■代数幾何学小話

 
 「閑話休題」を書き始めてから数年が経過した.アクセスカウントもアップしていることだし,数学オタクによる,オタクのための,オタッキーなコラムとして,どうやら固定客をつかんでいるようである.
 
 ところが,先日,読者の方より,このサイエンス・コラムは本文よりも欄外の補足説明のほうが面白いというメールを頂戴した.書いている本人にとっては胸中複雑な思いのするメールであったが,読み直してみると,なかには補足のほうが本文よりも長いものもあり,また,補足だけでも十分まとまった内容になっているものさえあった.
 
 それらを陽のあたらない片隅に埋もれたままにしておくには惜しい気がしたので,今回のコラムでは,「代数幾何学」に関する補足説明を多少の手直しを加えて再録することにした.
 
 古来より,美しい曲線や図形は人々の感性に訴え,深い感動を与えると同時に,理性にも訴え,なぜこうなっているのかというインスピレーションとイマジネーションを駆りたててきた.代数学(数)は幾何学(図形)と張り合う数学の領域として発展してきたのであるが,今日では数と図形の統一がなされ,代数学・幾何学・解析学が絡み合い,溶け合って,ひとつの統一世界を作っている.それが「代数幾何学」と呼ばれる研究領域で,難解な数学用語を使うならば代数的閉体上で展開された位相的概念を伴った代数学ということができるであろう.
 
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【1】代数曲線の次数
 
 2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される曲線を平面代数曲線と呼びます.f(x,y)=0が2次式の場合,その一般式は,
  ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0
のごとく,項数6の多項式として書くことができます.2次曲線には楕円,放物線,双曲線があり,それらは円錐(必ずしも直円錐でなくてよい)を平面で切断したときの切り口として現れる一群の曲線,すなわち円錐曲線です.
 
 同様に,3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線です.3次曲線の例としては,ディオクレスのシッソイド(x^3+xy^2=y^2)があげられますが,これは古代ギリシアにおいて立方体倍積問題に用いられた曲線です.また,
  y=x^3+x^2+x+1
  y^3=xy^2−2x^2y+y−3
なども3次曲線で,一般式の項数は10になります.平面内n次曲線f(x,y)=0の一般式の項数は,
  3Hn=n+2Cn=(n+2)(n+1)/2
で計算されます.
 
 2次曲線の分類については,3種類の円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線になることは既に述べたとおりですが,同じことをもっと高次の曲線・曲面に対して考えるのは自然なことでしょう.3次曲線の分類には,2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されましたが,ニュートンはあらゆる場合を考察して,最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であることを示すに至り,さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することを示しました.
 
 ニュートンの3次曲線の分類に引き続いて,オイラーは4次平面曲線の分類を企てましたが,可能な場合の数が非常に多いという理由で断念しています.この問題に対する答えは長い間知られていなかったのですが,プリュッカーが19世紀に4次曲線の152の型を数え上げることによって解かれました.
 
 また,一直線上にない3点を通る2次曲線,4点を通る3次曲線はただひとつ存在しますが,それは座標軸の方向が定まっている場合:
  y=ax^2+bx+c,y=ax^3+bx^2+cx+d
のようにy=f(x)の場合であって,一般には,平面上の任意の位置にある5点が唯一の円錐曲線を決定します.ニュートンは「プリンキピア」のなかで5点を通る円錐曲線の作図法などを案出しながら壮大な天体力学を展開しています.
 
 n次平面代数曲線の方程式f(x,y)=0は,(n+1)(n+2)/2個の係数をもっていますが,fに定数を掛けても曲線は変わりませんから,n次曲線はn(n+3)/2個のパラメータに依っていることになります.そこで,平面内に与えられたn(n+3)/2個の点(xi,yi)を通るという条件によって曲線を決定するという問題が自然に提起されます.ニュートンはこうした研究を応用して,2次曲線上の5点,3次曲線上の7点が与えられた場合にこれを作図する方法を見いだしたのです.
 
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【2】射影変換
 
 放物線,楕円,双曲線はまとめて円錐曲線とも呼ばれますが,2次式で定義されるので,2次曲線ともいいます.そして,無限遠点を導入して,考えている曲線を射影曲線として捉えると,2次曲線はひとつのものとして統一的に考えられるようになります(射影幾何).なぜなら,違いは無限遠直線の選び方(無限遠直線と交わらない,接する,交わる)にあるだけであって,どれも同種の曲線と考えることができるからです.
 
