■極大格子群とルート系
「3辺の長さが与えられたとき,平行六面体の体積は直方体のときに最大となる」ことは自明のように思われますが,これにはアダマールの定理という歴とした名前がついています.
アダマールの定理は,平行六面体の体積はノルムの積によって上から抑えられるという非常に興味深い事実を示しているのですが,平行六面体の体積は直方体のときに最大となるといっても,読者はアダマールの定理のありがたみを実感し「なるほど立派な定理だ」と思うでしょうか? きっと何だか当たり前のことを大袈裟にいっていると感じるだけでしょう.
それでは,「すべての辺の長さが等しい平行六面体格子(菱形体格子)をつくってみると,辺が互いの60°の角度をなすようにしたとき,平行六面体の体積は最小値となる」ことは自明でしょうか?
そこで設定されるのが,「単位格子群の2つの格子点の間の最小距離dminを最大にする格子群(極大格子群)を求めよ」というミニマックス問題です.この問題は「同じ半径の球をできるだけ稠密詰めるにはどうしたらよいか」という空間の球による充填問題と密接に関係しているのです.
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【1】平行体の体積とグラミアン
面心立方格子や対心立方格子などの結晶格子には,空間中の格子点の位置を表すのに単純並進ベクトルと呼ばれる3つの基底ベクトルがあり,その長さと角度によって,それぞれの格子の構造を特徴づける係数が得られます.もちろん,3つのベクトルa↑,b↑,c↑の選び方は一義的には決まらず,いろいろな選び方があるのですが,平面上の格子に対しても同様に,R^2のベクトルの集合を考えることができます.
2つのベクトルa↑,b↑を基底とする平行体(平行四辺形)の面積は,外積は
a↑×b↑
3つのベクトルa↑,b↑,c↑を基底とする平行体(平行六面体)の体積は,スカラー三重積
(a↑×b↑)・c↑
すなわち,外積a↑×b↑とベクトルc↑の内積で与えられることは,本コラムがターゲットとする読者層ならばすでにご存知であろうかと思われます.
このような点は,すでに初学者の域を脱した読者には間延びして感じられるかもしれませんが,あえてこのようなことを書くのも,これから述べる平行体の体積とグラム行列式(グラミアン)の関係をいいたいがためなのです.
|a↑|=a,|b↑|=bとすれば,平行四辺形の面積は,
S=absinθ
ですから,
S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)
=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2
=|a↑・a↑ a↑・b↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑|
同様に,平行六面体の体積は
V^2=|a↑・a↑ a↑・b↑ a↑・c↑|
|b↑・a↑ b↑・b↑ b↑・c↑|
|c↑・a↑ c↑・b↑ c↑・c↑|
で与えられます.
これらのように,内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行体の面積・体積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.
また,座標を使って表せば,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値になります.
|S|=|1 x1 y1| |V|=|1 x1 y1 z1|
|1 x2 y2| |1 x2 y2 z2|
|1 x3 y3| |1 x3 y3 z3|
|1 x4 y4 z4|
原点が含まれるときは,
|S|=|x1 y1| |V|=|x1 y1 z1|
|x2 y2| |x2 y2 z2|
|x3 y3 z3|
のように展開されます.
なお,これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形面積,四面体の体積は,
S’=S/2
V’=V/6
また,4辺の長さがa,b,cで与えられた三角形,6辺の長さがa,b,c,d,e,fで与えられた四面体の場合は,
2^2(2!)^2S’^2=|0 a^2 b^2 1|
|a^2 0 c^2 1|
|b^2 c^2 0 1|
|1 1 1 0|
2^3(3!)^2V’^2=|0 a^2 b^2 c^2 1|
|a^2 0 d^2 e^2 1|
|b^2 d^2 0 f^2 1|
|c^2 e^2 f^2 0 1|
|1 1 1 1 0|
となります.
前者はヘロンの公式にほかなりませんが,ヘロンの公式とは,任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとして,
Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16
ここで,2s=a+b+cとおくと
Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)
となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.
