■因数分解の算法(その8)

 今回のコラムでは,行きがかり上,2次体Q(√d)の類数について解説することになった.デリケートな問題であることに加えて,この方面には明るくないときているので信頼性の低いことが懸念されるが,おこがましくもQ&Aから始めることにしたい.
 
[Q]2次体の類数とはなにか?
 
[A]イデアル類(ideal class)の位数のこと.イデアル類の定義はかなり長く,数学記号を多く使う.イデアルとは代数体のイデアルのことであって,うまい説明がみつからない.そもそも,群・環・体の定義のあたりで多くの数学科の学生が落ちこぼれるので,イデアル等も群・環・体のランゲージなしに平易な説明はできないのだ.イデアルについては,差し当たって,素数の分解を可能とする仮想的な数と考えておいてほしい.
 
[Q]何故,類数計算が必要になるのか?
 
[A]抽象的な体などを分類するためである.我々は「体」の例として,実数や複素数を連想するが,実数,複素数で成立する当たり前のことが一般の群,環,体では成立するとは限らない.そのため,新しい概念を次々導入し,これにより研究対象を分類していかねばならないのである.
 
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【1】2次体と整数環(復習)
 
 有理数体Qに,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体Q(√d)を考えます.すると0,1以外の平方因数をもたない整数d,すなわち,
  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・
によって,Q(√d)は体になり,2次体Q(√d)の元は一意的に
  Q(√d)={a+b√d|a,bは有理数}
の形で表されます.とくに,d=−1のとき
  Q(√−1)=Q(i)
はガウスの数体となります.
 
 次に,Q(√d)の整数環を考えるわけですが,
  d=2,3(mod4) → ω=√d
  d=1(mod4)   → ω=(1+√d)/2
で与えると,標準基底を{1,ω}とする代数的整数の集合
  A(ω)={a+bω|a,bは整数}
は,加法および乗法に関して閉じて環になります.
 
 この代数的整数の集合:A(ω)を2次体Q(√d)の整数環と呼びます.A(ω)は標準基底{1,ω}の2次元ベクトル空間となっているというわけです.
 
 単純に{1,√d}を基底とする
  Z(√d)={a+b√d|a,bは整数}
の形を考えてもよいのでしょうが,すでに分類のための第一歩は始まっていて,それぞれの場合のの最小多項式P(x)は
  d=2,3(mod4) → P(x)=x^2−d
  d=1(mod4)   → P(x)=x^2+x+(1−d)/4
で求められます.説明するまでもなく,d=1(mod4)のとき,(1−d)/4は整数になります.
 
 また,αが基底{1,ω}を用いてα=x+yωと表されるとき,αのノルムは
  N(α)=x^2−y^2d  (d=2,3 mod4)
  N(α)=x^2+xy+(1−d)/4y^2  (d=1 mod4)
ですから,
  P(x)=N(x+ω)
  N(ω)=−d  (d=2,3 mod4)
  N(ω)=(1−d)/4  (d=1 mod4)
と定義できるわけです.
 
 そして,判別式Dはトレースを用いて
  D=|Tr(1),Tr(ω) |
    |Tr(ω),Tr(ω^2)|
で定義され,
  d=2,3(mod4) → D=4d
  d=1(mod4)   → D=d
となります.
 
 代数体の判別式Dは基底の選び方には依存しない整数であり,代数体の大切な不変量の1つとなっているのですが,重根をもつ・もたないの判別ではなく,後述するように,素数の分解・分岐など素イデアルの分解法則と密接に関係しているのです.
 
 なお,立方数でない有理数dに対して,Q(3√d)は3次体となります.その基底は
  {1,3√d,3√d^2}
で表されます.
 
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【2】整数環とイデアル
 
 正の整数では素因数分解の一意性が成り立ちますが,扱う数の範囲を広げると,既約因子の積に2通りに表されるような状況を生じます.たとえば,扱う数の範囲を整数から,
  Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
  6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
 
 2,3は素数ですし,
  1+√−5,1−√−5
はいずれも
  a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
 
 この状況に対して,これはまだ分解が足りないためだと考えることもできます.すなわち,2,3,1±√−5は素数でなく,さらに究極の数α,β,γ,δがあって,
  2=αβ,3=γδ,1+√−5=αγ,1−√−5=βδ
となっていて,
  6=αβγδ
が6の素因数分解となるという考え方をクンマーの理想数の理論といいます.もちろん,α,β,γ,δはZ(√−5)の中には存在しません.素因数分解したときの素因数がすべて含まれている集合を考えるのです.
 
