■幾何の問題
約2000年に及ぶユークリッド幾何学(放物線幾何学)の時代を経て,17世紀以降,ボヤイ・ロバチェフスキー幾何学(双曲線幾何学),リーマン幾何学(楕円幾何学),射影幾何学,位相幾何学などいろいろな考えに基づく種々の幾何学が続々と誕生しました.このような細分化の一方で,近年,(古典)幾何学の果たす役割は小さくなってきているといわれていますが,幾何学についてもう一度見直してみることは意味のあることでしょう.
今回のコラムは,簡単な演習問題を通して,幾何学におけるいろいろな問題をわかりやすく論じたものにしました.読者を幾何学の深遠にまで導くことはできませんが,なかには筆者のオリジナルでお気に入りの証明法も含まれています.これらは,数学愛好家のみなさんにも大いに参考となると考えています.
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■ユークリッド・非ユークリッド幾何から
正多角形は無限に多く存在しますが,それでは,「互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?」この問題は昔から知られていて,それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます.
正多角形の中で平面をタイル張りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では,各頂点に正p角形がq面が会するとすると,正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり,一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから,
2q(1−2/p)=4,すなわち,
1/p+1/q=1/2 (p,q≧3)
で,この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません.したがって,平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3つだけです.このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.
2次元の平面の中に正多角形は無限に多くあるのに反して,3次元の空間には無限に多くの正多面体は存在しません.平面充填形は,面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますが,平面充填形の場合と同様にして,正多面体の各面を正p角形,各頂点にq面が会するとすると,頂点の周囲は4直角未満ですから,不等式
2q(1−2/p)<4,すなわち,
1/p+1/q>1/2 (p,q≧3)
(p−2)(q−2)<4
が正多角形となる必要条件です.このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solod)とも呼ばれています.
【問】3種類の平面充填形のうち,どの隣接する2面も同じ色でないように,黒と白の市松模様に塗ることができるのはどれか?
(ヒント)これが可能なためには,1つの頂点で偶数の面が交わらなければならない.すなわち,qは偶数.
【問】プラトン立体のうち,どの隣接する2面も同じ色でないように,黒と白で塗ることができるのはどれか?
(答)正八面体
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以上は,平面(空間)を合同な多角形で埋めることを考えたものですが,次に,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.
【問】Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?
(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,
α=π/a ただし,aは2以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
β=π/b,γ=π/c
また,α+β+γ=πより
1/a+1/b+1/c=1
この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると
(3,3,3) → 正三角形
(4,4,2) → 直角二等辺三角形
(6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形
の3種類が得られる.
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以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.
α+β+γ>π,=π,<π
すなわち
1/a+1/b+1/c>1,=1,<1
に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.
1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組みたす(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.
すなわち,楕円的平面では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.
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■射影幾何から
2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される曲線を平面代数曲線と呼びます.f(x,y)=0が2次式の場合,その一般式は,
ax2 +hxy+by2 +cx+dy+e=0
のごとく,項数6の多項式として書くことができます.2次曲線には楕円,放物線,双曲線があり,それらは円錐(必ずしも直円錐でなくてよい)を平面で切断したときの切り口として現れる一群の曲線,すなわち円錐曲線です.
同様に,3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線です.3次曲線の例としては,ディオクレスのシッソイド(x3 +xy2 =y2 )があげられますが,これは古代ギリシアにおいて立方体倍積問題に用いられた曲線です.また,
y=x3 +x2 +x+1
y3 =xy2 −2x2 y+y−3
なども3次曲線で,一般式の項数は10になります.そこで,・・・
【問】平面内n次曲線f(x,y)=0の一般式の項数は?
