■整数論小話(2次形式の数論)
代数幾何学の歴史を振り返って見ると,円錐曲線,2次曲面,2次曲面同士の交わりとしての空間曲線などの具体的な研究から成長してきた足跡をたどることができます.そこで,今回のコラムでは,古典的・初等的な2次形式論を中心に構成することにしました.
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【1】ピタゴラスの問題
直角三角形では,斜辺をc,他の二辺をa,bとすると,ピタゴラスの定理 a^2+b^2=c^2
が成り立つことはよく知られています.特に,三辺の長さが整数である直角三角形をピタゴラス三角形といいます.
3元2次の不定方程式a^2+b^2=c^2の整数解を求める問題を「ピタゴラスの問題」といいますが,(a,b,c)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17),・・・などがその解です.
ピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2は無数の自然数解をもち,しかもすべての解をもれなく求めることのできる公式も知られています.
(n^2−1)^2+(2n)^2=(n^2+1)^2
のように文字を一つだけ使ったのでは,ピタゴラス三角形全部をもれなく表す公式は作れませんが,二つの文字m,nを使った公式
(m^2−n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2
では全部を表すことができます(m,nは互いに素).逆に,このことから,ピタゴラス三角形は無限にあることがわかりますが,この方法はギリシア時代から知られていたようです.
一方,ピタゴラスの問題は方程式:x^2+y^2=1に有理数解があるかどうかを考える問題に対応します.点(1,0)を通る直線:x+ty=1との交点は,
x=(1−t^2)/(1+t^2),y=2t/(1+t^2)
と表されますから,有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できることになり,適当なtによってx,yは有理数になることがわかります.
円:x^2+y^2=1のように,曲線上の有理点全体を1つの変数の有理式として表すことのできる曲線を有理曲線といいます.2次曲線は有理点を無限にもつか,1つももたないかのどちらかであって,現在では,2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.
この節では,ピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2の自然数解を求めるという問題を初等整数論的にあるいは幾何学的に説明したのですが,幾何学的方法は視覚に訴えるという長所や柔軟性があります.これら以外にも,代数的整数論を用いる方法,代数的方法,解析的方法などが考えられます.
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【2】ディオファントスの問題
整数解を要求する2変数1次方程式ax+by=c,2変数2次方程式ax^2+by^2=c(a,b,cは整数)などは,ギリシャのディオファントスにちなんでディオファントスの不定方程式と呼ばれます.
一般に,整数係数の多項式方程式
f(x1,x2,・・・,xn)=0
の整数解を求める不定方程式がディオファントス方程式なのですが,
f(x,y,z)=x^2+y^2−z^2=0 (ピタゴラス方程式)
f(x,y,z)=x^n+y^n−z^n=0 (フェルマー方程式)
もディオファントス方程式というわけです.
ピタゴラスの問題a^2+b^2=c^2を拡張する方向としては,一つには未知数の個数を増すこと
a^2+b^2+c^2=d^2
あるいは一般に,
x1^2+x2^2+・・・+xn^2=y^2
を解くこと,もう一つには指数を大きくすること
a^3+b^3=c^3
あるいは一般に,
a^n+b^n=c^n
を解くことになります.
前者の解としては,
x1=−a1^2+a2^2+・・・+an^2,x2=2a1a2,x3=2a1a3,・・・,xn=2a1anとすれば,(a1^2+a2^2+・・・+an^2)^2=y^2となります.たとえば,各辺と空間対角線が自然数になる直方体
a^2+b^2+c^2=d^2
は恒等式
a=k(l^2+m^2−n^2)/n,
b=2kl,
c=2km,
d=k(l^2+m^2+n^2)/n
で与えられます.ただし,nはl^2+m^2の約数でn<√(l^2+m^2)でなければなりません.また,一つの文字だけの恒等式
n^2(n+1)^2+n^2+(n+1)^2=(n^2+n+1)^2
によっても無数に解が求まります.
後者は有名なフェルマーの問題でこれには整数解がないことが証明されています.このことは節をあらためて説明します.
