■アステロイドの微分幾何学
回転円(半径r)が固定円(半径R)に接して滑ることなく転がっていくとき,回転円の周上の点の軌跡を考えます.回転円が固定円に外接するとき,その軌跡をエピサイクロイド,内接するとき,ハイポサイクロイドと呼びます.
星形曲線:アステロイドは固定円の半径が回転円の半径の4倍になっているハイポサイクロイドで,周転円によって4つの尖点をもつ曲線が描かれます.ハイポサイクロイドは一般に簡単な式にはなりませんが,アステロイドは特別なケースであって,
x^(2/3)+y^(2/3)=a^(2/3)
と表すことができます.
アステロイドの式を一般化すると
(x/a)^(2/n)+(y/b)^(2/n)=1
が得られます.この曲線はn=1のとき楕円,n=2のとき菱形,n=3のときアステロイドになります.nを大きくすると次第に細い星型になりますが,尖っているところは正則ではない,すなわち,特異点となります.また,この曲線は,
x=acos^nθ
y=bsin^nθ
とパラメトライズすることができます.
アステロイドの次元を増すと,3次元アステロイド
(x/a)^(2/3)+(y/b)^(2/3)+(z/c)^(2/3)=1
となりますが,この図形は6つの尖点を持っています.3次元アステロイドは,
x=asin^3θcos^3φ
y=bsin^3θsin^3φ
z=ccos^3θ
とパラメトライズすることができます.
今回のコラムでは,楕円の曲率中心の軌跡がアステロイドになることを述べたあと,曲線や曲面の「曲率」についての考察(小咄?)に移ります.
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【1】直線族の包絡線
エピサイクロイド(カージオイド,ネフロイドなど),ハイポサイクロド(デルトイド,アステロイドなど)には,直線族の包絡線であるという共通の性質が知られています.
たとえば,ネフロイドは平行光線が円の内側で反射されるときの包絡線,カージオイドは光が周上の1点から発して円周で反射されたときにできる包絡線です.また,デルトイドは3つの尖点をもつ図形ですが,「デルトイドの接線が曲線に挟まれる部分の長さは一定である.」という性質があります.これは,デルトイドでは長さ4rの棒をデルトイドに接しながら1回転することができるというのと同一であることがわかっています.
アステロイドは,棒の両端をx軸,y軸にのせながら動かしたときの包絡線となっています.周転円によってサイクロイドを描くことは大変ですが,この方法であれば簡単にできますから,なかには実際に描いてみた方もおられることでしょう.
「アステロイド:x^(2/3)+y^(2/3)=a^(2/3)において曲線状の任意の点における接線がx軸,y軸と交わる点をそれぞれA,BとすればAB=aであることを証明せよ.」は高校の教科書にも取り上げられているのでご存知の方も多いはずです.すなわち,一定の長さaの線分の両端が直交軸上を動くとき,その線分の包絡線の方程式がアステロイドなのです.
一方,その逆問題「曲線上の任意の点における接線のx軸,y軸とで切り取られる部分の長さが一定であるような曲線を求めよ.(クレローの微分方程式)」を取り上げたものは少ないようですが,この微分方程式も簡単に解けてアステロイドという解曲線が得られます.
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【2】曲率中心の軌跡
曲線の曲がり具合を記述する微分幾何学では,曲線の曲率中心の軌跡を縮閉線(エボリュート)といい,縮閉線に対してもとの曲線を伸開線(インボリュート)といいます.このように書いてもピンと来ないでしょうから,表現法を変えますが,曲線Lのまわりに巻かれた糸があり,この糸をぴんと張ったままほどくと糸の自由端によって曲線Mが描かれるとします.MをLの伸開線(インボリュート),LをMの縮閉線(エボリュート)と呼びます.→【補】
縮閉線の接線は伸開線の法線ですから,これら2曲線の間で測った長さは伸開線の曲率半径になります.また,縮閉線は与えられた曲線の曲率中心においてその法線と接するので,縮閉線は与えられた曲線の法線からなる直線族の包絡線を求めることにより得られることがわかります.
ここで試しに,楕円と円の各点から法線を引いてみてください.円の場合は中心点に法線が集中してしまいますが,楕円の場合は4つのカスプをもつ曲線が浮かび上がってきます.
楕円:
x^2/a^2+y^2/b^2=1
の縮閉線は,4つのカスプをもつ曲線:
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
ですが,これについては後ほど微分幾何学的に計算してみることにします.
