■ビールの泡と多面体

 
 ビールの泡や数の子の卵は粒子が細かいので,球形だと思っている人が圧倒的かと思う.しかし,ザクロの実とかシャボンの泡くらいの大きさになると,隅の角が丸みを帯びてはいるものの,ほぼ多面体ということが諒解されるだろう.
 
 それでは何面体なのかと問われると,即答できるひとはほとんどいないのであるが,実は,多面体の面数は14面,面の形は五角形がもっとも多いことが知られている.2000年のコラム「空間分割と14面体」にはそのことを解説したのでご覧頂きたい.
 
 今回のコラムでは,小川泰「かたち探検隊」岩波書店の「ビールの泡」欄に掲載された従来知られている多面体とは異なる形の空間充填形がネタとなっているのだが,「空間分割」,「プラトーの問題」,「掛谷の問題」など幾何学の問題をオムニバス式に取り上げることにした.
 
 ザクロ,ハチの巣,石けんの泡などのように,空間がある立体(多面体)によって分割される空間分割は,生物と無生物を問わず,自然界に広く見られる現象である.そこで,空間分割では14面体が得られる理由などについて再考してみることにするが,今宵ジョッキを傾けながら,ビールの泡に目を凝らし,この問題に思いを馳せてみるのも趣き深きものがあろう.
 
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【1】安定な平面分割・空間分割
 
 (問)正多角形は無限に多く存在しますが,それでは,互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?
 
 (答)平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3種類に限ることは,昔からよく知られていますが,このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.
 
 しかし,正三角形と正方形による平面分割は頂点だけで接している多角形があるので,ボロノイ分割に対して安定とはいえません.点のわずかな動きによって,ボロノイ分割が激変してしまうのです.したがって,ボロノイ分割の意味で安定なものは六角形による平面充填だけということになります.
 
 それでは,3次元ではどうでしょうか? 正多面体による空間充填を考えると,立方体は明らかに空間を埋めつくすのですが,立方体を除く正多面体はどれも空間を充填しません.5種類ある正多面体(プラトン立体)の中では立方体だけ,16種類ある準正多面体(アルキメデス立体:2種類以上の正多角形から構成されている立体)の中では切頂八面体だけが空間を単独で埋めつくすことができます.
 
 切頂八面体(truncated octahedron)は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です.実は,準正多面体のなかで空間充填が可能なのは切頂八面体−−正6角形8枚と正方形6枚の2種類で作る14面体−−しかありません.切頂八面体は対心立方格子のボロノイ多面体です.
 
 また,それ以外の単独空間充填形となる多面体としては,菱形十二面体(rhombic dodecahedoron )があげられます.菱形十二面体は,面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが,対心立方格子のボロノイ多面体になっています.
 
 立方体,菱形十二面体,切頂八面体のうち,1点に4個の多面体が会してボロノイ分割に対して安定なものは切頂八面体だけなのですが,このことは14面体が最も多いとする実験的研究から得られた値を裏付ける1つの根拠を与えてくれます.
 
 なお,それほど単純でない単独空間充填多面体の例としては,切頂4面体の正三角形部分に正4面体を4分割した扁平な4面体をくっつけたものが知られていますし,また,対称性をもたない凸の空間充填多面体としては,38面体の例も知られているようです.
 
 もし2種類以上を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから,両者を組み合わせて空間充填が可能になります.一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのですが,正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填します.
 
 一方,2種類以上の多面体による空間充填については,すでに述べた切頂4面体と正4面体(1:1),切頂立方体と正8面体(1:1),切頂8面体と切頂立方8面体と立方体(1:1:3)の組合せなど,非常に多くの例があります.
 
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【2】ケルビンの14面体
 
 (問)ビールの泡のひとつひとつが同じ体積だと仮定して,表面張力で泡と泡の境界の総面積が最小になるとき,泡はどんな形か?
 
 1887年,英国の物理学者,ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は14面体の集合によって空間を満たすことができ,そのときの界面積は菱形十二面体で満たしたときより小さいことを発見しました.すなわち,14面体は表面張力を最小とする空間分割構造であると考えることができます.
 
 この14面体(α-14面体)は,3対の合同な四角形の面と4対の合同な6角形の面とで囲まれています.最も簡単な場合は,6個の正方形と8個の正六角形とからなり,すべての辺の長さが等しいもの,すなわち,切頂八面体です.切頂八面体は16種ある準正多面体(アルキメデス体)のひとつです.
 
 切頂八面体とα-14面体の関係は,立方体と平行六面体の関係に相当します.たとえば,諏訪紀夫「病理形態学原論」岩波書店には,α-14面体の代表例として8個の合同な六角形,4個の合同な平行四辺形,2個の合同な矩形の面をもち,面はすべて平面となる立体が収載されています.
 
