(その7)では正2n角形の菱形分割を紹介しました.今回のコラムではn次元立方体の極投影について紹介します.極投影では面の形は菱形に投影されるのですが,n次元立方体全体の形はn=3のとき正六角形,n=4のとき正方形,n=5のとき正十角形,n=6のとき正六角形になりますから,両者の趣きは異なります.まずは菱形分割のおさらいから.
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【1】正2n角形の菱形分割
n次元立方体[−1,1]^nを(1,1,1,・・・,1)方向の2次元平面に直投影すると,半径√nの円に内接する正2n角形となります.このとき,正2n角形は(n,2)=n(n−1)/2種類の菱形で満たされることになります.これは3次元空間への投影ですが,4次元空間への投影では(n,3)種類の平行六面体で満たされることになります.
また,正2n角形は何種類かの菱形(正方形を含む)に分割することができます.たとえば,正方形は1種類の正方形,正六角形は1種類の菱形,正八角形は1種類の菱形と正方形,正十角形は2種類の菱形,正十二角形は2種類の菱形と正方形に分割することができます.
その個数は(iπ/n)<π/2 (iは整数)となるn個の菱形とさらにnが偶数のときにはn/2個の正方形になります.たとえば,正十二角形の場合はπ/6菱形6個(幅の狭いもの),π/3菱形6個(中くらいの幅のもの),正方形3個に分解可能です.正十二角形の菱形分割の仕方は2通り以上ありますが,いずれのときでも菱形3種類をそれぞれ細めの菱形6個,太めの菱形6個,正方形3個を使います.
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【2】n次元立方体の極投影
(−1,−1,−1,・・・,−1)を始点として,各頂点からn本の稜がでるn本の傘の骨状のベクトル
x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)
a=√(2/3),b=√(1/3)
を用いて3次元空間に極投影することにします.n種類の菱形面ができますが,菱形面の角の大きさθは
x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b),|x|=1
y=(acos2jπ/n,asin2jπ/n,b),|y|=1
x・y=2/3cos2(i−j)π/n+1/3
=2/3cos2kπ/n+1/3=1−2・2/3・sin^2kπ/n
より,
cosθ=2/3cos2kπ/n+1/3=1−2・2/3・sin^2kπ/n
θ=arccos(2/3cos2kπ/n+1/3)
=2arcsin(c・sinkπ/n)
c=√(2/3),k=1〜n−1
また,実際の菱形面の対角線の長さの比rは
r=cos(θ/2)/sin(θ/2)
で与えられます.
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【3】計算結果
n k r
3 1 1
3 2 .999998
4 1 1.41421
4 2 .707107
4 3 1.41421
5 1 1.82802
5 2 .811394
5 3 .811392
5 4 1.82801
6 1 2.23607
6 2 1
6 3 .707107
6 4 .999998
6 5 2.23606
7 1 2.63968
7 2 1.2058
7 3 .760357
7 4 .760356
7 5 1.20579
7 6 2.63967
8 1 3.04017
8 2 1.41421
8 3 .870265
8 4 .707107
8 5 .870263
8 6 1.41421
8 7 3.04015
9 1 3.43845
9 2 1.62186
9 3 1
9 4 .739349
9 5 .739348
9 6 .999998
9 7 1.62185
9 8 3.43843
10 1 3.83513
10 2 1.82802
10 3 1.13657
10 4 .811394
10 5 .707107
10 6 .811392
10 7 1.13657
10 8 1.82801
10 9 3.8351
11 1 4.23061
11 2 2.0327
11 3 1.27524
11 4 .901578
11 5 .728703
11 6 .728703
11 7 .901576
11 8 1.27524
11 9 2.03269
11 10 4.23058
12 1 4.62519
12 2 2.23607
12 3 1.41421
12 4 1
12 5 .779549
12 6 .707107
12 7 .779547
12 8 .999998
12 9 1.41421
12 10 2.23606
12 11 4.62514
13 1 5.01905
13 2 2.43834
13 3 1.5528
13 4 1.10212
13 5 .846018
13 6 .722575
13 7 .722575
13 8 .846016
13 9 1.10212
13 10 1.55279
13 11 2.43832
13 12 5.01899
14 1 5.41235
14 2 2.63968
14 3 1.69075
14 4 1.2058
14 5 .9208
14 6 .760357
14 7 .707107
14 8 .760356
14 9 .920798
14 10 1.20579
14 11 1.69074
14 12 2.63967
14 13 5.41229
15 1 5.8052
15 2 2.84025
15 3 1.82802
15 4 1.31
15 5 1
15 6 .811394
15 7 .718728
15 8 .718728
15 9 .811392
15 10 .999998
15 11 1.30999
15 12 1.82801
15 13 2.84023
15 14 5.80513
16 1 6.19768
16 2 3.04017
16 3 1.96462
16 4 1.41421
16 5 1.08152
16 6 .870265
16 7 .747897
16 8 .707107
16 9 .747896
16 10 .870263
16 11 1.08152
16 12 1.41421
16 13 1.96462
16 14 3.04015
16 15 6.1976
n=3,n=4のときはそれぞれ正方形,白銀菱形になったのですが,n=5のとき,菱形面の対角線の長さの比rがτにならないようです.また,nが偶数のとき白銀菱形,3の倍数のとき正方形が出現していることがわかります.
