双曲線関数解:H=Σ1/sinh^2(ax),

  楕円関数解:H=Σ1/sn^2(ax,k)

などの解がある.snωはsinωとtanhωの中間に位置しているので,楕円関数解は三角関数解と双曲線関数解の中間に位置するものと考えられる.読者のなかにはsin(iθ)=isinhθであるから,三角関数解を正の曲率をもつ球面世界の解とすると,双曲線関数解は負の曲率をもつ双曲的世界の解と考えた方もおられるかもしれないが,そのように難しく考える必要はない.

 

 これらのうち,sin^(-2)型の相互作用を仮定したものがカロジェロ-サザーランド模型なのであるが,円周上にn個の量子力学的粒子を乗せ,それらが束縛されている状況では,相互作用を表す項は

  H=Σ1/(粒子iと粒子jの弦距離)^2=Σ1/sin^2(ax)

になるという幾何学的な解釈を与えることができる.

 

 ただし,カロジェロ-サザーランド模型のポテンシャルは1/r^2型であって,クーロン相互作用のような1/r型とは異なっているため,非現実的な模型かもしれないが,可積分性のためにはある程度の代償を支払わなければならないのである.

 

[2]フェアリンデの公式

 また,

  Hi=Σ1/sin^2i(ax)

という形の式は,物理学者のフェアリンデが共形場理論のなかで次元公式として与えた式にも出現していて,フェアリンデの公式は美しさと重要性のゆえに,発表以来,多くの数学者の興味を惹いてきた.

 

 以下は

  [参]向井茂「モジュライ理論2」岩波書店,現代数学の展開

よりの受け売りで,カロジェロ-サザーランド模型よりはフェアリンデの公式との関係が深いと思われるが,ゼータ関数がいろいろなところに出現することをお汲み取りいただきたい.何か意味ありげなのである.

 

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 自然数n,kに対して,半円y=(1-x^2)^(1/2)をk等分した点からx軸に垂線を下ろし,垂線の長さの2n乗の逆数和を

  V(n,k)=Σ1/sin^2n(iπ/k)   (i=1~k-1)

と定義します.そして,k^2nで割って,k→∞とすると

  V(n,k)/k^2n=Σ((iπ/k)/sin(iπ/k))^2n・(iπ)^(-2n)

         →2ζ(2n)/π^2n

が得られます.

 

 すなわち,V(n,k)はリーマンのゼータ関数

  1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・=ζ(s)

に対応することがわかります.

 

 また,証明は略しますが,

  ΣV(n,k)sin^(2n)(x)=1−ktan(x)cot(kx)

のxにx/kを代入してk→∞とすると

  2Σζ(2n)(x/π)^2n=1−xcot(x)

が得られます.

 

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 次に,V(n,k)のバリエーションとして,交代級数

  1/1^s−1/2^s+1/3^s−1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

に対応する

  W(n,k)=Σ(-1)^i/sin^2n(iπ/k)   (i=1~k-1),kは偶数

 

 分母が奇数の

  1/1^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+・・・=(1-2^(-s))ζ(s)

  1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・=L(s)

に対応する

  U(n,k)=Σ(-1)^ni/sin^n((2i+1)π/2k)   (i=1~k-1)

      =(-1)^((k-1)n/2)Σ1/cos^n(2iπ/k)   (i=0~k-1)

              n(k−1)は偶数

について調べてみましょう.

 

  W(n,k)=V(n,k)−2V(n,k/2)

  U(2n,k)=V(n,2k)−2V(n,k)

よって,

  1/sinx=cot(x/2)-cotx,tanx=cotx-2cot2x

したがって,

  ΣW(n,k)sin^(2n)(x)=ktan(x)/sin(kx)

  ΣU(2n,k)sin^(2n)(x)=ktan(x)tan(kx)

  ΣU(n,k)sin^(n-1)(x)=k(1+sinx)/cosxcoskx

を得ることができます.

 

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【2】オイラー数とタンジェント数

 

 ベルヌーイ数と似たものにオイラー数やタンジェント数があります.オイラー数は,

  sechx=ΣEn/n!x^n

=E0/0!+E2/2!x^2+E4/4!x^4+・・・

で,べき級数

  coshx=1+1/2!x^2+1/4!x^4+1/6!x^6+・・・

の反転級数として定義されます.

