■もうひとつの五角数定理

 
 「閑話休題」が始まった当初は,リーマンのゼータ関数など数論に関する話題が取り上げられることが多かったのですが,今回は久々に数論の問題を紹介したいと思います.
 
 今回のコラムでは,2つの「五角数定理」を扱う関係から,まず最初に三角数,四角数,五角数,・・・,m角数について説明しますが,コンウェイ&ガイ「数の本」の解説を引用すると
 
 『1から始まる等差数列の最初のn項を足すと,いろいろな多角数が得られる.
 
  1+1+1+1+1+・・・からは自然数が得られる:1,2,3,4,5,・・・
  1+2+3+4+5+・・・からは三角数が得られる:1,3,6,10,15,・・・
  1+3+5+7+11+・・・からは四角数が得られる:1,4,9,16,25,・・・
  1+4+7+10+13+・・・からは五角数が得られる:1,5,12,22,35,・・・
  1+5+9+13+17+・・・からは六角数が得られる:1,6,15,28,45,・・・』
 
 一般に,m角数の第n項は,多角形の辺数mは公差よりも2だけ大きいことから,初項1,公差m−2の等差数列の和:
  1/2・n・{2+(m−2)(n−1)}
で与えられることがわかります.
 
 1/2・n・{2+(m−2)(n−1)}の形の自然数をm角数といいます.すなわち,三角数△nとはn(n+1)/2,四角数□nとはn^2の形の自然数,すなわち平方数です.また,本日の主役となる五角数☆nはn(3n−1)/2で表されます.
 
 多角数という名前はそれぞれの図形の点の配置に由来するもので,ピタゴラスらが興味をもった図形数ですから,代数的にではなく図形的に考えてみることにしましょう.そうすると,n−1番目の三角数をΔn-1=(n−1)n/2とすると,多角形にΔn-1個の点からなる三角形を追加して作ることができるわけですから
  n+(m−2)Δn-1=1/2・n・{2+(m−2)(n−1)}
とも考えることができるのです.
 
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【1】m角数定理
 
 さて,1つめの「五角数定理」とは「すべての自然数はたかだか五個の五角数で表せる」というものです.
 
 ガウスは1796年の日記に「わかった! n=△+△+△」と書いていますが,それはすべての整数は3つの3角数の和によって表しうるという意味で,m=3の場合についての証明に相当します.ガウスの発見は8n+3の形をしたすべての整数を3つの奇数の平方の和として表せることを意味していて,3平方和定理「8n+7の形の自然数は3つの平方数の和では表せない」を用いると「n=△+△+△」を簡単に示すことができます.
 
(証明)4^k(8n+7)でない奇数は3平方和で表せますから,任意の自然数nに対して8n+3=x^2+y^2+z^2と書けます.このとき,x=2p+1,y=2q+1,z=2r+1とおくと
  n=p(p+1)/2+q(q+1)/2+r(r+1)/2
 
 「m角数定理」とは「すべての自然数はたかだかm個のm角数で表せる」というものです.この定理で,m=3の場合がガウスの定理「n=△+△+△」,m=4の場合がラグランジュの定理「n=□+□+□+□」に相当します.m=5の場合が五角数定理「n=☆+☆+☆+☆+☆」の相当するわけですが,フェルマーが遺して後世を悩ましていたこの命題は,オイラー,ラグランジュ,ルジャンドルなどの研究を経て,1813年,コーシーが証明しセンセーションを巻き起こしました.
 
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【2】三角数,平方数,立方数,・・・(楕円曲線)
 
 ここでは,三角数について初等的に証明できる問題をいくつか紹介することにします.
 
 「3角数であり平方数であるものは無限に存在する.」
 
(証明)1/2y(y+1)=x^2,すなわち,
  (2y+1)^2−2(2x)^2=1
をみたす自然数の組(x,y)が無限にあることいえばよい.
 
 自然数an,bnを(1+√2)^n=an+bn√2によって定義すると,
  an^2−2bn^2=(an+bn√2)(an−bn√2)
         =(1+√2)^n(1+√2)^n=(−1)^n
また,(1+√2)^nの展開を考えると,
  an=1+(偶数),bn=n+(偶数)
よって,nを偶数にとるとan^2−2bn^2=1,anは奇数,bnは偶数.
そこで,y=(an−1)/2,x=bn/2とおくと,
  (2y+1)^2−2(2x)^2=1
 
 「1以外の3角数は立方数ではない.」
 
(証明)1/2y(y+1)=x^3は,(2y+1)^2=(2x)^3+1と書き換えられるから,楕円曲線y^2=x^3+1の整数解に関する主張だと解釈できる.
 
