■菱形多面体(その4)

 正多面体,準正多面体,それらの複合多面体の中心から頂点に向かう基本ベクトルを使うと,正方形を含む菱形で覆われたゾノヘドロン(凸型ゾーン多面体を作ることができます.これらの立体は高次元空間から3次元空間への射影によって得られます.

 たとえば,菱形90面体は10次元空間の立方体を3次元空間に射影したもの,菱形132面体は12次元空間の立方体を3次元空間に射影したものに相当する多面体です.今回のコラムでは菱形90面体を計量してみることにします.

===================================

【1】菱形90面体の計量

 菱形90面体は白銀菱形5枚からなるサクラの花を作り,それを正12面体の各面に貼り合わせます.そして,正12面体の各辺を黄金2乗菱形で覆った形をしています.そこで,

  サクラの花の中心をA(0,0,h)

  白銀菱形の頂点をB(1/τ,0,h/2)

  正12面体の正5角形面の頂点を

   C(τ/2,τ/2tanπ/5,0)

   D(τ/2,−τ/2tanπ/5,0)

とパラメトライズします.

 ピタゴラスの定理より,

  h=√5−2

これより,

  白銀菱形−白銀菱形間二面角は164.477°

  白銀菱形−黄金2乗菱形間二面角は157.761°

になることが計算されます.

===================================

【2】菱形多面体の頂点と二面角

 菱形の鋭角(acute)m個と鈍角(obtuse)n個が集まる頂点をamonで表すことにすると,菱形の鋭角と鈍角の和は

  a+o=180°

ですから,頂点に4つ以上の鈍角が集まることは不可能です.頂点に集まる角がすべて鈍角である場合はo3で,菱形の鈍角が120°より小さいことが必要になります.

 o=120°(a=60°)の菱形では平面充填形となってしまいますから,o3を有する菱形多面体の面は,正三角形を2個つなげた菱形(対角線の長さの比が1:√3)よりも太っていることが必要で,黄金比や1:√2の菱形などがその候補となるというわけです.

 また,この菱形(鋭角が60°より大きい)が頂点に集まる角がすべて鋭角である場合は最大1頂点に5枚ですから,a3またはa4またはa5ということになります.また,鈍角と鋭角が混ざっている頂点がある場合,a+o=180°ですから,a1o1,a2o2は存在し得ず,a3o1,a2o1,a1o2のみが可能となります.

 実際には

  扁長菱面体:a3=2,a1o2=6

  扁平菱面体:a2o1=6,o3=2

  菱形十二面体:a4=6,o3=8

  菱形十二面体(第2種):a4=2,a3o1=4,a1o2=4,o3=4

  菱形二十面体:a5=2,a3o1=10,o3=10

  菱形三十面体:a5=12,o3=20

のようになっています.

 菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.菱形30面体→菱形20面体の過程でいくつかのa5は保持されるのですが,菱形20面体→菱形12面体(第2種)の過程ですべて消失してしまいます.そして,4個のo3だけが最後まで遺残します.

       黄金菱面体    白銀菱面体    

  頂角 63.4350 70.5288

  a3 72 75.5227

  a2o1 36,144 60,120

  a1o2 72,108 75.5227,104.477

  o3 144 120

  a4 112.456 120

  a3o1 108,144 ×(124.101,144.16)

  a5 144 ×(164.477)

 a3とa1o2,o3とa2o1では同じ二面角が出現していますが,黄金菱面体ではさらにa5とa3o1,o3,a2o1が同じになります.

===================================