■n次元楕円をm次元空間に投影する(その6)
6次元楕円を2次元平面に直接正射影すると,楕円が描かれます.また,いったん3次元空間へ正射影した3次元楕円を間接的に2次元平面に投影した楕円は,最初から2次元平面に正射影した楕円と一致します.
もちろん一致しないとおかしなことになるわけですが,このことは
6次元→n次元,3次元→m次元
と一般化しても成り立ちます.
この当たり前のことがとても不思議に感じられたので,どうして一致するのかを考えてみることにしました.ところが,この言明を証明するためには何を主張すべきなのか・・・,それがよく把握できないのです.
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【1】失敗例
楕円の大きさは固有値で決まりますから,まず,固有値に着目するのが自然な成り行きでしょう.
これまでの表記法をそのまま用いることにすると,n次元楕円は
x’Hx=1
このとき,行列式は全固有値の積と一致しますから,
|H|=λ1λ2・・・λn
となります.
一方,
H=[A,B] H~ =[O,P]
[C,D] [Q,R]
と分割行列にすると,m次元空間への正射影は,
X’[A−BD~C]X=1
で表すことができます.
なお,(その1)で述べたように
O=[A−BD~C]~
ですから,
X’O~X=1
としても同値です.その場合,逆行列の固有値はもとの行列の固有値の逆数となりますから,
|H~|=1/|H|=1/λ1λ2・・・λn
ですが,O~はAの逆行列ではないので
|O~|≠1/|A|
です.
行列式=固有値の積より,同等にして
|A−BD~C|=δ1δ2・・・δm
となりますが,行列式について
|H|=|D||A−BD~C|
が成り立ちますから,
|D|=(λ1λ2・・・λn)/(δ1δ2・・・δm)
が得られます.
しかし,これがわかったところで,そのあとはにっちもさっちも行きませんでした.
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【2】成功例(?)
ユニタリ変換
x=UX (U’=U~)
によって,行列Hが
U~HU=Λ
と対角化されるとしましょう.Λは対角行列
Λ=diag(λ1,・・・,λn)
を表しています.
これによって,n次元楕円:x’Hx=1は
x’Hx=X’U’HUX=X’U~HUX=X’ΛX=1
と標準形に変換されます.
ここで,標準形と助変数表示式をまとめておきますが,2次元楕円
λ1X1^2+λ2X2^2=1
では
X1=acosθ (a=1/√λ1)
X2=bsinθ (b=1/√λ2)
であったのに対し,3次元楕円
δ1χ1^2+δ2χ2^2+δ3χ3^2=1
では
χ1=acosθ (a=1/√δ1)
χ2=bsinθcosφ (b=1/√δ2)
χ3=csinθsinφ (c=1/√δ3)
とパラメトライズすることができます.
一般に,n次元ユークリッド空間の点(x1,x2,x3,・・・,xn)は,
r>0,0≦θ1,θ2,・・・,θn-2≦π,0≦θn-1≦2π
を満たすr,θ1,θ2,・・・,θn-1によって,
x1=rcosθ1
x2=rsinθ1cosθ2
x3=rsinθ1sinθ2cosθ3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
xn-1=rsinθ1sinθ2・・・sinθn-2cosθn-1
xn=rsinθ1sinθ2・・・sinθn-2sinθn-1
と表すことができます(ただし,n=2のときは,周知のとおり,x1=rcosθ1,x2=rsinθ1とする).
したがって,m次元空間を経由した場合の対角行列を
Δ=diag(δ1,・・・,δm),
ユニタリ変換行列をVとして,m次元楕円:χ’Δχ=1と2次元楕円:X’ΛX=1が一致することがいえればよいことなりますが,
χ=V~x=V’x
を代入すると
χ’Δχ=x’VΔV’x
ですから,このことから,
VΔV’=UΛU’(=H)
となることを示せば当該の問題は証明されたことになります.
U’HU=Λ
の左からUを,右からU’を掛ければ,直交行列の性質により
UΛU’=H
となります.VΔV’=Hについても同様です.
結局,
U’HU=Λ ←→ UΛU’=H
の反転であっさりと証明されたことになります.キツネにでもつままれたような不思議な気分になったのですが,これで証明は完了(?)と思われます.
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【3】まとめ
ところで,6次元楕円の2次元平面での切り口と3次元空間での切り口(3次元楕円)を2次元平面に投影したものでは,楕円の大きさが一致しません.
2次元切り口は3次元切り口の2次元平面での切り口であって,3次元切り口の2次元平面への正射影ではない・・・歯切れの悪い説明で申し訳ありませんが,正射影の正射影は正射影ですが,切り口の切り口は切り口であって正射影ではないために,楕円の大きさが一致しないのです.
3次元に限らず,一般にm次元空間での切り口:
X’AX=1
(m次元楕円)を平面上に表示するときは,m次元楕円の2次元平面での切り口ではなくて,m次元切り口の2次元平面上への正射影を表示しなければなりません.
このことは,本文に掲げた説明において,HがAに変わるだけのことですから,すぐにおわかり頂けるでしょうが,3次元をm次元と一般化しても,m次元切り口を2次元に正射影した楕円はすべて一致することになるというわけです.
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[補]行列式は全固有値の積と一致します.
|H|=λ1λ2・・・λn(=平行多面体の体積)
このことは,固有多項式の根と係数の関係より簡単に証明されます.
同様に,固有多項式の根と係数の関係によって,トレース(対角線の項の和)=固有値の総和,すなわち,
h11+h22+・・・+hnn=λ1+・・・+λn
が成り立ちます.トレースは全固有値の和であり,大切な不変式になっています.
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