■無理数・代数的数・超越数

 
 そろそろネタ切れで,「閑話休題」を持続させるのに四苦八苦の状況に追い込まれてきた.畏友・大平徹氏によると,このようなときこそ
  1)ル・リヨネ「何だこの数は?」
  2)コンウェイ「The Book of Numbers」
をネタ本にするのがよいという.というわけで,今回のコラムでは「数の本」より無理性・超越性に関係する雑多な問題を取り上げることにした.
 
 説明するまでもないかもしれないが,整数の比で表せない数を無理数(例:√2)と呼ぶ.いい換えれば,整数係数の1次式の根にはならない数が無理数なのである.無理数の中でも,整数係数多項式の根となる数が代数的数(例:3√5はx^3−5=0の根)であり,それに対して,超越数とは,整数係数のどのような代数方程式の根にもならない数(例:π,e)のことである.
 
 超越数は無理数であり,無理数のほとんどは超越数であることが証明されている.無理数は超越数の候補ではあるが,超越数とは別の由来をもち,次元の異なる数なのである.なお,大平氏によると「数の本」の中にある計算をパソコン上でデモしたもの((c)ケネス・アイバーソン)もフリーでダウンロード可能とのことであった.調べたわけではないが,無理性・超越性に関係するものも含まれているかもしれない.
 
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【1】eは無理数
 
 素数が無限に存在すること,√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.eの無理数性も背理法を用いて,わりに容易に示すことができます.そこで,・・・
 
(問)e=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・が無理数であることを証明せよ.
 
(証)整数p,qが存在して,
  p/q=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・
のように書けるものと仮定する.
  p/q=(1+1/1!+1/2!+・・・+1/q!)+(1/(q+1)!+1/(q+2)!+・・・)
 
 両辺をq!倍すると,
  p(q−1)!=(q!+q!/1!+q!/2!+・・・+q!/q!)+(1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・)
ここで,p(q−1)!は整数,(q!+q!/1!+q!/2!+・・・+q!/q!)も整数.
 
 また,
  1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・
 <1/(q+1)+1/(q+1)(q+1)+1/(q+1)(q+1)(q+1)+・・・=1/q
となり,
  1/(q+1)+1/(q+1)(q+2)+1/(q+1)(q+2)(q+3)+・・・
は小数であることがわかる.
 
 以上より,整数=整数+小数となって矛盾.eが有理数であるという仮定に誤りがあり,有理数ではあり得ないことを示している.したがって,eは無理数である.
 
 1744年,オイラーはこのようにしてeの無理数性を示したのですが,さらに,1873年,エルミートはeが超越数であることを証明しました.これに対して,πが無理数であることを示したのはランベルト(1761年)であり,最終的にリンデマンがπが超越数であること証明しました(1882年).リンデマンはエルミートの方法を発展させ,πの超越性を示したのです.
 
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 なお,2<e<3は次のようにして示すことができます.
 
(証) n!=1・2・3・・・n>1・2・2・・・2=2^(n-1)
より,
  e=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・<1+1+1/2+1/2^2+・・・+1/2^(n-1)=3
  2<eは明らかである.
 
(問)n→∞のとき,数列 Sn=1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n! が,数列 Tn=(1+1/n)^n と同じ極限eに収束することを示せ.
 
(証)2項定理により,
  Tn=1+n・1/n+n(n-1)/2!・1/n^2+・・・+n!/n!・1/n^n
   =1+1+(1-1/n)・1/2!+・・・+(1-1/n)(1-2/n)(1-(n-1)/n)・1/n!
 n→∞のとき
  Tn→1+1/1!+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・=e
 
 分母の階乗の値が急速に増大するため,数列Snは非常に速く収束しますが,数列Tnの極限値を直接計算するのは収束が遅くて非効率的です.
 
[補]ド・モンモールの問題
 n個の宛名を書いた封筒にn個の手紙を無作為に入れるとき,すべての手紙がその宛名と違う封筒に入る確率は,
  1−1/1!+1/2!−・・・+(−1)^n1/n!
n→∞のとき,
  (1−1/n)^n → 1/e=0.3678・・・
に近づく.
 