(答)3Hn=n+2Cn=(n+2)(n+1)/2
平面内の2次曲線や空間内の2次曲面の分類はよく知られていて,高校で習うところです.2次曲線の分類については,3種類の円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線になることは既に述べたとおりですが,「無限遠点」「無限遠直線」を導入した射影平面上では,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,円錐曲線はただ1種類しかありません.なぜなら,違いは無限遠直線の選び方(無限遠直線と交わらない,接する,交わる)にあるだけであって,どれも同種の曲線と考えることができるからです.また,2次曲面f(x,y,z)=0は楕円面,一葉双曲面,二葉双曲面,楕円放物面,双曲放物面のどれかに分類されます.
さらに,同じことをもっと高次の曲線・曲面に対して考えるのは自然なことでしょう.3次曲線の分類には,2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されましたが,ニュートンは3次曲線の分類を試みた最初の人であり,可能な78の形式のうち72を得ています.ニュートンはこうした研究を応用して,2次曲線上の5点,3次曲線上の7点が与えられた場合にこれを作図する方法を見いだしています.後に,あらゆる場合を考察して,最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であること,さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することが示されています.また,3次曲面f(x,y,z)=0には無数に多くの直線がのっているか(その場合には線織面と呼ばれる),そうでなければ,高々27本の直線しか含まないことが証明されています(サルモン,1884年).
4次曲線(項数15)とか5次(項数21)以上の高次曲線も考えることができますが,1900年当時まで,5次曲線までと3次曲面までのトポロジカルな分類は既に知られていたようです.
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射影幾何学とは,長さや角の大きさに無関係に,例えば,いくつかの点がある直線上にあるといった関係,射影によって不変な図形の性質を研究する学問です.「無限遠点」「無限遠直線」を導入した射影平面上では,円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となります.
また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.パスカルの6角形定理:
「円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.」
を例にあげて説明してみましょう.
パスカルはこの有名な共線定理をわずか17才の時に発見したのですが,これは射影幾何学の基本定理の一つになっています.パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.また,パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの6辺形定理です.
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■位相幾何から
位相幾何学(トポロジー)とは形には関係しないで,接触・分離にだけ関係する不変な図形の性質(位相不変量)を研究する学問です.その代表的な例がオイラー・ポアンカレの定理です.まずは,次の問題を解いてみましょう.
【問】3次元立体では,必ず頂点に結合する辺の個数が3の頂点か3角形の面をもつことを示せ.
(答)n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,
i)Σnfn=Σnvn
ii)Σf2n+1は偶数
iii)v3+f3>0
を順に示していきます.
(答)各辺は2個の頂点をもつから,Σnvn=2E
また,各辺では2枚の面が交わるからΣnfn=2E
(答)i)より,Σ(2n+1)f2n+1=(偶数)
したがって,Σf2n+1も偶数
(答)E=Σen,V=Σvn,F=Σfn,Σnfn=Σnvn=2E
もしv3=0,f3=0ならば,
2E=4v4+5v5+・・・≧4V 同様に,2E≧4F
これより,V−E+F≦E/2+E/2−E=0
これはオイラーの多面体定理:V−E+F=2に矛盾するから,
v3,f3のうち,少なくとも1つは0でない.
さらに,オイラーの多面体定理で示される制限から,単一の凸n角形で平面を敷き詰めるものはn≧7では存在しないこと,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつこと,また,3次元では14以上の凹面細胞をもつことは許されないことなどが導き出されています.
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凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.
量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,
頂点の数−辺の数+3角形の数
は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.例えば,平面図形(多角形)は,1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となり,また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は2−2gとなることはよく知られています.
オイラーの多面体定理を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理です.オイラー数はベッチ数の交代和
v−e+f−g+h−i+・・・
に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容ですが,ベッチ数とは,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数のことです.
オイラー・ポアンカレの定理をn次元単体について証明してみましょう.
線分と三角形および四面体は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.これらの数をまとめて書くと
2,1
3,3,1
4,6,4,1
ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5面,5胞(正5胞体)になります.
これより,n次元単体についてはv=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・ですから,
v−e+f−g+h−i+・・・=1±1
すなわち,オイラー標数は,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることが理解されます.
