■シンク関数の数学的諸性質
シンク関数(あるいはカージナルサインとも呼ばれる)とは,
sinc(x)=sin(x)/(x)
で定義される関数です.x=0のときは,
sinc(0)=1
と定めることにします.
シンク関数は1本スリットがつくる1次元的回折光の干渉縞の強度分布を表す関数として,物理学の応用上重要であり,その場合,
sinc(x)=sin(πx)/(πx)
と定義すると
sinc(0)=1,
sinc(n)=0,
∫(-∞,∞)sinc(x)dx=1,
∫(-∞,∞)sinc^2(x)dx=1,
∫(0,∞)sinc(x)dx=1/2
が成り立ちます.
今回のコラムでは,シンク関数の数学的諸性質,とくに(超)立方体の断面積との関係について取り上げて紹介していきたいと考えています.
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【1】シンク関数とゼータ関数
シンク関数は
sinx/x=Σ(-1)^mx^2m/(2m+1)!
=1−1/3!x^2 +1/5!x^4 −・・・
=1−1/6x^2+1/120x^4−・・・
とベキ級数表示することが可能です.
このことに関連して,高校の微積分の時間に,x→0としたとき,
sin(x)/(x)→1 すなわち sin(x)→x
となることを教わったことを憶えておられる方も多いと思われますが,これがx=0のとき,
sinc(0)=1
と定義する根拠になっています.
さらに,シンク関数
sinx/x=0
の解が±π,±2π,±3π,±4π,・・・となることを利用して,無限積表示すると
sinx/x=(1-x^2/π^2)(1-x^2/4π^2)(1-x^2/9π^2)(1-x^2/16π^2)・・・
=Π(1-x^2/k^2π^2)→[補]
ここで,
sinx/x=1-1/6x2+120x4-・・・ (ベキ級数表示)
と
sinx/x=Π(1-x^2/k^2π^2) (無限積表示)
=1-1/π^2(Σ1/k^2)x^2+・・・
の両辺を比較することにより,
Σ1/k^2=π^2/6,Σ1/k^4=π^4/90,・・・
が計算されます.
Σ1/k^2はリーマンのゼータ関数ζ(2)に,Σ1/k^4はゼータ関数ζ(4)に相当します.すなわち,
ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,
以下,
ζ(6)=π^6/945,ζ(8)=π^8/9450,・・・
と続きます.そして,解析接続の後,
ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-3)=1/120,ζ(-5)=-1/252,・・・
が得られます.
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【2】シンク関数とルベーグ積分
ある関数がほとんど至るところで連続であれば,狭義のリーマン積分は存在します.この「ほとんど至るところ」という概念は,確率論や超関数の理論などで重要です.
そして,狭い意味でのリーマン積分なら,
命題:リーマン積分可→ルベーグ積分可
はYesとなります.すなわち,有界な閉区間ではリーマン積分可能な関数はルベーグ積分可能であり,リーマン積分が存在する場合はルベーグ積分とリーマン積分の値は一致するのです.この意味で,ルベーグ積分はリーマン積分の拡張となっています.
しかし,広義積分の場合は事情が異なってきます.広義のリーマン積分を除外したわけは,広義積分に関しては,リーマン積分可能であり,ルベーグ積分不可能な例があるからなのですが,シンク関数はその例外的なケースにあたります.
(定義)ここで,ルベーグ積分可能な関数f(x)とは,関数|f(x)|がルベーグ積分可能なことである.
しかるに,
f(x)=sin(x)/x
のときの広義積分∫(0,∞)f(x)dxに関して,
∫(0,∞)|f(x)|dx 〜 1+1/2+1/3+・・・→∞
∫(0,∞)f(x)dx=π/2
このように,リーマン積分可能であり,ルベーグ積分不能な関数は存在するのです.ただし,その関数の絶対値の積分は,リーマン,ルベーグともに積分不能です.
リーマン積分可能だがルベーグ積分が可能でないのは,例外的なケースであって,このような関数はたくさん構成できると思われますが,重箱の隅をつつくような例に過ぎないと考えられます.