[補]シュタイナーの問題
 y=x^(1/x)の最大値を求めよ.
y’=(1−logx)x^(1/x-2)より,y=x^(1/x)は,x=eのとき,最大値e^(1/e)=1.4446・・・をとる.
 
[補]オイラーの問題
 xが[e^(-e),e^(1/e)]=[0.0659・・・,1.4446・・・]の間にあるとき,y=x^x^x^x^x・・・が,ある極限に近づくことをオイラーが示した.e^(1/e)=1.4446・・・は1より大きいことに注意.無限大に発散しないのであろうか?
 
[補]階乗進法
 階乗進法表記を()fで表すことにすれば,オイラーの数eに対する表記は,
  e=2+1/2!+1/3!+・・・+1/n!+・・・=(10.111・・・)f
また,
  cosh(1)=(1.010101・・・)f
  sinh(1)=(1.101010・・・)f
より,
  cosh(1)+sinh(1)=(10.111・・・)f=e
 
 なお,大平氏によると,10進法から階乗進法へのエンコード・デコードによって,すべての順列を生成するプログラムを作成することができるとのことでした.
 
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【2】調和級数と調和数
 
 幾何級数
  1/1+1/2+1/4+1/8+・・・
は2に収束します.無限回の計算は不可能ですからそのn次部分和Sn
  Sn =1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2^(n-1)
を求めてみることにします.これを計算するにはうまい手があります.
 
  Sn +1/2n-1
 =1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2^(n-1)+1/2^(n-1)
 =1/1+1/2+1/4+1/8+・・・+1/2^(n-2)
 =・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 =1/1+1/2+1/4+1/8+1/8
 =1/1+1/2+1/4+1/4
 =1/1+1/2+1/2
 =1+1
 =2
 
 よって,
  Sn =2−1/2^(n-1)
nをどんどん大きくすると1/2^(n-1)はいくらでも小さくなり0に近づきますから,幾何級数は2に収束すると考えられます.この級数は各項の減少する割合が非常に大きいため単純な数に収束するのです.
 
 一般化された幾何級数
  g(s)=Σ1/s^n
は|s|>1のとき収束し,和g(s)=1/(s−1)をもつことはすぐに理解されます.
 
 一方,調和級数
  H∞=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・
は,はじめの1000項で7.485,100万項で14.393,10億項で21.3,1兆項で28.2と非常にゆっくりとですが大きくなり,ついには無限大に発散します.調和級数が発散することは容易に示すことができます.
 
 1/3+1/4>1/4+1/4=1/2
 1/5+1/6+1/7+1/8>1/8+1/8+1/8+1/8=1/2
 ・・・・・
したがって,
  H∞>1+1/2+1/2+1/2+1/2+・・・→∞
 
 幾何級数と調和級数とは,だんだん小さくなる正の分数の足し算という点では似ていますが,後者ではちりが積もって山となるわけで,その無限の果てにあるものは全く非なるものです.
 
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 調和級数Hn=Σ(1/n)は非常にゆっくりとですが大きくなり,ついには無限大に発散すること,すなわち,
  1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n〜logn→∞
は容易に示すことができました.
 
 ここで,n番目の調和数を
  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n
と定義すると,H1=1,H2=3/2,H3=11/6,・・・,H∞=∞となります.それでは,・・・
 
(問)n>1ならば,Hn は整数にはならないことを示せ.
 
 たとえば,分母が2のべき乗になっている項のうちで,その指数が最大のものを考えると,それと組になる項がどこにもありません.このことから,Hnは分子が奇数で,分母が偶数の分数になるのですが,このことをきちんとした形で書いてみましょう.
 
(証)2^k≦nとなる最大の指数をk,Pをn以下のすべての奇数の積とすると,
  2^(k-1)PHn
 =2^(k-1)P(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n)
は,2^(k-1)P/2^k以外の項はすべて整数となる.
 