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【2】平面における極大格子
面積1の任意の平行四辺形を基本領域とする平面上の単位格子について考察してみることにしましょう.
最小距離をdとし,この距離を実現する格子点は(d,0)としても一般性を失うことはありません.すると,もう一方の基底を(x,1/d)とすることができます.このとき,1/dは明らかに1辺dの正三角形の高さに等しくなければなりません.そうしないと(x,1/d)のほうが原点に近くなるからです.
したがって,
1/d≧d/2√3
より,
d≦4√(4/3)
が得られます.
よって,極大格子は面積1/2の2つの正三角形を合わせた形の平行四辺形になりますが,この格子は与えられた最小距離に対して,面積のもっとも小さい基本平行四辺形です.
このときのグラミアンGを計算してみましょう.
G=|d^2 d^2/2|=3/4d^4=1=S^2
|d^2/2 d^2|
よって,S=1が確かめられます.
基本領域の最小体積を決定する問題は,基本領域の中にある格子点の密度を最大にすること考えることができますから,これで,
「与えられた最小距離ともつすべての格子に中で,格子点密度のもっとも高いものは,正三角形格子である」
ことが証明されたことになります.
実際にすべての格子点を中心として,この格子点の最小距離の半分を半径とする円を描いてみると,互いに接してはいるが決して重なり合わない最密円配置が得られます.この円配置の稠密度は
π/√12=0.907
と計算されます.
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ガウスの定理より,格子点密度をδとすると,最小距離rが点の密度の平方根に逆比例するという結果は,直感的にも納得のいくものであろうと思われます.そこで,
r=q√δ
の比例定数qについて,3通りある平面充填形〈正三角形,正方形,正六角形〉配置の場合でみてみましょう.
qの値が最大値をとるのは,点が正三角形配置したときであって,その場合,格子の面積をsとすれば,s=√3/4r^2,また,格子には1/6×3=1/2個の点が割り当てられる関係になりますから,δ=2/√3r^2より
q=1.074
が得られます.
同様に正方形格子では,δ=1/r^2より
q=1
正六角形格子では,δ=4/3√3r^2より
q=0.877
となります.
なお,
1)ランダム配置(ポアソン配置)であれば,q=Γ(3/2)/√π=0.5となること
2)規則的な配置では,qの値は0.5より大きくなること
3)qの値が最大値をとるのは,点が正三角形配置したときであって,q=1.074となること
を付記しておきます.
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【3】空間における極大格子
以上は,平面上の点の配置の分析ですが,3次元の空間中の点の配置についても同様の議論となります.なぜなら,立方格子をゆがめて,すべての辺の長さの等しい平行六面体格子をつくってみると,平行六面体も空間充填多面体の1つとなるからです.
平面において正三角形が果たしたのと同じ役割を,今度は正四面体が受け持つのですが,平行六面体の体積は,スカラー三重積a・(b×c),すなわち,ベクトルaと外積b×cの内積で与えられるますから,辺a,b,cが互いに60°の角度をなすようにすると,平行六面体の体積は
|d^2 d^2/2 d^2/2|
G=|d^2/2 d^2 d^2/2|=1/2d^6=1=V^2
|d^2/2 d^2/2 d^2|
したがって,基本平行六面体の体積が1の空間単位格子を考えてみると,最小値は
r=6√2=1.1225
となります.
このとき,基本平行六面体は2つの正四面体にこれと等しい辺をもつ正八面体をつなぎ合わせてできる斜方平行六面体であって,最密充填格子状球配置は配位数12の面心立方格子で,その充填率は,
√2π/6=.7405
と計算されます.
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3次元の場合も,平均距離rは点の密度の立方根に逆比例するという結果が得られますから,
r=q/3√δ
の形で書くことができ,後述するランダム配置(ポアソン配置)であれば,
q=(4/3π)^(-1/3)Γ(4/3)=0.5540
となります.