 一方,3次曲線は,射影変換を用いれば次のいずれかに変換されます.
  (1)y^2=x^3
  (2)y^2=x^2(x−1)
  (3)y^2=x(x−1)(x−λ)
 
 (1)は「く」の字型曲線で原点で尖点をもちます.(2)は「の」の字型曲線で原点を通ったところでループを描いて自分自身と交差しますから,原点が2重点となります.(3)はループと弓形曲線の2つに分離します.すなわち,(1)(2)は特異点をもち,(3)は非特異です.したがって,滑らかな非特異3次曲線は(3)の形に表せます.これらは特異点による分類といってもよいのですが,射影変換によって互いに写り合う3次曲線は同型とみなされます.→【補】
 
 4次曲線(項数15)とか5次(項数21)以上の高次曲線に対しても射影変換を考えることができます.特異点をもつ3次曲線は適当に座標変換(射影変換)すると(1),(2)のどちらかになりましたが,4次曲線では20タイプあります.その後,5次曲線は230余りのタイプに分類されることが示されましたが,n≧6では複雑すぎてよくわからないようです.
 
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【3】代数曲線の種数と双有理変換
 
 射影変換は高次の曲線に対しては非力なので,より強力な双有理変換を用いて,2次曲線と射影直線とを同一視できるようになれば,それは射影幾何を超えて代数幾何の立場に立つことになります.そして,種数の概念は,曲線の特異点を双有理変換を行って解消できるか否かに依っています.
 
 ところで,曲線上の有理点全体を1つの変数の有理式として表すことのできる曲線を有理曲線といいます.2次曲線は有理点を無限にもつか,1つももたないかのどちらかであって,現在では,2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.→【補】
 
 3次曲線の場合はどうでしょうか? (1)(2)の3次曲線は重根をもち,原点(0,0)が特異点になります.そのため,この曲線上のすべての有理点をパラメトライズすることができます.たとえば,
  y^2=x^3 → (t^3,t^2)
  y^2=x^2(x−1) → (t^2+1,t(t^2+1))
 
 4次曲線の例も挙げましょう.レムニスケート(双葉曲線)は8の字形(8を90°回転させ横向きにした∞形)をしていて,その直交座標系での方程式は4次曲線(x^2 +y^2 )^2 =(x^2 −y^2 )になります.レムニスケートも特異点をもち,
  x=t(t^2+1)/(1+t^4 )
  y=t(t^2−1)/(1+t^4 )
のように有理点をパラメトライズすることができます.
 
 一般に,f(x,y)=0が3次式・4次式のとき,その曲線上に特異点と呼ばれる点が存在するかどうかで,曲線のもつ性質が大きく異なってきます.(1)(2)やレムニスケートはそのような例ですが,それに対して,(3)のように,3次曲線が異なる3根をもつ有理係数の多項式の場合は,楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で,2次曲線とは本質的に異なってきます.
 
 2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線(有理曲線)と呼びます.与えられた曲線が有理曲線かどうかを判定するには曲線の種数を求めればよく,それが0なら有理曲線になります.一方,種数が1である曲線に楕円曲線があります.2次曲線はすべて有理曲線ですが,楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.すなわち,円錐曲線の有理点は無限ですが,楕円曲線の有理点は有限です.
 
 次数が高いとき曲線は見かけ上複雑になりますが,その曲線の「種数」が小さければ,曲線は双有理変換で簡単なものになります.その意味で,次数よりも種数の方が曲線の本質的な複雑さを表現していると考えられます.
 
 たとえば,モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは,「種数が2以上の代数曲線(超楕円曲線)は有理点を有限個しかもたない.」というものです.したがって,有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり,直線(種数0)か,円錐曲線(種数0)か,楕円曲線(種数1)に限られてきます.また,リーマン・フルヴィッツの公式より,フェルマー曲線x^n+y^n=1は種数が(n−1)(n−2)/2で,これはn=3のとき1ですが,n≧4のときは2以上となりますから,そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです.→【補】
 
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【4】代数曲面の分類
 
 空間内の2次曲面の分類もよく知られていて,2次曲面f(x,y,z)=0は楕円面,一葉双曲面,二葉双曲面,楕円放物面,双曲放物面のどれかに分類されます.2次曲面には無数に多くの直線がのっているものがあり,その場合には線織面と呼ばれます.2次曲面が直線の族を含んでいるという事実は建築でも実際に応用されますが,カーブを描いた曲面をコンクリートを使って建設できるということは明らかに利点です.
 
