■4次元・5次元を垣間みる

 
 3次元正多面体が5種類あって5種類しかないことは,オイラーの多面体定理(v−e+f=2)と握手定理(多面体の1つの頂点に集まる面の形と数をp,qとすると,pf=2e,qv=2e)から簡単に証明できます.
 
 そこで,出張の車中で「4次元正胞体は6種類,5次元以上では3種類ある」ことを証明しようと思い立ったものの,オイラー・ポアンカレの定理をどのように用いればよいのかすぐにはわかりませんでした.4次元空間では,オイラー・ポアンカレの定理
  v−e+f−c=0
が成り立ち,3次元と同様の方法によって正則胞体を定めることができるはずですが,なかなかうまくいかないのです.
 
 4次元正多胞体が6個,5次元以上では3個あることはどの本にも載っていることなのですが,これまで,なぜか証明を見たことがありません.本に載せるほど易しい問題ではないのか? それとも自明だから載らないのか?・・・ということで,今回のコラムを書いてみることにしました.
 
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【1】4次元・5次元の球体充填問題
 
 まず最初に,2次元格子・3次元格子におけるの球の詰め込み問題について考えてみましょう.
 
       配位数    充填率
正方格子    4     π/4=.7854
三角格子    6     √3π/6=.9069(最密充填)
六角格子    3     √3π/9=.6046
カゴメ格子   4     √3π/8=.6802
 
 充填率とは,同じ大きさの球(2次元の場合は円板)を各格子点に配置し,最近接球同士が互いに接するようにしたとき,単位格子の体積に対して球が占める体積の比をいいます.
 
 たとえば,点が正三角形配置したとき,格子の面積をsとすれば,s=√3/4r^2,また,格子には面積1/4πr^2の円が1/6×3=1/2個割り当てられる関係になりますから,充填率は√3π/6と計算されます.2次元格子において,充填率の値が最大値をとるのは,格子点が正三角形配置したときになります.
 
 一方,3次元空間格子(ブラーベ格子)は14種類存在しますが,その中で立方対称性をもつものは,単純立方格子,体心立方格子,面心立方格子の3種類です.
 
         配位数    充填率
単純立方格子    6     π/6=.5236
対心立方格子    8     √3π/8=.6802
面心立方格子   12     √2π/6=.7405(最密充填)
ダイヤモンド格子  4     √3π/16=.3401
 
 配位数とは1個の球に何個の同じ大きさの球が接しているかを表しています.面心立方構造ではどの球にも12個ずつの球が接します.体心立方構造ではどの球にも8個の球しか接しませんから,面心立方構造ほど密に詰め込んだ配置にはなっていません.
 
 1611年,ケプラーは,物質を構成する粒子は体積を最小とするように自己を組織化するだろうという構成原理を考えました.そこで,粒子が球形だと仮定して,さまざまな配置の空間充填率を計算してみました.ケプラーが最初に試みたのは,それぞれの球が6個の球に囲まれるように第1層を構成し,第2層は第1層のくぼみに球を置くという積み方です.これは別の角度からみると,立方体の8個の頂点と6面の中心に球が配置されているところから,面心立方格子と呼ばれている配置ですが,この積み方は八百屋の店先でミカンなどの山を安定に積み上げるために使われている日常的な配置です.この場合の充填率は√2π/6(74.04%)になります.
 
 面心立方格子が最も密な球の充填方法だろうという予想は400年近く前のケプラーまでさかのぼります.日常の経験からしても,同じ大きさの球の最も効果的な配置問題は自明なものと考えてしまいがちで,直感的に面心立方格子をなす場合が最大に詰め込んだ配置のように思えます.しかしだからといって,無限にある可能性をすべてひっくるめて証明したわけではないので,これは定理ではなく予想にすぎません.ランダムな配置まで含めると,空間充填率が74.04%よりも引き上げられるかもしれないからです.
 
 現在,ケプラーの問題については大半の数学者がまず間違いないだろうと考え,すべての物理学者が当たり前だと思っているのですが,面心立方格子が3次元空間における最密充填構造だという証明にはまだ至っていないのです.
 
