■プランク分布と量子化の概念

 自然界の法則については、線形現象よりも非線形現象、決定論的現象よりも確率論的現象が多いということが、徐々に理解されるようになってきました。

また、連続性と考えられてきた自然の深層構造についても、物質の不連続性(原子)、電気の不連続性(電気素量e)、エネルギーの不連続性(hν)という自然の秘密・究極構造は長い歴史の中で次第に暴かれてきたのです。

 近年、物質の量子化は素粒子下のクォークへと達し、それに伴って電気素量についても1/3eのオーダーの話に至っています。

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 熱せられた物体からはさまざまな波長の電磁波が放射され、それは熱放射と呼ばれます。どのような波長の電磁波がどんな強さででてくるのか、これを熱放射のスペクトルといいます。エネルギーの量子化の概念は、熱放射に関連してプランクが提唱したのですが、これをきっかけにして量子力学の概念が体系化されたことはあまりにも有名です。あらためて、そのエピソードを記述してみます。

 1893年、ウィーンは物体の温度と放射される電磁波の波長の積は一定になるという関係を導きました。さらに、1896年、熱放射のエネルギーを式を物体の温度と放射される電磁波の波長の関数として分布式を計算しましたが、この分布式は長波長側(赤外線領域)で実験結果と食い違っていることが判明しました。一方、イギリスのレイリーとジーンズの式は、波長の長いところでは実際のスペクトルとよくあうのですが、短い波長に対しては計算したエネルギーの強度は際限なく大きくなってしまい、まったく実験とあわないのです。

 そこで、プランクは早速見直しにとりかかり、全波長領域にわたって測定結果と一致する式を導出することに成功したのです(1900年)。プランクは式を導出する過程で熱放射のエネルギーは不連続の値を取るという条件を設定したのですが、このような条件を設定しないと、計算の途中で式が無限大に発散するからです。これがエネルギー量子仮説ですが、プランクは自分の息子に「私はニュートンに匹敵する発見をしたらしい」と語り、量子仮説の重大さを訴えたことが伝えられています。

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 熱放射に関するプランク分布は、数学的にみるとゼータ関数・ガンマ関数と関連しています。プランク分布の確率密度関数

f(x)=cx^3/[e^x-1] c=1/[Γ(4)ζ(4)]=15/π^4

は物理的には3種類ある統計力学のひとつ:BE統計【補】の代表的な現象を表す分布として知られています。

 ガンマ分布と似ていますが、分母から1を引いた式になっていることがミソとなって、ゼータ関数が登場してきます。分母から1を引いた形は無限等比級数

1+x+x2 +x3 +・・・1/(1−x)

を思い起こさせますが、実はそれがhνの整数倍nhνと深く関係するエネルギーの和であることを示しているのです。ベルヌーイ数{Bn}の指数型母関数x/[e^x-1]と非常によく似た形で与えられるといったほうがわかりやすいかもしれません。

 この分布をさらに拡張させると、一般化プランク分布が得られます。その確率密度関数は、以下の式で表されます。

f(x)=cx^n/[e^x-1] c=1/[Γ(n+1)ζ(n+1)]

このように、一般化プランク分布にはゼータ関数やガンマ関数が出現しますが、上記のプランク分布はn=3の場合に相当します。また、2次までの積率は

μ1'=(n+1)ζ(n+2)/ζ(n+1)

μ2'=(n+1)(n+2)ζ(n+3)/ζ(n+1)

となりますが、さらに高次の積率は

integral(0,∞)x^n/[e^x-1]=Γ(n+1)ζ(n+1)  【補】

から求めることができます。

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【ゼータ関数】

 ゼータ関数は無限級数

ζ(x)=Σ1/n^x=1/1^x+1/2^x+1/3^x+1/4^x+・・・

として定義される関数です。すなわち、ゼータ関数は調和級数を一般化したものと考えることができます。

ゼータ関数とガンマ関数との間に

ζ(x)=1/Γ(x)integral(0,∞)t^(x-1)/(e^x-1)dt

ζ(x)=1/(1-2^(1-x))Γ(x)integral(0,∞)t^(x-1)/(e^x+1)dt

が成り立ちます。これらを導いてみましょう。

Γ(s)=integral(0,∞)t^(s-1)e^(-t)dt

にt=nxを代入するならば

Γ(s)/n^s=integral(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

が得られる。この式のnについての総和をとるなら

ΣΓ(s)/n^s=Σintegral(0,∞)x^(s-1)e^(-nx)dx

=integral(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1+e^(-x)+e^(-2x)+・・・}dx