 このようなα-14面体は無限にありますが,とくに,すべての辺の長さの等しいものは,ケルビンの14面体と呼ばれています.ケルビンの14面体は切頂八面体をやや引き伸ばした形であって,切頂八面体のような等方14面体の条件は満足されませんが,単一の多面体による空間分割は可能です.
 
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【3】ウィリアムズの14面体
 
 α-14面体は,長い間,単一の多面体で空間を隙間なく分割しうる唯一のものと信じられてきました.面を平面にするという条件下にはこれは今日でも通用することです.しかし,その条件を外せば,空間充填14面体にはもう1種類あることを,1968年になってウィリアムズが報告しています.これがβ-14面体ですが,この間,実に1世紀近い年月の隔たりがあります.
 
 β-14面体は,8個の合同な五角形と4個の合同な六角形と2個の合同な四角形をもち,それらの面は必ずしも平面である必要はありません.正方形の面は平面にできるのですが,その他の面はいずれも曲面(凸面,凹面,S字状の湾曲した曲面など)になります.
 
 α-14面体に比較しても,辺が曲線になったり,面が曲面を含む点で幾何学的性質の単純さは劣りますが,五角形の面をもつという利点があります.すでに説明したように,分割多面体では5角形の面が最も多いのですが,α-14面体はまったく5角形の面をもちませんから,β-14面体のほうが空間分割のある側面をよく表していると考えることができます.
 
 β-14面体のほうが形の上で実際に近いとはいっても,それだけでモデルの優劣を判断するわけにはまいりません.しかし,平面に投射した形を考えてみると,β-14面体による空間充填は,スケールを大きくとることによって,5角形による平面充填配列に近づいていきます.この5角形とは正五角形ではなく,カイロのタイル貼りと呼ばれる歪んだ5角形によるタイル貼りのことであって,正方形と正三角形によるアルキメデスの平面充填形の双対として得られるものです.
 
 一方,α-14面体を平面のタイル張りに還元するには,かなり著しい変形を加えなければなりません.このことは,血管の分岐様式が二分岐になるためのモデルとして,多面体が奇数の辺をもつβ-14面体のほうが都合がよいことを意味していて,諏訪氏はβ-14面体の存在理由を非常に重要なものと考えています.
 
 便宜のため,α-14面体とβ-14面体の主要な幾何学的性質をまとめて表示しておきます.
 
         α-14面体         β-14面体
 
面の形と数   平面6辺形(8)       曲面5辺形(8)
        平面平行4辺形(4)     曲面6辺形(4)
        平面正方形または矩形(2)  平面正方形または矩形(2)
 
稜の形と数   直線(36)         曲線(24)
                       直線(12)
 
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【4】ウィアの12面体・14面体
 
 1994年,アイルランドの物性物理学者,ウィアは合金構造をヒントにもっと面積が小さくなる解を発見しました.同じ体積の2種類の多面体による空間充填なのですが,12面体(5角形12枚)と14面体(5角形12枚と6角形2枚)が1:3の割合で並ぶものです.
 
 もちろん,この12面体は正十二面体ではありません.ウィアの空間充填では,ウィリアムズの14面体の場合と同様に,辺や面には微妙な曲がりが含まれています.曲面の高精度計算がコンピュータでできるようになったことがこの新発見に繋がったのですが,辺や面を微妙に調節することによって空間充填が可能となるのです.
 
 また,ウィアの空間充填では,ウィリアムズの14面体よりも多くの五角形の面をもつという特徴もあげられます.ともあれ「同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何か?」は,泡の種類を増やせば面積をもっと減らすチャンスがあるのです.
 
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【5】3次元格子のボロノイ領域
 
 まず,簡単な縄張りのモデルを考えてみましょう.草原のいくつかの巣穴にネズミが一匹ずつ棲んでいるとする.個々の縄張りが単独で存在するとき,縄張りはほぼ円であると考えることができますが,個体密度が次第に高くなってくると,縄張り所有者は互いに侵入者を追い払おうとしますから,縄張り間に境界が生じます.二匹のネズミの力に差がないとき,境界線は隣り合った2つの巣穴を結ぶ線分の垂直二等分線になり,そして,個体密度が十分高くなると,結局,棲息地はいくつかの凸多角形で分割されることになるのです.
 
 このように,はじめに点の分布(母点)があって,隣り合った2点を結ぶ線分の垂直二等分線を次々に引いていくことによりできる多角形パターンは,ディリクレ領域またはボロノイ領域と呼ばれます.この概念は,はじめディリクレによって2次元で提出され(1850年),その後,ボロノイによって3次元に拡張されました(1908年).
 