一方,両者の中間的な問題も派生します.たとえば,
a^3+b^3=c^3
は不可能ですが,
a^3+b^3+c^3=d^3
は可能です.
オイラーによれば不定方程式a^3+b^3+c^3=d^3の一般解は,4つの文字x,y,x,w,を使って
a=−(x2+3y2)2+(z2+3w2)(xz+3yw+3xw−3yz),
b= (x2+3y2)2−(z2+3w2)(xz+3yw−3xw+3yz),
c= (z2+3w2)2−(x2+3y2)(xz+3yw+3xw−3yz),
d= (z2+3w2)2+(x2+3y2)(xz+3yw+3xw−3yz)
であることが知られていて,これより,3^3+4^3+5^3=6^3,1^3+6^3+8^3=9^3,7^3+14^3+17^3=20^3などが求められます.
ラマヌジャンはa^3+b^3+c^3=d^3の解を二つの文字m,nの恒等式
a=3m2 +5mn−5n2 ,
b=4m2 −4mn+6n2 ,
c=5m2 −5mn−3n2 ,
d=6m2 −4mn+4n2
として与えています.
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たとえば,y^2=x^3−2の整数解について,ディオファントスは,y=t+1,x=t−1とおき,y^2=x^3−2に代入するとt^2+2t+1=t^3−3t^2+3t−3.この式はt(t^2+1)=4(t^2+1)と変形できるので,t=4すなわちy=5,x=3が解であるとしています.y^2=x^3−2の整数解は(x,y)=(3,±5)に限られます.
しかし,端的にいって,このような解き方・発見的思考(heuristic thinking)にはアート(技巧)はあってもセオリー(一般的理論)がなく,勘や経験や個々の問題の性質に負っていて,決定打ではありません.
問題はこの型の不定方程式に対するすべての整数解,あるいは有理数解を求めることですが,ロシア人のマチアセビッチにより,すべてのディオファントス方程式の解の存否を判定するアルゴリズムが存在しないことが証明されています.
今日では,一般の多変数の有理数係数の2次形式に対するアルゴリズムはできていて問題は完全に解けているのですが,しかし,一般に3変数以上のディオファントス方程式を解く有力な方法はまったく見つかっておらず,たとえば,x^3+y^3+z^3−3=0が(1,1,1),(4,4,−5)とその並び換え以外の整数解をもつかどうかすらわかっていません.一般的に解くことは今日でも未解決の問題なのです.
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【3】フィボナッチの問題
ピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2に無数の自然数解があることがわかりましたが,それでは,連立2次のディオファントス方程式:
x^2+y^2=z^2
x^2−y^2=w^2
の自明でない自然数解を考えてみましょう(フィボナッチの問題).ただし,y=0なる解は必ずあるわけですから,どのx,y,z,wも0でないものとします.
実は,そのような答えをもたないことがフェルマーによって証明されていて,それがフィボナッチ・フェルマーの定理です.フィボナッチは西暦1200年頃,解は存在しないことを予想していたのですが,400年後にフェルマー得意の無限降下法によって証明が与えられました.
この定理を応用すると,
「3辺の長さが自然数であるような直角三角形と同じ面積をもつ,辺の長さが自然数の正方形は存在しない(x^2+y^2=z^2,xy=2t^2)」
「x^4−y^4=z^2の自然数解はない」
「x^4+y^4=z^4の自然数解はない(n=4の場合のフェルマー予想)」
などが証明できます.
ところで,放物線,楕円,双曲線はまとめて円錐曲線とも呼ばれますが,2次式で定義されるので,2次曲線ともいいます.そして,無限遠点を導入して,考えている曲線を射影曲線として捉えると,2次曲線はひとつのものとして統一的に考えられるようになります(射影幾何).なぜなら,違いは無限遠直線の選び方(無限遠直線と交わらない,接する,交わる)にあるだけであって,どれも同種の曲線と考えることができるからです.
一方,3次曲線は,射影変換を用いれば次のいずれかに変換されます.
