■奇数ゼータと杉岡の公式(その14)

 (その12)では
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
にx=π/2,x=π/4を代入することによって,
           x=π/2          x=π/4
 Σcos(2nx)/n^s  -(1-2^(1-s))ζ(s)   -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s    0           L(s)
 
x=π/3,x=π/6の代入によって
           x=π/3          x=π/6
 Σcos(2nx)/n^s   -1/2(1-3^(1-s))ζ(s)   1/2(1-2^(1-s))(1-3^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s   √(3)/2*L3(s)       √(3)/2(1+2^(1-s))L3(s)
 
 一方,
  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
に対して同様のことを行うと
               x=π/2       x=π/4
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    0        L1(s)/√2
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    L(s)       L2(s)/√2
 
               x=π/3               x=π/6
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s   1/2(1-2^(-s))(1-3^(1-s))ζ(s)   √(3)/2L4(s)
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s   √(3)/2(1+2^(-s))L3(s)       1/2(1+3^(1-s))L(s)
が得られることを述べた.
 
 ここに出てきたディリクレのL関数は,それぞれ以下の2次体と関係していることがわかっている.
  L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−1)
  L1(s)=1/1^s−1/3^s−1/5^s+1/7^s+・・・→Q(√2)
  L2(s)=1/1^s+1/3^s−1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−2)
  L3(s)=1/1^s−1/2^s+1/4^s−1/5^s+1/7^s−1/8^s+・・・→Q(√−3)
  L4(s)=1/1^s−1/5^s−1/7^s+1/11^s+1/15^s−1/19^s+・・・→Q(√3)
 
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【1】拡張・その1
 
 今回のコラムでは(その12)の結果の拡張を試みたいのであるが,まず最初に考えられる拡張は,x=π/8やx=π/12の代入によってどのようなゼータ関数が生み出されるのだろうかという問題である.
 
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
の系列に代入した結果は,
           x=π/8
 Σcos(2nx)/n^s  -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)+L(s)/√2
 Σsin(2nx)/n^s  L(s)+L2(s)/√2
 
           x=π/12
 Σcos(2nx)/n^s  -3^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)+2^(-s)(1-2^(1-s))(1-3^(-s))ζ(s)+√(3)/2*L4(s)
 Σsin(2nx)/n^s  -3^(-s)L(s)+1/2*(1+3^(-s))L(s)+√(3)/2*2^(-s)(1+2^(1-s))L3(s)
のようになり,新たなゼータ関数は生成されなかった.
 
 次に,
  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
の系列で同様のことを試みたのだが,ディリクレのL関数にならず,
               x=π/8       x=π/12
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    ×         ×
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    ×         ×
のような結果となってしまった.
 
 たとえば,Σcos(2n-1)x/(2n-1)^sにx=π/8を代入する場合について説明すると
  1/1^s-1/7^s+1/9^s-1/15^s+1/17^s-1/23^s+1/25^s-1/21^s+・・・
  1/3^s-1/5^s+1/11^s-1/13^s+1/19^s-1/21^s+1/27^s-1/29^s+・・・
が出現してどうしてもL(χ,s)の形にならないし,2次体との関係が見あたらないのである.
 
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【2】拡張・その2
 
 問題を拡張する方向としては,一つには円分の分割数を倍々に増すこと,もう一つには分割数を変えてみることが考えられる.ここではx=π/5やx=π/7の代入を試みたのだが,
               x=π/5       x=π/7
 Σcos(2nx)/n^s        ×         ×
 Σsin(2nx)/n^s        ×         ×
 
               x=π/5       x=π/7
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    ×         ×
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    ×         ×
のごとく,惨憺たる結果となってしまった.
 
 Σcos(2nx)/n^sにx=π/5を代入する場合について説明すると
  1/1^s+1/4^s+1/6^s+1/9^s+1/11^s+1/14^s+1/16^s+1/19^s+・・・
  1/2^s+1/3^s+1/7^s+1/8^s+1/12^s+1/13^s+1/17^s+1/18^s+・・・
が出現してしまい,L(χ,s)の形にならないのである.
 
 実2次体:Q(2),Q(3)
 虚2次体:Q(−1),Q(−2),Q(−3)
の類数は1であるが,
 虚2次体:Q(√−5),Q(√−6)
の類数は2である.
 