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 Q(√d)の整数環をいかに定義すべきかが確定すると,次に,いかなるdに対してA(ω)は一意分解環になるのかが問題となります.Q(√d)の整数環A(ω)が必ずしも一意分解環でないことに最初に気づいたのは,ディリクレでした.
 
 そこで,有理数体Qの場合に考えたことを2次体Q(√d)に場合に拡張することを考えます.とくに,Qにおける素数の概念を拡張して,一般の代数体Kに素イデアルを導入します.
 
 「任意の自然数は素数の積に書ける.しかも順序を除けばその書き方は1通りである(初等整数論の基本定理)」の拡張が,いわゆるデデキントのイデアル論であり,「Qの素数pを1つ固定すると,素数pは代数体の整数環における素イデアルの積に分解される(イデアル論の基本定理)」ことになります.
 
 素イデアルをp1,・・・,pkとして,素数pが
  p=p1^e1・・・pk^ek
と分解されるとき,eiを素イデアルpiの分岐指数といい,ei>1のときpiは分岐するといい,ei=1のときpiは不分岐,また,pに対してはあるpiが分岐するときpは分岐する,どのpiも不分岐のときpは不分岐といいます.
 
 また,一般のn分体では,piの次数をfiとすると
  n=e1f1+e2f2+・・・+enfn
という関係があり,したがって,2次体の場合,素数pは
  p=p^2,N(p)=p  (分岐)
  p=pp',N(p)=p  (完全分解)
  p=p,N(p)=p^2  (pは2次体でも素)
のように分解することになります.
 
 2次体Q(√d)の判別式Dは
  d=2,3(mod4) → D=4d
  d=1(mod4)   → D=d
となることは前述したとおりですが,素数pがいつ分岐しまた完全分解するかを調べると,有理素数は次のように分解します.
 
[1]d=2,3(mod4),D=4d
 (1)p|D → p=p^2,N(p)=p
 (2)(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
 (3)(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
 
[2]d=1(mod4),D=d
 (1)p|D → p=p^2,N(p)=p
 (2)p≠2,(d/p)=+1 → p=pp',N(p)=p
 (3)p≠2,(d/p)=−1 → p=p,N(p)=p^2
 (4)p=2,d=1(mod8) → 2=pp',N(p)=p
 (5)p=2,d=5(mod8) → 2=p,N(p)=2^2
 
 ここで,(d/p)はルジャンドルの記号で,
  (d/p)=+1
はdがpを法とする平方剰余であることを示しています.すなわち,x^2=d(modp)の解の有無によって,解のあるときdをpの平方剰余,ないとき平方非剰余といい,
  (d/p)=−1
と表されます.
 
 この結果から2次体Q(√d)でpが分岐するための必要十分条件は
  p|D
であることがわかります.割れなければpはQ(√d)で不分岐です.
 
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【3】ミンコフスキーの数の幾何学
 
 ミンコフスキーはアインシュタインの先生として有名で,相対論における基本概念はミンコフスキーにその起源をたどることができます.彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.
 
 格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.
 「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」
 
 この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,
  「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
  「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
  「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
なども証明することができます.2次形式の理論が発展していく段階では,ミンコフスキーが非常に大きな貢献をしていて,格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.
 
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 n本のベクトルで張られる平行2n面体の体積について述べておきます.写像:y=Axによって,単位直方体は平行2n面体に写像されるものとすると,この写像のヤコビアンはJ=|A|となります.また,グラミアン
  G=|A|^2
が成立しますから,平行2n面体のn次元体積は
  |G|^(1/2)=|A|
で与えられます.
 
 したがって,ミンコフスキーの定理から,
  (中心対称凸体の体積)>2^n|A|
ならば,内部あるいは境界上に格子点が必ず存在することになります.
 