 研究分野によりいろいろな呼び名が使われていて,たとえば,地理学分野ではティーセン多角形と呼ばれていますし,物性物理学分野では,ウィグナー・ザイツセルという呼び名も用いられています.細胞(セル)の図と非常に似ているためでしょう.このように,ボロノイ分割は大勢の人が考えついて,しかも,いろいろな分野で独立に使われだしたようです.
 
 ディリクレ領域の概念は3次元にも一般化できます.3次元格子には1848年にブラーベが発見した14種類あるのですが,これから決まる本質的なディリクレ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(正6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかありません.
 
 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,このうち,6角柱と菱形12面体は4次元立方体を3次元に投影したもの,長菱形12面体は5次元立方体を,切頂8面体は6次元立方体を3次元に投影したものと一致しています.
 
 平行多面体は,結晶構造と深く関係していて,それぞれ,単純立方格子,六方格子,面心立方格子,底心格子(直方体の8個の頂点と上面・下面の面の中心に原子が配置されている構造),体心立方格子に対応するボロノイ領域です.これら5種類の平行多面体は,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていませんが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる所以です.
 
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【6】プラトーの問題
 
 ラグランジュは,与えられた境界をもつ極小曲面(表面積最小曲面)を決定せよという問題を提示しましたが,19世紀のベルギーの物理学者プラトーは,石けん膜に関する面白い実験結果を報告しました(1873年).
 
 その実験によれば,針金で輪をつくれば,それがどんな形の囲いであっても,必ず石けん膜が張られるというもので,ラグランジュの提示した問題の部分的な解答を,実験的にではありますが得たことになります.そのため,この問題は今日ではプラトーの問題と呼ばれています.
 
 物理的には,石けん膜では表面張力によって表面積最小の曲面が実現します.もし,輪をひねって立体的な形にしたものを石けん液に浸して引き上げると,そこの複雑な形の曲面ができることになりますが,その場合でも針金の枠のなかでは最小の表面積をもった膜が実現し,こうして一定の枠のなかにできる最小面積の曲面の形が決定できるわけです.
 
 プラトーによって提起された問題は,いい換えれば,閉曲線を境界とする最小表面積の曲面を求める変分問題に他なりません.これに対する数学的な問題は「3次元ユークリッド空間の中に任意の閉曲線Cを与えたとき,Cを境界とする極小曲面は,どんな閉曲線に対しても存在するかどうか?」というものです.プラトー問題の解は物理的には石鹸膜として存在しますが,数学的にはどんな閉曲線に対しても存在するかどうかが問題となるのですが,極小曲面の存在証明が数学的になされたわけではないのです.
 
 やがて,この問題は数学者の興味をひきつけ,極小曲面の存在と一意性を扱うこの問題は,プラトー問題として知られるようになりました.そして,1930〜1931年,アメリカの数学者ダグラスとハンガリーの数学者ラドーによって独立に解決されたのです.この業績により,ダグラスは1936年に数学界のノーベル賞にあたる第1回フィールズ賞を受賞しています.
 
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【7】カテノイドとアンデュロイド
 
 プラトーの問題は,変分法の問題となり,実際に解くのは大変難しいのですが,ここでは簡単に解ける問題を扱ってみることにします.
 
 (問)互いに平行な2つの円形の枠に石けん膜を張ったとき,その形は?
 
 (答)この問題は「y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積を最小にしたい.」と等価です.曲面の面積は
  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx
で与えられます.
 
 懸垂線(カテナリー)の問題を変分法によって解いたのはベルヌーイであったのですが,これは懸垂線で考えた位置エネルギーの2π倍ですから,解は懸垂線を回転させたものであることが導かれます.
 
 懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線をx軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることがわかります.カテナリーを準線のまわりに回転させてできる曲面は懸垂曲面(カテノイド)と呼ばれます.なお,カテノイドは,唯一の回転極小曲面であることも示されています.
 
 次に,
 (問)互いに平行な2つの円盤に石けん膜を張ったとき,その形は?
を考えてみることにしましょう.
 
 互いに平行な2つの円形の枠に石けん膜を張ったとき,膜の両側の気圧は等しい状態にあるのですが,平行な円形の枠を円盤に代えれば中に空気が閉じこめられるので,膜の両側に気圧差があり,解は極小曲面とはなりません.この場合は,中の空気が閉じこめられているため,その容積が一定という条件のもとでの面積の変分問題に対応しています.
 
 実は,体積固定の表面積の変分問題は,平均曲率一定曲面に対応しています.曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,平均曲率とは2方向の曲率の相加平均で定義されます.すなわち,平均曲率が一定(≠0)の曲面は,体積一定のまま表面積を最小にすることによって得られるのですが,球面(シャボン玉)はその自明な例です.(一方,平均曲率が恒等的に0である曲面は極小曲面と呼ばれ,これがプラトー問題の数学的な定式化でした.)
 