また,点が均等配置に近づけばqの値は大きくなるはずで,たとえば,立方格子配置であればv=rm^3に対して1個の点が割り付けられますから,δ=1/rm^3,それゆえ,この場合は
q=1
格子線の交角を60°のとき,平行六面体の体積は最小値
v=r^3/√2
したがって,qの最大値は
q=6√2=1.1225
となります.
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【4】高次元空間の極大格子
ここまでの話をまとめて表示しておくことにすると,
1)平面上に配置した格子点の最近接点間距離が最大値をとるときは,点の配置が正三角形の頂点に等間隔に配置するときであり,空間中の点については,点の配置が立方格子の格子線の交角を60°になるようにゆがめたときである.
2)その際,グラミアンは
G=|d^2 d^2/2|=(d^2/2)^2|2 1|
|d^2/2 d^2| |1 2|
|d^2 d^2/2 d^2/2| |2 1 1|
G=|d^2/2 d^2 d^2/2|=(d^2/2)^3|1 2 1|
|d^2/2 d^2/2 d^2| |1 1 2|
として得ることができる.
もっとも稠密な格子状球配置を求める問題はより高次元の空間においても考えることができます.ところが,高次元空間においては,平面における正三角形格子や3次元空間における面心立方格子はもはや最密球配置を与えてはくれません.
人間の直観や勘が働くのはたがだか3次元空間までで,次元が大きくなるに従い,格子点の配位は非常に複雑となり,われわれが3次元空間でイメージするものとは大きく異なってくるからです.そのため,n次元に拡張したグラミアン
|2 1 ・・ 1|
G=(d^2/2)^n|1 2 ・・ 1|=1=V^2
|1 1 ・・ 1|
|1 1 ・・ 2|
という手はもはや通用しないのですが,それではどうやったら高次元空間における極大格子を求めることができるのでしょうか? 実は,コラム「モザイク模様とルート系」で説明した鏡映三角形で埋めつくす問題を一般の次元に拡張してR^nにおける格子群を実際に構成するのです.
R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.ルート系の分類は,それ自体大変面白いものなのだそうですが,既約ルート系の同型類には,AからGまでのアルファベットに,添字として階数をつけた名前が付いていて,E8型ルート系などと呼ぶ習慣になっています.
A3型,D4型,E8型のディンキン図形は,
3 1−2−3 (A3 )
/
1−2 (D4 ) 4
\ |
4 1−2−3−5−6−7−8 (E8 )
そして,ディンキン図形に基づいて,隣接行列の要素bijを,
それ自身のとき・・・・2
結ぶ辺があるとき・・・1
結ぶ辺がないとき・・・0
と定めます.
これは,隣接行列{bij}が内積bi↑・bj↑からなるグラミアンによって定義され,その際,n次元平行多面体の基底となるn個のベクトルbkはすべて長さ√2,biとbjが隣り合うときは2つのベクトルは角度60°で交わり(内積=1),隣り合わないときは直交すること(内積=0)を意味しています.
そうすれば,A3型,D4型,E8型に対応する隣接行列式|B|は,それぞれ
|2 1 0| |2 1 0 0|
|1 2 1| |1 2 1 1|
|0 1 2| |0 1 2 0|
|0 1 0 2|
|2 1 0 0 0 0 0 0|
|1 2 1 0 0 0 0 0|
|0 1 2 1 1 0 0 0|
|0 0 1 2 0 0 0 0|
|0 0 1 0 2 1 0 0|
|0 0 0 0 1 2 1 0|
|0 0 0 0 0 1 2 1|
|0 0 0 0 0 0 1 2|
で定義され,格子群の基本領域の体積Vと最短距離dは
G=(d^2/2)^n|B|=1=V^2
より求められます.極大格子については,現在のところ,n≦8のみ答えが知られています.
n ルート 最小距離 球充填密度
1 1 1
2 A2 4√(4/3) =1.075 0.906
3 A3 6√2 =1.122 0.740
4 D4 8√4 =1.189 0.619
5 D5 10√8 =1.231 0.465
6 E6 12√(64/3)=1.290 0.373
7 E7 14√64 =1.346 0.295
8 E8 √2 =1.414 0.254
最小距離が√2となるn=8の場合が大変興味を惹かれます.7次元までの2次形式は単位行列から定まる2次形式
x1^2+・・・+xn^2
と同型になるのですが,n=8ではこの情勢が覆り,同型ではないからです.
