■奇数ゼータと杉岡の公式(その11)

■奇数ゼータと杉岡の公式(その11)
 
 特別な素数である2を除外して,素数は4で割ると余りが1になるもの(5,13,17,29,37,41,・・・)と3になるもの(3,7,11,19,23,31,・・・)の2種類に分けられます.このうち,4n+1の形の素数は2つの整数の平方の和として表されます.たとえば,
  5=1^2+2^2,
  13=2^2+3^2,
  17=1^2+4^2,
  29=2^2+5^2,
  ・・・・・・・・・
 
 このように,4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在します.
  (a^2+b^2)(c^2+d^2)=x^2+y^2
  x=ac−bd,y=ad+bc
しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.
 
 この定理はフェルマーの定理と呼ばれ,フェルマーは無限降下法でこれを証明しましたが,その証明は不十分で,100年後のオイラーによって完全な証明がなされています(フェルマー・オイラーの定理).
 
 2平方和定理は「4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在する」でしたが,フェルマーはまた,
  「pが8で割ると1または3余る素数ならば,p=x^2+2y^2」
  「pが8で割ると1または7余る素数ならば,p=x^2−2y^2」
  「pが3で割ると1余る素数ならば,p=x^2+3y^2」
となる自然数x,yが存在することを発見しました.p=x^2+y^2,p=x^2+2y^2,p=x^2−2y^2,p=x^2+3y^2,・・・などの発見は,類体論の序曲をなすものといえるのです.
 
  x^2+y^2=(x+yi)(x−yi)
  x^2+2y^2=(x+y√−2)(x−y√−2)
  x^2−2y^2=(x+y√2)(x−y√2)
  x^2+3y^2=(x+y√−3)(x−y√−3)
ですから,それぞれ2次体
  Q(i),Q(√−2),Q(√2),Q(√−3)
と関係していることは容易に想像されます.
 
 そこで,今回のコラムではゼータ関数と2次体(のイデアル類群)の関係について,簡単に紹介したいと思います.このことは杉岡氏のHPでも紹介されているのですが,ゼータ関数(解析的)と2次体(代数的)の間には何の関係もなさそうに見えて,その実,根底において繋がっていることがとても不思議に感じられます.
 
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【1】平方剰余の相互法則
 
  (a/p)=+1 ←→ aがpを法とする平方剰余
           (x^2=a modpなる整数xが存在するとき)
  (a/p)=−1 ←→ 平方非剰余(そうでないとき)
と定義します.
 
 たとえば,整数aに対して,
  x^2=a  modp
となる整数xが存在するかどうかを考えると
  Z/pZ=Fp={0,1,・・・,p−1}
について代入してみればいいわけで,p=5の場合,
  0^2=0,1^2=1,2^2=4,3^2=9=4,4^2=16=1
ですから,a=1,4(mod5)のときは平方剰余,a=2,3(mod5)のときは平方非剰余,すなわち,
  (1/5)=(4/5)=1,(2/5)=(3/5)=−1
となります.
 
  (a/p)=a^{(p-1)/2}  (mod p)     (オイラー規準)
  (−1/p)=(−1)^{(p-1)/2},p≠2  (第1補充法則)
  (2/p)=(−1)^{(p^2-1)/8},p≠2  (第2補充法則)
すなわち,オイラー規準において,(−1/p)に関するものが第1補充法則,(2/p)に関するものが第2補充法則と呼ばれます.
 
 後述するクロネッカーの指標やディリクレの指標はルジャンドル記号の計算に還元されるのですが,オイラー規準は法pに関するa^{(p-1)/2}の剰余を求めなければならないため,pが大きいとき(a/p)を決定するのはかなり大変です.
 
 それに対して,
  (q/p)(p/q)=(−1)^{(p-1)/2}{(q-1)/2}
が有名なガウスの平方剰余の相互法則です.
 
 前述のように(p/5)は簡単に計算されますが,その際,(5/p)すなわちx^2=5(modp)なる整数xがあるかどうかについてもわかるというのが平方剰余の相互法則なのです.(a/p)はガウスの相互法則を用いてすばやく計算することができます.
 