 一方,3次曲面f(x,y,z)=0には,高々27本の直線しか含まないことが証明されています(サルモン,1884年).1次曲面(平面)は∞^2個,2次曲面は∞^1個の直線を含み,一般の3次曲面では(少なくとも1本の直線を含むが)その数は高々有限個(27本)です.それに対して,一般のn次曲面(n>3)は直線を全然含んでいません.
 
 代数曲線は,種数を用いて,有理曲線,楕円曲線,超楕円曲線などに分類されましたが,(極小)代数曲面は,種数と小平次元,不正則数の組合せを使って分類され,K3曲面,エンリケス曲面,アーベル曲面,楕円曲面,超楕円曲面などに分類されることが示されています.
 
 このようにして,1900年当時まで,5次曲線までと3次曲面までのトポロジカルな分類は既に知られていたようです.
 
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【補】3次曲線のj-不変量
 
 3次曲線:y^2=x(x−1)(x−λ)
のj-不変量は
  j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.
 
 jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,
  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
 =j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))
ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.なお,
  j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数
  (λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.
 
 y=ax^3+bx^2+cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが,yのところがy^2に変わるとワイエルシュトラスの楕円曲線:
  y^2=ax^3+bx^2+cx+d
になります.ただし,a,b,c,dは有理数で,右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します.楕円曲線をワイエルシュトラス形式に制限しても一般性を失いません.実際,どのような楕円曲線もワイエルシュトラス形式の楕円曲線に双有理的に同値だからです.
 
 また,x^2の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換(カルダノ変換)することによって簡単に消すことができますから,
  y^2=x^3+ax+b   (4a^3+27b^2≠0)
を楕円曲線と定義しても構いません.4a^3+27b^2≠0は重根をもたないための条件です(判別式:Δ=−(4a^3+27b^2)).
 
 ワイエルシュトラスの標準形:
  y^2=x^3+ax+b   (2^2a^3+3^3b^2≠0)
のj-不変量を計算すると,
  j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)
となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.
 
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【補】有理曲線のパラメトライズ
 
 曲線上の有理点全体を1つの変数の有理式として表すことのできる曲線を有理曲線といいます.楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.
 
(2次曲線)
 原点を中心とする半径1の円:x^2+y^2=1の円周上のひとつの有理点が(0,1)です.この点を通る直線y=mx+1と単位円との交点は,代入して因数分解すれば
  x^2+(mx+1)^2=1
  x((1+m^2)x+2m)=0
より
  x=(2m)/(1+m^2),
  y=mx+1=(1−m^2)/(1+m^2)
と表すことができます.これによって,円周上の点(x,y)が有理点であるためには,mが有理数であることが必要十分条件であることがわかります.すなわち,単位円上のすべての有理点は,mの関数
  x=(2m)/(1+m^2),
  y=±(1−m^2)/(1+m^2)
で表すことができます.
 
 x^2+y^2=2(半径√2の円)において(1,1)は有理点で,この点を通る直線の方程式:y−1=m(x−1)を(x^2−1)+(y^2−1)=0に代入して因数分解すると
  x=(m^2−2m−1)/(m^2+1)
  y=(−m^2−2m+1)/(m^2+1)
が得られます.m=∞に対応する(1,−1)も有理点です.
 
 このように,円の有理点全体は1つの変数mによって一意化できますが,円ばかりではなく,現在では2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかであって,たとえば,x^2+y^2=3(半径√3の円)の上には有理点は1つも存在しません.このことは,互いに素な整数a,bに対する平方の和a^2+b^2は3で割れないということからわかります.
 