単体でなくとも、オイラー・ポアンカレの定理は成立し,たとえば,2次元凸多角形に対するオイラー・ポアンカレの定理は,
v−e=0
ですから,n角形は必然的にn辺形になります.また,二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が,四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類あります.胞の個数をcで表すと,4次元空間では,
v−e+f−c=0
というオイラー・ポアンカレの定理が成り立っています.
なお,偶数次元と奇数次元とでの同様の交代性は,超球の体積にも現れます.n次元単位超球{x12+x22+・・・+xn2≦1}の体積をvnとすると,v1=2(直径),v2=π(面積),v3=4π/3(体積)はご存知でしょうが,vnは漸化式:
vn/vn-2=2π/n
によって求めることができます.そして,任意のnに対して,
vn=2(2π)^((n-1)/2)/n!! nが奇数の場合
vn=(2π)^(n/2)/n!! nが偶数の場合
であり,1次元から6次元までを具体的に書けば,
vn=2,π,4π/3,π2/2,8π2/15,π3/6
という具合に,πのべき乗は偶数次元になるたびに1つあがります.
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■単体のn次元幾何から
平面図形の中で3本またはそれ以上の直線が1点で交わっていることを主張する定理が共点定理です.三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,たとえば,三角形の各頂点から対辺に引いた3つの中線や垂線は1点に会するなど,三角形の5心の存在は共点定理の例となっています.
一方,3点あるいはそれ以上の点が一直線上にあることを主張する定理は共線定理と呼ばれます.たとえば,三角形の外心と重心と垂心はその順番に一直線上に並んでいて,外心と垂心を結ぶ線分が重心によって1:2に内分されています.この共線はオイラー線と呼ばれています.
また,フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接するなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことです.
ところで,線分と三角形および四面体(三角錐)は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形ですが,次元数nより1つ多い(n+1)個の頂点によって作られる図形をシンプレックス(単体)と呼びます.線分は1次元単体,三角形は2次元単体,三角錐は3次元単体とも呼ばれます.この節で取り上げるのは,幾何学の基本形である三角形・四面体とその高次元幾何学についての問題です.
【問】辺の長さが2の正三角形に,その頂点を中心とする3つの単位円板を置くと,中にできる隙間には半径√3×2/3−1の円を入れることができる.さて,辺の長さが2の正四面体に単位球を4個置くと,その隙間に入れることのできる球の半径は?
(答)半径√6/2−1の球を入れることができる.
(ヒント)三角形の3つの中線は一点で交わります.この交点が三角形の重心です.原点Oに対する三角形ABCの3頂点A,B,Cの位置ベクトルをそれぞれa↑,b↑,c↑とすれば,重心の位置ベクトルは(a↑+b↑+c↑)/3となります.三角形の形をした均一な板の重心は3つの中線の交点,すなわち重心にあります.この点(一様な三角形の重心)は3つの頂点の重心(a↑+b↑+c↑)/3,すなわち三角形の頂点におかれた3つの等しい質量の中心(物理的重心)に一致します.
一方,四面体ABCDの3組の相対する辺の中点を結ぶ直線は1点で交わり,この交点の位置ベクトルは(a↑+b↑+c↑+d↑)/4となります.三角形と同様に,一様な四面体の重心はその4つの頂点の重心(a↑+b↑+c↑+d↑)/4と一致します.一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあります.4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく同様に類推されます.三角形の重心の性質は四面体に遺伝するのです.
n次元の幾何学の例をもう一つあげると,三角形の面積は底辺かける高さ割る2ですが,三角錐になると底面積かける高さ割る3,四次元の三角錐なら底体積かける高さ割る4,五次元なら底四次元面積かける高さ割る5・・・.高次元の多面体ではこのようになることが知られています.
【問】n次元単体では半径
√{2/(1+1/n)}−1
のn次元超球が詰められることを示せ.