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 もっとも稠密な格子状球配置を求める問題はより高次元の空間においても考えることができます.4次元,5次元においては面心立方格子の類似品となりますから,球配置密度を次のようにして求めることができます.
 
a)半径1の球の体積vnは,
  Vn=π^(n/2)/(n/2)!=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
で与えられる.すなわち,2次元空間においてはπ,3次元では4/3π,4次元ではπ^2/2,5次元では8/15π^2,6次元ではπ^3/6である.このように,超球の体積はn=5のとき最大
  8π2/15=5.2637・・・
となり,以後は次元とともにどんどん減少する.
 
b)2次元面心立方格子の充填率は,2v2/(2√2)^2
  3次元面心立方格子の充填率は,2^2v3/(2√2)^3
これと同様に,
  4次元面心立方格子の充填率は,2^3v4/(2√2)^4
  5次元面心立方格子の充填率は,2^4v5/(2√2)^5
 
 以上より,最密充填密度は次の表のようになります.
 
平面      √3π/6=.9069(三角格子)
3次元空間   √2π/6=.7405(面心立方格子)
4次元空間   π^2/16=.617
5次元空間   √2π^2/30=.465
 
 しかし,6次元以上の高次元空間においては,平面における正三角形格子や3次元空間における面心立方格子に対応する格子は,もはや稠密な球配置を与えてはくれません.次元の上昇とともに,超球の間の隙間が大きくなっていくからです.
 
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 密度が最大ではありませんが,立方体状球配置も興味ある格子状球配置です.
  2次元単純立方格子の充填率は,v2/2^2
  3次元単純立方格子の充填率は,v3/2^3
ですから,
  n次元単純立方格子の充填率は,vn/2^n
になります.
 
n    vn/2^n     n    vn/2^n
1   1          6   0.08 
2   0.79        7   0.04 
3   0.52        8   0.02 
4   0.31        9   0.006
5   0.16        10   0.0025
 
 このことから,n次元超立方体[-1,1]^n(体積2^n)において,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることが理解されます.
 
 単位超球を超立方体中に置くと,次元が大きくなるにつれて隙間がより大きくなるのですが,そのため,高次元において超立方体内に一様分布する超球を考えるとき,低次元の場合とは対照的に,大部分は超球外に位置することになります.
 
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 最も稠密な球配置とは反対に,最も疎な球配置問題も考えられます.この場合,それぞれの球は少なくとも4つの球に接していなければなりません.そうでないと,どの球もその周りの球によってしっかりと空間に支えられていることができないからです.そこで,正4面体の重心と4つの頂点に球の中心がある正4面体状球配置が,最疎配置の候補としてあげられます.例えば,ダイヤモンド格子はその例です.
 
 ダイヤモンド格子は,格子定数を単位として(1/4,1/4,1/4)だけずれた2個の面心立方格子から成り立っています.立方対称ではなく,剛体球で満たされる体積も√3π/16=.340と小さいのですが,きわめて硬い結晶を構成します.
 
 しかし,正4面体状球配置Dは最疎配置ではありません.正4面体の頂点に位置する4つの球が2つずつ接するように,これを少し変形させることによって,はるかに疎な配置d
  d=4/(√(3/2)+1)^3D=0.3633D
が得られることが知られています.ここで,√(3/2)は1辺の長さ2の正4面体の重心と頂点の距離です.
 
 これまで考察してきた3次元の球配置定数をまとめると,以下の表のようになります.
 
          配位数    充填率
単純立方格子     6     π/6=.5236
対心立方格子     8     √3π/8=.6802
面心立方格子    12     √2π/6=.7405(最密充填)
ダイヤモンド格子   4     √3π/16=.3401
変形4面体状球配置  4     0.123(最疎充填)
 
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【2】4次元・5次元の正則胞体
 
 R^2の正多角形は無限個あります.しかし,R^3のなかの正多面体としては5種類,R^4では6種類,5次以上では正(n+1)胞体(正4面体の拡張),正2n胞体(正6面体の拡張),正2^n胞体(正8面体の拡張)の3種類しか存在しないことが知られています.
 