 なお,これと類似の問題としては,
  a) 1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n
は決して整数にはならない   (タイシンガー,1915年)
  b) 1/(a+1)+1/(a+2)+・・・+1/(a+n)
は決して整数にはならない   (クルシュチャク,1918年)
  c) 1/(a+d)+1/(a+2d)+・・・+1/(a+nd)
は決して整数にはならない   (エルデシュ,1932年)
などがあげられます.
 
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【3】ゼータ関数
 
 ところで,
  Sn=Σ1/n^2=1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・+1/n^2
が整数にならないことを示すのは,上の問題よりも簡単です.そもそも1<Σ1/n^2<2なのですから整数でないことは自明なのですが,上と同様にやってみましょう.
 
(証)2^k≦n^2となる最大の指数をk,Pをn以下のすべての奇数の積とすると,
  2^(k-1)P^2Sn
 =2^(k-1)P^2(1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・+1/n^2)
は,2^(k-1)P^2/2^k以外の項はすべて整数となる.
 
 Σ1/n^2 =1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・
が収束することは1/n^2<1/(n−1)nを用いて,次のようにして示すことができます.
 
(証)n次部分和をPn とすると,
  Pn =1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・+1/n^2
<1+1/1・2+1/2・3+・・・+1/(n−1)・n
=1+(1/1−1/2)+(1/2−1/3)+・・・(1/(n−1)−1/n)
=2−1/n<2
より,単調増加数列{Pn }は有界でn→∞のとき収束することがわかります.
 
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 興味をそそり胸をわくわくさせるのは,収束する無限級数がいったいどんな数値に収束するのかという点です.幾何級数や調和級数などの無限級数は初等的で簡単に証明可能でしたが,18世紀最大の数学者オイラーが1736年に発見した結果はエレガントなだけでなく意外なものでした.その無限級数とは調和級数を拡張させた
 
 1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6
 
です.この式の驚くべき点は自然数のみを含む級数の極限に円周率πが突然現れることです.実際,この足し算をいくら見つめても答えに円周率の現れそうな気配はまったくありません.
 
 1728年にベルヌーイはこの和が8/5に近いと述べ,その後,オイラーは何年もこの足し算にとりつかれ大変な努力の末にこの値を求めましたが,π^2/6であることをつきとめたとき,平方数の逆数和のかなたに円周率が浮かび上がる不思議にとても感動したようです.
 
 オイラーの無限級数和Σ1/n^s はsの関数とみるとき,ゼータ関数ζ(s)として知られており,ゼータ関数は調和級数
  ζ(1)=H∞=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・=∞
を一般化したものと考えることができます.
 
 ゼータ関数を用いると
 1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2/6=ζ(2)
と表されます.以下,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945が続きます.
 
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【4】無名の数学者アペリの証明
 
 ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.(有理数と円周率から四則演算によって得られる数ではないだろうと予想されているが,証明されてはいない.また,log2を含むであろうと推測される.)
 
 つい最近までζ(3)は有理数になるかもしれないと思われていたのですが,ところが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.
 
 アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,連分数展開
  6/ζ(3)=5-1^6/(117-)2^6/(535-)n^6/(34n^3+51n^2+27n+5)-・・・
を使いました.ζ(3)が無理数ならば,連分数展開は無限列となります.
 
 興味深いのは,アペリの証明が最先端の研究結果を使ったものではなく,オイラーが解決していたとしても不思議はないとされるような200年前にはすでにわかっていた定理や手法のみでの証明だったことです.
 
 ζ(3)が無理数であるという証明が発表されたとき,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となったそうですが,アペリは非常に話し下手であり,参加者の多くは半信半疑というよりは懐疑的であったと伝えられています.アペリはマイナーな数学者とされていますが,今から考えると当時主流だった秀才数学者集団,ブルバキに押しつぶされた個性豊かな人物だったようです.
 
 ζ(3)はいまだ無理数であることしかわかっておらず,オイラーによる
  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
という結果(log2の有理式×π2)があるばかりです(1772年) .
 
 いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.
 
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[補]ζ(3)が無理数であることの簡明な別証は「無理数と超越数」塩川宇顕(共立出版)参照
 
[補]有名ではないが,次のようにゼータ関数に帰着する無限級数展開も知られている.
  3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)
  12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)=ζ(2)
  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)
なお,ここでは,nCkのことを(n,k)を書いている.
 
 さらに,
  36/17ζ(4)
と予想されているが,この式は解析的には未証明である.トライしてみたところ,
  Σ1/n^4(2n,n)=1/2*5F4(1,1,1,1,1|1/4)
             (3/2,2,2,2|  )
  ζ(4)=5F4(1,1,1,1,1|1)
         (2,2,2,2 | )
 以上より,与式の両辺は同じ形の超幾何関数5F4になるところまではわかったものの,これから先が一向に進まなかった.
 
[補]log2=1−1/2+1/3−1/4+1/5−・・・
   π/4 =1−1/3+1/5−1/7+1/9−・・・ 
 
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【5】ゼータ関数と素数
 
 調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること,
  Hn=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n〜logn→∞
は容易に示すことができましたが,奇数項だけを集めて作った級数
  1/1 +1/3 +1/5 +1/7 +・・・
 >1/2+1/4+1/6+1/8+・・・
 =1/2(1/1+1/2+1/3+1/4+・・・)→∞
同様に,偶数項だけ集めて作った級数も収束せず無限大に発散します.
 
 それでは,素数の逆数の和
  Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・
は有限でしょうか?
 
(証)ゼータ関数ζ(s)は次のように書き換えることができます.
 ζ(s)=1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・
     =(1+1/2^s+1/4^s+1/8^s+・・・)(1+1/3^s+1/9^s+・・・)(1+1/5^s+・・・)・・・
     =1/(1−2^(-s))・1/(1−3^(-s))・1/(1−5^(-s))・1/(1−7^(-s))・・・
     =Π(1−p^(-s))^(-1)   (但し,pはすべての素数を動く.)
 
  1+x+x^2+x^3+・・・=1/(1−x)
にx=1/p^s を代入したものを,Π(1−p^(-s))^(-1)に代入して積を展開すると,自然数の素因数分解の一意性から,ζ(s)=Σ1/n^s となることがおわかりいただけるでしょうか.
 
 この式の右辺は,すべての素数にわたる無限積であり,このような関係から,自然数全体についての和
  ζ(s)=Σ1/n^s
の話が素数全体についての積
  Π(1−p^(-s))^(-1)
の話になります.Π(1−p^(-s))^(-1)はオイラー積と呼ばれ,ゼータ関数と素数の間をつなぐ式になっています.
 
 調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示するとΠ(1−1/p)^(-1)と書けますから,
  Π(1−1/p)^(-1)〜∞.
また,logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p).1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)ですから,Σ(1/p)=∞になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.
 
 1737年,オイラーはこのようにして素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.逆に,このことから,素数が無限個あることは簡単にわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数Σ(1/n^2 )=π^2 /6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.
 
 さらに,このことを詳しく調べると,
  Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)
すなわち,
  1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・+1/n〜loglogn→∞
などがわかってきます.log(logx)は1/(xlogx)の原始関数です.
 
 Σ(1/p)はxに近い整数について,その素因数の個数の近似値を与えるもので,なお,これらの式から
  Σlog(1−1/p)〜−log(logx)
がでますが,両辺の指数をとると前にあげた
  Π(1−1/p)〜1/logx
が得られます.
 
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[補]有名なオイラーの証明
 
 オイラーの証明は,Σ(1/p)=∞,すなわち,素数が無限にあることを
  ζ(1)=1/1 +1/2 +1/3 +1/4 +・・・=∞
であることを用いて証明したものでしたが,
  ζ(2)=1/1^2+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・=π^2 /6
が無理数であることを用いても,素数が無限にあることを簡単に証明することができます.
 