(ヒント)ベクトルを利用すると簡単に解答を与えることができる.
n-1H2=n+1C2,(√n+1C2)×2/(n+1)−1=?
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上の問題の答は,n→∞の極限でr=√2−1になりますが,ところで,辺の長さが2の正方形に,その頂点を中心とする4つの単位円板を置くと,4つの円板で囲まれた部分に,第5の小さな円を入れることができます.ピタゴラスの定理によって第5の円の半径は√2−1だとわかります.これと同じことを3次元空間で行ってみましょう.辺の長さが2の立方体の8つのカドに単位球を8個置くと,中にできる隙間に第9の小さな球を入れることができ,第9の球の半径は√3−1となります.n次元では半径√n−1のn次元超球が詰められるのです.
しかし,ここの驚きが潜んでいます.たとえば,n=9の場合,中に詰められるn次元超球の半径は√9−1=2であり,この球は外側の立方体の表面に接してしまい,n>9だとはみ出してしまうのです.この驚くべき結論は,日常生活ではありえないだけに面食らってしまいます.
球の詰め込みに関するこのはみ出し現象は,モーザーのパラドックスとして知られているものですが,このように,高次元はいくつかのパラドックスの源泉になっていて,しばしばたちの悪い現象が起こるのです.
前述したn次元超球とn次元超立方体の関係についても考察してみましょう.n次元ユークリッド空間において,1辺の長さが1の立方体をn次元単位立方体といいます.その体積は1ですが,もっとも離れた2頂点を結ぶ対角線の長さはn次元ユークリッド空間の距離の定義から
√12+12+・・・+12=√n
となります.したがって,次元nが大きくなると対角線の長さはどんどん大きくなり,ついには地球でさえ含むことができるようになります.
それに対して,n次元単位球はどんなに次元が高くても,長さが2より大きな線分を含むことはできません.また,n次元単位球の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,超球の体積はn=5のとき最大8π2/15=5.2637・・・となり,以後は減少します.そして,不思議なことに,単位球の体積はn→∞のとき0に収束するのです.
n Vn
1 2
2 3.14
3 4.19
4 4.93
5 5.263
6 5.167
7 4.72
8 4.06
9 3.30
10 2.55
また,このことから,n次元超立方体[-1,1]n(体積2^n)において,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.単位超球を超立方体中に置くと,次元が大きくなるにつれて隙間がより大きくなるのです.
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【問】平面上に3つの定点A,B,Cがある.この平面上に点Pをとって,AP+BP+CPが最小になるようにせよ.
(答)この問題はフランスの数学者フェルマーがイタリアの物理学者トリチェリに出題したものとして有名な問題で,求める点Pをフェルマー点といいます.点Pは三角形ABCの内部にありますが,∠A,∠B,∠C<120°のときには,3頂点に至る距離の和が最小となる点は3辺を等角120°に見込む点です.∠A,∠B,∠Cのいずれかが≧120°のときには,それぞれ頂点A,頂点B,頂点Cになります.
微分積分の入門書に「平面上に3つの定点A,B,Cがある.この平面上に点Pをとって,AP2 +BP2 +CP2 が最小になるようにせよ」という問題が偏導関数の応用例として載せられています.その点Pは重心です.3定点が4定点であっても,同じ議論になるのですが,距離の2乗の和に特に具体的な意味があるようには思えません.むしろ,2乗を取り去ったほうが問題としては自然です.たとえば,「A,B,C3軒の家に電線をひきたい.電線の長さを最小にするにはどこの柱を立てればよいか」ではAP+BP+CPを最小にする実用価値のある問題になります.このような最短配線問題は最小木問題(問題の発案者シュタイナーに因んで最小シュタイナー木問題)と呼ばれていますが,VLSI回路を設計するときの最も基本的な技術となっています.