(3次曲線)
 デカルトの正葉線:x^3−3axy+y^3 =0(a>0)
は原点(0,0)を通ったところでループを描き自分自身と交差し,その後はy=−x−aを漸近線とする長くゆるやかに曲がった弓形曲線を描きながら(∞,−∞),(−∞,∞)に遠ざかっていきます.すなわち,x+y+a=0を漸近線とする3次曲線ですが,原点(0,0)が有理点ですから,y=mxとおくことによってパラメータ表示の形に書くことができます.
  x=3am/(1+m^3),
  y=3am^2/(1+m^3)
 
 この3次曲線は重根をもち,原点(0,0)が特異点になります.そのため,この曲線上のすべての有理点を,このようにパラメトライズすることができました.同様に,y^2=x^3やy^2=x^2(x+1)は楕円曲線ではありません.前者は(t^3,t^2),後者は(t^2−1,t(t^2−1))とパラメトライズできます.一般に,f(x,y)=0が3次式のとき,その曲線上に特異点と呼ばれる点が存在するかどうかで,曲線のもつ性質が大きく異なってきます.
 
(4次曲線)
 2定点(−a,0),(a,0)からの距離の和が一定となる点の軌跡は楕円,差が一定の点の軌跡は双曲線です.また,商が一定の点は円(アポロニウスの円)を描きます.それでは積が一定の点はどのよう軌跡を描くでしょうか.
 
(答)はカッシーニ曲線.
  {(x+a)^2 +y^2 }{(x−a)^2 +y^2 }=c^2
  (x^2 +y^2 )^2 −2a^2 (x^2 −y^2 )=c^2 −a^4
  r^4 −2a^2 r^2 cos2θ+a^4 =c^2
 2次の多項式f(x,y)=0,すなわち楕円,放物線,双曲線が円錐を平面で切断したときの切り口として現れたように,カッシーニ曲線はトーラス(ドーナツ)の平面による切断面として現れることが知られています.
 
 定数cが2定点間の距離の半分aの2乗に等しいとき,レムニスケート(双葉曲線)と呼ばれます.レムニスケートは8の字形(8を90°回転させ横向きにした∞形)をしていて,その直交座標系での方程式は4次曲線(x^2 +y^2 )^2 =2a^2 (x^2 −y^2 ),極座標系ではr^2 =2a^2 cos2θとなります.とくに,2定点を(−1/√2,0),(1/√2,0)と定めると,レムニスケートの方程式は極座標で書くとr^2 =cos2θ,直交座標で書くと(x^2 +y^2 )^2 =x^2 −y^2 となります.したがって,極座標による式のほうが,直交座標による式よりかるかに簡単です.
 
 また,a=1/√2のとき,レムニスケートは,
  x=cosθ/(1+sin^2θ)
  y=sinθcosθ/(1+sin^2θ)
ここで,
  t=tan(θ/2)
を使うと
  sinθ=2t/(1+t^2)
  cosθ=(1−t^2)/(1+t^2)
と表示されますから,
  x=t(t^2+1)/(1+t^4 )
  y=−t(t^2−1)/(1+t^4 )
のようにパラメトライズすることができます.
 
 レムニスケートには円に共通する性質があり、定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることです.なお,
  x^2 +y^2 −z^2 +(x^2 +y^2 +z^2)^2 =0
は,レムニスケートをその主軸の回りに回転することによって生成される曲面です.
 
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【補】楕円曲線とフェルマーの定理
 
 ワイエルシュトラス形式の特異点は有理点であり,曲線上に特異点があれば,適当なパラメータmによりx,yはmの多項式として表されます.そして,xとyがmの有理式として表されるとき,有理曲線となり,2次曲線とよく似た性質をもちます.
 
 一方,特異点がなければ,楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で2次曲線とは本質的に異なってきます.2次曲線はすべて有理曲線ですが,3次曲線が異なる3根をもつ有理係数の多項式の場合は,有理勾配の方法によるパラメトライズは有効には働きません.すなわち,楕円曲線は有理曲線でないため有理関数で表わすことはできませんが,楕円関数でパラメトライズすることは可能です.
 
 ところで,フェルマーの最終定理
『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』
を解くことは,2変数n次多項式f(x,y)=x^n+y^n−1=0に,有理数解があるか,すなわち有理点をもつかどうかを考える問題に対応します.
 
 1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.
 
 a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:
  y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきましょう.(楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのである.)
 
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