(証)ζ(2)=Σ1/n^2=Π(1−p^(-2))^(-1)において,素数が有限個とすれば,ζ(2)は有限個の(1−p^(-2))^(-1)の積となり,有理数となる.
 
 同様に,ζ(3)が無理数であれば素数は無限にあることがいえます.しかし,この逆,すなわち,素数が無限にあるからといってζ(3)は無理数であるとはいえないのです.
 
 ところで,オイラーはいろいろな工夫をして,
  log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
であることをつきとめ,広義積分
  ∫(0,π/2)log(sinx)dx=-π/2log2
の値を求めています.また,これを代入して計算すれば
  1/1^3+1/3^3+1/5^3+・・・=π^2/4log2+2∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
が得られます(1772年).
 
 このとき,
  1+1/3^3+1/5^3+1/7^3+・・・
の値が必要になりますが,この値はζ(3)=Σ1/n^3 から次のようにして求まります.
  1+1/2^3+1/3^3+1/4^3+・・・
 =(1+1/2^3+1/4^3+・・・)(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
 =1/(1−1/8)・(1+1/3^3+1/5^3+・・・)
より,分母を奇数のベキ乗だけにすると一般式は
  {1-2^(ーs)}ζ(s)
 
 さらに,
  1/1^s−1/2^s+1/3^s−1/4^s+・・・
 =2(1/1^s+1/3^s+1/5^s+1/7^s+・・・)−(1/1^s+1/2^s+1/3^s+1/4^s+・・・)
より,+,−が交互に出現すると一般式
  {1-2^(1ーs)}ζ(s)
を得ることができます.
 
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【6】素数定理とエラトステネスのふるい
 
 オイラーの関数φ(d)は1からd−1までの整数のうち,dと互いに素になるものの個数として定義されます.たとえば,d=7の場合1,2,3,4,5,6なのでφ(7)=6,d=10の場合1,3,7,9がそうなのでφ(10)=4となります.
 
 1は素因数をもたないため,φ(1)は意味をなしませんが,特別にφ(1)=1と定義されます.
  φ(1)=φ(2)=1,
  φ(3)=φ(4)=φ(6)=2,
  φ(5)=φ(8)=φ(10)=4,
  φ(7)=φ(9)=6
 
 1760年頃,オイラーは,数nが素因数p,q,r,・・・をもつときに,それらの重複度にかかわらず,
  φ(n)=n(1−1/p)(1−1/q)(1−1/r)・・・
であることを示しました.
 
 この原理は「エラトステネスのふるい」によっているのですが,たとえば,10=2・5,44=2^2・11,100=2^2・5^2より,
  φ(10)=10(1−1/2)(1−1/5)=4
  φ(44)=44(1−1/2)(1−1/11)=20
  φ(100)=100(1−1/2)(1−1/5)=40
また,任意の素数pに対して,
  φ(p^n)=p^n(1−1/p)
したがって,
  φ(p)=p(1−1/p)=p−1
となります.
 
 また,
  n=φ(p)+φ(q)+φ(r)+φ(pq)+・・・+φ(pqr)+・・・
が成り立ちます.すなわち,どんな数nもすべての約数のオイラー関数を足し合わせた値と一致するのです.
 
 なお,dと互いに素な任意の整数mに対して,
  m^φ(d)=1   (mod d)
が成り立つことを主張しているのが,オイラーの定理です.オイラーの定理はフェルマーの小定理
  a^(p−1)=1   (mod p)
も一般化したものとなっています.さらに,その後,ガウスとカーマイケルによって,オイラーの定理の一般化がなされました.
 
 pが素数ならば,フェルマーの小定理により
  a^p=a   (mod p)
ですが,その逆は成り立ちません.nと互いに素であるすべてのaに対して,
  a^n=a   (mod n)
が成り立つ合成数は,カーマイケル数(完全擬素数)と呼ばれます.
 