 実は,これには整数点は(2,±3),(0,±1),(−1,0)の5つしかありません.また,この楕円曲線には有理点もやはりこの5つしかないのです.これより,1以外の3角数は立方数ではないことが導かれます.
 
 一方,y^2=x^3−2は(3,±5)以外の整数点をもちません(y^2=x^3−2の整数解について,古代ギリシアのディオファントスは,y=t+1,x=t−1とおき,y^2=x^3−2に代入するとt^2+2t+1=t^3−3t^2+3t−3.この式はt(t^2+1)=4(t^2+1)と変形できるので,t=4すなわちy=5,x=3が解であるとしています).
 
 しかし,この曲線には,無数に有理点が得られます.たとえば,(129/100,±383/1000).また,y^2=x^3−4の整数点は(2,±2),(5,±11)の4個のみですが,有理点は(106/9,±1090/27)など無数個存在します.
 
 ところで,当該の楕円曲線:y^2=x^3+1の一般形は,バシェの方程式:
  y^2=x^3−a
と呼ばれるもので,一般に,バシェの方程式:y^2=x^3−aには有限個の整数解しかないのですが,たとえば,a=−7に対しては1つも整数解がありません.また,a≠−1,432ならば曲線上には無限個の有理点があることがわかっています.
 
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【3】2平方和定理(フェルマーの定理)
 
 特別な素数である2を除外して,素数は4で割ると余りが1になるもの(5,13,17,29,37,41,・・・)と3になるもの(3,7,11,19,23,31,・・・)の2種類に分けられます.このうち,4n+1の形の素数は2つの整数の平方の和として表されます.たとえば,
  5=1^2+2^2,
  13=2^2+3^2,
  17=1^2+4^2,
  29=2^2+5^2,
  ・・・・・・・・・
 
 このように,4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在します.
  (a^2+b^2)(c^2+d^2)=x^2+y^2
  x=ac−bd,y=ad+bc
しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.
 
 この定理はフェルマーの定理と呼ばれ,フェルマーは無限降下法でこれを証明しましたが,その証明は不十分で,100年後のオイラーによって完全な証明がなされています(フェルマー・オイラーの定理).
 
 2平方和定理は「4で割ると1余る素数ならば,p=x^2+y^2となる自然数が存在する」でしたが,フェルマーはまた,
  「pが8で割ると1または3余る素数ならば,p=x^2+2y^2」
  「pが8で割ると1または7余る素数ならば,p=x^2−2y^2」
  「pが3で割ると1余る素数ならば,p=x^2+3y^2」
となる自然数x,yが存在することを発見しました.
 
 p=x^2+y^2,p=x^2+2y^2,p=x^2+3y^2,・・・などの発見は,類体論の序曲をなすものといえるのです.
 
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【4】3平方和定理(ルジャンドルの定理)
 
 4n+3の形の数は2個の平方数の和で表せませんが,同様にして,
  「8n+7の形の数は3個の平方数の和では表されない.」
 
 □+□+□は4^K(8n+7)の形でないすべての整数を表現するというのが,ルジャンドルの定理です.この定理は,ガウスの定理「n=△+△+△」の証明のところで,すでに紹介済みです.
 
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【5】4平方和定理(ラグランジュの定理)
 
 「任意の自然数は4つの平方数の和の形に表せる.」
すなわち「n=□+□+□+□」
 
 オイラーはこの定理の直前まで行きながら,最後の段階で成功しませんでした.ラグランジュはオイラーの研究成果からアイデアを得て,1772年,最後の段階を突破しました(オイラー・ラグランジュの定理).
 
 その証明中で用いられる基本公式が
  (a^2+b^2+c^2+d^2)(p^2+q^2+r^2+s^2)=x^2+y^2+z^2+w^2
で,1748年にオイラーによって証明されています.
 
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【6】ウェアリングの問題
 
 1770年,ウェアリングは4平方和定理を拡張して,「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」ことを証明抜きで主張しました.
 
 この問題は多くの数学的思考を刺激し,1909年に至ってヒルベルトによって,どの数もいくつかのn乗数の和で表されることが証明されています.以下,37個の5乗数の和,73個の6乗数の和,・・・と続きますが,この最良値を完全に決めることはまだできていません.
 