(1)y^2=x^3
(2)y^2=x^2(x−1)
(3)y^2=x(x−1)(x−λ)
(1)は「く」の字型曲線で原点で尖点をもちます.(2)は「の」の字型曲線で原点を通ったところでループを描いて自分自身と交差しますから,原点が2重点となります.(3)はループと弓形曲線の2つに分離します.すなわち,(1)(2)は特異点をもち,(3)は非特異です.したがって,滑らかな非特異3次曲線は(3)の標準形に表せます.
特異点を有する(1)(2)は
y^2=x^3 → (t^3,t^2)
y^2=x^2(x−1) → (t^2+1,t(t^2+1))
より,曲線上のすべての有理点をパラメトライズすることができます.すなわち有理曲線ですが,それに対して,(3)のように,3次曲線が異なる3根をもつ有理係数の多項式の場合は,楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で,2次曲線とは本質的に異なってきます.
これらは特異点による分類といってもよいのですが,射影変換によって互いに写り合う3次曲線は同型とみなされます.そこで,フィボナッチ・フェルマーの方程式を拡張してみることにしましょう.
a)2つの2次曲面
x^2+my^2=z^2
x^2+ny^2=w^2
の交わりであるP^3における曲線は,射影平面P^2における楕円曲線
mx^2y−nyx2−(x−y)z^2=0
y(z^2−mx^2)=x(z^2−ny^2)
と同型になること(整数点は整数点に移る),
b)(m,n)=(1,−1)には自然数解は存在しないことを証明が,フィボナッチ・フェルマーの定理であること
c)この曲線は射影的に
y^2=x(x−1)(x−λ),λ=n/(n−m)
と同値であること,したがって,j不変量は
j=2^8(n^2−mn+m^2)^3/m^2n^2(n−m)^2
で表されることなどの帰結として,(m,n)=(1,2)には自然数解がない,(2,6),(5,−5)には自然数解があるなど,一般的な可解性条件(楕円曲線の有理点が求まる可能性)が得られています.
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【4】フェルマーの問題
『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』
フェルマーの問題は,n=1のときにはx+y=zという単なる足し算ですから,xとyにどんな自然数を入れても自然数zは必ず存在します.n=2の場合はピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2ですから,解は無限にあることがわかります.n=4の場合は,フェルマー自身が無限降下法という一種の背理法を用いて0と1の中間に整数が存在するという矛盾を導き出すことによって証明が与えられました.
指数が3以上のフェルマー方程式については,n=3の場合はオイラー(1770年),n=5の場合はディリクレとルジャンドル(1825年),n=7の場合はラメ(1839年)によって証明が与えられ,それ以上のnについては素数の場合だけを調べればよいのですが,初等的な方法では手続きが急速に複雑になって行き詰まりこれ以上進むことに限界がありました.
個々のnに対して攻略する時代はこれで終わり,あとは一般的なnに対する攻略の道筋にまったく新しい方向性と理論を見いだす必要があったのです。最大のブレークスルーは1851年,クンマーによってなされました。クンマーは円分体の整数論の研究に専念し,正則素数であるすべてのnに対してフェルマー予想が成立することを示したのです。正則素数pはBp-3 までのベルヌーイ数Bk の分子を割り切ることのできない素数として定義されていて,100以下の非正則素数は37,59,67ですべてですから,この3つの数以外では100までのnに対してフェルマー予想が正しいことが証明されたことになります。
非正則素数は無限に多く存在するにもかかわらず,1980年代にはフェルマー予想はほとんど正しいことは証明されていたのですが,一つもないかどうかまではわかりませんでした.まことしやかに見えるだけで真実だと断定するわけにはまいりません.「almost every n」からalmostを取り除くのが次代の数学者の課題になったのです.代数幾何学を数論に応用するというアイディアを導入してこの行き詰まりを解決することになるのですが,・・・・・.
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フェルマーの問題(1637年)を解くことは,ピタゴラス方程式を一般化した任意の2変数多項式:x^n+y^n=1に有理数解があるかどうかに置き換えて考えることができますが,見かけのシンプルさとは裏腹に,人類の頭を悩まし続け,多くの高名な数学者がフェルマー予想に挑戦したにもかかわらずことごとくそれを退けてきました.