ともあれ,アステロイドと楕円とは,縮閉線と伸開線という関係にあることがわかりました.さらに,微分幾何学の基礎的知識によって,縮閉線の特異点が楕円と円の曲がり具合の違いを記述すること,平行曲線の特異点はその曲線の縮閉線上に現れること,すなわち,楕円の平行曲線の特異点は縮閉線であるアステロイド上に現れること,与えられた曲線の法線の包絡線は特異点の集合としてとらえることができることなどが理解されます.
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【3】曲線と曲面のパラメータ表示
陽関数y=f(x)では1つの変数xに対してyの値がただ1つ対応するので1価関数ともいわれます.一方,陰関数f(x,y)=0は1つのxの値に対して一般にyの値は一意ではありません(多価関数).極座標(r,θ)を使ってr=f(θ)の形に表現することができる場合,たとえば,パスカルのリマソン(蝸牛線)やレムニスケート(双葉曲線)は直交座標系では陰関数となる4次曲線ですが,極座標ではそれぞれr=a+bcosθ,r^2=a^2cos2θと表され,陽関数と本質的な違いはありません.
陽関数(従属変数型関数)では,y=f(x)がどんなに複雑であってもきちんと式に書き表わすことさえできればグラフを描くことができます.また,陰関数f(x,y)=0のグラフは簡単には描けません.しかし,もし,一意に定まるパラメータtを導入してx=x(t),y=y(t)と表わされるものとすると,x−y平面上の点(x,y)を第3の変数tをパラメータとする点(x(t),y(t))ととらえることができるため,tの変化とともに描かれる点の軌跡がグラフになります.→【補】
平面曲線が
(x,y)=(x(t),y(t))
とパラメータ表示されたのに対し,空間曲線では
(x,y,z)=(x(t),y(t)z(t))
一方,曲線が1つのパラメータで表されたのに対し,空間の曲面を表すには2つのパラメータが必要になり,
(x,y,z)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))
で与えられます.
このように,パラメトライズ(媒介変数表示の形に書くこと)ができれば,陽関数,陰関数いずれの場合であっても,関数や曲率が自然に定義できる利点があります.
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【4】曲線と曲面の「曲率」
さて,平面曲線C上の点Pにおける曲率とは,点PでCに接する円で,最もよくCを近似するものの半径の逆数をいいます.たとえば,半径aの円の曲率は一定で1/aとなりますし,放物線:y=ax^2の原点における曲率は2aです.
このように平面曲線の曲率はスカラーの値です.空間曲線には,曲率の他に捻率(れいりつ)という概念がでてきます.一方,曲面の曲率は「テンソル」となりますが,曲面の曲がり方を測る尺度として,ガウス曲率・平均曲率というような概念もでてきます.
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【5】平面曲線と曲率
平面曲線についてのフレネー・セレーの公式は,
d/dtE=AE
で表されます.
ここで,
E=(e1(t),e2(t))’
A=| 0 , κ(t)|
|-κ(t), 0 |
Aは交代行列で,κ(t)は曲率を表すスカラー関数です.また,曲率の逆数を曲率半径といいます.
円周の場合,曲率半径は半径と一致し,したがって曲率中心はつねに原点となりますが,楕円ではどうなるでしょうか?
楕円:
x^2/a^2+y^2/b^2=1
のパラメータ表示
x=acost,
y=bsint
について曲率を求めると,
κ(t)=ab/(a^2sin^2t+b^2cos^2t)^(3/2)
これより,曲率中心を求めてみると
((a^2−b^2)/acos^3t,(a^2−b^2)/bsin^3t)
で与えられ,tが動くときの軌跡すなわち曲率中心の軌跡は,
(ax)^(2/3)+(by)^(2/3)=(a^2−b^2)^(2/3)
となり,この曲線はアステロイドとなることがわかります.
このように曲線が与えられたとき,微分幾何学的にフレネー・セレーの公式が書き下され,それから曲率が与えられ,さらに曲率中心の軌跡となる曲線を決めることができるのです.
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【6】空間曲線と捻率
半径a,勾配b/aの螺旋の曲率は一定で,a/(a^2+b^2)です.したがって,螺旋の曲率半径はa+b^2/aとなりますが,これは半径はa+b^2/aの円の曲率とまったく同じです.このことから,曲率だけでは空間曲線の形状を決定するには十分でないことがわかります.
空間曲線では曲率のほかに,捻率が新たに必要になります.空間曲線についてのフレネー・セレーの公式は,
d/dtE=AE
ただし,
E=(e1(t),e2(t),e3(t))’
| 0 , κ(t), 0 |
A=|-κ(t), 0 , τ(t)|
| 0 ,-τ(t), 0 |
Aは交代行列で,τ(t)は捻率を表すスカラー関数です.
