■因数分解の算法(その4)
すべての正の整数は,次の3つのクラスに分けれられます.
単数:1
素数:2,3,5,7,11,13,17,19,23,・・・
合成数:4,6,8,9,10,・・・
今回のコラムでは,単数,素数,合成数に関する種々雑多な話題を取り上げたいと思います.
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【1】素数は無限にある
素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.
ところで,ディリクレの算術級数定理とは,1次式f(x)=a+bxが(a,b)=1のとき,無数の素数を与えることができることを述べたもので,したがって,等差数列
a,a+b,a+2b,a+3b,・・・
は無限に多くの素数を含むことになります.b=1のときは,素数は無限にあることと同値です.
1次式を2つ考えたらどうでしょうか?
f(x)=x,g(x)=x+2
として,この両方が同時の素数になるようなxが無限にあるかというのが,いわゆる双子の素数の問題です.
その差が2であるような素数のペア(p,p+2)を双子素数と呼びます.小さな双子素数には(3,5),(5,7),(11,13),(17,19),・・・など,ちょっと大きなものでは(22271,22273),・・・などがあります.
双子素数が無限に多く存在するかどうかは今のところわかっていません.双子素数の場合に難しいのは素数全体のときと異なって,双子素数の逆数の和:
1/3+1/5+1/5+1/7+1/11+1/13+1/17+1/19+・・・+1/p+1/(p+2)+・・・
が無限大とはならずに,その和が1.90195・・・(ブルンの定数:1919年)となることが証明されている点です.
このことは,双子素数が無限にあるとしても,まれにしか存在しないことを示しています.そのため,双子素数が無限に存在することの有力な証拠は見つかっているにもかかわらず,完全な証明には至っていないのです.
f(x)=x,g(x)=2x+1
の両方が素数となるような素数xはソフィー・ジェルマン素数と呼ばれていますが,それが無数にあるかどうかという問題もまだ解かれていません.なお,
「pがソフィー・ジェルマン素数のとき,フェルマーの方程式:
x^p+y^p=z^p
に整数解があれば,x,y,zのどれか一つはpで割れねばならない」という美しい定理を彼女は証明しています.
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[補]Σ(1/p)=∞
調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること
1/1+1/2+1/3+・・・=∞
は容易に示すことができます.それでは,素数の逆数の和
Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・
は有限でしょうか?
(証明)
調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示すると
Π(1−1/p)^(-1)
と書けますから,
Π(1−1/p)^(-1)〜∞.
また,
logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p)
1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,
Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)
ですから,
Σ(1/p)=∞
になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.
1737年,オイラーはこのようにして素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.このことから,素数が無限個あることは簡単にわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数
Σ(1/n^2)=ζ(2)=π^2/6
で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.
さらに,このことを詳しく調べると,
Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)
などがわかってきます.log(logx)は1/(xlogx)の原始関数です.
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[補]双子素数予想
双子素数の分布に関しては,ハーディとリトルウッドによって,
πtwin(x)〜Cx/(logx)^2
ただし,pを3以上の素数として
C=2Π(1−1/(p−1)^2)=1.3203・・・
と予想されています.ここで,Cはオイラー積のアナログであり,双子素数の場合のゼータ関数とみなすことができます.定まった用語ではないのですが,ハーディ・リトルウッド積と呼んでいいでしょう.この法則は経験的には正しそうであり,双子素数はたぶん無限組あると信じられています.
現在のところ,双子素数予想にもっとも接近した結果は,1966年,陳景潤によるもので,陳景潤は素数と概素数(素因数を2つしかもたない合成数)のペアは無限に存在することを証明しました.これは無限に多くの双子素数が存在することに大変接近した結果であって,双子素数予想の証明に向かって最初の大きな一歩と考えられます.もう一歩進んで「概」を取り去ることに成功した者が,素数理論の大快挙を成し遂げたことになるのです.