=integral(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1-e^(-x))dx

1+x+x2 +x3 +・・・1/(1−x) 【ミソ】

=integral(0,∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

これより

Γ(s)ζ(s)=integral(0-∞)x^(s-1)/(e^x-1)dx

が得られる。

また、交代級数

φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=Σ(-1)^(n-1)/n^s

を考えます。負項を正項に変えて、あとでその2倍を引きます。

φ(s)=(1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)-2(1/2^s+1/4^s+・・・)

=(1-2^(1-s))ζ(s)

となります。

ΣΓ(s)(-1)^(n-1)/n^s

=Σintegral(0,∞)x^(s-1)(-1)^(n-1)e^(-nx)dx

=integral(0,∞)x^(s-1)e^(-x){1-e^(-x)+e^(-2x)-・・・}dx

=integral(0,∞)x^(s-1)e^(-x)/(1+e^(-x))dx

1−x+x2 −x3 +・・・=1/(1+x)

=integral(0,∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

これより

Γ(s)ζ(s)(1-2^(1-s))=integral(0-∞)x^(s-1)/(e^x+1)dx

が得られる。

(中心極限定理)

 ゼータ関数は、素数と整数、離散と連続の仲介役としてしばしば出現します。区間(0,1)の一様分布の特性関数が

φ(t)=exp(it/2)sin(t/2)/(t/2)

となることを利用して、一様乱数をn個合計したものの分布が、n→∞の極限で正規分布になることを示してみましょう。

 一様乱数をn個の合計のしたものの分布の特性関数は

[φ(t)]^n=exp(int/2){sin(t/2)/(t/2)}^n

一方、

sinx/x=1-1/3!x^2+1/5!x^4-・・・

の解が±π,±2π,±3π,±4π,・・・となることを利用して、無限積表示すると

sinx/x=(1-x2/π2)(1-x2/4π2)(1-x2/9π2)(1-x2/16π2)・・・

=Π(1-x2/k2π2)

n→∞の極限で

(1-x2/k2π2)^n→exp(-nx2/k2π2)

また、Σ1/k2=ζ(2)=π2/6

ですから、

{sin(t/2)/(t/2)}^n→exp(-Σnt2/4k2π2)=exp(-nt2/24)

したがって、

[φ(t)]^n→exp(int/2-nt2/24)

 正規分布N(μ,σ2)の特性関数はexp(iμt-σ2t2/2)ですから、この結果はn個の独立した一様乱数の和の分布は平均値n/2、分散n/12の正規分布に近づくことを示しています。これを任意の分布について証明したのが、中心極限定理です。

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【ガンマ関数】

Γ(x)=integral(0,∞)t^(x-1)e^(-t)dt x>0

無限積分Γ(x)をxの関数とみてガンマ関数といいます。

Γ(1)=integral(0,∞)e^(-t)dt=1

Γ(1/2)=integral(0,∞)t^(-1/2)e^(-t)dt

ここで、t=u2とおくとintegral(0,∞)e^(-u2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

Γ(1/2)=√π

が得られます。

オイラーの第2積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には、Γ(x+1)=xΓ(x)の関係があり、次のような漸化式が成り立ちます。

Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって、xが正の整数nのときにはΓ(n+1)=n!が成り立ち、ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります。また、半整数のときには、Γ(n+1/2)=(2n)!/{2^(2n)n!}√πです。なお、ガンマ関数Γ(x)はx>0について微分可能で、x=1.4616321449・・・で最小となります。

(ガンマ関数と超球との関係)

 ガウス積分

I=integral(-∞,∞)exp(-x2)dx=√π

をn次元に拡張し、

I=integral(-∞,∞)exp(-x12+x22+・・・+xn2)dx1dx2・・・dxn

を考えるとintegral(-∞,∞)exp(-x2)dx=√πより、直ちに

I=π^(n/2)

を得ることができます。

 ここで、n次元ガウス積分を別の方法で求めてみます。球に相当するn次元の図形を超球と呼びます。n次元単位超球{x12+x22+・・・+xn2≦1}の体積をvnとすると、v1=2(直径),v2=π(面積),v3=4π/3(体積)はご存知でしょう。

 半径rのn次元球の体積はvnr^n,表面積はrVnr^(n-1)となります。ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し、次にr=0からr=∞まで積分します。半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r2)をとり、表面積はnVnr^(n-1)ですから、

I=integral(0,∞)exp(-r2)nVnr^(n-1)dr

=nVnintegral(0,∞)r^(n-1)exp(-r2)dr

z=r2と変数変換するとdz=2rdrより

I=nVn/2integral(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz

=Vnn/2Γ(n/2)

=VnΓ(n/2+1)

したがって、

Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

を得ることができます。これは形式的に

Vn=π^(n/2)/(n/2)!