2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線(有理曲線)と呼びます.与えられた曲線が有理曲線かどうかを判定するには曲線の種数を求めればよく,それが0なら有理曲線になります.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.2次曲線はすべて有理曲線ですが,楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.すなわち,円錐曲線の有理点は無限ですが,楕円曲線の有理点は有限です.
ジーゲルの有限性定理(1929年)
「三次曲線ax^3+by^3=cや楕円曲線y^2=ax^3+bx^2+cx+dなど,3次以上の不定方程式には一般に整数解が有限個しかない.」により,すべての2変数多項式の可解性が決定したわけではありませんが,少なくとも2変数2次多項式,たとえば,ax^2+by^2=z^2の可解性条件はわかったことになります.
また,モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは,「種数が2以上の代数曲線は有理点を有限個しかもたない.」というものです.2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線と呼んでいます.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.また,リーマン・フルヴィッツの公式よりフェルマー曲線は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.
a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:
y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきましょう.
楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのですが,約400年ものあいだ未解決の数学的難問にこのようにして証明を与えたのは,イギリス人で米国プリンストン大学の数学者ワイルズです(1994年).
かくして「フェルマー予想」は「フェルマー・ワイルズの定理」となったのです.→コラム「フェルマー・ワイルズの定理と狭すぎた余白」参照
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【5】フルヴィッツの問題
複素数x=a+biの絶対値は|x|^2=a^2+b^2=(a+bi)(a−bi)で与えられますが,ここで,数の体系に「積のベクトルの大きさはベクトルの大きさの積に等しい」という条件が要請されているとしましょう.
複素数x=a+biとy=c+diの積
xy=(a+bi)(c+di)=(ac−bd)+(ad+bc)i
は同じ空間内のベクトルとして表されますが,
(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ac−bd)^2+(ad+bc)^2
より,|x|・|y|=|xy|が満たされていることがわかります.
フィボナッチの等式としてよく知られている恒等式
(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ac−bd)^2+(ad+bc)^2
は簡単に確認できます.この公式は2つの整数がともに平方数の和の形をしているなら,その2数の積も平方数で表されることを示していて,複素数と2平方和問題との関連を示しています.
また,4平方和問題
(a^2+b^2+c^2+d^2)(p^2+q^2+r^2+s^2)=x^2+y^2+z^2+w^2
は
x=ap+bq+cr+ds,
y=aq−bp+cs−dr,
z=ar−bs−cp+dq,
w=as+br−cq−dp
とおくと成り立ち,4つの平方数の和となっている数は積の演算で閉じていることを示しています.
しかし,3平方和問題
(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)=u^2+v^2+w^2
は2平方和,4平方和の場合のようなわけにはいきません.3平方和の積が必ずしも3平方和とならないからです.
|a|・|b|=|c|,すなわち
(a1^2+a2^2+・・・+an^2)(b1^2+b2^2+・・・+bn^2)=(c1^2+c2^2+・・・+cn^2)
の恒等式はn=1,2,4,8に対してだけ満たされるという驚くべき結果が19世紀末,フルヴィッツにより証明されています(1898年).
Aを基底とする2次形式をqA(x)=A[x]=x’Axと書くことにすると,フルヴィッツの問題「(x,qx)をn次元ユークリッド空間とする.このとき,双線形写像β:qx(β(x,y))=qx(x)qy(y)を満足するものが存在するための必要十分条件は,n=1,2,4,8なることである.」の証明には,ホップ写像(m次元球面からn次元球面へのある連続写像)の不変量やグラスマン環を拡張したクリフォード環と呼ばれる多元環が役に立つようですが,難解で小生には手も足もでそうにありません.なお,ホップの定理とは「偶数次元球面上には,特異点のないベクトル場は存在しない(必ず特異点がある)」,「奇数次元球面上には,特異点のないベクトル場が少なくともひとつ存在する」というものです.
ともあれ,ある条件のもとで,数の体系は八元数までですべてであることが知られていて,数の系列は実数(一元数)→複素数(二元数:ガウス)→四元数(ハミルトン)→八元数(ケイリー)というようになっているのです.