 一般に,R^s×C^tにおいて,直方体領域
  B={|x1|≦c1,・・・,|xs|≦cs,|xs+1|^2≦cs+1,・・・,|xs+t|^2≦cs+t}
の体積は
  vol(B)=∫(-c1,c1)dx1・・・∫∫(u^2+v^2≦cs+1)dudv・・・
        =(2c1)・・・(πcs+1)・・・=2^sπ^tΠci
 
 また,正八面体領域
  B={|x1|+・・・+|xs|+2|xs+1|+・・・2|xs+t|≦ρ}
の体積は,n=s+2t,xs+j=rjexp(iθj)とおくと,
  dudv=rdrdθ
ですから,
  vol(B)=∫(B)dx1・・・r1dr1dθ1・・・
        =2^s(2π)^t∫r1・・・rtdx1・・・dx2dr1・・・drt
 
 ここで,ディリクレの積分公式
  ∫x1^(p1-1)・・・xm^(pm-1)(1−x1−・・・−xm)^(q-1)dx1・・・dxm
 =Γ(p1)・・・Γ(pm)Γ(q)/Γ(p1+・・・+pm+q)
より,
  vol(B)=2^s(π/2)^tρ^n/n!
と計算されます.
 
 この格子点定理をn次の代数体に応用すると,ミンコフスキーの定数
  M=(4/π)^rn!/n^n√|D|
が得られます.
 
 Mは領域Bに含まれる格子点の個数を与えてくれる定数なのですが,これより,2次体のミンコフスキーの定数は,D>0(実2次体)の場合,n=2,r=0とおいて
  M=1/2√D
D<0(虚2次体)の場合,n=2,r=n/2とおいて
  M=2/π√-D
によって与えられます.
 
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【4】類数の計算
 
 Q(√d)はイデアルの同値類を有限個しかもちません.このイデアル類の数は類数と呼ばれ,h(d)で表されます.類数とはすべての数体に付随した不変量(自然数)なのですが,ミンコフスキーの定数Mを具体的に決定して,いくつかの場合に類数を決定することができます.たとえば,
 
[Q]次の4つの実2次体K=Q(2),Q(3),Q(5),Q(13)に対して,h=1を証明せよ.
 
[A] M=1/2√D
ですから,4≦D<16ならばh=1になります.ここで,
  d=2,3(mod4) → D=4d
  d=1(mod4)   → D=d
ですから,d=2,3,5,13が合格です.
 
[Q]次の9つの虚2次体Q(√d)に対して,h=1を証明せよ.
  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
 
[A] M=2/π√-D=0.63663√-D
です.−d=1,2,3,7のときは,
  D=4,8,3,7
で,M<2となり,h=1となります.
 
 その他の場合はd=1(mod4)でD=dとなるのですが,M=2で−d=11,19のときは
  −11=5,−19=5  (mod8)
より2は2次体でも素ですから,h=1となります.なお,それぞれ
  χ(2)=(−1)^15=−1,χ(2)=(−1)^45=−1
と同値です.χは次節で述べるクロネッカーの指標を先取りしたものです.
 
 M=4では
  −43=5(mod8)  (χ(2)=(−1)^231と同値)
  (−43/3)=(−1/3)=−1
より,Q(√−43)は類数1をもちます.
 
 同様の計算から,M=5のとき,類数1をもつ判別式はD=−67
  χ(2)=−1,
  χ(3)=(−67/3)=(−1/3)=−1,
  χ(5)=(−67/5)=(−2/5)=(−1/5)(2/5)=−1
 
 M=8のとき,類数1をもつ判別式はD=−163
  χ(2)=−1,
  χ(3)=(−163/3)=(−1/3)=−1,
  χ(5)=(−163/5)=(−3/5)=(2/5)=−1
  χ(7)=(−163/7)=(−2/7)=(−1/7)(2/7)=−1
 
 以下,同様の論法で続けてもよいのですが,類数が1となる判別式は他には存在しません.h=1なる虚2次体Q(√d)はこれしかないというのが,有名な「シュタルクの定理」です.
 
 ついでながら,h=2なる虚2次体Q(√d)は,
  −d=5,6,10,13,15,22,35,37,51,58,91,115,123,187,235,267,403,427
の18個あります.
 
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【5】2次体のイデアル類群の構造
 
 ここでは,本質的にはミンコフスキー定数
  M=1/2√D   (実2次体)
  M=2/π√-D  (虚2次体)
だけを用いて,類数のみならず,2次体のイデアル類群Hの構造を決定する方法を紹介します.
 