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[補]Π(p^2+1)/(p^2−1)=5/2
ブルンの定数:1.90195・・・やハーディ・リトルウッド積:1.3203・・・は簡単な有理数では表されませんでしたが,すべての素数についての和や積がそのような値になるとは限りません.
むしろ,すべての素数をわたる無限積Π(p^2+1)/(p^2−1)が有理数5/2で表されることのほうが不合理のように感じられますが,これを証明するのはさほど難しいことではありません.
(証明)
Π(p^2+1)/(p^2−1)
=Π(p^4−1)/(p^2−1)^2
=Π(1−1/p^4)/(1−1/p^2)^2
等比級数に展開すると
=Π(1+1/p^2+1/p^4+・・・)^2/Π(1+1/p^4+1/p^8+・・・)
=(Σ1/n^2)^2/Σ1/n^4
ここで,リーマンのゼータ関数
Σ1/n^2=ζ(2)=π^2/6
Σ1/n^4=ζ(4)=π^4/90
したがって,
Π(p^2+1)/(p^2−1)=(π^4/36)/(π^4/90)
=5/2
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なお,次のようなゼータ関数に帰着する無限級数(n=1~∞)が知られています.2項係数nCkを(n,k)と書くことにすると,
Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27
Σ1/n(2n,n)=π√3/9
3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)
12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)=ζ(2)
5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)
さらに,ポールテンの問題
36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)
は,Mathematicaの最新版でも等式として得られませんでしたが,予想ではなく,等式としてすでに証明済みということです.彼自身は
1/2Σ1/n^4(2n,n)=(0,π/3)θ(ln2sin(θ/2))^2dθ=17π^4/6480
を示すことによって彼の問題を解いたという話です.
また,以上ことからζ(2),ζ(3),ζ(4),・・・がΣ1/n^k(2n,n)あるいはΣ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)の簡単な有理数倍になっていると予想するのは当然の成りゆきでしょう.したがって,
ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)
と予想されますが,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないらしいということです.
→コラム「シンク関数の数学的諸性質」参照.また,
2(arcsinx)^2=Σ(2x)^2/n^2(2n,n)
などの公式については,コラム「超幾何関数とゼータ関数」を参照されたい.
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【2】フェルマー素数
Fn=22^n+1
の形の素数をフェルマー素数といいます.F0=3,F1=5,F2=17,F3=257,F4=65537257は素数であることがわかります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,n=5であっけなく破綻してしまいました.
F5=2^(2^5)+1=4294967297=641×6700417
この間違いを発見したのはフェルマーから約100年後のオイラーです.彼は約数641をあてずっぽうでみつけたのでも,2,3,5,7,・・・と割っていって執念で見つけたのでもありません.オイラーはFnが合成数であるならば,それはあるkに対してk2^(n+2)+1であることを知っていて,F5の中の因数641=5・2^7+1を見つけたのです.現在,n=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.
オイラーの方法を振り返ってみることにしましょう.ここで,
p|a^(2^n)+1 (p≠2の素数)
ならば
2^(n+1)|p−1
となることを証明なしに与えておきます(→証明せよ).
このことを認めると
p|F5ならば2^6|p−1
すなわち,p=1+k・2^6の形でなければならないことがわかります.kに1〜10まで入れると
k 1+k・2^6 素数
1 65 ×
2 129 ×
3 193 ○
4 257 ○
5 321 ×
6 385 ×
7 449 ○
8 513 ×
9 577 ○
10 641 ○
ここで得られた素数193,257,449,577,641の中から,F5=4294967297を割るものを探すと641が最初のものであることがわかります.このことから
F5=4294967297=641×6700417
と分解されF5が素数でないことが証明されます.
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[補]フェルマー数
フェルマー数(22^n+1)は簡単な漸化式
Fn=(Fn-1−1)^2+1
を満たしています.この式から
Fn−2=Fn-1(Fn-1−1)=・・・=F0F1・・・Fn-1
言い換えれば,Fn−2はそれより小さいすべてのフェルマー数で割り切れることがわかります.
