■因数分解の算法(その6)
前回のコラムでは,位数nの群の型について扱いましたが,説明不足や自分にとっての未解決問題(位数8,9,12の非可換群)が含まれていて,上滑りがちな記述に留まってしまいました.
そのため,小生には不満が残ったのですが,今回のコラムではその後の調べでわかったしたことを追加・補完して,リベンジを果たしたいという思いがあります.とはいっても,既成事実の羅列の如くになってしまうのですが,雰囲気だけはなんとか伝えたいと思います.
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【1】位数nの群の型
位数nの有限群が(同型を除いて)何通りあるか?−−−これは興味深い問題ですが,完全には解けていない難しい問題です.
それでも,nが小さい場合に何個あるか知られていますので,有限群の型の分類についての結論を先に掲げたいと思います.
n 群の型
1 単位群{e}
2 Z2=S2=D1
3 Z3=A3
4 Z4,D2=Z2×Z2
5 Z5
6 Z6,D3=S3
7 Z7
8 Z8,Z4×Z2,Z2×Z2×Z2,D4,Q4
9 Z9,Z3×Z3
10 Z10,D5
11 Z11
12 Z12,Z6×Z2,D6=D3×Z2,A4,Q6
13 Z13
14 Z14,D7
15 Z15
16 Z16,Z8×Z2,Z4×Z4,Z4×Z2×Z2,Z2×Z2×Z2×Z2,
D8,Q8,Z2×D4,Z2×Q4など,合計14個
前回のコラムを復習しますが,群の型には,Znを始めとして,Sn,An,Dnなどの記号が与えられています.
Znは位数nの巡回群
{e,g,g^2,・・・,g^(n-1)} (g^n=e)
で,Cnと書かれることのほうが多いのですが,素数pを法とする既約剰余系
Zp={1,2,・・・,p−1}
が位数φ(p)=p−1の巡回群をなすことを踏襲して,この表ではZnに統一しました.巡回群は可換群,また,可換群と可換群の直積は可換群ですから,したがって,位数が5以下の群はすべて可換群です.
Dnはn次の正2面体群(位数2n)で正n角形の対称性のなす群,Snはn次の対称群(位数n!)でn文字の置換のなす群,Anはn次の交代群(位数n!/2)でn文字の偶置換のなす群のことです.
前回のコラムでは,正3角形の対称変換群D3について,3次対称群と同型
S3=D3
であることを確かめましたが,位数が5以下の群がすべて可換群であったのに対して,S3は位数最小の非可換群として重要な存在となっています.
位数6の非可換群はS3に同型であることを証明するのは,比較的簡単です.なお,正3角形の表側だけの対称変換群を考えれば,
A3=Z3
を証明することができます.
また,A4は正4面体,S4は正6(8)面体,A5は正12(20)面体の対称変換群であり,いずれも非可換群群です.交代群A5は位数最小の非可解群であることが証明されています(ガロアの定理).
D2(位数4の正2面体群)はクラインの4元群と呼ばれるもので,長方形(菱形)の対称性のなす群であり,クラインの4元群のすべての元は2乗すると単位元になりますから,自分自身が逆元という特徴をもっています.
クラインの4元群をD2と表すのは,それが仮想的な正2角形の対称変換群と見なされるからであって,同様に,正1角形の対称変換群として,
D1={e,g} (g^2=e)
が定義されます.
D2=Z2×Z2
と同型ですが,kを任意の奇数とするとき,
D2k=Z2×Dk
が成り立ちます.
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また,上の表でQ4(位数8)は,4元数群
{±1,±i,±j,±k} i^2=j^2=k^2=ijk=−1
を指しています.集合{±1,±i}は乗法に関して閉じていて,iを生成元(元の位数4)とする巡回群,したがって可換群ですが,Q4は非可換群となります.
位数6の正2面体群D3は2元{a,b}によって生成される
{1,b,b^2,a,ab,ab^2}
ですが,D3では三角形の中心まわりの角度120°の右回り回転をbとすると,bは3回やると元に戻るので
b^3=1
また,頂点を通る中心線に関して裏返す作用をaとすると
a^2=1
2種類の作用の相互関係は
ab=ba^2 (aba^(-1)=b^(-1))
と書けます.2つの生成元a,bが
a^2=b^3=(ab)^2=1
という関係を満たすことを確かめてほしいのですが,正n角形では一般に,
a^2=b^n=(ab)^2=1
となり,積abの位数は2なのです.