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【4】計算結果(スケール変換後)
n=3,n=4のときはそれぞれ正方形,白銀菱形になったのですが,n=5のとき,菱形面の対角線の長さの比rがτにならなかったので,以下のようにスケール変換してみます.
x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)
a=√(2/n),b=√(1/n)
n k r
3 1 1
3 2 1
4 1 1.291
4 2 .774599
4 3 1.29099
5 1 1.39888
5 2 .883169
5 3 .883168
5 4 1.39888
6 1 1.41421
6 2 1
6 3 .845156
6 4 1
6 5 1.41421
7 1 1.39481
7 2 1.08269
7 3 .891308
7 4 .891308
7 5 1.08269
7 6 1.39481
8 1 1.36544
8 2 1.13389
8 3 .9495
8 4 .881919
8 5 .949499
8 6 1.13389
8 7 1.36543
9 1 1.33528
9 2 1.1628
9 3 1
9 4 .906631
9 5 .906631
9 6 1
9 7 1.1628
9 8 1.33528
10 1 1.3074
10 2 1.17732
10 3 1.03896
10 4 .939996
10 5 .904536
10 6 .939996
10 7 1.03895
10 8 1.17732
10 9 1.3074
11 1 1.28259
11 2 1.18294
11 3 1.06729
11 4 .972232
11 5 .919673
11 6 .919673
11 7 .972231
11 8 1.06729
11 9 1.18294
11 10 1.28259
12 1 1.26078
12 2 1.18322
12 3 1.08711
12 4 1
12 5 .94075
12 6 .919869
12 7 .94075
12 8 1
12 9 1.08711
12 10 1.18322
12 11 1.26078
13 1 1.24168
13 2 1.18036
13 3 1.10049
13 4 1.02262
13 5 .962474
13 6 .929994
13 7 .929994
13 8 .962473
13 9 1.02262
13 10 1.10049
13 11 1.18036
13 12 1.24168
14 1 1.22492
14 2 1.17574
14 3 1.10914
14 4 1.04046
14 5 .982514
14 6 .944272
14 7 .930952
14 8 .944271
14 9 .982514
14 10 1.04046
14 11 1.10914
14 12 1.17574
14 13 1.22492
15 1 1.21016
15 2 1.17019
15 3 1.11437
15 4 1.0542
15 5 1
15 6 .959615
15 7 .938158
15 8 .938158
15 9 .959615
15 10 1
15 11 1.0542
15 12 1.11437
15 13 1.17019
15 14 1.21016
16 1 1.1971
16 2 1.16422
16 3 1.11716
16 4 1.06458
16 5 1.01477
16 6 .974441
16 7 .94835
16 8 .939339
16 9 .948349
16 10 .974441
16 11 1.01477
16 12 1.06458
16 13 1.11716
16 14 1.16422
16 15 1.1971
このスケール変換
x=(acos2iπ/n,asin2iπ/n,b)
a=√(2/n),b=√(1/n)
では黄金菱形にならなかったのですが,適切なスケール変換を施せば黄金菱形にすることは可能であることがわかります.
また,nが偶数のとき白銀菱形は出現しなくなりましたが,3の倍数のとき正方形は出現することに変わりはありません.
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【補】超平面
原点を中心とするn次元超立方体[-1/2,1/2]^nと原点を通る任意のn次元超平面:H(a)
a1x1+a2x2+・・・+anxn=0
の交わり(切り口の体積)について考えてみましょう.
その前に,まず,aを行ベクトル,xを列ベクトルとして
a=(a1,・・・,an)
x’=(x1,・・・,xn)
また,実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,
ax’=c
で表すことができます.原点を通るときc=0で,その場合,原点を中心とするn次元超立方体と超平面ax’=0は必ず交わります.
ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.
また,aが単位法線ベクトル,すなわち,
a1^2+a2^2+・・・+an^2=1
が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.
n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.
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