■奇数ゼータと杉岡の公式(その10)
これまでの検討から,このシリーズの中心に位置する式が,
Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
を微分して得られる
cotx=cosx/sinx=2Σsin2x=2(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
と
Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
を微分して得られる
cosecx=1/sinx=2Σsin(2n-1)x=2(sinx+sin3x+sin5x+・・・)
であることがわかっている.
前者からは奇数ゼータが生み出され,また,後者は偶数L関数を生成する.2つの式より
cosx(sinx+sin3x+sin5x+・・・)=(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
となることも容易に導き出せる.左辺右辺とも三角関数の無限級数の形式となっている.
仕事の都合からしばらくの間連載を休んでいる間に,杉岡幹生氏の進展との間に大きなギャップを生じてしまったが,これから少しずつ杉岡氏の成果を紹介したいし,溝も埋めていきたい.今回のコラムではゼータ関数からは少し離れることになるが,三角関数の無限級数ではなく三角関数の有限和について触れてみたい.隙間を埋めるためには適当(無難?)な話題であろう.
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【1】正弦・余弦の和公式
等差級数
S=1+2+3+・・・+n
の値を求めるのに,逆順にして
S=n+(n−1)+(n−2)+・・・+1
辺同士を加えると
2S=(n+1)+(n+1)+(n+1)+・・・+(n+1)
より,
S=n(n+1)/2
これが等差級数の和公式で,これを使うと,たとえば1から100まで数の合計が5050であることが瞬時に計算できることはご存知であろう.
この取り扱いと似た方法で,正弦の和公式
sinα+sin2α+sin3α+・・・+sinnα
=sin(nα/2)sin{(n+1)α/2}/sin(α/2)
を証明してみよう.
(証明)
T=sinα+sin2α+sin3α+・・・+sin(nα)
T=sin(nα)+sin(n−1)α+sin(n−2)α+・・・+sinα
ここで,和から積への式
sinα+sinβ=2sin(α+β)/2cos(α−β)/2
を用いると
2T=2sin(n+1)α/2{cos(1−n)α/2+cos(3−n)α/2+・・・+cos(n−3)α/2+cos(n−1)α/2}
両辺にsinα/2を掛けて,積から和への公式
sinαcosβ=1/2{sin(α+β)+sin(α−β)}
を用いると
2Tsinα/2
=sin(n+1)α/2{sinnα/2+sin(1−n/2)α+・・・+sin(−1+n/2)α+sinnα/2}
=2sin{(n+1)α/2}sin(nα/2)
もちろんこの方法で,無限級数の公式
cosx(sinx+sin3x+sin5x+・・・)=(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
も証明できる.
なお,この式と
S=n(n+1)/2
の間の形式的類似,
n ←→ sin(nα/2)
(n+1)←→ sin{(n+1)α/2}
2 ←→ sin(α/2)
すなわち,sinを関数ではなく代数であるかのように扱うと
sinα+sin2α+sin3α+・・・+sin(nα)
=sin(nα/2)sin{(n+1)α/2}/sin(α/2)
が得られることに注意せよ.
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同様に,余弦の和公式
cosα+cos2α+cos3α+・・・+cos(nα)
=sin(nα/2)cos{(n+1)α/2}/sin(α/2)
も証明できる.
これらの式において,α=π/nとおくと
Σsinkπ/n
=sinπ/n+sin2π/n+・・・+sinnπ/n
=cotπ/2n
Σcoskπ/n
=cosπ/n+cos2π/n+・・・+cosnπ/n
=−1
さらに,
sinα+sin3α+sin5α+・・・+sin(2n−1)α
=sin^2nα/sinα
sin2α+sin4α+sin6α+・・・+sin2nα
=sinnαsin(n+1)α/sinα
sinnαcosα=1/2{sin(n+1)α+sin(n−1)α}
であるから,冒頭に掲げた式
cosx(sinx+sin3x+sin5x+・・・)=(sin2x+sin4x+sin6x+・・・)
の有限版は
cosx(sinx+sin3x+sin5x+・・・+sin(2n-1)x)
=1/2・sinnxsin(n+1)x/sinx+1/2・sin(n-1)xsinnx/sinx
=1/2・(sin2x+sin4x+sin6x+・・・+sin2nx)+1/2・(sin2x+sin4x+sin6x+・・・+sin2(n-1)x)
=(sin2x+sin4x+sin6x+・・・+sin2(n-1)x)+1/2・sin2nx
となることがわかる.
cosα+cos3α+cos5α+・・・+cos(2n−1)α=sin2nα/2sinα
α=π/(2n+1)とおくと,
Σcos(2k−1)π/(2n+1)
=cosπ/(2n+1)+cos3π/(2n+1)+・・・+cos(2n−1)π/(2n+1)
=1/2
cos2α+cos4α+cos6α+・・・+cos2nα
=sinnαcos(n+1)α/sinα
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【2】正弦・余弦の積公式
正弦・余弦の和公式はフーリエ級数との関連で研究された歴史がある.一方,和公式ほどよく知られていないが,正弦・余弦の積公式としていろいろな公式が登場してくる.ここでは証明は省いたが,複素数を使って証明するのが一番の近道であろう.
Πsinkπ/n=sinπ/n・・・sin(n−1)π/n
=n/2^(n-1)
Πsin(θ+kπ/n)
=sin(θ+π/n)・・・sin(θ+(n−1)π/n)
=sinnθ/2^(n-1)sinθ
ここで,θ→θ−π/2nと置き換えれば
Πsin(θ+(2k−1)π/n)=cosnθ/2^(n-1)
θ=0とおけば
Πsin((2k−1)π/n)=1/2^(n-1)
また,θ=π/2とおけば
Πcoskπ/n=sin(nπ/2)/2^(n-1)
などを導き出すことができる.