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 さて,π(x)をx以下の素数の個数とすると
  π(x)〜x/logx   (x→∞)
は1896年,フランスの数学者アダマールとプーサンによって証明され,素数定理として知られています.
 
 素数定理をエラトステネスのふるいという初等的な方法を用いて,ラフなスケッチ程度に誘導してみましょう.xまでのすべての整数うちで,奇数,すなわち2で割れない数は大体半分(1−1/2)あります.奇数のうちで,3で割り切れない数は2/3=1−1/3あります.さらに,残っている数のうち,5で割り切れない数は1−1/5あります.したがって,xを越えない素数の個数はこれらの積をすべての素数pにわたってとればよいことになり,近似的に
  Π(1−1/p)・x
に等しくなります.さらに,Π(1−1/p)は近似的に1/logxに等しくなります(前節参照).ただし,これをきちんとした形で証明するのは微積分を使っても容易ではありません.専門的で,ここで説明することはできそうにありませんから,天下り式に結果だけを示しておきます.このことを認めれば,素数定理π(x)〜x/logxが導出されたことになります.
 
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【7】超越数
 
 古代ギリシャのピタゴラス学派は√2や黄金比を発見し,それらが有理数ではないことを知って驚きましたが,超越数の研究が本格的に始まったのは,1844年,リューヴィルによる超越数の発見以後のことです.
 
 リューヴィルは
  2^(-1!)+2^(-2!)+2^(ー3!)+・・・+2^(-n!)+・・・
が超越数であること,すなわち,超越数の存在をはじめて示したのです.後にカントールは,ほとんどの数は超越数であることを証明しています.
 
 1873年,エルミートは
  e=1+1/1!+1/2!+・・・+1/n!+・・・
が超越数であることを証明しました.これはリューヴィル数のような人為的に作った数ではない最初の超越数です.
 
 リンデマンは,エルミートの方法を一般化して,πの超越性を証明するのですが,リンデマンの定理(1882年)より,
  e,π,e^(√2),e^α,log2,logβ
   (α,βは代数的数で,α≠1,β≠1)
の超越性が導かれます.
 
 πは超越数ですから√πも超越数なのですが,したがって,√πは代数方程式の解とはなりえず,ギリシャの三大作図問題のひとつ,円積問題(円の正方形化問題)は作図不能となるのです.また,これにより,指数関数:y=exp(x)は,点(0,1)を除き代数的点を通ることができないことになるのですが,指数曲線や対数曲線が超越曲線と呼ばれる所以です.
 
 1900年,ヒルベルトはパリの国際数学者会議において,2^(√2)が超越数であるかどうかを当時の数学の問題のひとつとしました(ヒルベルトの第7問題).この問題は,「0または1でない代数的数αと有理数でない代数的数βに対し,α^βが超越数であることを示せ」というものですが,1934年,ゲルフォントとシュナイダーによって独立に,肯定的に解決されました.
 
 その結果,
  2^(√2),e^π,α^β,log102,logba
がいずれも超越数であることが判明しました.なお,
  e^π=(-1)^(ーi)
は,ゲルフォント・シュナイダーの定理によって超越数なのですが,
  π^e,π^π,e^e
は有理数かどうかもわかっていませんし,π+eは無理数かどうかも知られていません.
 
 ついでに述べますと,1929年,マーラーは
  2^(-2^1)+2^(-2^2)+2^(ー2^3)+・・・+2^(-2^n)+・・・
の超越性を示し(マ−ラーの定理),さらに1961年には,自然数を順に並べて得られる正規10進法小数(チャンパーナウン数)
  0.12345678910111213・・・
が超越数であることを示しました.
 
 また,Γ(1/2)=√πは超越数ですが,ネステレンコの定理より,
  Γ(1/3),Γ(1/4)
も超越数であることが導かれます.
 
 この辺の話を詳しく知りたい方には「無理数と超越数」塩川宇顕(共立出版)をお勧めします.
 
