■奇数ゼータと杉岡の公式(その12)

 これまでにわかっていることをもう一度まとめておこう.x=π/2を代入したときは偶数ゼータと奇数Lの値が,x=π/4では偶数L1と奇数L2の値が明示的に求められ,それらは偶数ゼータの有限和で表されることがわかっている.
  (1)奇数ゼータ,偶数L,奇数L1,偶数L2は偶数ゼータの無限和として表される
  (2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される
 
 それではx=π/3やx=π/6を代入したらどうなるのだろうか? x=π/3について,これまでのところわかっていることは1次のベルヌーイ多項式
  Σsin(2nx)/n=π/2-x
にx=π/3を代入すると,
  1/1−1/2+1/4−1/5+1/7−1/8+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=π/3√3
 
 同様に,3次のベルヌーイ多項式
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
にx=π/3を代入すると,
  1/1^3−1/2^3+1/4^3−1/5^3+1/7^3−1/8^3+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=4π^3/81√3
が得られるということだけである.→(その9)
 
 ベルヌーイ多項式やオイラー多項式は有限次のベキ和であるから,x=π/3のような具体的な値を代入すると明示的に値が求められる.
 
 それに対して,杉岡幹生氏はベルヌーイ多項式やオイラー多項式ではなく,このシリーズの中心に位置する式,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
を微分して得られる
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
を微分して得られる
  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
にそれぞれx=π/3,x=π/6の代入を試みた.
 
 x=π/2やx=π/4の代入によって,前者からは奇数ゼータが生み出され,また,後者は偶数L関数を生成する.それではx=π/3,x=π/6を代入した結果はどうなったのだろうか? 今回のコラムでは杉岡氏の行った結果について紹介したい.
 
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【1】杉岡氏の結果
 
  ζ(s)=1/1^s+1/2^2+1/3^s+1/4^s+・・・
  L(s)=1/1^s-1/3^s+1/5^s-1/7^s+・・・
  L1(s)=1/1^s-1/3^s-1/5^s+1/7^s+・・・
  L2(s)=1/1^s+1/3^s-1/5^s-1/7^s+・・・
と定義すると,x=π/2やx=π/4の代入によって,以下の表が得られる.
 
           x=π/2          x=π/4
 Σcos(2nx)/n^s  -(1-2^(1-s))ζ(s)   -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s    0           L(s)
 
               x=π/2       x=π/4
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    0        L1(s)/√2
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    L(s)       L2(s)/√2
 
 まず最初にこれと同じ表を作ることから始めたい.
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
の積分系列にx=π/3,x=π/6を代入してみる.検算が簡単になるようにできるだけ一般的な形で与えておくが,
 
           x=π/3          x=π/6
 Σcos(2nx)/n^s   -1/2(1-3^(1-s))ζ(s)   1/2(1-2^(1-s))(1-3^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s   √(3)/2L3(s)       √(3)/2(1+2^(1-s))L3(s)
が得られる.
 
 ここで,関数L3(s)を
  L3(s)=1/1^s−1/2^s+1/4^s−1/5^s+1/7^s−1/8^s+・・・
と定義している.
 
 細かい説明をはしょっているのでわかりにくいと思われるが,x=π/3を代入するとζ(2n+1)とL3(2n)が会する式となる.杉岡氏のHPにはこの結果が丹念に記載されているので参照されたい.ともあれ,ここでわかることはζ(2n+1)が偶数ゼータの無限和として表されることから,結局,L3(2n)も偶数ゼータの無限和として表されるということである.
 
 また,冒頭にも掲げたが,L3(2n+1)は奇数次のベルヌーイ多項式にx=π/3を代入することによって明示的に求められ,それらは偶数ゼータの有限和で表されることも想像されるであろう.
  L3(1)=π/3√3,L3(3)=4π^3/81√3
 
 参考のため,記しておくが
  Σsin(2nx)/n=π/2-x
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
はそれぞれ1〜5次のベルヌーイ多項式になっている.
 
 x=π/6の代入でも,ζ(2n+1)とL3(2n)が出現するのでほぼ同じ結果となる.
 