フレネー・セレーの公式をもとに,曲がり方を与える曲率と捻れ方を与える捻率を定めることによって曲線の形は定まります.その場合の解の存在と一意性が常微分方程式の理論により示されるのですが,フレネー・セレーの公式は曲線を決定してしまう構造方程式となっているのです.
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【7】空間の曲面
曲面論では,曲率,捻率のかわりに第1,第2基本形式を定めます.
第1基本形式gは
g=g11(du)^2+2g12dudv+g22(dv)^2
で表されます.ここで,
g11=(xu,xu),g12=(xu,xv),g22=(xv,xv)
Δ=g11g22−(g12)^2>0 (正定値2次形式)
一方,第2基本形式hは,
h=h11(du)^2+2h12dudv+h22(dv)^2
ただし,
h11=(xuu,n),h12=(xuv,n),h22=(xvv,n)
hij=det(xij,x1,x2)/Δ^(1/2)
と表されます.
第1基本形式は,uv平面をどう伸縮して曲面を作るかを指定していて,緯線・経線の長さと曲線同士の角度を定めているといえます.それに対して,第2基本形式は,接平面を基準面として曲面の曲がり方を定めています.
ここで,対称行列G,Φを
G=|g11,g12| Φ=|h11,h12|
|g12,g22| |h12,h22|
とおくと,
g=(du,dv)G(du,dv)’
h=(du,dv)Φ(du,dv)’
のように,2次形式で表されます.曲率,捻率とは違って,これらは関数ではなくて接平面上における2次形式を与えるものであって,第1,2基本形式はテンソルと呼ばれる量なのです.
ところで,螺旋面(ヘリコイド)と(カテノイド)は第2基本形式は異なるものの第1基本形式はまったく同じです.すなわち,曲面の形は第1基本形式だけでは定まりません.このように,空間曲線論と同様,これら2つの基本形式で曲面の形が定まります.ただし,事情は曲線論よりも複雑になり,第1基本形式と第2基本形式は,偏微分方程式の積分可能条件である,
1)ガウスの方程式
2)マイナルディ・コダッチの方程式
を満たさなければなりません.
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【8】曲面の曲率
曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,これらを用いて曲面の曲率を定めることができます.
ガウス曲率Kは曲率の最大値と最小値の積で定義され,一方,平均曲率Hとは2方向の曲率の相加平均で定義されます.すなわち,ガウス曲率Kと平均曲率Hは
K=κ1κ2
H=(κ1+κ2)/2
であって,また,曲率κ1,κ2を主曲率と呼びます.
対称行列G,Φを用いると
K=det(G^(-1)Φ)=detΦ/detG
={h11h22−(h12)^2}/Δ
=κ1κ2
H=1/2tr(G^(-1)Φ)
=(g11h22−2g12h12+g22h11)/2Δ
=(κ1+κ2)/2
となることが示されます.
これらを用いれば,主曲率は2次方程式の根と係数の関係から
κ1=H−(H^2−K)^(1/2)
κ2=H+(H^2−K)^(1/2)
と表されます.
平均曲率Hが恒等的に0な曲面は極小曲面と呼ばれます.螺旋面や懸垂面は極小曲面の例となっています.
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【9】ガウスがぶったまげた驚異の定理(Theorema egregium)
曲線論の構造方程式:フレネー・セレーの公式にあたるものが,曲面論のガウスの公式とワインガルテンの公式です.それにより,gijとhijが独立ではなく,互いに関係していることが示されます.
ところが,
K=det(G^(-1)Φ)={h11h22−(h12)^2}/Δ
がgijの式だけで表されることがガウスにより発見されました.すなわち,「ガウス曲率は第1基本形式だけで定まり,第2形式にはよらない.」のです.
われわれが曲面上に閉じこめられ,外の世界については何も知らないものとしましょう.その場合,われわれにとって知りうることは,座標と運動方向と長さ(第1基本形式)だけとなります.それに対して,第2基本形式は曲面を3次元空間のなかで考えてはじめて定義される量です.
曲面の性質を調べるとき,曲面の内的情報だけで記述できるものと,外の世界からの観測データを本質的に必要とするものとがあります.ガウスは,ガウス曲率が曲面の内部の情報だけで決定でき,外部情報に依存しないことを発見したことになります.そのとき,ガウスは相当ブッタマゲタらしく,この定理を「驚異の定理(Theorema egregium)」と呼んでいます.
第2基本形式のような曲面からみて外的な量を理論から排除し,曲面の上の住む生物にとって定義可能な内的な量のみを用いて,曲面の幾何学を構築するのがリーマン幾何学の考え方ですが,ガウス曲率が第1基本形式だけで書かれるという事実のおかげで,曲面人は自分の住む空間が曲がっていることを認識することができるのです.