同様に,4元数群Q4は定義関係式,
p^4=e,q^2=p^2,q^(-1)pq=p^(-1)
を満たす位数8の群,
{e,p^2,p,p^3,q,qp^2,pq,qp}
となります.pとp^3,qとqp^2,pqとqpは互いに逆元のペアとなります.
ここで,記号i,j,kを
i(e−p^2)=(e−p^2)i=p−p^3
j(e−p^2)=(e−p^2)j=q−qp^2
k(e−p^2)=(e−p^2)k=pq−qp
によって定義し,この群の乗法表を考慮に入れると,
i^2=j^2=k^2=ijk=−1
に従って結合することが理解されます.別の言い方をすると,e,p^2,p,q,pqは1,−1,i,j,kと同じ乗法法則に従うというわけです.
なお,
p^2^(m-1)=e,q^2=p^2^(m-2),q^(-1)pq=p^(-1) (m>2)
によって定義される一般4元数群は,位数2^(2m-3)をもちます.
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【2】位数8の群,位数9の群,位数12の群
結局,位数8の群には,互いに同型でない3つの可換群,
Z8,Z4×Z2,Z2×Z2×Z2
以外に2つの非可換群,
D4,Q4
があり,全部で5つの型があることがわかりました.
非可換群D4の定義関係式は,
p^4=e,q^2=e,q^(-1)pq=p^3
Q4の定義関係式,
p^4=e,q^4=e,q^(-1)pq=p^(-1),q^2=p^2
で表されます.
また,位数9の群は可換群に限られ,
Z9,Z3×Z3
の2通りです.
可換群Gの位数を
n=g1g2 (g1,g2)=1
とするとき,G1,G2はGの部分群で,かつ,直積
G=G1×G2
が成り立ちますから,たとえば,
Z12=Z3×Z4
となります.
もっと一般的に,可換群Gの位数が
n=p1^n1・p2^n2・・・pk^nk
と素因数分解されるとき,Gは素数ベキ位数pi^niの部分群の直積
G=G1×G2×・・・×Gk
に分解されます.このとき,各GiをGのpiシロー群と呼びます.この分解が既約分解になるとは限らないのですが,シローの定理は有限群を調べるための基本的な道具となっています.
こうして,位数12の群には,2つの可換群,
Z12,Z6×Z2,
以外に3つの非可換群,
D6=D3×Z2,A4,Q6
の全部で5つの型があることがわかりました.
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【3】位数13の群,位数14の群,位数15の群,位数16の群
位数nの有限群が同型を除いてγ(n)個存在するとします.一般のnについてγ(n)を求めることは未解決ですが,
「nが素数ならば,γ(n)=1」
が成り立ちます.
なぜなら,任意の元の位数は素数位数nの約数ですから,nとなり,素数位数の群は巡回群Znに限られるからです.したがって,位数13の群はZ13のみとなります.
しかし,この定理の逆は成り立ちません.たとえば15は素数ではありませんが,位数15の群は巡回群Z15に限られます.
Z15=Z3×Z5
というわけです.
一般に,有限群Gの位数nが
n=pq (p,qは素数でp>q)
かつ
p≠1 (mod q)
のとき,Gは巡回群であることがわかっています.言い換えれば,位数nをもつ群がすべて同型(したがって巡回群)であるためには,平方因子をもたないnとφ(n)が互いに素であることが必要十分条件であり,この条件を満たすnの例をあげると
15,33,35,51,65,69,77,85,87,91,95,・・・
であることが知られています(ディクソン,1905年).
また,素数pに対して,
γ(p)=1 巡回群(可換群)
γ(2p)=2 (Z2p,Dp)
であることは前回述べましたが,このことから位数14の群は,
Z14,D7
の2通りとなります.
さらに,素数ベキ位数に対して
γ(p)=1 (可換群)
γ(p^2)=2 (可換群)
γ(p^3)=5
γ(p^4)=14 (p=2)
γ(p^4)=15 (p≠2)
であることがわかっています.
