■n次元の立方体と直角三角錐(その2)

 n次元空間の正多胞体とは「n個の超平面に囲まれ,全体の中心onから各頂点o0,各辺の中点o1,各面の中心o2,・・・,各超辺の中心on-2,各超平面の中心on-1までの距離がそれぞれ相等しく,そのm次元成分はすべてm次元の正多胞体である」と定義されます.

 また,onon-1・・・o1o0を結んだn次元単体を基本単体と呼びます.o0o1,o1o2,・・・,on-1onは互いに直交するので,n次元正多胞体の諸量を計算するための基本となっています.

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【1】正多胞体の基本単体

 基本単体は重直角三角錐の拡張となる「多重直角単体」です.基本単体の個数gは正多胞体にとって最も大切な基本量です.基本単体は隣同士が鏡像形であり,半分ずつが互いに合同であることより,3次元正多面体の基本単体の個数は

  g=2pf=2qv=4e

すなわち,正多面体の辺の個数eの4倍と等しくなります.

 また,(n+1)次元空間内の正多胞体はn次元球面上に射影することによって球面充填形になるのですが,そのような方法によって,3次元正多面体の基本単体の個数を(p,q)を用いて表すと

  g=4π/π(1/p+1/q−1/2)=8pq/{4−(p−2)(q−2)}

 さらに,

  g/h=(h+2)=24/(10−p−q)

なる関係を掲げますが,ここでhはペトリー数と呼ばれるもので,反転が何回でもとに戻るかという群論(鏡像変換)に関係した基本量です.4次元正多胞体の場合は

  g/h=64/(12−p−2q−r+4/p+q/4)

で表されます.

 基本単体は万華鏡のように隣同士が互いに鏡像形で,半分ずつが互いに合同です.そして,{o0o1・・・on-2}上on-1,onのなす角

  ∠on-1on-2on=π/pn-1

は超平面同士が超辺上でなす二面角δの半分です(注:二胞角というべきですが3次元の場合の用語を転用します).

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【2】n次元の立方体の基本単体

 n次元の立方体の基本単体数gは

  g=2^n・n!

となりますが,辺の長さはどうなるのだろうか?

 n次元立方体の頂点を(±1,±1,・・・,±1)とおくと,この超立方体の稜の長さは2である.面心の座標は

  (±1,0,・・・,0)

  (0,±1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,±1)

で,

  on-1(1,0,・・・,0)

を代表とすることができる.一方,体心onの座標は

  on(0,0,・・・,0)

であるから,on-1on=1

 同様に

  on-2(1,1,0,・・・0,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

  o1(1,1,1,・・・1,0)

  o0(1,1,1,・・・1,1)

であるから,

  o0o1=1,o1o2=1,・・・,on-1on=1

  o0on=√n,o1on=√(n−1),・・・,on-1on=1

などとなる.

 稜数は(n+1)n/2であるから,残りも求めてみると

  o0o0=0,o1o0=1,o2o0=√2,・・・,ono0=√n

  o0o1=1,o1o1=0,o2o1=1,・・・,ono1=√(n−1)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  o0on-1=√(n−1),o1on-1=√(n−2),o2on-1=√(n−3),・・・,onon-1=1

  o0on=√n,o1on=√(n−1),o2on=√(n−2),・・・,onon=0

より,辺の長さはすべて1,√2,・・・,√nである.

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【3】n次元の立方体の基本単体の分割

 立方体[0,1]^nに対して,

  on(0,0,0,・・・0,0)

  o0(1,1,1,・・・1,1)

を結ぶ対角線の中点

  (1/2,1/2,1/2,・・・,1/2,1/2)

を通る超平面

  x1+x2+x3+・・・+xn=n/2

と各辺の交点を求めてみることにします.

 計算の都合上,pk=on-kとおきます.

  p0(0,0,・・・,0)

  p1(1,0,・・・,0)

  p2(1,1,0,・・・0,0)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

  pn-1(1,1,1,・・・1,0)

  pn(1,1,1,・・・1,1)

ですから,直線p0pnは

  x1=x2=・・・=xn

で表されます.したがって,p0pnとの交点は

  (1/2,1/2,1/2,・・・,1/2,1/2)

 直線p1pnは,

  x1=1,x2=・・・=xn

したがって,p1pnとの交点は(1,(n−2)/2(n−1),・・・,(n−2)/2(n−1))

 直線p2pnは,

  x1=x2=1,x3=・・・=xn

したがって,p2pnとの交点は(1,1,(n−4)/2(n−2),・・・,(n−4)/2(n−2))

n=3の場合は(n−4)/2(n−2)<0となって交わらないことがわかります.n=4の場合は(1,1,0,0)となってp2と一致します.