われわれは地球が平らでないことを星を観測するなど外的な情報を用いて認識していますが,ガウス曲率のような手がかりを使えば,曲面人にとっても外部情報なしに,地球が平らでないことを認識できることになるというわけです.
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【10】リーマン幾何学で最も美しい定理(ガウス=ボンネの定理)
第1基本形式は緯線・経線の長さと曲線同士の角度を定めているので,第1基本形式をパラメータで積分することによって面積が得られます.三角形ABCにこのことをあてはめると,たとえば,双曲平面では三角形の内角の和はπより小さいが成立します.
三角形の頂点の角度をα,β,γとおくと,ユークリッド面(K=0),リーマン面(K>0),ロバチェフスキー面(K<0)では,それぞれ,
K=0・・・π=α+β+γ
K>0・・・π<α+β+γ
K<0・・・π>α+β+γ
になることが導き出されます.
さらに,曲面の三角形分割を合わせると,曲面の大域的な性質をガウス曲率で表すガウス・ボンネの定理が得られるのですが,ここでしばらくの間,微分幾何の話から位相幾何の話に飛びます.
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位相幾何学(トポロジー)とは形には関係しないで,接触・分離にだけ関係する不変な図形の性質(位相不変量)を研究する学問です.曲面を連続的に変形しても変わらない topological invariant を求めるわけですが,その代表的な例がオイラー・ポアンカレの定理です.
凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.
量(v−e+f)はオイラー標数と呼ばれます.オイラー標数は幾何学において重要な概念である位相不変量の草分けであり,一般に,図形がいくつかの3角形によって分割されているとき,
頂点の数−辺の数+3角形の数
は分割の仕方によらず定まり,図形に固有な量になるというものです.例えば,平面図形(多角形)は,1つの面が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますから,オイラー標数は1となり,また,種数(穴の数)gの向き付け可能な閉曲面の場合は2−2gとなることはよく知られています.
オイラーの多面体定理を一般化したものが,オイラー・ポアンカレの定理です.オイラー数はベッチ数の交代和
v−e+f−g+h−i+・・・
に等しいというのが,オイラー・ポアンカレの内容ですが,ベッチ数とは,簡単にいえば図形の中に潜む種々の次元の穴の数のことです.
オイラー・ポアンカレの定理をn次元単体について証明してみましょう.線分と三角形および四面体は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形です(単体:シンプレックス).線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち,その内部は1次元です.三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち,その内部は2次元です.四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち,その内部は3次元です.これらの数をまとめて書くと
2,1
3,3,1
4,6,4,1
ですが,これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています.これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1,すなわち5つの頂点と10辺,10面,5面,5胞(正5胞体)になります.
これより,n次元単体についてはv=n+1C1,e=n+1C2,f=n+1C3,c=n+1C4,・・・ですから,交代和
v−e+f−g+h−i+・・・=1±1
すなわち,オイラー標数は,nが奇数のとき2,偶数のとき0になることが理解されます.
高次元であっても,図形は0次元からn次元までの単体の集まりに分割できるので,単体でなくともオイラー・ポアンカレの定理は成立し,単体分割の仕方によらないことが証明されます.
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2次元凸多角形に対するオイラー・ポアンカレの定理は,
v−e=0
ですから,n角形は必然的にn辺形になります.四角形は四辺形(たとえば平行四辺形)とも呼びますが,三角形に対して三辺形いう言葉はあまり耳にしません.たとえば,二等辺三角形とはいっても,二等辺三辺形とはいわないでしょう.
私はこれまで「n角形はn辺形である」,すなわち,
v−e=0
をまともに取り上げている数学書はみたことがありませんが,n角形はn辺形であるとはいっても,読者はオイラー・ポアンカレの定理のありがたみを実感し「なるほど立派な定理だ」と思うでしょうか? おそらく,何だか当たり前のことを大袈裟にいっていると感じるだけでしょう.なかには,そんなことはサルでも知っているといって怒り出す人もいるかも知れません.
実際,各辺の両端には頂点が1つずつありますから,この定理は自明なのですが,それを3次元に拡張したとたんに自明ではなくなります.
v−e+f=2 (オイラーの多面体定理)
は,もはや,サルでも知っている定理とはいえないでしょう.