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【6】ヤコビのテータ関数と楕円関数
1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています(群構造).
楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線で,楕円関数でパラメトライズされる曲線です.歴史的にいうと楕円関数は楕円積分を源とし,楕円積分の逆関数として導入されました.そこで,この節は,ヤコビのテータ関数と楕円関数について説明することにします.
まず,テータ関数の導入と定義にあたって,複素平面上の関数で,
(1)f(z+1)=f(z)
(2)f(z+τ)=ω(z)f(z)
を満足するものと考えることにします.(1)はfが周期Zをもつこと,(2)はτZは周期とはならないが,それに近いものであることを意味します.(1)(2)より
ω(z)f(z)=f(z+τ)=f(z+1+τ)=ω(z+1)f(z+1)=ω(z+1)f(z)
したがって,ω(z+1)=ω(z)でなければなりませんから,
ω(z)=cexp(−2πiz)
なる関数を採用することにします.
一方,(1)をフーリエ変換すると
f(z)=Σanexp(2πinz)
また,
Σanexp(2πin(z+τ))=f(z+τ)=ω(z)f(z)=cexp(−2πiz)Σanexp(2πinz)=cΣanexp(2πi(n−1)z)=cΣan+1exp(2πinz)
ここで,exp(2πinz)の係数を比較すると,can+1=anexp(2πinτ),a0=1とおくと一般に
an=c^(-n)exp(πin(nー1)τ)
となります.
さらに,q=exp(πiτ),c=q^(-1)とおくことによって,an=q^(n^2),したがって,
f(z)=Σq^(n^2)exp(2πinz)
あるいは,w=exp(πiz)とおくと
f(w)=Σq^(n^2)w^(2n)
となります.
これがθ3(z)の定義ですが,三角関数を用いると
θ3(z)=1+2Σq^(n^2)cos(2nπz)
とも表されます.
以上より,
θ3(z+1)=θ3(z)
θ3(z+τ)=Aθ3(z),A=q^(-1)w^(-2)
θ3(z+m+nτ)=q^(-n^2)w^(-2n)θ3(z)
ですが,テータ関数の零点が,
θ3(m+nτ+1/2+τ/2)=0 (m,nは整数)
であることより,テータ関数の無限積展開
θ3=Π(1−q^2m)(1+q^(2m-1))^2
が得られます.
テータ関数の重要な応用として,
(a)オイラーの五角数定理(1750年)
Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2)) m(3m-1)/2は五角数
(b)ヤコビの三角数定理(1829年)
Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2) (m^2+m)/2は三角数
など,加法的整数論の有名な公式がでてきます.これらは保型形式の現れであり,のちにラマヌジャンの保型形式論の時代に突入することになります.
ヤコビのテータ関数
θ3(z)=1+2Σq^(n^2)cos(2nπz)
は指数関数(周期関数)に対応しているのですが,ヤコビはテータ関数を使うことによって,二重周期関数すなわちヤコビの楕円関数を表すことにも成功しています.
ヤコビは,第1種不完全楕円積分
f(x)=1/{(1-x^2)(1-k^2x^2)}^(1/2)
ω=F(z)=∫(0-Z)f(x)dx
に対して,正弦関数をまねてF^(-1)(ω)をsnω=F^(-1)(ω)と定義し,
sn^(-1)z=∫(0-Z)f(x)dx
を得ました.
また,三角関数にならって
cnω=√(1-sn^2ω),dnω=√(1-k^2sn^2ω)
と定義しました.関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数ですが,少し複雑な三角法と思えばよく,三角関数同様,ヤコビの楕円関数からはいろいろな加法公式を導き出すことができます.
なお,第1種不完全楕円積分において,k→0とすると,
K(0)=∫(0-Z)f(x)dx=sin^(-1)z
k→1とすると,
K(1)=∫(0-Z)f(x)dx=tanh^(-1)z
ですから,snωはsinωとtanhωの中間に位置していることがわかります.実際にベキ級数展開を求めると,
snω=ω-(1+k^2)/6ω^3-(3+2k^2+3k^4)/40ω^5+・・・
が得られます.