 二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類です.三次元の正多面体は5種類であり,五次元以上でも3種類しかないのに,四次元では6種類もあることは四次元の不思議ともいうべき事実です.→この証明は【5】参照
 
 二次元空間の正三角形の相当する三次元図形は正四面体,正方形は立方体,正五角形は正十二面体に相当しますが,4次元の正多胞体も三次元空間の正多面体に相当する図形です.
 
  正5胞体    (4次元正4面体)
  正8胞体    (4次元正6面体:超立方体)
  正16胞体   (4次元正8面体)
  正24胞体
  正120胞体  (4次元正12面体)
  正600胞体  (4次元正20面体)
 
 正24胞体に相当する3次元正多面体はありません.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからです.→【補】参照
 
 正24胞体(24胞,正3角形のみからなる96面,96辺,24頂点)こそが,四次元特有の物体であると考えられるのですが,正24胞体は,四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねてできますから,その意味で4次元版の菱形十二面体に相当します.
 
4次元空間の正多胞体
 
      境界多面体  頂点数  双対性         3次元対応
5胞体   正4面体     5  自己双対(非中心対称) 正4面体
8胞体   立方体     16  16胞体と双対     立方体
16胞体  正4面体     8   8胞体と双対     正8面体
24胞体  正8面体    24  自己双対(中心対称)
120胞体 正12面体  600  600胞体と双対    正12面体
600胞体 正4面体   120  120胞体と双対    正20面体
 
 4次元多胞体では,頂点,辺,面,胞の個数の間に,シュレーフリの公式:
  v−e+f−c=0
が成立します.これを高次元へ一般化したものがオイラー・ポアンカレの定理ですが,4次元空間においては,点vは空間cと直線eは平面fと双対的に対応します.以下,正多胞体の頂点数,辺数,面数,胞数を掲げます.
 
       頂点数   辺数   面数    胞数
5胞体      5   10   10     5
8胞体     16   32    24   16
16胞体     8   24    32    8
24胞体    24   96    96   24
120胞体  600 1200   720  120
600胞体  120  720  1200  600
 
 なお,平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)ですが,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密規則的充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.→【1】参照
 
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 五次元以上のd次元の場合は,2d個の頂点と2^d個の辺をもつ双対立方体(三次元では正八面体),2^d個の頂点と2d個の辺をもつ立方体,d+1個の頂点とd+1個の辺をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多面体をつくしています.
 
n次元空間の正多胞体(n≧5)
 
        境界胞体    頂点   双対性  対応
(n+1)胞  n胞体     n+1  自己双対 正4面体・5胞体
2n胞体  (2n−2)胞体  2^n   2^n胞体 立方体・8胞体
2^n胞体    n胞体     2n   2n胞体 正8面体・16胞体
 
 正4面体,正6面体,正8面体の多次元への拡張はわかりやすいと思われますが,3次元空間の正12面体,正20面体,4次元空間の24胞体,120胞体,600胞体は,より高次元においては対応するものをもたないわけです.
 
 しかし,それよりも,三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つあるといったほうがわかりやすいと思われます.
 
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【3】オイラー・ポアンカレの定理
 
 凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.
 
 量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,
  頂点の数−辺の数+3角形の数
は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.例えば,平面図形(多角形)は,1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となり,また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は2−2gとなることはよく知られています.
 
 オイラーの多面体定理を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理です.オイラー数はベッチ数の交代和(奇数次元に対応する数には−,偶数次元に対応する数には+の符号を付ける)
  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・
に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容ですが,ベッチ数(19世紀の数学者に因んだ名前)とは,形には関係しないで,接触と分離にだけ関係するトポロジカルな示性数で,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数(閉じた回路)のことです.
 
 二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が,四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類あります.胞の個数をcで表すと,4次元空間では,
  v−e+f−c=0
というオイラー・ポアンカレの定理が成り立っています.
 
