■菱形多面体(その9)

 (その7)では正2n角形の菱形分割を紹介しました.今回のコラムではn次元立方体の極投影について紹介します.極投影では面の形は菱形に投影されるのですが,n次元立方体全体の形はn=3のとき正六角形,n=4のとき正方形,n=5のとき正十角形,n=6のとき正六角形になりますから,両者の趣きは異なります.まずは菱形分割のおさらいから.

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【1】正2n角形の菱形分割

 n次元立方体[−1,1]^nを(1,1,1,・・・,1)方向の2次元平面に直投影すると,半径√nの円に内接する正2n角形となります.このとき,正2n角形は(n,2)=n(n−1)/2種類の菱形で満たされることになります.これは3次元空間への投影ですが,4次元空間への投影では(n,3)種類の平行六面体で満たされることになります.

 また,正2n角形は何種類かの菱形(正方形を含む)に分割することができます.たとえば,正方形は1種類の正方形,正六角形は1種類の菱形,正八角形は1種類の菱形と正方形,正十角形は2種類の菱形,正十二角形は2種類の菱形と正方形に分割することができます.

 その個数は(iπ/n)<π/2  (iは整数)となるn個の菱形とさらにnが偶数のときにはn/2個の正方形になります.たとえば,正十二角形の場合はπ/6菱形6個(幅の狭いもの),π/3菱形6個(中くらいの幅のもの),正方形3個に分解可能です.正十二角形の菱形分割の仕方は2通り以上ありますが,いずれのときでも菱形3種類をそれぞれ細めの菱形6個,太めの菱形6個,正方形3個を使います.

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【2】n次元立方体の極投影

 (−1,−1,−1,・・・,−1)を始点として,各頂点からn本の稜がでるn本の傘の骨状のベクトル

  x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)

  a=√(2/3),b=√(1/3)

を用いて3次元空間に極投影することにします.n種類の菱形面ができますが,菱形面の角の大きさθは

  x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b),|x|=1

  y=(acos2jπ/n,asin2jπ/n,b),|y|=1

  x・y=2/3cos2(i−j)π/n+1/3

     =2/3cos2kπ/n+1/3=1−2・2/3・sin^2kπ/n

より,

  cosθ=2/3cos2kπ/n+1/3=1−2・2/3・sin^2kπ/n

  θ=arccos(2/3cos2kπ/n+1/3)

   =2arcsin(c・sinkπ/n)

  c=√(2/3),k=1〜n−1

また,実際の菱形面の対角線の長さの比rは

  r=cos(θ/2)/sin(θ/2)

で与えられます.