したがって,(Fn,Fi)=1がすべてのi(0≦i≦n−1)にについて成り立ちます.このことは任意にi≠jをとったとき,(Fi,Fj)=1と意味するのですが,このことから数列{Fn}を用いて,素数が無限にあることを示すことができます.
(証明)
すべてのFiの素因数を1つずつとりpiと呼べばpはすべて異なるから,素数は無限にあることがわかる.
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[補]正多角形の作図問題
定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.となれば,次に正7角形・正9角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.ところが,かのアルキメデスでさえも正7角形・正9角形の作図に成功しなかったといわれています.また,内接正多角形の作図は画家であり建築家であるレオナルド・ダ・ヴィンチの関心を惹きました.しかし,彼でさえ近似的な内接正七角形の作図を正確なものと思っていたようです.
辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=2^(2^m)+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.
正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.
2^(2^m)+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.
アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.
なお,4次曲線:レムニスケートには円に共通する性質があり,定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=2^(2^m)+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることです.
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【3】単数
単位元「1」の約数を単数といいます.
[1]ガウスの整数
a,bを整数として
a+bi
で表される複素数が「ガウスの整数」です.すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,
±1,±i
の4個の単数があります.
素数は複素数体でも定義されますが,数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.4k+3型素数はやはりガウス素数ですが,2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されるのです.
2=(1+i)(1−i)=i(1−i)^2
5=(1+2i)(1−2i)
29=(5+2i)(5−2i)
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[2]アイゼンスタインの整数
アイゼンスタインの整数は
a+bω
と書くことができます.ここで,ωは1の虚立方根で,x^2+x+1=0の根です.それに対して,ガウス整数にはx^2+1=0が対応しています.
アイゼンスタインの整数には,6つの単数
±1,±ω,±ω^2
があり,正六角形の対称性をもちます.
ここにもやはり素因数分解の一意性が成立します.2および6k+5型素数はアイゼンスタイン素数ですが,3および6k+1型素数はアイゼンスタイン素数の積に分解されます.
3=(1−ω)(1−ω^2)=(1+ω)(1−ω)^2=(1−ω)(2+ω)
37=(4−3ω)(4−3ω^2)=(4−3ω)(7+3ω)
−1の平方根は1の虚4乗根ですから,ガウス整数は円の4分体の中の整数環Z(i),アイゼンスタイン整数は円の3分体の中の整数環Z(ω)と考えることができるでしょう.
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[3]フルヴィッツの整数
ハミルトンの四元数
H=a+bi+cj+dk
において,a,b,c,dを整数に限った「四元整数」は4次元単純立方格子と同一視することができます.
ハミルトンの四元整数環は乗法の交換法則が成り立たない非可換環ですが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」であることは,このコラムでもこれまで何回か説明したとおりです.
四元整数に
(1+i+j+k)/2
を追加した数の体系を「フルヴィッツの整数」と呼びます.フルヴィッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなりますので,4次元体心立方格子であるというわけです.
なお,
(1+i+j+k)/2
は1の原始6乗根であり,
ζ=ζ++++=(1+i+j+k)/2
とおくと,
ζ^2=ζ-+++,ζ^3=−1,ζ^4=ζ----,ζ^5=ζ+---,ζ^6=1
となります.
単数すなわち1の約数は,
±1,±i,±j,±k 8個
ζ±±±±のあらゆる符号の組合せをとった16個
の計24個あります.
この24個は4次元空間で正24胞体をなしています.正24胞体に相当する3次元正多面体はありません.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからです.実は24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものなのです.
この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されます.それに対して,24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.
2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.
なお,正24胞体による空間充填は4次元独特の充填形です.正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなしますから,正24胞体は3次元の菱形12面体に対応するものであって,正24胞体による4次元空間充填形は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当します.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているのですが,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.