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【2】2次体
 
 有理数体Qに,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体Q(√d)を考えます.すると0,1以外の平方因数をもたない整数d,すなわち,
  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・
によって,Q(√d)は体になり,2次体Q(√d)の元は一意的に
  Q(√d)={a+b√d|a,bは有理数}
の形で表されます.とくに,d=−1のとき
  Q(√−1)=Q(i)
はガウスの数体となります.
 
 そして,2次体Q(√d)の判別式Dは
  d=2,3(mod4) → D=4d
  d=1(mod4)   → D=d
となるのですが,素数pがいつ素イデアルに分岐しまた完全分解するかを調べると,有理素数は次のように分解することがわかります.
 
[1]d=2,3(mod4),D=4d
 (1)p|D → p=p^2,N(p)=p
 (2)(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
 (3)(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
 
[2]d=1(mod4),D=d
 (1)p|D → p=p^2,N(p)=p
 (2)p≠2,(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
 (3)p≠2,(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
 (4)p=2,d=1(mod8) → 2=pp',N(p)=p
 (5)p=2,d=5(mod8) → 2=p,N(p)=2^2
 
 ここで,(d/p)はルジャンドルの記号で,
  (d/p)=+1
はdがpを法とする平方剰余であることを示しています.すなわち,x^2=d(modp)の解の有無によって,解のあるときdをpの平方剰余,ないとき平方非剰余といい,
  (d/p)=−1
と表されます.
 
 この結果から2次体Q(√d)でpが分岐するための必要十分条件は
  p|D
であることがわかります.割れなければpはQ(√d)で不分岐です.
 
 一般に,代数体の判別式Dは基底の選び方には依存しない整数であり,代数体の大切な不変量の1つとなっているのですが,重根をもつ・もたないの判別ではなく,素数の分解・分岐など素イデアルの分解法則と密接に関係しているのです.
 
 2次体Q(√d)には,各素数pに対して(0,1,−1)を値にもつクロネッカーの指標χ(p)があり,
  χ(p)=0   (分岐)
      =+1  (完全分解)
      =−1  (pは2次体でも素)
と定義されます.
 
 具体的には,Dを判別式として
  p|D → χ(p)=0
  p≠2 → χ(p)=(D/p)
  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 
のように計算されるのですが,
  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 
はd=1(mod4)のときのみに起って,右辺は第2補充法則によっています.
 
 たとえば,Q(√−1)=Q(i)の世界では,
  χ(5)=(−1/5)=1  (第1補充法則)
より,素数5は2つの相異なる素イデアルの積となり
  5=(2+i)(2−i)
と分解されるというわけです.
 
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【3】類数の計算
 
 Q(√d)はイデアルの同値類を有限個しかもちません.このイデアル類の数は類数と呼ばれ,h(d)で表されます.類数とはすべての数体に付随した不変量(自然数)なのですが,ミンコフスキーの定数M
  M=1/2√D   (実2次体)
  M=2/π√-D  (虚2次体)
を具体的に決定して,いくつかの場合に類数を決定することができます.たとえば,
 
[Q]次の4つの実2次体K=Q(√2),Q(√3),Q(√5),Q(√13)に対して,h=1を証明せよ.
 
[A] M=1/2√D
ですから,4≦D<16ならばh=1になります.ここで,
  d=2,3(mod4) → D=4d
  d=1(mod4)   → D=d
ですから,d=2,3,5,13が合格です.
 
[Q]次の9つの虚2次体Q(√d)に対して,h=1を証明せよ.
  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
 
[A] M=2/π√-D=0.63663√-D
です.−d=1,2,3,7のときは,
  D=4,8,3,7
で,M<2となり,h=1となります.
 
 その他の場合はd=1(mod4)でD=dとなるのですが,M=2で−d=11,19のときは
  −11=5,−19=5  (mod8)
より2は2次体でも素ですから,h=1となります.なお,それぞれ
  χ(2)=(−1)^15=−1,χ(2)=(−1)^45=−1
と同値です.χはクロネッカーの指標です.
 
 M=4では
  −43=5(mod8)  (χ(2)=(−1)^231と同値)
  (−43/3)=(−1/3)=−1
より,Q(√−43)は類数1をもちます.
 