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【7】3次曲線のj-不変量
非特異3次曲線の標準型:
y^2=x(x−1)(x−λ)
のj-不変量は
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.
jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
=j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))
ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.
複比を
λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}
によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
の6つのどれかに移ります.
この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.
なお,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数
(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,
(x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
と,変数xの方程式を考えると,
λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0
はλ≠0,1より,6次方程式となり,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは
λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2
の場合に限ります.
y=ax^3+bx^2+cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが,yのところがy^2に変わるとワイエルシュトラスの楕円曲線:
y^2=ax^3+bx^2+cx+d
になります.ただし,a,b,c,dは有理数で,右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します.楕円曲線をワイエルシュトラス形式に制限しても一般性を失いません.実際,どのような楕円曲線もワイエルシュトラス形式の楕円曲線に双有理的に同値だからです.
また,x^2の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換(カルダノ変換)することによって簡単に消すことができますから,
y^2=x^3+ax+b (4a^3+27b^2≠0)
を楕円曲線と定義しても構いません.4a^3+27b^2≠0は重根をもたないための条件です(判別式:Δ=−(4a^3+27b^2)).
ワイエルシュトラスの標準形:
y^2=x^3+ax+b (2^2a^3+3^3b^2≠0)
のj-不変量を計算すると,
j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)
となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.
最後に,オイラーによる,楕円曲線:y^2=ax^3+bx^2+cx+dの解法を紹介しましょう.
d=f^2とする.gを未知数として,ax^3+bx^2+cx+f^2=(gx+f)^2なる関係を考える.c=2fgになるようにgを定めれば,ax+b=g^2.したがって,
x=(g^2−b)/a=(c^2−4bf^2)/4af^2
なる有理数解を得る.
手品のようですが,幾何学的に考えると
F(x,y)=y^2−ax^3−bx^2−cx−f^2
の点(0,f)における接線の方程式は−cx+2f(y−f)=0.ここで,c=2fgと定めるとy=gx+fになる.曲線は3次で,接点では2重に交わるから,第3の交点(有理点)が1つ決まるのです.
y^2=ax^4+bx^3+cx^2+dx+e
では,e=f^2,d=2gf,c=g^2+2hfとおくと,ax^4+bx^3+cx^2+dx+f^2=(hx^2+gx+f)^2より,ax+b=h^2+2hg.したがって,
x=(b−2hg)/(h^2−a)
なる解が得られます.
y^3=ax^3+bx^2+cx+d
の場合も同様に解くことができますが,これらの方法は実質的にはディオファントスまでさかのぼることができます.
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【補】2平方和定理(フェルマー・オイラーの定理)
特別な素数である2を除外して,素数は4で割ると余りが1になるもの(5,13,17,29,37,41,・・・)と3になるもの(3,7,11,19,23,31,・・・)の2種類に分けられます.このうち,4n+1の形の素数は2つの整数の平方の和として表されます.たとえば,5=12 +22 ,13=22 +32 ,17=12 +42 ,29=22 +52
しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.
(a^2+b^2)(c^2+d^2)=p^2+q^2
p=ac−bd,q=ad+bc
この定理はフェルマーの定理と呼ばれ,フェルマーは無限降下法でこれを証明しましたが,その証明は不十分で,100年後のオイラーによって完全な証明がなされています.
【補】3平方和定理(ルジャンドルの定理)
4n+3の形の数は2個の平方数の和で表せませんが,同様にして,「8n+7の形の数は3個の平方数の和では表されない.」
【補】4平方和定理(オイラー・ラグランジュの定理)
「任意の自然数は4つの平方数の和の形に表せる.n=□+□+□+□」
オイラーはこの定理の直前まで行きながら,最後の段階で成功しませんでした.ラグランジュはオイラーの研究成果からアイデアを得て,1772年,最後の段階を突破しました.その証明中で用いられる基本公式が(a^2+b^2+c^2+d^2)(p^2+q^2+r^2+s^2)=x^2+y^2+z^2+w^2で,1748年にオイラーによって証明されています.
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