これによれば,
γ(2^4)=14
であり,それらは可換群5個
Z16,Z8×Z2,Z4×Z4,Z4×Z2×Z2,Z2×Z2×Z2×Z2,
非可換群9個
D8,Q8,Z2×D4,Z2×Q4など,合計14個になります.
非可換群9個の定義関係式は,
1)p^4=e,q^2=e,q^(-1)pq=p^5
2)p^4=e,q^2=e,r^2=e,r^(-1)pr=qp^2,
q^(-1)pq=p,r^(-1)pr=p
3)p^4=e,q^4=e,q^(-1)pq=p^3
4)p^4=e,q^2=e,r^2=e,r^(-1)pr=p^3,
p^(-1)qp=q,r^(-1)qr=q
5)p^4=e,q^2=e,r^2=e,r^(-1)pr=pq,
q^(-1)pq=p,r^(-1)qr=q
6)p^4=e,q^4=e,r^2=e,q^(-1)pq=p^(-1),
q^2=p^2,r^(-1)qr=q,r^(-1)pr=p
7)p^8=e,q^2=e,q^(-1)pq=p^(-1)
8)p^8=e,q^2=e,q^(-1)pq=p^3
9)p^8=e,q^4=e,q^(-1)pq=p^(-1),q^2=p^4
で表されます.
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【4】位数xxの群,・・・
最後に,同じ位数nをもつ互いに同型でない群の個数についてまとめておきます.これで32より小さいすべての位数に対する群の異なる型の個数を与えたことになります.
n 群の個数 n 群の個数
17 1 27 5
18 5 28 4
19 1 29 1
20 5 30 4
21 2 31 1
22 2 32 51
23 1 64 267
24 15 128 2328
25 2 256 56092
26 2 512 10494213
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[補]5次以上の交代群
群は,歴史的には,代数方程式の解の置換の研究として誕生しました.1770年,ラグランジュは代数方程式の根の置換群を研究しました.すなわち,群の概念を生み出したのが置換群なのです.
n≧5についてAnは単純群となるのですが,このことは,5次以上の代数方程式に代数的解法がない(=方程式の係数間の加減乗除とベキ根ととるという操作によって得られない:アーベルの定理,1824年)と本質的な関連をもっています.
この方法を一般化して,ガロアは代数方程式の解集合の置換群と代数方程式の可解性の密接な関係を発見しました.可解群の説明は割愛しますが,交代群A5は位数最小の非可解群であることが証明されています(ガロアの定理).また,それを部分群として含むSn,An(n≧5)の非可解性も証明されます.なお,任意の可換群は可解群です(逆は成立しない).
アーベル・ガロア理論から,5次以上の代数方程式に代数的解法がないことが明確になったのですが,そのとき使われたアイデアが群と呼ばれる概念で,対称変換群の性質により,この難問がこともなげに解けてしまうのです.ガロア理論は,20世紀以後の代数学の研究対象を変えてしまい,抽象代数学と呼ばれる分野が誕生したのです.→コラム「代数学小史」参照
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[補]正2面体群D3と3次曲線のj-不変量
射影変換によって互いに写り合う3次曲線は同型とみなされます.そこで,3次曲線のj-不変量が定義されます.
非特異3次曲線の標準型:
y^2=x(x−1)(x−λ)
のj-不変量は
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.
jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
=j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))
ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.
複比を
λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}
によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
の6つのどれかに移ります.
この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.
すなわち,複比
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどの値を代入してもjは不変なのです.
この6つの関数は,写像の積に関して,
2面体群D3(=3次対称群S3)
になることが容易に確かめられます.シュワルツはこのことを6面をもつ2重ピラミッド的(=正2面体群)と表現しています.→コラム「超幾何関数とフックスの問題」参照
なお,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数
(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,
(x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
と,変数xの方程式を考えると,
λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0
はλ≠0,1より,6次方程式となり,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは
λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2
の場合に限ります.
ワイエルシュトラスの標準形:
y^2=x^3+ax+b (2^2a^3+3^3b^2≠0)
のj-不変量を計算すると,
j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)
となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.
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