 同様の計算から,M=5のとき,類数1をもつ判別式はD=−67
  χ(2)=−1,
  χ(3)=(−67/3)=(−1/3)=−1,
  χ(5)=(−67/5)=(−2/5)=(−1/5)(2/5)=−1
 
 M=8のとき,類数1をもつ判別式はD=−163
  χ(2)=−1,
  χ(3)=(−163/3)=(−1/3)=−1,
  χ(5)=(−163/5)=(−3/5)=(2/5)=−1
  χ(7)=(−163/7)=(−2/7)=(−1/7)(2/7)=−1
 
 以下,同様の論法で続けてもよいのですが,類数が1となる判別式は他には存在しません.h=1なる虚2次体Q(√d)はこれしかないというのが,有名な「シュタルクの定理」です.1966年,ベイカーとシュタルクは独立に類数1の虚2次体Q(√d)すなわち(d<0,dは平方因子をもたない)なる2次体をすべて決定したのですが,それによると,
  −d=1,2,5,7,11,19,43,67,163
 
 類数1をもつというのは,Q(√d)のすべてのイデアルが単項であること,すなわち,2次体Kのすべての代数的整数が,Kの素数の積として表され,その表現が単数(1の約数となる整数)を無視して,一意であることをいいます.
 
 別の言葉でいうと,イデアルと数のずれがないということですが,類数とはすべての数体に付随した不変量(自然数)であって,たとえば,有理数体Qは類数1をもち,ガウスの数体Q(i)も類数1をもちます.類数1をもつ数体はQと類似した数論的性質をもつのですが,大きな類数をもつ数体はQとかなりかけ離れた性質をもっているというわけです.
 
 ついでながら,h=2なる虚2次体Q(√d)は,
  −d=5,6,10,13,15,22,35,37,51,58,91,115,123,187,235,267,403,427
の18個あります.
 
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【4】ディリクレのL関数
 
  L(s,χ)=Σχ(n)/n^s
はディリクレのL関数,χ(n)はディリクレの指標と呼ばれます.
 
 ディリクレのL関数はリーマンのゼータ関数を一般化したものになっていて,たとえば,数列{χ(n)}を{χ(n)}={1,1,1,1,・・・}とすると,
  1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6
  1/1^4+1/2^4+1/3^4+1/4^4+・・・=π^4/90
は,それぞれL(2,χ)=π^2/6,L(4,χ)=π^4/90という公式です.
 
 また,{χ(n)}={1,−1,1,−1,・・・}では,L(1,χ)=log2,すなわち,
  1/1−1/2+1/3−1/4+・・・=log2
 
 χ(0 mod 4)=0,χ(1 mod 4)=1,χ(2 mod 4)=0,χ(3 mod 4)=-1についてのディリクレのL関数
  1/1−1/3+1/5−1/7+1/9−・・・=π/4
  1/1^3−1/3^3+1/5^3−1/7^3+・・・=π^3/32
はL(1,χ)=π/4,L(3,χ)=π^3/32
 
 ちょっと複雑なものとしては
  1/1−1/2+1/4−1/5+1/7−1/8+(正負は3ごとに繰り返す)・・・=π/3√3
はmod3で,χ(0 mod 3)=0,χ(1 mod 3)=1,χ(2 mod 3)=-1についてのディリクレのL関数.
 
  1/1−1/3−1/5+1/7+1/9−1/11−1/13+1/15+(正負は8ごとに繰り返す)・・・=1/√2log(1+√2)
はmod8について,χ(0 mod 8)=0,χ(1 mod 8)=1,χ(2 mod 8)=0,χ(3 mod 8)=-1,χ(4 mod 8)=0,χ(5 mod 8)=1,χ(6 mod 8)=0,χ(7 mod 8)=-1のディリクレのL関数と総称される一群の関数の値についての公式なのです.
 
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 ディリクレのL関数L(s,χ)はs>1で収束します.また,
  L(s,χ)=Σχ(n)/n^s=Π(1−χ(p)p^(-s))^(-1)
という積表示をもちます.pはmodmのmを割り切らないすべての素数をわたります.この積表示はオイラー積の一般化となっています.
 