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【3】シンク積分
シンク積分(あるいはディリクレ積分)→[補]
∫(0,∞)sincxdx=∫(0,∞)sinx/xdx=π/2
はよく知られていて,複素積分などを用いて求めることができる.
また,決して有名ではないが,
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)dx=π/2
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)sinc(x/5)dx=π/2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)sinc(x/5)・・・sinc(x/13)dx=π/2
も成り立ち,これらは一般に
∫(0,∞)Πsinc(kx)dx=π/2
と書くことができる.
Mathematicaを用いて計算してみても,
∫(0,∞)Πsinc(kx)dx,
k=1/(2i+1),i=0~
において,i≦6でπ/2となる.
ところが,i=7のとき,
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)sinc(x/5)・・・sinc(x/13)sinc(x/15)dx=R*π
R=467807924713440738696537864469/935615849440640907310521750000
=0.499999999992646・・・
となって,π/2とはならないのである.
これは数式処理ソフトのバグのようにみえるかもしれないが,このような器用なバグは作ることは難しい.いろいろ試してみると間違いであるとは考えにくく,本件では「数式処理ソフト」は正しいということになりそうである.
さらに検証してみると,i≧7で右辺はπ/2にはならず,i=8では,
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)sinc(x/5)・・・sinc(x/15)sinc(x/17)dx=R*π
R=17708695183056190642497315530628422295569865119/354173907883011952948983529875210935040000000
i≧9でも同様に,有理数ではあるが簡単なものにはならなかった.
次に,係数を変えて
∫(0,∞)Πsinc(kx)dx,
k=1/(3i+1),i=0~
を計算してみた結果,i≦10でπ/2となった.i≧11は計算しなかったが,一体どうなっているのだろう.(これ以外のケースも試したが,感心なことに,Mathematicaではそれなりに答えを出してくれるのである.)
この件に関しては証明ができればさらに面白いのだが,ルベーグ積分の可能性との関連で,証明は面倒になりそうである.実際に証明に挑戦してみないとわからないが,数式ソフトの問題ではなく,証明可能な式のようだ.
∫(0,∞)sincxdx=∫(0,∞)sinx/xdx=π/2
という事実から何とかするのだと思うが,・・・
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結局,自力で証明することを早々に諦めて,
David Borwein,Johnathan M. Borwein: Some remarkable properties of sinc and related integrals; The Ramanujan Journal, in press. CECM preprint 99,142 (available from http://www.cecm.sfu.ca/preprints)
を参照することにした.
ここでは紹介しないが,フーリエ変換によって解析学的に証明される.それによると
∫(0,∞)Πsinc(kx)dx
は,Σk<2のときπ/2となるということである.すなわち,k=1/(2i+1)の場合,第6項までだと
1+1/3+・・・+1/13<2
だが,第7項まででは
1+1/3+・・・+1/13+1/15>2
また,k=1/(3i+1)の場合,第10項まで計算しても
1+1/4+・・・+1/28+1/31<2
なのである.
この論文には,例の積分を提示したあと,
When this fact was recentry verified by a reseacher using a computer algebra package, he concludeed that there must be a "bug" in software. Not so. In the above example 1/3+....+1/13<1 but with the addition of 1/15, sum exceeds 1 and identity no longer holds.....(p14)
とある.
その後,代数的な式に,具体的な係数値を代入して,
∫(0,∞)sincxsinc(x/3)sinc(x/5)・・・sinc(x/13)sinc(x/15)dx=R*π
R=467807924713440738696537864469/935615849440640907310521750000
=0.499999999992646・・・
を得ることができたことから,本件ではバグではなく,「数式処理ソフト」は正しいということが確認されたことになる.
ここで不思議になるのは,Borweinの論文がでる前に,どうやってMathematicaは正しい結果を計算したか?である.とにかく数式処理ソフトの実力には感心させられるが,Mathematicaの積分,極限等の公式については,カンファレンス等でどの様な公式集によったか,どのように確認したかは公表されているようで,文献を丹念に追っていけばソースは明らかになるようである(阪本ひろむ氏談).