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【3】計算結果

n      k      r

3 1 1

3 2 .999998

4 1 1.41421

4 2 .707107

4 3 1.41421

5 1 1.82802

5 2 .811394

5 3 .811392

5 4 1.82801

6 1 2.23607

6 2 1

6 3 .707107

6 4 .999998

6 5 2.23606

7 1 2.63968

7 2 1.2058

7 3 .760357

7 4 .760356

7 5 1.20579

7 6 2.63967

8 1 3.04017

8 2 1.41421

8 3 .870265

8 4 .707107

8 5 .870263

8 6 1.41421

8 7 3.04015

9 1 3.43845

9 2 1.62186

9 3 1

9 4 .739349

9 5 .739348

9 6 .999998

9 7 1.62185

9 8 3.43843

10 1 3.83513

10 2 1.82802

10 3 1.13657

10 4 .811394

10 5 .707107

10 6 .811392

10 7 1.13657

10 8 1.82801

10 9 3.8351

11 1 4.23061

11 2 2.0327

11 3 1.27524

11 4 .901578

11 5 .728703

11 6 .728703

11 7 .901576

11 8 1.27524

11 9 2.03269

11 10 4.23058

12 1 4.62519

12 2 2.23607

12 3 1.41421

12 4 1

12 5 .779549

12 6 .707107

12 7 .779547

12 8 .999998

12 9 1.41421

12 10 2.23606

12 11 4.62514

13 1 5.01905

13 2 2.43834

13 3 1.5528

13 4 1.10212

13 5 .846018

13 6 .722575

13 7 .722575

13 8 .846016

13 9 1.10212

13 10 1.55279

13 11 2.43832

13 12 5.01899

14 1 5.41235

14 2 2.63968

14 3 1.69075

14 4 1.2058

14 5 .9208

14 6 .760357

14 7 .707107

14 8 .760356

14 9 .920798

14 10 1.20579

14 11 1.69074

14 12 2.63967

14 13 5.41229

15 1 5.8052

15 2 2.84025

15 3 1.82802

15 4 1.31

15 5 1

15 6 .811394

15 7 .718728

15 8 .718728

15 9 .811392

15 10 .999998

15 11 1.30999

15 12 1.82801

15 13 2.84023

15 14 5.80513

16 1 6.19768

16 2 3.04017

16 3 1.96462

16 4 1.41421

16 5 1.08152

16 6 .870265

16 7 .747897

16 8 .707107

16 9 .747896

16 10 .870263

16 11 1.08152

16 12 1.41421

16 13 1.96462

16 14 3.04015

16 15 6.1976

 n=3,n=4のときはそれぞれ正方形,白銀菱形になったのですが,n=5のとき,菱形面の対角線の長さの比rがτにならないようです.また,nが偶数のとき白銀菱形,3の倍数のとき正方形が出現していることがわかります.

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【4】計算結果(スケール変換後)

 n=3,n=4のときはそれぞれ正方形,白銀菱形になったのですが,n=5のとき,菱形面の対角線の長さの比rがτにならなかったので,以下のようにスケール変換してみます.

  x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)

  a=√(2/n),b=√(1/n)

n      k      r

3 1 1

3 2 1

4 1 1.291

4 2 .774599

4 3 1.29099

5 1 1.39888

5 2 .883169

5 3 .883168

5 4 1.39888

6 1 1.41421

6 2 1

6 3 .845156

6 4 1

6 5 1.41421

7 1 1.39481

7 2 1.08269

7 3 .891308

7 4 .891308

7 5 1.08269

7 6 1.39481

8 1 1.36544

8 2 1.13389

8 3 .9495

8 4 .881919

8 5 .949499

8 6 1.13389

8 7 1.36543

9 1 1.33528

9 2 1.1628

9 3 1

9 4 .906631

9 5 .906631

9 6 1

9 7 1.1628

9 8 1.33528

10 1 1.3074

10 2 1.17732

10 3 1.03896

10 4 .939996

10 5 .904536

10 6 .939996

10 7 1.03895

10 8 1.17732

10 9 1.3074

11 1 1.28259

11 2 1.18294

11 3 1.06729

11 4 .972232

11 5 .919673

11 6 .919673

11 7 .972231

11 8 1.06729

11 9 1.18294

11 10 1.28259

12 1 1.26078

12 2 1.18322

12 3 1.08711

12 4 1

12 5 .94075

12 6 .919869

12 7 .94075

12 8 1

12 9 1.08711

12 10 1.18322

12 11 1.26078

13 1 1.24168

13 2 1.18036

13 3 1.10049

13 4 1.02262

13 5 .962474

13 6 .929994

13 7 .929994

13 8 .962473

13 9 1.02262

13 10 1.10049

13 11 1.18036

13 12 1.24168

14 1 1.22492

14 2 1.17574

14 3 1.10914

14 4 1.04046

14 5 .982514

14 6 .944272

14 7 .930952

14 8 .944271

14 9 .982514

14 10 1.04046

14 11 1.10914

14 12 1.17574

14 13 1.22492

15 1 1.21016

15 2 1.17019

15 3 1.11437

15 4 1.0542

15 5 1

15 6 .959615

15 7 .938158

15 8 .938158

15 9 .959615

15 10 1

15 11 1.0542

15 12 1.11437

15 13 1.17019

15 14 1.21016

16 1 1.1971

16 2 1.16422

16 3 1.11716

16 4 1.06458

16 5 1.01477

16 6 .974441

16 7 .94835

16 8 .939339

16 9 .948349

16 10 .974441

16 11 1.01477

16 12 1.06458

16 13 1.11716

16 14 1.16422

16 15 1.1971

 このスケール変換

  x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)

  a=√(2/n),b=√(1/n)

では黄金菱形にならなかったのですが,適切なスケール変換を施せば黄金菱形にすることは可能であることがわかります.

 また,nが偶数のとき白銀菱形は出現しなくなりましたが,3の倍数のとき正方形は出現することに変わりはありません.

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【補】超平面

 原点を中心とするn次元超立方体[-1/2,1/2]^nと原点を通る任意のn次元超平面:H(a)

  a1x1+a2x2+・・・+anxn=0

の交わり(切り口の体積)について考えてみましょう.

 その前に,まず,aを行ベクトル,xを列ベクトルとして

  a=(a1,・・・,an)

  x’=(x1,・・・,xn)

また,実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,

  ax’=c

で表すことができます.原点を通るときc=0で,その場合,原点を中心とするn次元超立方体と超平面ax’=0は必ず交わります.

 ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.

 また,aが単位法線ベクトル,すなわち,

  a1^2+a2^2+・・・+an^2=1

が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.

 n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.

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