と書くことができます。

nが整数のとき、実際にこの値を計算してみると、超球の体積はn=5のとき最大5.26・・・となり、以後は減少します。

1次元 2次元 3次元 4次元 5次元 6次元

 2 3.1 4.1 4.9 5.263 5.1

(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり、そのときの体積は5.277・・・である。)また、これより、d次元単位超立方体[-1,1]^dにおいて、単位超球が占める比率は、d=2であればπ/4(79%)であるが、d=5のときは16%に下落し、d=10となると0.25%になることも理解されます。すなわち、高次元において、超立方体内に一様分布する標本を考えるとき、低次元の場合とは対照的に、大部分のデータは超球外に位置することになります。

 なお、(n−1)次元の場合の値vn-1がわかればvnは漸加式:

vn/vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができます。比vn-1/vn-2=B(1/2,n/2)は自由度nのt分布の定数であり、実際、フィッシャーはn個の観測値の標本平均と母平均の差(距離)を標本標準偏差で割った統計量tの分布をn次元ユークリッド空間を使って導きだしています。

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【補】奇妙な計算

 ゼータ関数は複素数へ拡張することができます。ゼータ関数の不思議なところはsをどんな複素数にしても意味をもつという点です。また、Γ(x+1)=xΓ(x)を使えばすべての複素数に対してガンマ関数が意味付けできるようになります。これを解析接続可能といい、実解析関数の変数を複素数に拡張することにより、未知の世界が開けてきます。

 たとえば、ζ(s)とζ(1-s)には

ζ(1-s)=π^(-s)2^(1-s)cos(π^s/2)Γ(s)ζ(s)

という対応関係をもっています。ゼータ関数の対称性はガンマ関数の対称性

Γ(s)Γ(1-s)=π/sinπs

に補ってもらうと、さらに

Γ(1-s)ζ(1-s)=Γ(s)ζ(s)

と完全に左右対称な美しい形に書くことができます。

 この対称性はs=1/2の軸に関するものですが、ζ(s)の零点がs=-2,-4,・・・,-2n,とs=1/2+itの線上にあるというのが有名なリーマン予想(1859年)です。この予想は一部に素数定理なども含む数学上の最大の難問であって、いまだ未解決です。

 ところが、解析接続により、

ζ(0)=1+1+1+1+・・・=-1/2

ζ(-1)=1+2+3+4+・・・=-1/12

ζ(-2)=1^2+2^2+3^2+4^2+・・・=0

ζ(-3)=1^3+2^3+3^3+4^3+・・・=1/120

ζ(-4)=1^4+2^4+3^4+4^4+・・・=0

 正数の無限級数の総和が負や零になって、一見して目がくらんでしまいます。これらの式は現代数論では当然のことのように使われています。普通の意味では無限大になっているはずですが、これらは一体何を意味しているのでしょうか?

 これらの計算の仕方を紹介すると

φ(s)=1-1/2^s+1/3^s-1/4^s+・・・=(1-2^(1-s))ζ(s)

より

φ(0)=-ζ(0),φ(-1)=-3ζ(-1),φ(-2)=-7ζ(-2),φ(-3)=-15ζ(-3)

また、

f(x)=1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1-x)

g(x)=xdf(x)/dx=x+2x^2+3x^3+4x^4+・・・=x/(1-x)^2

h(x)=xdg(x)/dx=x+2^2x^2+3^2x^3+4^2x^4+・・・=x(1+x)/(1-x)^2

より

f(-1)=φ(0)=1/2,g(-1)=-φ(-1)=-1/4,h(-1)=-φ(-2)=0

これから

ζ(0)=-1/2,ζ(-1)=-1/12,ζ(-2)=0,・・・

となる。

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【統計力学】

 n個の箱にr個の玉を入れる問題を考えます。箱を空間の小領域、玉を気体の分子と見立てて、ボルツマンは統計力学(Maxwell-Boltzmann統計)を構成しました。MB統計では1つの玉の入れ方がn通りで、玉がr個ですから全部でn^r通りの入れ方があると考えます。しかし、このように考えると、黒体輻射の実験がどうしてもうまく説明できませんでした。

 そこで、玉は区別がつかないと仮定すると、n個の箱に区別できないr個の玉を入れる入れ方は重複組合せnHr通り=n+r-1Cr通りあることになり、新たな統計力学が構成されます。この統計力学はBose-Einstein統計と呼ばれ、光子や中性子がうまく当てはまります。BE統計にしたがう素粒子はボゾン(boson)と呼ばれます。

 さらに、1つの箱には玉は1つしか入らないとするパウリの排他則を仮定すると重複のない組合せnCr通りとなり、Fermi-Diracの統計が得られます。FD統計にしたがう素粒子に電子や陽子があり、それらはフェルミオン(fermion)と総称されます。