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[4]実2次体
説明するまでもないかもしれませんが,整数の比で表せない数を無理数(例:√2)と呼びます.いい換えれば,整数係数の1次式の根にはならない数が無理数なのです.無理数の中でも,整数係数多項式の根となる数が代数的数(例:3√5はx^3−5=0の根)であり,それに対して,超越数とは,整数係数のどのような代数方程式の根にもならない数(例:π,e)のことです.代数的数の全体をQ~と書くことにします.
一方,αが代数的整数であるとは,整数係数のモニック多項式
f(x)=x^n+a1x^(n-1)+・・・+a0
に対して,f(α)=0となることです.代数的整数の全体をZ~と書くことにします.
体kにf(x)=0の根αを添加した体をk(α)と書きます.複素数体Cは実数体Rにx^2+1=0の根iをつけ加えたR(i)であり,Cの元は
a+bi (a,bは実数)
と一意に表されます.
同様にして,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体k(√d)を考えることができます.2次体k(√d)の元も一意的に
a+b√d
の形で表されます.
k=Qのとき,一般に0,1以外の平方因数をもたない整数m,すなわち, −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・
によって,Q(√m)は体になります.
Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は
ω=√m m=2,3(mod4)
ω=(1+√m)/2 m=1(mod4)
で与えられます.
実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,
[1]m=2,3(mod4)のとき
基本単数を
ε=a+b√m
とすると
ε~=a−b√m
εε~=a^2−mb^2=±1
また,
ε^n=an+bn√m
と書くと0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・より,a,bはペル方程式:
a^2−mb^2=±1
の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.
すなわち,Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,
x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2
x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3
x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6
x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7
[2]m=1mod4のとき
基本単数を
ε=(a+b√m)/2 a=b(mod2)
と書けば
a^2−mb^2=±4
したがって,Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,
x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2
x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2
なお,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.Q(√199)を考えてみると,199=3(mod4)の素数ですが,
x^2−199y^2=±1
の最小解は
(16266196520,1153080099)
にもなってしまいます.
この解を求めるには√199の連分数展開
√199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]
を用います.9〜28は循環節(周期20)です.
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[補]連分数展開
連分数展開によって
(1+√5)/2=[1;1,1,1,1,1,・・・]
√2=[1;2,2,2,2,2,・・・]
のように,1や2が無限に繰り返されるという規則性を見ることができます.
√3=[1;1,2,1,2,1,2,・・・]
では交互に1,2が現れる循環連分数となります.以下,
√5=[2;4,4,4,・・・]
√6=[2;2,4,2,4,2,・・・]
√7=[2;1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]
一般に,√dの連分数展開は循環連分数となり周期性が証明されます.これは既約分数の小数展開が循環小数になることと対比するとおもしろい事実です.
その際,
√d=[q0;q1,q2,・・・,qn-1,2q0,・・・]
という周期nの連分数展開が得られます.
√2=[1;2,・・・]
√3=[1;1,2,・・・]
√5=[2;4,・・・]
√6=[2;2,4,・・・]
√7=[2;1,1,1,4,・・・]
すなわち,どの循環節もqn=2q0=[2√d]で終わっています.√199の展開をみると,14で始まり28で終わるというのもこの理由によります.
また,√199の循環節の最後の28を除くと13を中心として対称になっていることにも気付かされます.
√43=[6;1,1,3,1,5,1,3,1,1,12,・・・]
√54=[7;2,1,6,1,2,14,・・・]
√76=[8;1,2,1,1,5,4,5,1,1,2,1,16,・・・]
√94=[9;1,2,3,1,1,5,1,8,1,5,1,1,3,2,1,18,・・・]
√1000=[31;1,1,1,1,1,6,2,2,15,2,2,6,1,1,1,1,1,62,・・・]
循環部の最後の項を除いた部分は回文(前から読んでも後から読んでも同じ)になっているという事実も,199のみならず,2次の無理数√dに共通していえる性質です.