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[補]ヒルベルトの推測に反して
 
 数学の巨人と称されるヒルベルトは,ポアンカレを議長とする1900年の国際数学者会議で「数学の諸問題」という講演を行っています.ヒルベルトのあげた23の問題は数学のほとんど全分野にわたっていて,彼自身の研究と密接に関連しています.そのなかで,数学の発展をもたらした問題の例として,最速降下線の問題,フェルマーの問題,三体問題,正多面体の問題,代数関数論におけるヤコビの逆問題などをあげていますが,フェルマーの問題がまったく純粋な思考の産物であるのに対して,三体問題は天文学上の必要性から生じたもので好対照をなしています.
 
 第7問題が2^(√2)やe^πの超越性を問うものです.その後,1919年に,ヒルベルトは数学の難問について講義し,2^(√2)やe^πの超越性の証明はリーマン予想やフェルマー予想を解くよりはるかに難しいと考えたのですが,e^πは1929年に,2^(√2)は1934年に超越数であることが証明されました.
 
 ζ(s)の零点がs=−2,−4,・・・,−2nとs=1/2+tiの線上にあるというのが有名なリーマン予想ですが,ヒルベルトは,「リーマン予想は私が生きているうちに解決され,フェルマー予想は長らく未解決のままであろう」と述べたといわれています.
 
 360年ものあいだ未解決の数学的難問であったフェルマー予想は,1994年,ワイルスによって証明されました.しかし,ヒルベルトの推測に反し,リーマン予想は依然としてデッドロック状態にあります.
 
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【8】ミツウロコの問題(三角形はいくつある?)
 
 口の字には四角形が1個ありますが,田の字には小さい四角形が4個と大きい四角形が1個で,合計5個の四角形があります.さらに,囲の字には小さい四角形が9個,中位の四角形が4個,大きい四角形が1個で,合計14個の四角形があります.
 
 次数 1  2    3    4      5
    □  □□  □□□  □□□□  □□□□□
       □□  □□□  □□□□  □□□□□
           □□□  □□□□  □□□□□
                □□□□  □□□□□
                      □□□□□
 
 さらに次数を増やすと,四角形の合計は
  1→5→14→30→55→・・・
と増えていくのですが,この数列が
  1^2+2^2+3^2+・・・+n^2=1/6n(n+1)(2n+1)
で表されることは容易に理解されるでしょう.
 
 ところで,息子・耕太郎(当時,小学1年生)の宿題に,ミツウロコ文様
   △
  △▽△
が描かれていて,すべての三角形(下向きの三角形も含む)を数えると何個あるかという問題をみつけました.息子はミツウロコのことをトライフォースと呼んでおりました.4つの三角形という意味だと思われますが,多分,アニメ(漫画?)ではそう呼ばれていたのでしょう.ちなみに,息子の答えは,大きな三角形を数えもらしていたため,4個となっておりましたが,5個が正解です.
 
(問)△,▽を三角形状に積み上げて次数nのミツウロコ文様を作る.三角形はいくつ?
 
 次数 1  2    3      4        5
    △  △    △      △        △
      △▽△  △▽△    △▽△      △▽△
          △▽△▽△  △▽△▽△    △▽△▽△
                △▽△▽△▽△  △▽△▽△▽△
                        △▽△▽△▽△▽△
 
 求める数は
  1→5→13→27→48→78→118→・・・
と増えていきますが,一般項はどのように表されるのでしょうか? 口,田,囲の場合と同じように考えようとすると,なかなか一筋縄ではいかない問題であることがわかります.
 
 階差をとるとその理由が見えてくるのですが,
 
      1→5→13→27→48→78→118→・・・
 第1階差  4→8 →14→21→30→40→・・・
 第2階差   4 →6 →7 →9 →10→・・・
 第3階差     2 →1 →2 →1 →・・・
 
 第3階差では2と1が交互に繰り返しているので,この数列は1つの多項式で表せず,その答えも交互に2つの式で表されることになります.
 
(答)
  nが偶数のとき,1/8n(n+2)(2n+1)
  nが奇数のとき,1/8{n(n+2)(2n+1)−1}
 
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