 (その13)で解説した類体論によると,素数
  p=1,9(mod20)
が完全分解するのはQ(√−5)ではなくて,K=Q(√−5,√−1)であって,そのときにx^2+5y^2となるx,yが存在するという事実を受けて,
       拡大次数(:Q)   完全分解(+1) 分岐(0)
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Q(√5)      2       p=1,4(mod5)    p=5
Q(√−5)     2       p=1,3,7,9(mod20) p=2,5
Q(√−1)     2       p=1(mod4)     p=2
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の組合せについて調べてみたものの,結果は同じであった.
 
 Q(√−5,√−1)の拡大次数は4であるから,もしかしたら別の組合せで解ける可能性もあるのだが,いまのところうまくいっていない.虚2次体Q(√−7)では類数1であるから,うまくいかない原因は類数とはまったく関係ないのかもしれない.
 
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【3】拡張・その3
 
 もう一つの拡張として,杉岡幹生氏は交代級数の場合をあげている.たとえば,このシリーズの中心に位置する式,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
を微分すると
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2nx=2(sin2x+sin4x+sin6x+sin8x+・・・)
が得られるが,対応する交代級数
  Σ(-1)^(n-1)cos(2nx)/n=log(cosx)+log2
を微分すると
  tanx=sinx/cosx=2Σ(-1)^(n-1)sin2nx=2(sin2x-sin4x+sin6x-sin8x+・・・)
となる.
 
 x→x/2として,それぞれ
  cot(x/2)=2(sinx+sin2x+sin3x+sin4x+・・・)
  tan(x/2)=2(sinx-sin2x+sin3x-sin4x+・・・)
とするほうがより美しい形である.
 
 また,
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
に対応する交代級数は
  Σ(-1)^(n-1)cos((2n-1)x)/(2n-1)=π/4
  Σ(-1)^(n-1)sin((2n-1)x)/(2n-1)^2=πx/2
  Σ(-1)^(n-1)cos((2n-1)x)/(2n-1)^3=π/8(π^2/4-x^2)
の系列をなすが,右辺が有限のベキ和ではいまひとつつまらない形であろう.
 
 それぞれにx=π/2,x=π/4の代入を行うと,
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                x=π/2          x=π/4
 Σ(-1)^(n-1)cos(2nx)/n^s   -ζ(s)      2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σ(-1)^(n-1)sin(2nx)/n^s    0          (1-2^(-s))ζ(s)
 
                    x=π/2       x=π/4
 Σ(-1)^(n-1)cos(2n-1)x/(2n-1)^s    0        L2(s)/√2
 Σ(-1)^(n-1)sin(2n-1)x/(2n-1)^s   (1-2^(-s))ζ(s)   L1(s)/√2
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
となって,
           x=π/2          x=π/4
 Σcos(2nx)/n^s  -(1-2^(1-s))ζ(s)   -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s    0           L(s)
 
               x=π/2       x=π/4
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    0        L1(s)/√2
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    L(s)       L2(s)/√2
の場合に較べ,本質的な差はみられないようである.
 
 x=π/3,x=π/6の代入の場合もまた然りであった.
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                   x=π/3          x=π/6
 Σ(-1)^(n-1)cos(2nx)/n^s   -1/2(1-2^(1-s))(1-3^(1-s))ζ(s)   1/2(1-3^(1-s))ζ(s)
 Σ(-1)^(n-1)sin(2nx)/n^s   √(3)/2(1+2^(1-s))L3(s)       √(3)/2L3(s)
 
                   x=π/3          x=π/6
 Σ(-1)^(n-1)cos(2n-1)x/(2n-1)^s   3^(-s)L(s)+1/2L4(s)   √(3)/2(1+2^(-s))L3(s)
 Σ(-1)^(n-1)sin(2n-1)x/(2n-1)^s   √(3)/2L4(s)       1/2(1-2^(-s))(1-3^(1-s))ζ(s)
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 最後に,ベルヌーイ系列
  Σsin(2nx)/n=π/2-x
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
の交代級数は
  Σ(-1)^(n-1)sin(2nx)/n=x
  Σ(-1)^(n-1)cos(2nx)/n^2=π^2/12-x^2
  Σ(-1)^(n-1)sin(2nx)/n^3=x/6(π^2-4x^2)
  Σ(-1)^(n-1)cos(2nx)/n^4=1/48{7π^4/15-8π^2x^2+16x^4)
 
 オイラー系列
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)^3=πx(π-x)/8
でも交代級数が考えられるところであって,
  Σ(-1)^(n-1)sin((2n-1)x)/(2n-1)=1/2log(tanx+secx)
を挙げておきたい.
 
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