 オイラー・ポアンカレの定理の証明は,比較的簡単です.
 
(証明)
 線分と三角形および四面体は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.
 
 これらの数をまとめて書くと
    2,1
   3,3,1
  4,6,4,1
ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5胞(正5胞体)になります.
 
 n次元単体にはn+1個の頂点があり,それに含まれるk次元単体の個数はn+1個の頂点からk個の頂点を選び出す仕方の数n+1Ckに等しいことがわかりますが,これより,n次元単体についてはv=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・.
 
 また,2項定理より,
  n+1C0−n+1C1+n+1C2−・・・+(-1)^nn+1Cn+1=0
ですから,
  Pv−Pe+Pf−Pg+Ph−Pi+・・・=1±1
すなわち,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることがわかります.
 
 すべて胞体はいくつかの単体によって分割されますが,得られる値は分割の仕方に依存しないことが証明できますから,任意の胞体についてもこれが成り立つことが理解されます.
 
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【5】オイラーの定理の応用
 
 正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類しかないことの証明は,いろいろと知られているのですが,次のような計量的なものが一番わかりやすいと思います.
 
(証明)
 正多面体の各面を正p角形,各頂点にq面が会するとすると,頂点の周囲は4直角未満ですから,不等式
  2q(1−2/p)<4,すなわち,
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
  (p−2)(q−2)<4
が正多角形となる必要条件です.このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.
 
 すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solod)とも呼ばれています.
 
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 ここで与えた証明は,すべての側面が正多角形であることを仮定していますが,オイラーの多面体定理を利用すると,
  1)どの面も同数の辺で囲まれている.
  2)どの頂点にも同数の辺が集まっている.
という仮定をするだけで,正多角形であるという仮定をまったくせずとも証明可能になります(位相幾何学的証明).
 
(証明)
 多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
  pf=2e,qv=2e   (握手定理)
が成り立ちます.さらに,
  v+f=e+2   (オイラーの多面体定理)
が成り立ちますから,
  v=4p/(2p+2q−pq),
  e=2pq/(2p+2q−pq),
  f=4q/(2p+2q−pq)
となります.
 
 2p+2q−pq>0はpとqについて対称な式ですから,たとえば,p≧q≧3とすると,4≧2(1+q/p)>q≧3より,pとqの小さい方は必ず3,そこでq=3とするとp<6より大きい方は5以下であることがわかります.
 
 あるいは,同じことですが
  1/e=1/p+1/q−1/2
において,p,q≧3ですから,pもqも3より大きいとすると,
  1/e=1/p+1/q−1/2≦1/4+1/4−1/2=0
これは不可能です.そこでq=3とおいてみると,
  1/e=1/p−1/6
したがって,p=3に対してはq=3,4,5の3つの値しかとり得ません.
 
 この式はpとqに関して対称ですから,q=3に対してもp=3,4,5.
p=3かつq=3の場合は一致していますから,5通りの可能な場合が得られたことになります.
 
       境界面p 1頂点に集まる境界面q 頂点v 辺e 面f
正4面体   正3角形     3        4   6  4
立方体    正方形      3        8  12  6
正8面体   正3角形     4        6  12  8
正12面体  正5角形     3       20  30 12
正20面体  正3角形     5       12  30 20
 
  v−e+f=2   (オイラーの多面体定理)
より,3次元空間では頂点vと面fが双対的に対応しているのがわかります.
 
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 これと同様の方法によって,オイラー・ポアンカレの定理から,より高次元の空間における正則胞体を定めることができます.合同な正多面体(p,q)の各面が2つの(p,q)に属し,各辺がr個の(p,q)に属すとしましょう.
 
(計量的証明)
 立方体(4,3)の2面角は直角であるから,1本の辺のまわりに4個の立方体で隙間なく空間を充填します.しかし,(4,3,4)では無限の多面体になってしまいますから,超立方体(4,3,3)は有限胞体になります.
 