 

 オイラー数では再帰公式

  (E+1)^n-(E−1)^n=0

が成り立ちます.

  E0=1,E2=-1,E4=5,E6=-61,E8=1385,E10=-50521,・・・

  E1=E3=E5=・・・=0

 

 一方,三角関数:tanxのベルヌーイ数を用いた展開

  tanx=Σ(-1)^(n-1)2^2n(2^2n−1)B2nx^(2n-1)/(2n)!

におけるx^(2n-1)/(2n−1)!の係数

  Tn=(-1)^(n-1)2^2n(2^2n−1)B2n/2n

はタンジェント数と呼ばれる正の整数です.

 

 これらを1つにまとめてみましょう.

  (1+sinx)/cosx=ΣEn/n!x^n

=E0/0!+E1/1!x+E2/2!x^2+E3/3!x^3+E4/4!x^4+・・・

と定めると,Enはnの偶奇によって,オイラー数,タンジェント数と絶対値が等しくなります.

  E0=1,E2=1,E4=5,E6=61,E8=1385,E10=50521,・・・

  E1=1,E3=10,E5=16,E7=272,E9=7936,E11=353792,・・・

 

 そして,

  ΣU(n,k)sin^(n-1)(x)=k(1+sinx)/cosxcoskx

の両辺にsinxをかけた

  ΣU(n,k)sin^n(x)=ktanx(1+sinx)/coskx

のxにx/kを代入してk→∞とすると,

  1+1/(−3)^n+1/5^n+1/(−7)^n+1/9^n+・・・

 =π^nEn-1/2^(n+1)(n−1)!

を得ることができます.

 

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【3】フルヴィッツ数

 

  tanx=Σ(-1)^(n-1)2^2n(2^2n−1)B2nx^(2n-1)/(2n)!

の展開式は,ベルヌーイ数の別の形の母関数表示を与えています.すなわち,三角関数の展開公式にもベルヌーイ数がでてくるのですが,

  1/sin^2(x)=1/x^2+Σ(-1)^(n/2-1)2^nBn/n・x^(n-2)/(n−2)!

三角関数(円関数)を楕円関数に置き換えても,展開係数はベルヌーイ数と似たような数論的性質をもってくることが予想されます.

 

 このような考え方は三角関数についての現象を一般化するときの常套手段となっているのですが,その展開係数がフルヴィッツ数Hnです.三角関数の場合のベルヌーイ数

  1/sin^2(x)=1/x^2+Σ(-1)^(n/2-1)2^nBn/n・x^(n-2)/(n−2)!

と対比させると,フルヴィッツ数はワイエルシュトラスの楕円関数のローラン展開

  p(z)=1/z^2+Σ2^nHn/n・z^(n-2)/(n−2)!

で定義されます.

  H4=1/10,H8=3/10,H12=567/130,H16=43659/170,H20=392931/10,

    H24=1724574159/130,・・・

 

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【4】ヒルツェブルフのL種数とポントリャーギン類

 

 ゼータ関数に関係しそうな話はこれでおしまいで

  [参]向井茂「モジュライ理論2」岩波書店,現代数学の展開

の本文は三角関数のベキ乗の逆数和→リーマン・ロッホの定理,交点数公式の話に移っていきます.以下,リーマン・ロッホの定理を理解するために必要な基礎知識の説明をしたいと思います.

 

 まず最初に,基本対称式におけるニュートンの公式・ジラールの公式について簡単に述べておきたいと思います.ニュートンの恒等式は,基本対称式とベキ和を結びつけているのですが,特性類の説明を見通しよく行うためにも必要になってくるのです.

 

 一般のn次方程式:

  f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0

の根と係数の関係は,

  α1+・・・+αn=−a1/a0

  α1α2+・・・+αn-1αn=a2/a0

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  α1α2α3・・・αn=(−1)^nan/a0

(ジラール)ですが,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができます.たとえば,2変数の場合,

  α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2

  α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2

  α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2

など.

 

 そこで,n変数対称式:

  sj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j

を基本対称式:

  σ1=α1+・・・+αn

  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn

  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  σn=α1α2α3・・・αn

を用いて表してみることにしましょう.