また,二次元における正多角形,三次元における正多面体と同じ概念が,四次元における正多胞体で,正(5,8,16,24,120,600)胞体の6種類あります.胞の個数をcで表すと,4次元空間では,
v−e+f−c=0
というオイラー・ポアンカレの定理が成り立ちます.さらに,これらの位相不変量は5次元以上に対しても敷衍していくことができるのです.
v−e+f−g+h−i+・・・=1±1
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さて,オイラー数が三角形分割には依存しない量であることを述べましたが,ガウス・ボンネの定理とは,
ガウス曲率の積分=2π×オイラー数
で表されます.
この定理は,曲面の各点における曲がり具合を知れば,穴の数がわかることを意味しています.われわれの住む世界にいくつ穴が空いているかは,外側からみれば一目瞭然ですが,前述したように,内部に住む人間(曲面人)にはなかなか理解できません.しかし,以上の議論から,面・辺・頂点の数を数えたり,世界の曲がり具合を調べることによって,内部に住む人間も穴の数を知ることができるようになるというわけです.
ガウス・ボンネの定理は,
∫(微分幾何学的データ)=位相幾何学的データ
の形をしています.すなわち,ガウス・ボンネの定理は,局所的に記述されるガウス曲率を全体で積分すると位相不変量(大域的で連続的に変形していっても変化しない量)になることをいっているわけで,微分幾何学と位相幾何学の異なる2つの世界を結びつけているところから,微分幾何学で最も美しい定理といわれています.
ガウス・ボンネの定理に類似の図式は,リーマン面のリーマン・ロッホの定理やディラック演算子に関するアティヤ・シンガーの定理などにも表れ,美しい定理の1つの型となっています.
また,オイラー数を曲率の積分で表すガウス・ボンネの定理は,2次元に限らず,2n次元についても拡張されて成り立ちます.これは,ポアンカレ・ホップの指数定理と呼ばれています.その後,ガウス・ボンネの定理はチャーンによって高次元に拡張されました.また,ガウス・ボンネ・チャーンの定理,リーマン・ロッホの定理,ヒルチェブルフの符号定理など,それ以前に知られていた幾何学の代表的ないくつかの定理を統一したものが,アティヤ・シンガーの指数定理なのです.
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【補】伸開線と縮閉線
円の伸開線,すなわち円に巻きつけた糸の一端の軌跡は
x=a(cosθ+θsinθ),
y=a(sinθ−θcosθ)
と表され,歯車の歯形として工学に応用されています.また,放物線:y=x2 の縮閉線は
y=1/2+3(x/4)2/3 です.
逆に,半立方放物線:y2 =ax3 の伸開線は放物線になります.
サイクロイド:
x=r(θ−sinθ),
y=r(1−cosθ)
の縮閉線は
x=a(θ+sinθ),
y=−a(1−cosθ)
です.ここで,θ=π+tとおけば
x=a(t−sint)+aπ,
y=a(1−cost)−2a
ですから,もとのサイクロイドと合同なサイクロイドになることが示されます.
カテナリー(懸垂線)の伸開線はトラクトリックス(追跡線)と呼ばれています.
x=a(logtan(θ/2)+cosθ),
y=asinθ
追跡線上の点と,その点での接線がx軸と交わる点との距離aは常に一定です.この性質が追跡線というこの曲線の名前の由来で,ある長さのひもの先に石を結びつけて引っ張りながらx軸上を歩くと,石の通る軌跡が追跡線になります.
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【補】弧長パラメータ
1つの曲線に対して,そのパラメータの選び方はいろいろあります.たとえば,原点を中心とする半径1の円の円周上の点を(x,y)とすれば,第3の変数θを媒介として,x=cosθ,y=sinθと表されます.
θは(x,y)と(0,0)を結ぶ直線とx軸とのなす角を表していますが,それは同時に円周の弧の長さでもあり,一般の曲線に対しても弧長sをパラメータにすることができます.
(x,y)=(x(s),y(s))
弧長パラメータsは平面曲線に固有のパラメータの取り方といえます.弧長パラメータsを用いると,曲線論の議論は簡単になりますが,実際には計算不可能になることが少なくありません.
また,θ/2は(x,y)と(−1,0)を結ぶ直線とx軸とのなす角を表しています.ここで,さらにt=tan(θ/2)とすると
tan(θ/2)=sinθ/(1+cosθ),
cosθ=(1−t^2)/(1+t^2),
sinθ=2t/(1+t^2)
より,
x=±(1−t^2)/(1+t^2),
y=2t/(1+t^2) (−1≦t≦1)
と表すことができます.
単位円上のすべての有理点(座標x,yが有理数であるような点)は,x=±(1−t^2)/(1+t^2),y=2t/(1+t^2)とx=−1,y=0です.このように,円の有理点全体は1つの変数tによって一意化できますが,円ばかりではなく,現在では2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかです.
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