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【4】シンク積分と超立方体の断面積
畏友・阪本ひろむ氏より,次なる情報が寄せられた.関連する公式を公式集で発見し,Mathematicaで検算してみたというものである.
公式集は,
"Table of Integrals,Series and Products"
I.S.Gradshteyn and I.M.Ryzhik,6th Edition,Academic Press
p431-432である.そこには,
∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^ndx
とくにn=1,2,3の場合が掲げられていてる.
それらはSinとSignがやたらとでてくる公式であって,例えば,a,b,cを正の定数0<a≦b≦cとし,
(1)a+b≦cならば,
2/π∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^3dx=ab
(2)a+b>cならば,
2/π∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^3dx=ab-1/4(a+b-c)^2
が成り立つ,などである.
これらをみて当該の公式の”幾何学的証明"が
丹野修吉「空間図形の幾何学」,培風館
に掲載されていたことを思い出した.
(1)の場合は,積分値がcの値によらないことに注意していただきたいのだが,丹野先生はこれらを超立方体と超平面の交わり部分の体積として証明していて,a+b≦cならば積分値がcに依存しないことは,平面が立方体の上面に交わらないことに対応するもので,この驚くべき結果も超立方体と超平面の関係を考えると理解できるというものであった.以下,微力ながら,幾何学的証明について解説したい.
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[1]超平面
原点を中心とするn次元超立方体[-1/2,1/2]^nと原点を通る任意のn次元超平面:H(a)
a1x1+a2x2+・・・+anxn=0
の交わり(切り口の体積)について考えてみましょう.
その前に,まず,aを行ベクトル,xを列ベクトルとして
a=(a1,・・・,an)
x’=(x1,・・・,xn)
また,実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,
ax’=c
で表すことができます.原点を通るときc=0で,その場合,原点を中心とするn次元超立方体と超平面ax’=0は必ず交わります.
ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.
また,aが単位法線ベクトル,すなわち,
a1^2+a2^2+・・・+an^2=1
が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.
n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.
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[2]ボールの定理
原点を通り,aに直交する超平面がH(a)なのですが,aの成分は,
0≦a1≦a2≦・・・≦an
を満たすものとしても一般性を失われません.もし,akが負ならば,xk軸の向きを逆にすることにより,akは正となるからです.
このとき,H(a)によるn次元単位立方体の切り口の体積は
Vn(a)=1/π∫(-∞,∞)Πsinc(akx)dx
と表されます(ボールの定理,1986年).この定理は,主として確率論的議論によって証明されるということです.
また,同じく,ボールによって
1≦Vn(a)≦√2
であることも証明されています(ボールの不等式).
ボールの不等式は「1辺の長さが1の正方形(2次元単位立方体)の切り口は単に線分になるから,その長さが最大となるのは対角線であって,最大値は√2となる.対角線とは頂点とその対角にある頂点を結ぶ線分で,正方形の原点を通るものである.また,(3次元)単位立方体の断面は,3角形・4角形・5角形・6角形などいろいろな形をとるが,立方体の中心を通り,辺とその対蹠に位置する辺を含む平面で切ったとき,断面積は最大値√2になる.」ことをもっと高次元化しても成り立つことを主張するものです.→コラム「高次元の球と立方体の断面積」
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[3]丹野の定理
2次元平面上で辺の長さ1の正方形と直線の交わり(切り口)は単なる線分の長さになります.ここでは,0≦a1≦a2の場合を考えますから,直線はx軸とy=−xに挟まれた領域を動けることになり,正方形の上辺,下辺には交わりません.
したがって,交わりをx軸に射影した線分の長さは1であり,n=(0,1)とa=(a1,a2)の内積を考えることによって,求める線分の長さ(体積)は
V2(a)=1/a2
であることがわかります.
3次元の場合は,少し複雑になるのですが,
(1)a3>a1+a2の場合は,立方体の上面には交わらないので,2次元の場合と同様にして,
V3(a)=1/a3
(2)a3<a1+a2の場合は上面に交わるので,その分補正が必要となるのですが,{}内で()の中が正のときのみ和をとるという意味の演算記号{}_を導入して,
V3(a)=1/a3−1/c{(a1+a2−a3)^2}_
c=4a1a2a3
で与えられることが求められます.この式は(1)の場合も含んでいます.
