「正600胞体に正5胞体が含まれる」としたのは,私の早とちりであった.頂点の関係から,6種類の4次元正多胞体の包含関係(巡礼)をまとめると,
正16胞体≦正8胞体≦正24胞体≦正600胞体≦正120胞体
正5胞体≦正120胞体
となる.すなわち,正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.
これまでの検討で4次元空間の正多胞体では≧2と下限だけが与えられている(もちろん上限は6である).今回のコラムでは,頂点による包含関係が確定したところで,4次元正多胞体の元素を構成することにしたい.
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【1】直角5胞体(right penta)
4次元直角5胞体の各頂点の座標を
(0,0,0,0)
(2,0,0,0)
(0,2,0,0)
(0,0,2,0)
(0,0,0,2)
とおき,RP(right penta)と呼ぶことにする.このRP2^4=16個で1辺の長さ2√2の正16胞体ができる.また,RP4!=24個の体積は1辺の長さ2の正8胞体(体積:2^4=16)と等しくなるから,RPの体積は2/3である.
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【2】正8胞体と正16胞体
正8胞体は16頂点(±1,±1,±1,±1)を結んでできる.正16胞体を構成するひとつの方法として,正8胞体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,4本のベクトル(1,1,1,1),(1,1,−1,−1),(1,−1,1−,1),(1,−1,−1,1)は互いに直交し,長さは2すなわちもとの正8胞体の1辺の長さに等しい.この4頂点と中心に対する4頂点の合計8頂点±(1,1,1,1),±(1,1,−1,−1),±(1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,1)は互いに直交する4本の軸上にあるから,正16胞体をなすことになる.この正16胞体の1辺の長さは2√2であるから,16個のRPよりなり,体積は32/3であることがわかる.
正8胞体の残りの8頂点は±(−1,1,1,1),±(−1,1,−1,−1),±(−1,−1,1,−1),±(−1,−1,−1,1)であるが,たとえば,ベクトルの始点を(−1,1,1,1),終点を±(1,1,1,1),±(1,1,−1,−1),±(1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,1)にとると,正8胞体から正16胞体を取り除いた部分にRP(−2,0,0,0),(0,−2,0,0),(0,0,−2,0),(0,0,0,−2)を構成することができる.このとき,8個のRPが構成できることは,
(16−32/3)/(2/3)=8
からも確かめることができる.
すなわち,3次元の立方体では8個の頂点をひとつおきに4個のright tetraをとると正四面体ができるが,4次元の特殊性として正8胞体では8個のright pentaをとると正16胞体ができ,正8胞体は24個のRPから構成されるというわけである.なお,この操作によって3次元では正四面体,4次元では正16胞体になったが,5次元以上の空間では正多面体にならず,1種の準正多面体になる.
[注]正8胞体の双対では正8胞体の各胞の中心をとり,それらを頂点として結べば正16胞体になるが,この場合,RPとの相似比が1/2の図形(0,0,0,0),(1,0,0,0),(0,1,0,0),(0,0,1,0),(0,0,0,1)ができてしまう.しかし,この図形を2^4=16個積み重ねてもRPにはならないだろう.
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【3】正24胞体
正24胞体の頂点の座標は
(±1,±1,±1,±1)・・・正8胞体の頂点
(±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)・・・正16胞体の頂点
の24点である.3次元空間で立方体の8頂点(±1,±1,±1)と正八面体の6頂点(±2,0,0),(0,±2,0),(0,0,±2)を結ぶと菱形12面体ができるから,正24胞体は3次元の菱形12面体の4次元版と見ることができる.4次元ではその特殊性から本当に正多面体になるわけである.
ここで(2,0,0,0)を頂点,(1,±1,±1,±1)を底とする「立方体錐」を考える.頂点と底面の頂点を結ぶベクトルをとると
(−1,−1,−1,−1),(−1,−1,1,1),(−1,1,−1,1),(−1,1,1,−1)
は互いに直交し長さは2,また,
(−1,1,1,1),(−1,1,−1,−1),(−1,−1,1,−1),(−1,−1,−1,1)
も互いに直交し長さは2であるから,「立方体錐」は2個のRPからなることがわかる.正24胞体は正8胞体分24個+立方体錐分2×8個=40個のRPから構成されるというわけである.
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【3】正600胞体
正600胞体の頂点の座標は,正24胞体の頂点(±1,±1,±1,±1),(±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)の置換24点とねじれ24胞体の頂点(±τ,±1,±1/τ,0)の偶置換96点で与えられる.
(±τ,±1,±1/τ,0)は正8胞体の面の中心またはその双対として正16胞体の辺の中点(±1,±1,0,0)をτ倍した(±τ,±τ,0,0)を1:τに黄金分割したものである.3次元の正八面体の各辺を黄金分割した12点をとると,正20面体の頂点になるが,この操作を正24胞体の各胞(正八面体)に施すと120個の正四面体に囲まれた準正多面体ができ,正600胞体はこの図形から作ることができるというわけである.
この操作は3次元の場合でいえばright tetraをβとγに分割する操作に相当する.したがって,正600胞体単独でひとつの元素とみなしても同じことである.
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【4】正5胞体と正120胞体
正600胞体は正24胞体のroofをなすが,正120胞体は正600胞体のroofをなすと同時に,正5胞体のroofもなす.3次元の場合でいえばδが2個あるようなもので,正5胞体と正120胞体をそれぞれ単独でひとつの元素とみなしても同じことである.
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【5】まとめ
4種類の元素(RP,正5胞体,正600胞体,正120胞体)があればすべての4次元正多胞体を構成できることを示しました.ここで行った構成法はbest possibleと考えられ,4次元正多胞体をどのように分割し,接合しても元素数は4より減らせそうにないことから
[予想]4次元正多胞体の元素数は4である.
と予想されます.
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【6】雑感
正16胞体≦正8胞体≦正24胞体≦正600胞体≦正120胞体
正5胞体≦正120胞体
頂点の包含関係だけならば4次元正多胞体の中で正5胞体は何か異端児である.ただし,辺心や面心にはいろいろの包含関係がありそうである.たとえば,正8胞体の24枚の面の中心および正16胞体の24本の辺の中心はいずれも正24胞体をなす.もちろん,各正多胞体の胞の中心はそれと双対な正多胞体になる.
また,各辺の中点を結んだ図形は3次元の立方八面体や20・12面体のような準正多胞体になる.正5胞体の辺の中点を結ぶと10頂点,30辺,30面,10胞(5個ずつ正四面体と正八面体)というおもしろい立体ができるが,この種の4次元の準正多胞体はまだよくわかっていない点が多くある.ともあれ,4次元の図形は直接眼に見えないだけに扱いにくい点があるが,逆に意外におもしろい関係がありそうである.
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