 2次体Q(√d)には,各素数pに対して(0,1,−1)を値にもつクロネッカーの指標χ(p)があり,
  χ(p)=0   (分岐)
      =+1  (完全分解)
      =−1  (pは2次体でも素)
と定義されます.
 
 具体的には,
  p|D → χ(p)=0
  p≠2 → χ(p)=(D/p)
  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 
のように計算されるのですが,
  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 
はd=1(mod4)のときのみに起って,右辺は第2補充法則によっています.
 
  (a/p)=a^{(p-1)/2}  (mod p)     (オイラー規準)
  (−1/p)=(−1)^{(p-1)/2},p≠2  (第1補充法則)
  (2/p)=(−1)^{(p^2-1)/8},p≠2  (第2補充法則)
 
 すなわち,オイラー規準において,(−1/p)に関するものが第1補充法則,(2/p)に関するものが第2補充法則と呼ばれます.
 
 クロネッカーの指標はルジャンドル記号の計算に還元されるのですが,オイラー規準は法pに関するa^{(p-1)/2}の剰余を求めなければならないため,pが大きいとき(a/p)を決定するのはかなり大変です.
 
 それに対して,
  (q/p)(p/q)=(−1)^{(p-1)/2}{(q-1)/2}
が有名なガウスの平方剰余の相互法則で,(a/p)はガウスの相互法則を用いてすばやく計算することができます.
 
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 2次体Q(√d)に対して
  S={p:p≦M,χ(p)≠−1}
とおくと,Hはイデアルpと素数pの類によって生成されます.
 
 素数pは
  χ(p)=0 → p=(p,a+ω)^2
  χ(p)=1 → p=(p,a+ω)(p,a−ω)
のように素因子(基底による表示)に分解されるのですが,その際,ωの最小多項式P(x)をmodpで分解することにより,pの2次体における分解を具体的に求めることができます.
 
 d=199の場合に,上の手続きを実行してみましょう.
  199=3(mod4),ω=√199,D=4・199
  M=1/2√D=√199=14.1・・・
ですから,p=2,3,5,7,11
 
  p   : 2  3  5  7  11
  χ(p): 0  1  1  −1  1
したがって,S={2,3,5,11}
 
 以下には(その3)で解説した有限体上の因数分解は用いられているのですが,
 p=2: P(x)=x^2−199=x^2+1=(x+1)^2
    → p2=(2,1+ω)
 p=3: P(x)=x^2−199=x^2−1=(x−1)(x+1)
    → p3=(3,ω−1)=(3,2+ω),p3'=(3,1+ω)
 p=5: P(x)=x^2−199=x^2+1=(x+2)(x+3)
    → p5=(5,3+ω),p5'=(5,2+ω)
 p=11:P(x)=x^2−199=x^2−1=(x+1)(x−1)
    → p11=(11,ω−1)=(11,10+ω),p11'=(11,1+ω)
 
 これより,イデアル類群はp2,p3,p5,p11の類で生成されることがわかりました.Hの構造はこれらの生成元の間の関係を調べあげることによって定まります.とはいっても,肝心の所は割愛せざるを得ないのですが,このあとさらに検索を続けることによって4つの生成元p2,p3,p5,p11がすべて〜1となり,Q(√199)の類数は1であることが確かめられます.
 
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 d=−199の場合,
  −199=1(mod4),ω=(1+√−199)/2,D=−199
  M=2/π√-D=√199=8.9・・・
ですから,p=2,3,5,7
 
  p   : 2  3  5  7
  χ(p): 1 −1  1  1
したがって,S={2,5,7}
 
 p=2: P(x)=x^2−x+50=x(x+1)
    → p2=(2,ω),p2'=(2,1+ω)
 p=5: P(x)=x^2−x+50=x(x−1)
    → p5=(5,ω−1)=(5,4+ω),p5'=(5,ω)
 p=7: P(x)=x^2−x+50=(x+4)(x+2)
    → p7=(7,4+ω),p7'=(7,2+ω)
 
 イデアル類群はp2,p5,p7の類で生成されるのですが,このあとの検索で
  p7〜p2^3〜p5^6,p5^9〜1
であること,すなわち,イデアル類群はp5の類で生成される位数が高々9の巡回群であることがわかります.
 
 しかし,イデアル類群がZ9であるのかまたはZ3×Z3であるのか,これだけではわかりません.そこで,
  p5^3〜1
すなわち,p5^3=(x+yω)なる整数x,yが存在するかどうかを調べてみます.
 