4次元の場合は,
V4(a)=1/a4−1/c[{(a1+a2+a3−a4)^3}_−{(a2+a3−a1−a4)^3}_]
c=24a1a2a3a4
となるのですが,これらの考察を高次元化していくことによって,次の定理が与えられます(丹野の定理,1990年).
(定理1)
Vn(a)=1/an−1/cΣ(-1)^(r-1)Σ_Lr^(n-1)
c=(n−1)!2^(n-2)a1a2・・・an,r=1~n-2
ここで,Lrは
Lr=ak(1)+・・・+ak(n-r)−ak(n-r+1)−・・・−ak(n-1)−an
ただし,k(1)~k(n-1)は1~n-1のいずれかであって,
Lr>0,k(1)<k(2)<・・・<k(n-r),k(n-r+1)<・・・<k(n-1)
を満たすものと定めます.
2次元ではa1≦a2ですからL1は存在せず,3次元の場合,
L1=a1+a2−a3
4次元の場合,
L1=a1+a2+a3−a4
L2=a2+a3−a1−a4
5次元の場合,L2型は4つあり,
L1=a1+a2+a3+a4−a5
L2=a1+a2+a3−a4−a5
L2=a1+a2+a4−a3−a5
L2=a1+a3+a4−a2−a5
L2=a2+a3+a4−a1−a5
L2=a2+a3+a4−a1−a5
L3=a3+a4−a1−a2−a5
のようになります.以下,一般のnについて,Lrがいくつあるかを数え上げると丹野の定理が証明されます.
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[4]三角関数の積分
n=3の場合,ボールの定理
V3(a)=2/πabc∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^3dx
と丹野の定理
V3(a)=1/c-1/4abc{(a+b-c)^2}_
を組み合わせることによって,a,b,cを正の定数0<a≦b≦cとし,
(1)a+b≦cならば,
2/π∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^3dx=ab
(2)a+b>cならば,
2/π∫(0,∞)sin(ax)sin(bx)sin(cx)/x^3dx=ab-1/4(a+b-c)^2
が成り立つことが証明されます.
また,とくに(2)において,a=b=cならば,
∫(0,∞)sin^3(ax)/x^3dx=3a^2π/8
なのですが,丹野の定理を拡張すると,正の数aと整数n≧2に対して
(定理2)
∫(0,∞)sin^n(ax)/x^ndx=a^(n-1)π/2-a^(n-1)π/(m-1)!2^(n-1)Σ(-1)^(r-1)(n-1,r-1)(n-2r)^(n-1)
(n-1,r-1)は2項係数n-1Cr-1,r=0~[(n-1)/2],[]はガウス記号
が成り立ちます.
この定理を用いると
∫(0,∞)sin(ax)/xdx=π/2
∫(0,∞)sin^2(ax)/x^2dx=aπ/2
∫(0,∞)sin^3(ax)/x^3dx=3a^2π/8
∫(0,∞)sin^4(ax)/x^4dx=a^3π/3
∫(0,∞)sin^5(ax)/x^5dx=115a^4π/384
∫(0,∞)sin^6(ax)/x^6dx=11a^5π/40
が求められます.
ちなみに,詳しい公式集,
"Table of Integrals,Series and Products"
I.S.Gradshteyn and I.M.Ryzhik,6th Edition,Academic Press
p456-457でも,この形の積分に関しては,
∫(0,∞)sin^6(ax)/x^6dx=11a^5π/40
までしか載っていません.
しかし,丹野の定理2を使えば,ずっと先まで求めることができるというわけです.