 詳細は省略しますが,この問題の解はアンデュロイドと呼ばれるカテノイドとは別の平均曲率一定曲面になります.この曲面は楕円を直線上を転がしたときに,ひとつの焦点が描く波状の軌跡を直線のまわりに回転させたものになっています.
 
 前述したように,回転面で極小曲面は懸垂面(カテノイド)に限られたのですが,回転面で平均曲率一定曲面は球面とは限りません.このような曲面はドローネー曲面と呼ばれていますが,1841年,ドローネーは,平均曲率一定の回転面をすべて決定し,それが平面・円柱面・球面・懸垂面・アンデュロイド・ノドイドの6種に分類されることを示しました.回転面に限ると平均曲率一定曲面の数は意外に少ないのですが,これらはプラトーの回転面とも命名されています.
 
 また,これらは円錐の切断面である2次曲線(円・楕円・線分・放物線・双曲線)を,サイクロイドのように基線上を転がしたときに,焦点の描く軌跡を基線を軸として回転させることによってできる回転面であることも証明されています.母線が円のとき直円柱面,楕円のときアンデュロイド,線分のとき球面,放物線のとき懸垂面,双曲線のときノドイドが得られます.
 
 なお,ホップの予想「球面がただひとつの閉じた平均曲率一定曲面である」は正しいと思われていたのですが,1984年,ヴェンテによって,球面とは異なる平均曲率一定曲面の反例が発見されたのを契機に,平均曲率一定曲面の研究は大きな進展をみせることとなりました.
 
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【8】掛谷の問題
 
 1917年,掛谷宗一は「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」という問題を提出しました.凸領域となる最小の領域は,高さが1の正三角形(面積√3/3)です.それでは,凸領域でなくてもよいとしたとき,解はどうなるのでしょうか?
 
 この問題は多くの予想を生み出しました.
 (例1)線分ABをAの回り180°回転した半円:面積π/2
 (例2)ABを中点Oの回りに360°回転した円:面積π/4
 (例3)ルーローの三角形(正三角形の各頂点を中心として他の2頂点を通る円弧を描いてできる図形):面積(π−√3)/2
 
 平面における定幅図形(いかなる方向に関しても等しい幅をもっている図形)は円だけではなく,そのような形状は無数にあります.定幅図形の中で最大の面積をもつものは円であり,最小の面積をもつものはルーローの三角形です(ルベーグ,1914年).
 
 ところが,これらより面積が小さい図形が考えられました.デルトイドでは長さが一定の線分をデルトイドに接しながらスムーズに1回転させることができるのです.
 (例4)直径3/2の円を固定しておいて,その円に直径1/2の円を内接させて転がしたときにできるデルトイド:面積π/8
 
 掛谷自身,π/8が最小値であると予想しましたし,多くの数学者も答はデルトイドではないかと予想していました.ところが驚いたことに,1927年,ベシコビッチによって「前後を方向転換できるいくらでも面積の小さい図形を作ることができる」ことが証明されたのです.
 
 その際「ペロンの木」と呼ばれる図形操作を使って証明するのですが,ハンドルを細かく切り返すジグザグ運動を続けることで,1kmの長さの針でも,切手1枚分の面積の図形の中で頭と尻尾を逆に方向転換できるというのですから,ベシコビッチの証明は直観に反しています.常識ではとても受け入れられものではありませんが,多くの数学者にとっても予想が裏切られる結果になりましたから,その驚きはいかに大きかったであろうかと推察されます.
 
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【9】ローター図形とローラー図形
 
 デルトイドでは長さが一定の線分をデルトイドに接しながらスムーズに1回転させることができるのですが,正3角形に内接しながら回転することできる凸閉曲線は円以外にも存在します.
 
 このような図形の一例が,正三角形の中線を一辺とする正三角形の頂点を中心として,中線の長さを半径とする2個の円弧からなる曲線(藤原・掛谷の2角形)ですが,この性質をもつ曲線の中で囲む面積が最小のものは,藤原・掛谷の2角形であることが証明されています.
 
 この図形の対称軸の長さは正三角形の高さに等しいことがわかりますが,正三角形を太ったデルトイドとみなすと,太った線分に相当するものが藤原・掛谷の2角形なのです.
 
 ルーローの三角形などの定幅曲線(ローラー図形)は,いかなる方向に関しても等しい幅をもっているわけですから,正方形に内接しながら回転することができる図形ということになります.これを応用すれば正方形の穴をあけるドリルを作ることができます.それと同様に,藤原・掛谷の2角形のようなローター図形を応用すれば正3角形の穴をあけるドリルを作ることが可能になります.(もちろん,中心が固定されていてはダメである.)
 
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