 両辺のノルムは
  125=x^2+xy+50y^2
両辺を4倍すると
  (2x+y)^2+199y^2=500
u^2+199v^2=500が整数解をもつことは不可能であることより,Hは位数9の巡回群になることが確定されたことになります.
 
 h=9と定まりますが,h=9だけではHの構造決定(Z9,Z3×Z3)には何の役のも立たないからわけですから,生成元の間の関係を調べあげることによって,まさに一石二鳥が狙えるのです.
 
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 ここまでやったからには【2】の証明も与えておきましょう.
 
[1]d=2,3(mod4),D=4d
  P(x)=x^2−d
 
 (1)p=2,d=2(mod4)→P(x)=x^2,
    2=p^2,Np=2,p=(2,ω)
   p=2,d=3(mod4)→P(x)=x^2+1=(x+1)^2,
    2=p^2,Np=2,p=(2,1+ω)
   p≠2,p|d→P(x)=x^2−d=x^2,
    p=p^2,Np=p,p=(p,ω)
 (2)(d/p)=1→P(x)=x^2−d=(x−a)(x+a),
    p=pp',Np=p,p=(p,ω−a),p'=(p,ω+a)
 (3)(d/p)=−1→P(x)=x^2−dは既約,p=p,Np=p^2
 
[2]d=1(mod4),D=d
  P(x)=x^2−x−(d−1)/4
 
 (1)p|d→p≠で2h=1(modp)なるhを決めておくと,
    P(x)=(x−h)^2−mh^2=(x−h)^2,
    p=p^2,Np=p,p=(p,ω−h)
 (2)(d/p)=+1→P(x)=(x−h)^2−(ah)^2=(x−h−ah)(x−h+ah),
    p=pp',N(p)=p,p=(p,x−h−ah),p'=(p,x−h+ah)
 (3)(d/p)=−1→P(x)は既約,p=p,Np=p^2
 (4)p=2,d=1(mod8)→P(x)=x^2−x−(d−1)/4=x^2−x=x(x−1),
    2=pp',N(p)=p,p=(p,ω),p'=(p,ω−1)
 (5)p=2,d=5(mod8)→P(x)=x^2−x+1は既約,
    2=p,N(p)=2^2
 
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【6】ラビノヴィッチの定理
 
 (その7)では2次式
  P(x)=x^2+x+41
に,x=0,1,2,・・・,39を代入すると,すべて素数になることを確かめました.
 
 ここでは,Q(√d)をd≠−1,−3なる虚2次体として,
[1]d=2,3(mod4)のとき
  q=−d        
  P(x)=N(x+ω)=x^2+q
[2]d=1(mod4)のとき
  q=(1−d)/4
  P(x)=N(x+ω)=x^2+x+q
において,命題
 「P(x)が0≦x≦q−2なるすべてのxについて素数 ←→ h=1」
を証明してみます.
 
 まず
  M=2/π√-D<q
を示します.
  d=2,3(mod4)のとき,D=4d → −D=4q
  d=1(mod4)のとき,D=d    → −D=4q−1
したがって,
  M=2/π√-4q<q
  4/π<√q
がいえればよいのですが,q≧ですから,結局π^2>8に帰せられます.
 
(→)
  P(a),0≦a≦q−2がすべて素数と仮定します.集合Sからpを選ぶと
  p=Np,p=(p,a+ω),0≦a<p
 
 ここで,p≦M<qですから
  0≦a≦q−2
となります.よって,P(a)は素数で,
  1〜(P(a),a+ω)
また,p|N(a+ω)より,P(a)=pでなければなりません.
  1〜(p,a+ω)=p
ですから,h=1となります.
 