 直線p3pnは,

  x1=x2=x3=1,x4=・・・=xn

したがって,p2pnとの交点は(1,1,1,(n−6)/2(n−3),・・・,(n−6)/2(n−3))

n=4の場合は(n−6)/2(n−3)<0となって交わりません.

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 次にp0を通る直線の場合を調べてみます.直線p0p1は

  x2=・・・=xn=0

ですから,x1=n/2となって,n>2のとき交わらないことがわかります.

 直線p0p2は

  x1=x2,x3=・・・=xn=0

ですから,x1=x2=n/4となって,n≦4のときのみ交わります.n=4のとき交点は(1,1,0,0)となって,p2と一致します.

 直線p0p3は

  x1=x2=x3,x4=・・・=xn=0

ですから,x1=x2=x3=n/6となって,n≦6のときのみ交わります.n=4のとき交点は(2/3,2/3,2/3,0)となります.

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 次にp1を通る直線の場合を調べてみます.直線p1p2は

  x1=1,x3=・・・=xn=0

ですからx2=(n−2)/2.したがって,交点は

  (1,(n−2)/2,0,・・・,0)

となります.2≦n≦4のときのみ交わり,n=4のときp2と一致します.

 直線p1p3は

  x1=1,x4=・・・=xn=0

ですから,x2=x3=(n−2)/4.交点は

  (1,(n−2)/4,(n−2)/4,0,・・・,0)

となって,2≦n≦6のときのみ交わります.n=4のとき交点は(1,1/2,1/2,0)となります.

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 p2を通る直線p2p3では

  x1=x2=1,x4=・・・=xn=0

ですからx3=(n−4)/2.したがって,交点は

  (1,1,(n−4)/2,0,・・・,0)

となります.4≦n≦6のときのみ交わり,n=4のときp2と一致します.

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【4】平行多面体の元素の形

 ペンタドロンを使えば5種類ある平行多面体をすべて作ることができる.ペンタドロンをσで表すことにするが,立方体はσ12(σ96),6角柱はσ144,菱形12面体はσ192,長菱形12面体はσ384,切頂8面体はσ48という分子構造になっている.ここで,立方体,菱形12面体,切頂8面体は直で等辺であるが,6角柱と長菱形12面体はskewした平行多面体となる.

 ペンタドロンの空間座標は,基本単体の頂点

  p0(0,0,0)

  p1(1,0,0)

と4交点

  (1/2,1/2,1/2)

  (1,1/4,1/4)

  (1,1/2,0)

  (3/4,3/4,0)

である.

 それでは,4次元平行多面体の元素は(実際にそのような充填形は存在すると思われるのだが)どのような形になっているのだろうか? 基本単体の頂点

  p0(0,0,0,0)

  p1(1,0,0,0)

  p2(1,1,0,0)

  p3(1,1,1,0)

  p4(1,1,1,1)

と前節で求めた4交点

  (1/2,1/2,1/2,1/2)

  (1,1/3,1/3,1/3)

  (2/3,2/3,2/3,0)

  (1,1/2,1/2,0)

はすでにわかっている.また,4次元の立方体の基本単体の稜数は10であるから,これ以外に交点ははない.

 したがって,x1+x2+x3+x4≦2の部分をとると,7頂点

  q0(0,0,0,0)

  q1(1,0,0,0)

  q2(1,1,0,0)

  q3(1/2,1/2,1/2,1/2)

  q4(1,1/3,1/3,1/3)

  q5(2/3,2/3,2/3,0)

  q6(1,1/2,1/2,0)

が元素の頂点となる.q2〜q6は超平面x1+x2+x3+x4=2上にある.これが768個で4次元立方体を組み立てることができる.

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【5】雑感

 4次元の図形は直接眼に見えないので正体不明な点が多いのであるが,2次元,3次元からのアナロジーで補完してみたいと思う.2次元平行多面体の元素は直角三角形である.3次元平行多面体の元素は5面体である.しかし,これからは予測困難である.そこで,元素2個からなる分子を考えると,2次元では凧型4辺形,3次元では凧型面をもつ6面体となる.

 このことから,n次元では凧型面をもつ2n胞体の2頂点を北極と南極に配置して子午線で2分割した形,すなわち,偶数次元では

  2n/2+1=n+1胞体  (単体)

奇数次元では

  (2n−2)/2+2+1=n+2胞体

になるのではないかとでも予測したくなるが,これもあてずっぽうである.これで辻褄はあっているのだが,はたして4次元平行多面体の元素は凧型面をもつ8胞体を2等分した5胞体だろうか? (その3で予想が外れることを示す)

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