 なお,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
にx=π/3,x=π/6を代入すると
  1/1+1/2−2/3+1/4+1/5−2/6+・・・=log3
  1/1−1/2−2/3−1/4+1/5+2/6+・・・=0
L3(1)の+/−の順序を入れ替えた式
  1/1−1/2−1/4+1/5+1/7−1/8−1/10+1/11・・・=2/3log2
  1/1−1/2+1/3−1/4+1/5−1/6+1/7−1/8+・・・=log2
より簡単に求められる.
 
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 次に
  cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
の積分系列にx=π/3,x=π/6を代入を試みる.すると
 
               x=π/3               x=π/6
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s   1/2(1-2^(-s))(1-3^(1-s))ζ(s)   √(3)/2L4(s)
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s   √(3)/2(1+2^(-s))L3(s)       1/2(1+3^(1-s))L(s)
 
 ここで,
  L4(s)=1/1^s−1/5^s−1/7^s+1/11^s+1/15^s−1/19^s+・・・
と定義した.
 
 x=π/3を代入するとζ(2n+1)とL3(2n)が現れる点は,
  cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
の積分系列の場合と同じであるが,x=π/6の代入ではL(2n)に加えて,ここで新たに定義した式L4(2n+1)が出現する.このことからL4(2n+1)も偶数ゼータの無限和として表されることが理解されるであろう.
 
 なお,オイラー多項式は
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)^3=πx(π-x)/8(2次式)
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^4=π/96(π^2-6πx^2+4x^3)(3次式)
であり,たとえば,
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
にx=π/3を代入すると
  1/1−1/5+1/7−1/11+1/13−1/17+1/19−1/23+・・・=π/2√3
が求められる.
 
 また,上に掲げた表より,
  1/1^s−1/5^s+1/7^s−1/11^s+1/13^s−1/17^s+1/19^s+1/23^s+・・・=(1+3^(-s))L3(s)
  1/1+1/5−1/7−1/11+1/13+1/17−1/19−1/23+・・・=π/3
  1/1^s+1/5^s−1/7^s−1/11^s+1/13^s+1/17^s−1/19^s−1/23^s+・・・=(1+3^(-s))L(s)
となることもわかる.
 
 しかし,オイラーの多項式からは直接
  L4(1)=1/1−1/5−1/7+1/11+1/13−1/17−1/19+1/23+・・・
を求めることはできそうにない.そこで
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
にx=π/6を代入すると,
  L4(1)=1/1−1/5−1/7+1/11+1/13−1/17−1/19+1/23+・・・=1/√3log(2+√3)
が得られるのである.
 
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【2】まとめ
 
 L3関数は2次体Q(√−3)
  p=1(mod3) →  1
  p=2(mod3) → −1
にともなうものであり,また,L4関数は2次体Q(√3)
  p=1または11(mod12)→  1
  p=5または7(mod12) → −1
に対応するものである.
 
 最後に,これまで出てきたディリクレのL関数と2次体の関係についてまとめておこう.
  L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−1)
  L1(s)=1/1^s−1/3^s−1/5^s+1/7^s+・・・→Q(√2)
  L2(s)=1/1^s+1/3^s−1/5^s−1/7^s+・・・→Q(√−2)
  L3(s)=1/1^s−1/2^s+1/4^s−1/5^s+1/7^s−1/8^s+・・・→Q(√−3)
  L4(s)=1/1^s−1/5^s−1/7^s+1/11^s+1/15^s−1/19^s+・・・→Q(√3)
 
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【3】付記
 
 杉岡氏のHPには驚かされる式が満載されていて,たとえば,オイラーが1772年に発見した
  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
に対応する
  L(2)=2πlog2+∫(0,π/2)log(cos(x/2))dx
などはその1例である.
 
 今回のコラムでは説明を省略したところも多いので,杉岡氏の意図するところをきちんと伝えることができたかどうか自信がない.詳細は杉岡氏のHPを参照してほしい.
 
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