 同様に,正4面体(3,3)の2面角は71°より少し小さいので,1本の辺に3,4,5個の正4面体を置くことができます.→(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5)
 
 正8面体と正12面体の2面角は,90°と120°の間にあるので,1辺の周囲には3個の正多面体が置けます.→(3,4,3),(5,3,3) 正20面体の2面角は120°より大きいので,このようなことはできません.
 
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)
 
 結局,正多胞体の可能性としては(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5),(4,3,3),(3,4,3),(5,3,3)しかあり得ないことがわかります.
 
 これらを一般的な条件式として表すならば,正多面体(p,q)の2面角は,
  2sin^(-1)(cos(π/q)/sin(π/p))
このような角r個の和が2πより小さくなくてはならないことから,
  cos(π/q)<sin(π/p)sin(π/r)
 
  cos(π/q)<sin(π/p)sin(π/r)≦sin(π/p)
すなわち,
  sin(π/2−π/q)<sin(π/p)
より,
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
同様に,
  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)
が導かれます.
 
 なお,3次元空間充填であるためには,等式
  cos(π/q)=sin(π/p)sin(π/r)
が成り立たなくてはならないので,3以上の整数解は立方体による空間充填(4,3,4)だけなのです.
 
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(位相幾何学的証明)
 正多面体(p,q)を境界多面体として,その頂点数,辺数,面数を(v1,e1,f1)としましょう.頂点に集まる辺の中点を結んでできる多面体を頂点図形:v2,e2,f2)と呼ぶことにすると,それはq角形が1つの頂点にr面会した多面体(q,r)になっています.
 
 頂点数,辺数,面数,境界多面体の数を,それぞれV,E,F,Cで示すと  V−E+F−C=0
また,1つの頂点における境界多面体の配列は,頂点図形の面の配列に対応していますから,
  fC=2F,vC=f2V
  v2V=2E,e1C=rE=pF=e2V
 
 rE=e2V,また,1/e2=1/q+1/r−1/2が成り立ちますから,
  V:E=1/e2:1/r=1/q+1/r−1/2:1/r
同様に,
 pF=e1CよりF:C=1/p:1/p+1/q−1/2,
 rE=pFよりE:F=1/r:1/p
 
 V,E,F,Cを(p,q,r)の関数として簡単に表す公式はありませんが,これでその相互関係は求まったことになります.
 
      境界多面体 境界面p 頂点に集まる面q 辺に集まる胞r
5胞体   正4面体    3        3       3
8胞体   立方体     4        3       3
16胞体  正4面体    3        3       4
24胞体  正8面体    3        4       3
120胞体 正12面体   5        3       3
600胞体 正4面体    3        3       5
 
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【補】正多面体における双対性と中心対称性
 
 正多面体の各面の中心(重心)を順に結んで立体を作ると,もとの正多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体ができます.互いに表と裏の関係にある多面体を双対多面体といいます.
 
 正四面体ではふたたび正四面体ができ,正六面体では正八面体が,逆に正八面体では正六面体が,また,正十二面体では正二十面体が,逆に正二十面体では正十二面体ができます.したがって,正四面体は自己双対であり,正六面体と正八面体,正十二面体と正二十面体とは互いに双対です.このことにより,正多面体は,{正四面体},{正六面体と正八面体},{正十二面体と正二十面体}の3つのグループに大別することができます.
 
  正4面体群←→正4面体群
  正6面体群←→正8面体群
  正12面体群←→正20面体群
 
 正4面体だけは自己双対であり,特殊な位置を占めているのですが,正4面体の特殊性はこればかりではありません.正4面体以外の4つの正多面体は中心対称的であるのに対して,正4面体はそうではないのです.
 
 次に,適切に頂点を選ぶことにより,正多面体の中に正多面体を内接させることができます.たとえば,立方体の中に正4面体を2通りの異なる方法で,正12面体の中に立方体を5通りの方法で内接させることができるのですが,このことは
  「正4面体群は正8面体群の部分群である」
  「正8面体群は正20面体群の部分群である」
ことを意味しています.
 
 最後に,3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.
 
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