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【3】漸近挙動の世界(無限的公式)
微積の学び初めに,x→0としたとき,
sinx/x→1
に出会う.この結果は
(sinx)’=cosx,(cosx)’=−sinx
を示すのに用いられる.
その後,sinxのテイラー展開によって,無限級数
sinx=x−x^3/3!+x^5/5!−x^7/7!+・・・
sinx/x=1−x^2/3!+x^4/5!−x^6/7!+・・・
が示される.
それでは,任意のxに対して,無限積公式
sinx/x=cosx/2・cosx/4・cosx/8・・・
も示しておこう.
(証明)
sinx=2sinx/2・cosx/2
=4sinx/4・cosx/4・cosx/2
=8sinx/8・cosx/8・cosx/4・cosx/2
・・・・・
=2^nsinx/2^ncosx/2^n・・・cosx/2
書き直すと
sinx=x[sin(x/2^n)/(x/2^n)]cosx/2・・・cosx/2^n
ここで,n→∞のとき,
sin(x/2^n)/(x/2^n)→1
であるから,sinxの無限積表示
sinx=xΠcosx/2^n
=x(1−x^2/π^2)(1−x^2/4π^2)(1−x^2/9π^2)・・・
が得られる.この結果は,sinxがx=0,±π,±2π,±3π,・・・のとき,0になることに一致している.
[補]正弦積分とは,
Si(x)=∫(0,t)sint/tdt
=x−x^3/3・3!+x^5/5・5!−・・・
として定義される特殊関数(初等関数によって表し得ない関数)である.また,その特殊値
Si(∞)=∫(0,∞)sint/tdt=π/2
は,ディリクレ積分と呼ばれる.
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前項では,cosxの無限積表示
cosx=(1−4x^2/π^2)(1−4x^2/9π^2)(1−4x^2/25π^2)・・・
を用いているが,tanxに対しては,部分分数の無限級数表示
tanx=8x[1/(π^2−4x^2)+1/(9π^2−4x^2)+1/(25π^2−4x^2)+・・・]
が成り立つ.
x=π/4とすると,
1=4/π(1−1/3+1/5−1/7+・・・)
であるから,グレゴリー・ライプニッツ級数
π/4=1−1/3+1/5−1/7+・・・
が導かれる.
グレゴリー・ライプニッツ級数はπを含んでいる無限級数として最初のものなのだが,オリジナルは
arctanx=x−x^3/3+x^5/5−x^7/7+・・・
から発見されたものである.
また,x→0としたときのtanx/xの漸近挙動から,
π^2/8=1/1^2+1/3^2+1/5^2+・・・
さらに,
S=1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・
=1/1^2+1/3^2+1/5^2+・・・+1/2^2+1/4^2+1/6^2
=1/1^2+1/3^2+1/5^2+・・・+1/4[1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・]
=π^2/8+S/4
したがって,
S=1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・=π^2/6
となるが,これはオイラーにより発見された有名な級数である.
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【4】無限級数とフーリエ展開
テイラー展開(ベキ級数展開)は連続な関数にしか適用できないが,フーリエ展開(三角級数展開)はたとえ不連続な関数でも存在するため,19世紀の解析学に大きな貢献をしるした.
−π<x<πの周期関数と見なされる不連続関数f(x)=xのフーリエ展開は
f(x)=2[sinx/1−sin2x/2+sin3x/3−・・・]
x=π/2とおくと,
π/4=1−1/3+1/5−1/7+−・・・(グレゴリー・ライプニッツ級数)
また,x=π/4とおくと
π√2/4=1+1/3−1/5−1/7++・・・
この式で,符号は2項毎に交代する.これらはこのシリーズでは
L(1)=π/4,L2(1)=π/2√2
と表されているディリクレ関数の特殊値である.
同様に,−π<x<πの周期関数と見なすと,f(x)=x^2のフーリエ展開は
f(x)=π^2/3−4[cosx/1^2−cos2x/2^2+cos3x/3^2−・・・]
x=πとおくと,
π^2/6=1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・(オイラー級数)
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【5】虚の三角法
オイラーの公式(1748年)
exp(iθ)=cosθ+isinθ
ド・モアブルの定理(1722年)
(cosθ+isinθ)^n=cosnθ+isinnθ
などは虚(あるいは複素数)の三角法の公式と捉えることができるであろう.
オイラーの公式より
cosθ=1/2{exp(iθ)+exp(−iθ)}
sinθ=1/2i{exp(iθ)−exp(−iθ)}
cos(iθ)=coshθ
sin(iθ)=isinhθ
が成り立ち,複素数の世界では,z=x+iyとしたとき,
sinz=sinxcoshy+icosxsinhy
cosz=cosxcoshy−isinxsinhy
expz=exp(x)cosy+iexp(x)siny
などのように書くことができる.
sinz,coszが周期2πをもつこと
sin(z+2π)=sinz
は複素数の世界でも同じであるが,一方,expzは虚の周期2πiをもつ.
exp(z+2πi)=expz
平面正弦定理では,
sinα:sinβ:sinγ=a/R:b/R:c/R
であるが,球面正弦定理は
sinα:sinβ:sinγ=sin(a/R):sin(b/R):sin(c/R)
で表される.
それに対して,双曲的三角法では,
sin(iθ)=isinhθ
であるから,球面正弦定理のRをiRに置き換えることによって,
sinα:sinβ:sinγ=sinh(a/R):sinh(b/R):sinh(c/R)
が得られる.
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