(←)
  P(a)≦P(q−2)=q^2−3q+4<q^2  [1]
             =q^2−2q+2<q^2  [2]
 
 あるa0(0≦a0≦q−2)に対して,P(a0)が素数でなかったとして,P(a0)を割る最小の素数をpとすれば,
  p<q−1<q
 
 p=(p,a0+ω)とすると,p|N(a0+ω)から,pは素イデアルです.
もし,p〜1とするとp=(x+yω)と書けますから,両辺のノルムをとると  p=Np=N(x+yω)=x^2+qy^2  [1]
          =(x+y/2)^2+(q−1/4)y^2  [2]
 
 もしy=0ならp=x^2で不可能.y≠0ならp≧qとなり,p<qに矛盾します.よって,P(a),0≦a≦q−2はすべて素数でなければなりません.
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[補]佐々木の定理
 
 一般に,自然数νに対して,素因数の数を重複も許してdegνと書くことにします.たとえば,
  deg10=2,deg8=3,deg(素数)=1
 
 虚2次体に対して,
  m=max(degP(x)),0≦x≦q−2
とおくと,ラビノヴィッチの定理は
  −d=7,11,19,43,67,163
ですから,
  m=1 ←→ h=1
を意味しています.
 
 実は
  m=2 ←→ h=2
であることも佐々木隆二氏によって証明されています.しかし,Q(√−21)では
  m=3 < h=4
が起こってしまいます.
 
 なお,佐々木氏は常に
  m≦h
が成り立つことも証明しています.
 
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【7】補遺
 
 本コラムでは2次体
  [Q(√d):Q]=2
についてだけ説明して,円分体のことは意識的に避けてきましたが,ここで円分体についても一言解説したいと思います.
 
 任意の素数pに対して,Z/pZはp個の元からなる有限体Fpで,Fp−{0}は原始根を生成元とする巡回群になります.Fpはp個の元からなる有限体で,Fp~は原始根を生成元とする巡回群になります.しかし,このような性質をもつ体はFp以外にもたくさんあり,それらは代数的整数論において重要になります.
 
 任意の体の乗法群の有限部分群は巡回群なのですが,例として,1のd乗根
  ζ=exp(2πi/d)
の全体は乗法に関して位数dの巡回群をなします.Q(ζ)を円のd分体といいます.また,1の原始d乗根はφ(d)個存在して,
  [Q(ζ):Q]=φ(d)
が成り立ちます.そして,1の原始d乗根を根とする多項式
  Φ(x)=Π(x−ζ^a)   (a,d)=1
を円分多項式を呼びます.
 
 次に,pをp≠2なる奇素数とし,1の原始p乗根として,
  ζ=exp(2πi/p)
をとります.1のp乗根全体は
  {1,ζ,ζ^2,・・・,ζ^(p-1)}
で1以外はみな原始p乗根となります.したがって,ζの最小多項式は
  Φ(x)=1+x+x^2+・・・+x^(p-1)=(x^p−1)/(x−1)
また,判別式は
  D=(−1)^{(p-1)/2}p^(p-2)
で与えられます.
 
 そして,
  p~=(−1)^{(p-1)/2}p
とおくと,
  Q(√p~)
はQ(ζ)の部分体になります.また,Q(ζ)の部分体
  Q(ζ+ζ^(-1))
において,ζ+ζ^(-1)は実数ですから,
  [Q(ζ):Q(ζ+ζ^(-1))]=2
の最大実部分体となっています.Q(ζ)はQ(√p~)とQ(ζ+ζ^(-1))を部分体としてもつというわけです.
 
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 Q(ζ)の2次の部分体Q(√p~)は
  (−1/p)=(−1)^{(p-1)/2}
より,
  p=1(mod4) → 実2次体Q(√p)
  p=3(mod4) → 虚2次体Q(√−p)
となります.
 
 2次体の類数決定では,ルジャンドル指標を用いましたが,円分体の2次の部分体(√p~)ではガウス和を用いることによって,類数の最終的なディリクレの公式に達することができます.
 
 位数nの巡回群の指標には1のn乗根が対応して,円分体についてのガウス和
  τ(χ)=Σχ(x)ζ^x
ヤコビ和
  J(χ,φ)=Σχ(x)φ(1-x)=τ(χ)τ(φ)/τ(χφ)
が定義されます.
 
 ガウス和はガンマ関数
  Γ(s)=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x)dx
ヤコビ和はベータ関数
  B(p,q)=∫(0,1)x^(p-1)(1−x)^(q-1)dx=Γ(p)Γ(q)/Γ(p+q)
と非常によく似ていています.
 
 円のp分体は拡大体としては巡回体に過ぎないのですが,データが多いだけ面白いことがたくさんあり,円分体の類数決定に関してもいろいろ面白い式があるようですが,それには
  小野孝「数論序説」裳華房
を参照されることをお勧めします.
 
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