なお,三角形の内心は3辺への距離のうちで一番小さいものが最大となる点(マックスミニ点),外心は3頂点に至る最大距離が最小となる点(ミニマックス点)です.同様に,垂心は三角形に内接する三角形の周長が最小になる点,重心は3頂点に至る距離の2乗の和が最小となる点です.
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【問】任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとする.外接円の半径Rおよび内接円の半径rをa,b,c,Δで表せ.また,与えられた三角形が直角三角形のときのR,rをa,b,cの一次式で表せ.
(ヒント)正弦定理
【問】R≧2rを証明せよ.等号が成り立つのはどのようなときか.
(ヒント)外接円と内接円の中心間の距離をdとおくとき,
R2 −2Rr=d2 (オイラーの定理)
が成り立っています.双心三角形のこの関係式を導き出せば,ただちにR≧2rがわかるのですが,この関係式を導き出すことは見かけよりもやっかいで,ヘロンの公式を使ったほうがほうが簡単です.
ヘロンの公式とは,
Δ2 =(2a2 b2 +2b2 c2 +2c2 a2 −a4 −b4 −c4 )/16
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16
ここで,2s=a+b+cとおくと
Δ2 =s(s−a)(s−b)(s−c)
となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.
なお,三次元空間では三角形は四面体に,正方形は立方体に,正五角形は正十二面体に,円は球に拡張されると考えられますが,三次元空間において四面体の外接球,内接球の半径をそれぞれR,rとすれば,R≧3rが成り立ちます.
また,内接円と外接円の両方をもつ四角形(双心四角形)では,
2R2 (r2 +d2 )=(r2 −d2 )2 (フースの定理)
が成り立ちます.フースは双心五角形,六角形,七角形,八角形に関する同様の公式も見つけています.
【問】6辺の長さがa,b,c,d,e,fで,与えられた4面体に外接,内接する球面の半径を求めよ.
(ヒント)4面体の頂点をO,A,B,Cとし,ベクトルOA↑=a↑,OB↑=b↑,OC↑=c↑とおく.4面体の体積Vを,a↑,b↑,c↑によって表すと,スカラー3重積より
6V=(a↑×b↑)・c↑
これより,
36V^2=|a↑・a↑ a↑・b↑ a↑・c↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑ b↑・c↑|
|c↑・a↑ c↑・b↑ c↑・c↑|
を得る.
なお,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値は,n次元単体の体積のn!倍になります.
2S=|1 x1 y1| 6V=|1 x1 y1 z1|
|1 x2 y2| |1 x2 y2 z2|
|1 x3 y3| |1 x3 y3 z3|
|1 x4 y4 z4|
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最後の問題は,イスラエル人のスタンバーグ博士(腫瘍外科医)と雑談中に思いついた問題です.
同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形6角形ができます.これはダビデの星と呼ばれて,イスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.星形6角形では内側に正6角形ができますが,外側のとがった角を結んでも正6角形ができます.すなわち,星形6角形は外側を正6角形が取り囲んでいて,内側にも正6角形が入っていることがわかります.それでは,・・・
【問】同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるでしょうか?
(答)この問題はダビデの星の3次元版です.頭の中でイメージできれば答は簡単なのですが,勘の働きにくい問題でもあります.
上から見ても,前から見ても,横から見ても,同じ6角形に見える3次元図形を想像されたのではないでしょうか? ところが正解は,同じ大きさの正4面体2個による相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられていて,外側に立方体(正方形6面),内側に正8面体(正3角形8面)をもっています.
小生はこの問題を「ダビデの星・ケプラーの星」と呼んでいます.しかし,よくよく考えると,正三角形と正六角形が互いに隣接した周期的な格子は「ダビデの星」に限りません.竹篭編みにみられる「カゴメ格子」もそうなっています.「カゴメ格子」は,文字通り,篭の目の結び目を作る格子であり,日本人が最も愛好した文様のひとつです.ちなみに「カゴメ」は世界でも通用する呼び名とのことです.
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