 ディリクレのL関数は1次のゼータの例ですが,最初のゼータであるオイラー積と2次のゼータの始まりであるラマヌジャン予想についても述べておきましょう.
 
 リーマンのゼータ関数は,もうひとつの重要な表示をもっています.
  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
 右辺Π(1−p^(-s))^(-1)をオイラー積表示といい,オイラーが1737年に発見したものです.
  Π(1−p^(-s))^(-1)=Π(1+p^(-s)+p^(-2s)+・・・)
ですが,素因数分解の一意性より
  Π(1−p^(-s))^(-1)=Σn^(-s)
となることが証明されます.
 
 20世紀にになって,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました(1916年).ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,
  L(s)=Στ(n)n^(-s)
とおくと
  L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)
が成り立つことを予想したのです.
 
 それまでは,
  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
のように,積の中身がp^(-s)の1次式であり,本質的には1次のゼータでしたが,オイラー積と比較してみるとわかるように,p^(-1)の1次式から2次式に進化しており,歴史上最初の2次のゼータといえるのです.
 
 新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).
 
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【5】2次体とディリクレ指標
 
 ところで,
  χ(0 mod 8)=0,χ(1 mod 8)=1,χ(2 mod 8)=0,χ(3 mod 8)=-1,
  χ(4 mod 8)=0,χ(5 mod 8)=1,χ(6 mod 8)=0,χ(7 mod 8)=-1
の右辺(0,1,−1)と左辺のmod8は何を意味しているのでしょうか?
 
 (0,1,−1)がディリクレ指標なのですが,ディリクレ指標も素数pを与えれば確定する指標で,ルジャンドル記号の計算に還元されます.たとえば,χ(p)=(3/p)の場合,ガウスの平方剰余の相互法則において,q=3とおくと
  (3/p)(p/3)=(−1)^{(p-1)/2}
 
 (p/3)は簡単に計算できて
  p=+1(mod3)のとき1,
  p=−1(mod3)のとき−1
一方,(−1)^{(p-1)/2}は
  p=+1(mod4)のとき1,
  p=−1(mod4)のとき−1
ですから,まとめると
  p=1または11(mod12)→  1
  p=5または7(mod12) → −1
  それ以外のとき        →  0
となることが理解されます.
 
 すなわち,2次体Q(√3)に対応するディリクレ指標が
  p=1または11(mod12)→  1
  p=5または7(mod12) → −1
  それ以外のとき        →  0
であり,また,対応するディリクレのL関数が
  L(s,χ)=1/1^s−1/5^s−1/7^s+1/11^s+・・・
であるというわけです.
 
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 以下,結果だけを紹介します.
 
[1]Q(√−1)
  (−1/p)=(−1)^{(p-1)/2},p≠2  (第1補充法則)
ですから,
   p=1(mod4) →  1
   p=3(mod4) → −1
   それ以外のとき   →  0
  L(s,χ)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・
 
[2]Q(√2)
  (2/p)=(−1)^{(p^2-1)/8},p≠2  (第2補充法則)
   p=1,7(mod8) →  1
   p=3,5(mod8) → −1
   それ以外のとき     →  0
  L(s,χ)=1/1^s−1/3^s−1/5^s+1/7^s+・・・
 
[3]Q(√−2)
  (−2/p)=(2/p)(−1/p)=(2/p)(−1)^{(p-1)/2}
   p=1,3(mod8) →  1
   p=5,7(mod8) → −1
   それ以外のとき     →  0
  L(s,χ)=1/1^s+1/3^s−1/5^s−1/7^s+・・・
 
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【6】まとめ
 
 最後に要点をまとめておきましょう.2次体とディリクレ指標が対応するとき,ディリクレ指標は2次体における素数の分解を記述するものになります.
 
 たとえば,Q(√2)においては,p=1,7(mod8)なる素数が
  7=(3+√2)(3+√2)
  17=(5+2√2)(5−2√2)
  p=x^2−2y^2
 
 Q(√−2)においては,p=1,3(mod8)なる素数が
  3=(1+√−2)(1−√−2)
  11=(3+√−2)(3−√−2)
  p=x^2+2y^2
のように分解されます.
 
 こうして冒頭に掲げた類体論の話に至るのです.
  「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
  「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
  「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
 
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