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上の表で,球充填密度は
vn(r/2)^n
として求めたものです.vnはn次元単位超球の体積で,
v1=1,v2=π,vn/vn-2=2π/n (n≧3)
すなわち,
vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
によって与えられます.
n vn n vn
1 2 6 5.167
2 3.14 7 4.72
3 4.19 8 4.06
4 4.93 9 3.30
5 5.263 10 2.55
少し詳細に調べていきましょう.まず,3次元の場合,単位球のまわりに面心立方格子状に単位球を置いた場合の接触点
1/√2(±1,±1,0)
1/√2(±1,0,±1)
1/√2(0,±1,±1)
を考えてみると,これら12個の相異なる2点に対応するベクトルの内積は,−1,±1/2,0のいずれかであり,したがって,その間の角度(球面距離)は60度以上となりますから,これらの点で接するように12個の単位球を置くことができます.したがって,3次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τ3≧12は直ちにわかります.
4次元の場合はどうなるでしょうか? 24個の面心立方格子状配置の接触点
1/√2(±1,±1,0,0)
1/√2(±1,0,±1,0)
1/√2(±1,0,0,±1)
1/√2(0,±1,±1,0)
1/√2(0,±1,0,±1)
1/√2(0,0,±1,±1)
で重ならないように置けるので,τ4≧24は明らかです.
コラム「4次元・5次元を垣間みる」で述べたように,n次元面心立方格子状配置の充填率は,
2^(n-1)vn/(2√2)^n=vn/2^(n/2+1)
で計算できるので,これと極大格子の球充填密度
vn(r/2)^n
を比較してみることにしましょう.
n 極大格子の球充填密度 面心立方格子の球充填密度
3 0.740 = 0.740
4 0.619 = 0.619
5 0.465 = 0.465
6 0.373 > 0.323
7 0.295 > 0.209
8 0.254 > 0.129
すなわち,4次元,5次元においては面心立方格子の類似品となることがわかりますが,6次元以上についてはそのようなことはもはや成立しなくなります.次元の上昇とともに,超球の間の隙間が大きくなっていくからです.
8次元になると面心立方格子に十分な隙間ができるので,112個の面心立方格子状配置の接触点
1/√2(0,・・・,±1,0,・・・,±1,0・・・) (±1の個数は2つ)
と128個の隙間の点
1/√8(±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1,±1) (+の個数は偶数)
に同じ大きさの球が詰め込み可能になります.
8次元の球の最大接触数τ8については,τ8の240個の点はE8型の単純リー代数の240個のルート格子で実現されます.さらに,この詰め込みの断面が6次元と7次元のもっとも効率のいい格子状詰め込みを与えてくれます.
τnの正確な値を決定する問題は大変難しく,4次元以上の高次元については,高度に対称的な格子状配置になっている8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決であり,現在,正確な値が知られているのは,τ1=2,τ2=6,τ3=12,τ8=240,τ24=196560の5つだけなのです.
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【5】ランダム配置の平均距離
コラム「ポアソン配置とワイブル分布(雑然か整然か)」は,配置が完全に規則的である結晶と,もう一方の極みにあるランダムな配置を扱ったものですが,平面上または空間中に無作為に配置(ポアソン配置)した点の集団があるとして,ある点からその最も近い点(最近接点:nearest neighbor)に至るまでの距離rの分布を考えます.
詳細についてはコラムを参照していただきたいのですが,ポアソン配置における平均距離rmは
rm=Γ(1+1/n)/n√vnδ=q/n√δ
で与えられます.