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【7】リーマンのゼータ関数
 
 自然数のs乗の逆数の和:
  ζ(s)=Σn^(-s)=1/1^s+1/2^s+1/31^s+1/4^s+・・・
をsの関数とみて,リーマンのゼータ関数が定義されます.
 
 s1(x)=sin(πx)/πの無限積表示
  xΠ(1-x^2/n^2)=x-ζ(2)x^3+1/2(ζ(2)^2-ζ(4))x^5+・・・
また,無限和表示(テイラー展開)は
  s1(x)=sin(πx)/π=x-π^2/6x^3+π^4/120x^5+・・・
ですから,これらを比較して,ゼータ関数の特殊値
  ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/120,ζ(6)=π^6/945,・・・
が得られます.
 
 また,exp(-cx^2)のフーリエ変換はまた同じ形で与えられることから,テータ関数に対するヤコビの変換公式
  θ(t)=Σexp(-πn^2t)=1/√(t)Σexp(-πn^2/t)
とガンマ関数
  Γ(s)=∫(0,∞)exp(-t)t^(s-1)dt
を用いると,ゼータ関数の関数等式(保型性)
  ζ(s)=2^sπ^(s-1)sin(sπ/2)Γ(1-s)ζ(1-s)
が得られます.
 
 これを,対称性の高い形に書くには
  ζ~(s)=π^(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)
と定義するとよく,
  ζ~(s)=ζ~(1-s)
となることがわかります.
 
 この対称性はs=1/2の軸に関するものですが,ζ(s)の零点がs=-2,-4,・・・,-2n,とs=1/2+itの線上にあるというのが有名なリーマン予想(1859年)です.この予想は一部に素数定理なども含む数学上の最大の難問であって,いまだ未解決です.
 
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【8】オイラー積(最初のゼータ)
 
 リーマンのゼータ関数は,もうひとつの重要な表示をもっています.
  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
 
 Π(1−p^(-s))^(-1)をオイラー積表示といい,オイラーが1737年に発見したものです.
  Π(1−p^(-s))^(-1)=Π(1+p^(-s)+p^(-2s)+・・・)
ですが,素因数分解の一意性より
  Π(1−p^(-s))^(-1)=Σn^(-s)
となることが証明されます.
 
 調和級数(自然数の逆数の和)は∞を使うと,オイラー積表示において,s=1とおくことにより
  Π(1−p^(-1))^(-1)=1+1/2+1/3+・・・=log∞
対数をとることで,
  Σ1/p=log(Σ1/n)=loglog∞
 
 素数が無限個あるという定性的な結果は,古代ギリシャ時代,ユークリッドによってすでにわかっていたのですが,オイラーの証明はそれを定量的に改良したものになっています.また,オイラー積は素数が無限個存在することを示しているとともに,ζ(s)がRe(s)>1において零点をもたないことを示していて,ずっと強い意味での別証明になっています.本質的な進歩と考えられるのです.
 
 ここで,素数をまとめあげたものを「ゼータ」と呼ぶことにすると,オイラー積は歴史上最初のゼータということもできるのです.
 
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【9】オイラーの五角数定理(もうひとつの五角数定理)
 
 「分割数」とは与えられた数にどれだけ多くの分割があるのか(4=1+1+1+1,4=3+1)などの整数の分割理論のことであり,たとえば,4を分割するには5通りの方法,4=3+1=2+2=2+1+1=1+1+1+1がありますから,p(4)=5,同様にしてp(5)=7となります.5=4+1=3+2=3+1+1=2+2+1=2+1+1+1=1+1+1+1+1
 
  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))
は,オイラーが分割関数p(n)の研究中に発見した関数等式です(1750年).左辺は整数のk個の平方数の和への分割問題:
  n=□1+□2+・・・+□k
に結びついています.mが負になる項も含んでいるため,展開すると
  Π(1-q^n)=1-x-x^2+x^5+x^7-x^12-x^15+x^22+x^26-x^35-x^40+x^51+・・・
になります.
 
 この等式もオイラー積のように「無限積=無限和」型の等式ですが,指数の引数:m(3m−1)/2,すなわち,1,5,12,22,35,51,・・・という数列がピタゴラスの五角数であることから,五角数定理と呼ばれています.
 
 p(n)はオイラーの分割関数とも呼ばれますが,整数の分割問題は,現在では,統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.
 
 また,オイラーの五角数定理は,左辺がイータ関数,右辺がテータ関数と呼ばれる保型形式の原型を与えていたので,19世紀には,
  デデキントのイータ関数=ヤコビのテータ関数
すなわち,保型形式の間の等式と捉えられるようになりました.さらに,1987年にウィッテンにより,素粒子の超弦理論はアデール理論として捉えられたことにより,最近では素粒子の超弦理論との関連も研究されています.
 