∫(0,∞)sin^7(ax)/x^7dx=5887a^6π/23040
∫(0,∞)sin^8(ax)/x^8dx=151a^7π/630
∫(0,∞)sin^9(ax)/x^9dx=259732a^8π/1146880
∫(0,∞)sin^10(ax)/x^10=15619a^9π/72576
∫(0,∞)sin^11(ax)/x^11dx=381773117a^10π/1857945600
∫(0,∞)sin^12(ax)/x^12dx=655177a^11π/3326400
∫(0,∞)sin^13(ax)/x^13dx=20646903199a^12π/108999475200
∫(0,∞)sin^14(ax)/x^14dx=27085381a^13π/148262400
∫(0,∞)sin^15(ax)/x^15dx=467168310097a^14π/2645053931520
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【5】余白
2項係数nCkを(n,k)と書くことにすると,リーマンのゼータ関数に帰着する無限級数(n=1~∞)があって,
3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)
5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)
36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)
である.
ζ(4k+3)については,k=1~∞,m=1~k-1として
Σζ(4k+3)z^4k=Σ1/k^3(1-z^4/k^4)
=5/2Σ(-1)^(k-1)/k^3(2k,k)(1-z^4/k^4)Π(1+4z^4/k^4)/(1-z^4/k^4)
が得られている.
36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)
は,Mathematicaの最新版でも等式として得られなかったが,予想ではなく,等式としてすでに証明済みという話もある(本当かどうかは確認していない).
また,以上ことからζ(2),ζ(3),ζ(4),・・・がΣ1/n^k(2n,n)あるいはΣ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)の簡単な有理数倍になっていると予想するのは当然の成りゆきであろう.
ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)
と予想されるが,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないらしい.
なお,近年広く研究されている多重ゼータ関数というものがあって,
ζ(3,1,3,1,・・・,3,1)=1/(2n+1)*ζ(2,2,・・・,2)=2π^2n/(4n+2)!
が成立するが,よくわからないまでもその美しさだけは感じられるであろう.
この式は
1+ζ(3,1,3,1,・・・,3,1)(-4t^4)^k=sin(πt)/πtsinh(πt)/πt
=Σ2π^4n/(4n+2)!*(-4t^4)^k
から証明されるらしいが,ここにもシンク関数:
sin(πt)/πt
が登場する.
シンク関数に類似のジンク関数は
jinc(x)=J1(πx)/(2x) (J1は1次のベッセル関数)
で定義される.ジンク関数は円孔スリットがつくる2次元的回折像として応用上重要であり,
jinc(0)=π/4,
∫(0,∞)jinc(x)dx=1
である.
sinh(πt)はシンハー関数と読まれるが,
sinh(πt)/πt
は何と呼称したらよいのだろう? いい呼び名があればよいのだが,・・・
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[補]
微積の学び初めに,x→0としたとき,
sinx/x→1
に出会う.この結果は
(sinx)’=cosx,(cosx)’=−sinx
を示すのに用いられる.
その後,sinxのテイラー展開によって,無限級数
sinx=x−x^3/3!+x^5/5!−x^7/7!+・・・
sinx/x=1−x^2/3!+x^4/5!−x^6/7!+・・・
が示される.
それでは,任意のxに対して,無限積公式
sinx/x=cosx/2cosx/4cosx/8・・・
も示しておこう.
(証明)
sinx=2sinx/2cosx/2
=4sinx/4cosx/4cosx/2
=8sinx/8cosx/8cosx/4cosx/2
・・・・・
=2^nsinx/2^ncosx/2^n・・・cosx/2
書き直すと
sinx=x[sin(x/2^n)/(x/2^n)]cosx/2・・・cosx/2^n
ここで,n→∞のとき,
sin(x/2^n)/(x/2^n)→1
であるから,sinxの無限積表示
sinx=xΠcosx/2^n
=x(1−x^2/π^2)(1−x^2/4π^2)(1−x^2/9π^2)・・・
が得られる.この結果は,sinxがx=0,±π,±2π,±3π,・・・のとき,0になることに一致している.
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[補]
正弦積分とは,
Si(x)=∫(0,t)sint/tdt
=x−x^3/3・3!+x^5/5・5!−・・・
として定義される特殊関数(初等関数によって表し得ない関数)である.また,その特殊値
Si(∞)=∫(0,∞)sint/tdt=π/2
は,ディリクレ積分と呼ばれる.
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