ここで,qという係数はポアソン配置に関係するもので,いかなる配置の点であっても,一般的に
rm=q/n√δ
の形で書くことができます.qの値は規則的な配置では大きくなり,点が密集し無作為配置からはずれるとき,qの値は小さくなり,完全に一点に集結するならばq=0となります.したがって,q値は雑然と整然の度合いを測るひとつの指標となり得るものと考えられます.
vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
より,
q=Γ(1+1/n){Γ(n/2+1)}^(1/n)/√π
が得られますが,以下の表にはランダム配置のq値と均等配置のq値(極大格子の最小距離)を並べて掲げます.
n ランダム配置の平均距離 均等配置の格子点間距離
1 0.5 1
2 0.5 1.075
3 0.5540 1.122
4 0.6081 1.189
5 0.6587 1.231
6 0.7056 1.290
7 0.7493 1.346
8 0.7905 1.414
9 0.8294 −
10 0.8663 −
ランダム配置の平均距離は,均等配置の格子点間距離の半分よりは大きい,逆にいうと,均等配置距離はランダム配置の平均距離の2倍よりも小さいようですが,この傾向は9次元以上でも続くのでしょうか?
コラム「ポアソン配置とワイブル分布(雑然か整然か)」から得た教訓は「結晶と完全にランダムな点の配置は対極的ではあるが,どちらも数学的な扱いが容易な構造である.」ということでした.数学的にみると完全な「ランダムネス」は意外に扱いやすいのです.
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【6】ルート系の例
ルートは,半単純リー群の分類とか,特異点,正多面体の決定の際にも現れ,数学のさまざまな領域で重要な働きをします.
ここで,R^nの標準基底をe1,・・・,enとしましょう.
ei=(0,・・・,1,0,・・・,0)
たとえば,R^3の標準基底をe1,e2,e3,R^4の標準基底をe1,・・・,e4,R^8の標準基底をe1,・・・,e8とすると,A3型ルート系は,
Φ={e1−e2,e2−e3,e3−e4}
D4型ルート系は,
Φ={e1−e2,e2−e3,e3−e4,e3+e4}
E8型ルート系は,
Φ={e1−e2,・・・,e7−e8,e0−e1−e2−e3}
のようにとれます.
ここで,それぞれ,
αi=ei−ei+1
αi=ei−ei+1,αn=en-1−en
αi=ei−ei+1,α0=−e1−e2−e3
とおきます.そうすると,E8型ルート系の場合,
α1−α2−α3−α4−α5−α6−α7
|
α0
となり,前述のディンキン図形が求まります.このように,ディンキン図形は特異点とルート系の架け橋となっているグラフなのです.
ルートは鏡映を与えるベクトルとして理解することができるのですが,8次元ユークリッド空間において,8次元単体(4面体の拡張)を鏡映したものからなるモザイク模様に対してベクトルの集合を考えることによって,E8型ルート系が得られるというわけです.多岐にわたる話題の中に少なからぬ重要性をもって現れるわけですから,魅力的な世界を形作っていると申せましょう.
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【補】トレースと行列式
固有多項式の根と係数の関係より,トレース(対角線の項の和)=固有値の総和,すなわち,
σ11+・・・+σmm=λ1+・・・+λm
が成り立つ.トレースは全固有値の和であり,行列式は全固有値の積:
|Δ|=λ1*λ2*・・・*λm
なのである.
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【補】固有値の意味
ところで,固有値は幾何学的に何に対応しているのでしょうか?
→単位キューブを線型写像で変換したときの各辺の長さと思えばよい.そうすると,行列式=体積=固有値の積であることが分かる.
すなわち,行列式は平行六面体の体積であり,直交行列の行列式が直方体の体積になるわけですから,
Πσii≧|Δ| (等号は直交行列のとき)
は,アダマールの定理「3辺の長さが与えられたとき,平行六面体の体積は直方体のときに最大となる」にほかなりません.
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【補】数の幾何学とミンコフスキーの格子点定理
ミンコフスキーはアインシュタインの先生として有名で,相対論における基本概念はミンコフスキーにその起源をたどることができます.また,2次形式の理論が発展していく段階では,ミンコフスキーが非常に大きな貢献をしています.
彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.
「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」
この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,
「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」
「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」
「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」
なども証明することができます.格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.
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