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【10】分割関数の明示公式
 
 分割数を求めるには,五角数を利用したオイラーの方法があります.
  p(n)-p(n-1)-p(n-2)+p(n-5)+p(n-7)-p(n-12)-p(n-15)+・・・=0^n
ただし,n=0のとき0^n=1,nが正のときは0^n=0とします.符号は2つずつ組になって反転していますが,それにしても不思議な公式です.
 
 また,分割数は,以下の公式によって代数的に定義することもできます.
  f(x)=Π(1-x^n)^(-1)={(1-x)(1-x^2)・・・(1-x^n)・・・}^(-1)=Σp(n)x^n
 
 f(x)は分割関数p(n)の母関数ですが,オイラーの五角数定理
  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))
により
  x^(1/24)/f(x)=Σ(-1)^nx^((6n-1)^2/24)
したがって,左辺はデデキントのイータ関数の定義そのもの,また,右辺は確かにテータ級数(ベキが平方数であるような交代級数)であることがわかります.なお,三角関数に対応する楕円関数sn,cn,dnがヤコビの楕円関数と呼ばれるのに対して,指数関数に対応するのがヤコビのテータ関数で,ヤコビはテータ関数:
  θ3(z)=1+2Σq^(n^2)cos(2nπ)
などを使って,楕円関数を表すことにも成功しています.
 
 分割関数p(n)は整数値をとりますが,分割数を表す簡単な公式はありません.しかし,ラマヌジャンが予想した注目すべき近似式が知られています.
  p(n) 〜 1/4n√(3)exp(π√(2n/3))
 
 インド生まれの数学者ラマヌジャンは,多くの公式や定理を発見し,神秘的な東洋の天才数学者とよばれていて,1日1つの割合で新しい公式または定理を発見したといわれています.ラマヌジャンは,素数と同じくらい風変わりな数として高次合成数の性質について探求しています.合成数とは素数でない数のことで,高次合成数とは24のように1,2,3,4,6,8,12,24と多くの約数をもつ数のことです.
 
 その後,分割関数はラーデマッハーによって修正され,完全な明示公式が与えられました(1937年).
  p(n)=1/π√(2)Σk^(1/2)Ak(n)d/dn{sinh(πλn√(2/3))/λn}
 この明示公式には,1の24乗根が使われていますが,24は代表的な高次合成数になっています.
 
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【11】ラマヌジャン数(保型形式論の端緒)
 
 保型形式が最初に現れたのは,1750年のオイラーによる五角数定理
  Π(1-q^n)=Σ(-1)^mq^(m(3m-1)/2))   m(3m-1)/2は五角数
ですが,ヤコビの公式(もうひとつの三角数定理?:1829年)
  Π(1-q^n)^3=Σ(-1)^m(2m+1)q^((m^2+m)/2)   (m^2+m)/2は三角数
を経て,ラマヌジャンの保型形式論の時代に突入します.
 
 ラマヌジャンは,
  Δ(z)=qΠ(1-q^n)^24=Στ(n)q^n
      zは虚部が正の複素数で,q=exp(2πiz)
を考え,その係数τ(n)を計算しました.
  τ(1)=1,τ(2)=-24,τ(3)=252,τ(4)=-1472,・・・
 
 ここでも,無限積をベキ級数に展開した式(フーリエ展開)が登場しましたが,このΔ(z)は,重さ12の保型形式
  Δ(az+b/cz+d)=(cz+d)^12Δ(z)
と呼ばれるものになっていて,オイラーの五角数公式の拡張(24乗版)と考えられます.
 
 τ(n)はオイラーの分割数のアナローグであり,ラマヌジャン数と呼ばれます.この数は驚くような性質をもってるのですが,このことについては次項で紹介することにします.
 
 また,ラマヌジャンは保型形式を用いて,たとえば,
  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
  Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)
を証明しています.ここで,πとωはそれぞれ,
  π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)
  ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)
です.
 
 これらの等式は,積分表示
  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
の離散化とみることができますが,この式はコラム「プランク分布と量子化の概念」で紹介したプランク分布(Bose-Einstein統計)そのものです.
 
 熱せられた物体からはさまざまな波長の電磁波が放射され,それは熱放射と呼ばれます.どのような波長の電磁波がどんな強さででてくるのか,これを熱放射のスペクトルといいます.プランクは,全波長領域にわたって測定結果と一致する式を導出することに成功しました(1900年).→【補】
 
 その際,プランクは,式を導出する過程で熱放射のエネルギーは不連続の値を取るという条件を設定したのですが,このような条件を設定しないと,計算の途中で式が無限大に発散するからです.これがエネルギー量子仮説ですが,プランクは自分の息子に「私はニュートンに匹敵する発見をしたらしい」と語り,量子仮説の重大さを訴えたことが伝えられています.
 