 

 余分な変数tを導入して,

 f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n

とおくと,

 f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k

            =Σ(-1)^ks(k+1)t^k

 

 ゆえに,

  f'(t)=f(t)Σ(-1)^ks(k+1)t^k

となり,

  σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)

=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(s1−s2t+s3t^2−・・・)

 

 両辺の係数を比較することによって,順次

  s1=σ1

  s2=σ1s1−2σ2=σ1^2−2σ2

  s3=σ1s2−σ2s1+3σ3=σ1^3−3σ1σ2+3σ3

  s4=・・・=σ1^4−4σ1^2σ2+2σ2^2+4σ1σ3−4σ4

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  s(k+1)=σ1sk−σ2s(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σks1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)=f(σ1,・・・,σ(k+1))

が得られます(ニュートンの公式).

 

 また,t=1とおくことにより,

  (-1)^ksk/k=Σ(-1)^(i1+・・・+ik)(i1+・・・+ik-1)!/i1!・・・ik!σ^i1・・・σ^ik   i1+2i2・・・+kik=k

が証明されます(ジラールの公式).

 

 ニュートンの恒等式から

  『α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される』

という結果が導き出されます.不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのです.

 

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 母関数を考えるときには,収束するかどうかは問題にせず,多項式を考えるのですが,それを形式的ベキ級数と呼びます.ここでは,形式的ベキ級数の等式としてニュートンの恒等式を導き出したのですが,同様の方法,すなわち,αiを交点行列の固有値として,チャーン多項式

  f(t)=Π(1+tαi)=Σckt^k  (ckはチャーン類,c0=1)

を考えれば,チャーン標数は

  ch=n+Σsk/k!   (skはベキ乗和)

    =ch0+ch1+ch2+ch3+・・・

ただし,

  ch0=n

  ch1=c1

  ch2=1/2(c1^2−2c2)

  ch3=1/6(c1^3−3c1c2+3c3)

  ch4=1/24(c1^4−4c1^2c2+2c2^2+4c1c3−4c4)

  chn=chn(c1,・・・,cn)

とチャーン類で書き下すことができ,これがチャーン標数の定義となります.

 

(リーマン・ロッホの定理の一般形は,チャーン類とトッド類と呼ばれるものを使って書かれるが,ここでは,トッド類まで解説する余裕がない.トッド種数もチャーン類の有理係数多項式であり,

  td1=1/2c1

  td2=1/12(c1^2+c2)

  td3=1/24c1c2)

  td4=1/720(−c1^4+4c1^2c2+3c2^2+c1c3−c4)

で表される.)

 

 ポントリャーギン類については,

  f(t)=Π(1+tiαi)=Σpkt^k  (pkはポントリャーギン類,p0=1)

で定義され,

  1−p1+p2−・・・±pn=(1−c1+c2−・・・±cn)(1+c1+c2+・・・+cn)

より,チャーン類とは

  pk=ck^2−2ck-1ck+1+・・・+2c1c2k-1−2c2k

で関係しています.

 

 また,ベキ級数

  g(x)=√(x)/tanh√(x)

      =1+1/3x−1/45x^2+・・・+(-1)^(k-1)2^(2k)/(2k!)・Bk・x^k+・・・

として,Πg(x)がヒルツェブルフのL種数の母関数となっていますから,したがって,ヒルツェブルフのL種数は,

  L=Πg(x)=1+Σ(-1)^ksk

   =ΣLn=L0+L1+L2+L3+L4+・・・

 

 ポントリャーギン類を用いて書くと

  L0=1

  L1=1/3p1

  L2=1/45(7p2−p1^2)

  L3=1/945(62p3−13p2p1+2p1^3)

  L4=1/14157(381p4−71p3p1−19p2^2+22p2p1^2−3p1^4)

  Ln=Ln(p1,・・・,pn)

によって定義されます.

 

 多様体の符号数はポントリャーギン数の1次結合として表されることが示されていて,任意の多様体のL種数は整数ですから,ポントリャーギン数p1[M^4]は3で割り切れるし,7p2[M^8]−p1^2[M^8]は45で割り切れます.これを用いると,ヒルツェブルフのL多項式:Ln(p1,・・・,pn)におけるpnの係数が

  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk

になることが証明されます.

 

 こういうわけで,ヒルツェブルフの符号数定理と彼による一般化されたリーマン・ロッホの定理(リーマン・ロッホ・ヒルツェブルフの定理)の出現以来,トポロジストにとってベルヌーイ数とその数論的性質を知ることは大変有益なものになっているのです.

 

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