√d=[q0;q1,q2,・・,q2,q1,2q0,・・・]
なお,2次の無理数には循環連分数が対応しますが,連分数による実数の最良近似は解を下方と上方から近似していく方法であって,ユークリッドの互除法に直結しています.
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[補]eとπの連分数展開
超越数eの連分数展開は,
e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,1,10,1,1,12,1,1,14,1,1,16,・・・]
と書け,数字の出方が自然数順になっていることがわかります.すなわち,2次の無理数のように規則的になっているわけですが,eのように超幾何関数の特殊値は3次の無理数よりも,2次の無理数に近いということなのでしょうか?
eもπも超越数ですが,しかし,πの連分数展開
π=[3;7,15,1,292,1,1,1,2,1,3,1,14,2,1,1,2,2,2,2,1,84,2,1,1,15,3,13,1,4,2,6,6,99,1,2,2,6,3,5,1,1,6,・・・]
にはなんの規則性も見あたらないようにみえます.πに現れる数字0〜9については,重複対数の法則と呼ばれるランダムウォークに基づく非常に厳しいランダムネス検定にも十分合格することが確かめられています.πには少なくとも何進法かの表現の下でなにか隠された未発見の規則性があるに違いないと信じている人もいますが,現在のところ,πは最も複雑な数なのです.
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【4】素数生成式
オイラーは素数をかなりの確率で生成する公式
n^2+n+41
を発見しています.この公式はn=0のとき素数41,n=1で素数43,n=2で素数47を与えます.このようにしてnが0から39までのどのnをとってもオイラーの公式はすべて素数を与えます.オイラーの公式はn=40で1681=41^2となって破綻しますが,1000万以下のnに対して47.5%の確率で素数を生成します.
この事実を確認するのは簡単ですが,しかしオイラーはどうやってこんな事実を見つけだしたのでしょうか.また,そうなる真の理由は何でしょうか.
この点について,p(x)が0≦x≦l−2なるすべてのxについて素数となることと虚2次体Q(√m)との関係が,ラビノヴィッチにより示されています.
[1]m=2,3(mod4)のとき
l=−m
p(x)=x^2+l
[2]m=1(mod4)のとき
l=(1−m)/4 m=1(mod4)
p(x)=x^2+x+l
とおきます.
ここで,m=−163=1(mod4)の場合を考えると,l=41
したがって,
p(x)=x^2+x+41
となります.このようにして,上の現象は虚2次体Q(√−163)と関係しているというわけです.
同様に,1変数の2次多項式n^2+n+17も高い確率で素数を生成しますが,m=−67=1(mod4)の場合を考えると,l=17ですから,虚2次体Q(√−67)との関係が示唆されます.
なお,実2次体の基本単数は一意に決まるのに対して,虚2次体では単数基準自身が消えてしまいます.
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[補]素因数分解の一意性
正の整数では素因数分解の一意性が成り立ちますが,扱う数の範囲を広げると,既約因子の積に2通りに表されるような状況を生じます.たとえば,扱う数の範囲を整数から,
Z(√−5)={a+b√−5|a,bは整数}
にまで拡げると,
6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
2,3は素数ですし,
1+√−5,1−√−5
はいずれも
a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」です.
なお,この状況に対して,これはまだ分解が足りないためだと考えることもできます.すなわち,2,3,1±√−5は素数でなく,さらに究極の数α,β,γ,δがあって,
2=αβ,3=γδ,1+√−5=αγ,1−√−5=βδ
となっていて,
6=αβγδ
が6の素因数分解となるという考え方をクンマーの理想数の理論といいます.もちろん,α,β,γ,δはZ(√−5)の中には存在しません.素因数分解したときの素因数がすべて含まれている集合を考えるのです.
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