 このように,エネルギーの量子化の概念は,熱放射に関連してプランクが提唱したのですが,これをきっかけにして量子力学の概念が体系化されたことはあまりにも有名です.
 
 さて,ラマヌジャンの計算の近似値を求めてみることにしましょう.ベルヌーイ数{Bn}の指数型母関数
  x/{exp(x)-1}=ΣBn/n!x^n
を使って,あるいは,
 ∫(0,∞)=∫(0,1)+∫(1,∞)
と分けて厳密に考察すべきなのでしょうが,細かいことは気にせずに計算すると,
  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx
において,x=2πyとおくと,dx=2πdyより,
  ∫(0,∞)y^(s-1)/{exp(2πy)-1}dy=ζ(s)Γ(s)/(2π)^s
 
 これより,
  Σn^(s-1)/{exp(2πn)-1} 〜  ζ(s)Γ(s)/(2π)^s
ここで,ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945を代入すると,
  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504 〜 1/504
  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240 〜 1/240
  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π 〜 1/24
 
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【12】ラマヌジャン予想(2次のゼータの始まり)
 
 1916年,ラマヌジャンはラマヌジャン数のゼータについて考え,ある予想をたてました.ラマヌジャン数のゼータ,すなわち,
  L(s)=Στ(n)n^(-s)
とおくと
  L(s)=Π{1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s)}^(-1)
が成り立つことを予想したのです.
 
 それまでは,
  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)
のように,積の中身がp^(-s)の1次式であり,本質的には1次のゼータでしたが,オイラー積と比較してみるとわかるように,p^(-1)の1次式から2次式に進化しており,歴史上最初の2次のゼータといえるのです.
 
 新種のゼータに関するこの予想は,翌年,モーデルによって証明されました(1917年).
 
 また,ラマヌジャンは同時期に重さ2の保型形式,すなわち,
  F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)
という変換公式をもつ
  F(z)=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2=q-2q^2-q^3+2q^4+q^5+2q^6-2q^7+・・・
    =Σc(n)q^n
の場合のゼータ
  L(s)=Σc(n)n^(-s)
についても,2次のゼータとなる
  L(s)=(1-c(11)11^(-s))Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)
を予想しています.
 
 この予想は,1954年,アイヒラーが楕円曲線:y^2−y=x^3−x^2のゼータ関数と保型形式:F(z)=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2のゼータ関数が,すべての素数に対して一致することを示すことによって解決されました.
 
 アイヒラーが示した「解析的ゼータ=代数的ゼータ」は,ゼータの統一の先駆けであったのですが,ワイルズのフェルマー予想の証明(1995)に至る大きなステップであって,ラマヌジャン予想は20世紀の数論の原動力として重要な役割を果たしたといえるのです.
 
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【補】統計力学
 
 n個の箱にr個の玉を入れる問題を考えます.箱を空間の小領域,玉を気体の分子と見立てて,ボルツマンは統計力学(Maxwell-Boltzmann統計)を構成しました.MB統計では1つの玉の入れ方がn通りで,玉がr個ですから全部でn^r通りの入れ方があると考えます.しかし,このように考えると,黒体輻射の実験がどうしてもうまく説明できませんでした.
 
 そこで,玉は区別がつかないと仮定すると,n個の箱に区別できないr個の玉を入れる入れ方は重複組合せnHr通り=n+r-1Cr通りあることになり,新たな統計力学が構成されます.この統計力学はBose-Einstein統計と呼ばれ,光子や中性子がうまく当てはまります.BE統計にしたがう素粒子はボゾン(boson)と呼ばれます.
 
 さらに,1つの箱には玉は1つしか入らないとするパウリの排他則を仮定すると重複のない組合せnCr通りとなり,Fermi-Diracの統計が得られます.FD統計にしたがう素粒子に電子や陽子があり,それらはフェルミオン(fermion)と総称されます.
 
 別の言い方をすると,宇宙を作っている粒子には2種類あり,物質の素になる粒子がフェルミオン(電子やクォークなど),力の素になる粒子がボゾン(光子など)なのですが,宇宙はひもから構成されているというのが「ひも理論」であり,フェルミオンのひもとボゾンのひもの2種類からなるというわけです.ひも理論の場合,フェルミオンは10次元,ボゾンは26次元というとんでもない値をとるのですが,これについては前回のコラムの「ひもの棲む世界」で説明したとおりです.
 
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