コラム「デーン不変量と二面角の幾何学(その21)」では,3次元空間での回転を記述する試みの中から,四元数を導入した.たとえば,
ω=(1+i+j+k)/2
は,
ω^2=(−1+i+j+k)/2
ω^3=−1
ω^4=−(1+i+j+k)/2
ω^5=(1−i−j−k)/2
ω^6=1
より1の原始6乗根であり,ωは4次元空間内の60°回転に対応していることになる.しかし,これにはいくつか問題点があることが阪本ひろむ氏より指摘された.
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[1]四元数環は非可環なので,q^nはwell-definedではない.とりあえず,
q^n=q・q^(n-1)
と再帰的に定義するが,
q^n=q^(n-1)・q
という定義も成立する(こちらのほうがよいかも)
[2]q=x+yi+zj+wk,q^3=1をx,yについて解く(z,wについては解けないし,x,y,z,wについて解くと冗長になる).根は
x=±1/2,y=±(3/4−z^2−w^2)^1/2
と複雑になってしまう.一般のq^n=1に対する根の式はもっと複雑で,使いものにならないだろう.
[3]q=±1,q=±i,q=±j,q=±k,
q=(±1±i±j±k)/2
の24個が1の約数である単数(単位四元数)である.この単数全体は原点を中心とする正24胞体をなす.
[4]単数について,
q^n=q・q^(n-1)=1
となるqのリストを作ると,
1)n=2のとき
q=±1の2個,q=−1は1の原始2乗根
2)n=3のとき
q=1,q=(−1±i±j±k)/2の9個,q=(−1±i±j±k)/2は1の原始3乗根
3)n=4のとき
q=±1,q=±i,q=±j,q=±kの8個,q=±i,q=±j,q=±kは1の原始4乗根
4)n=5のとき
q=1の1個
5)n=6のとき
q=±1,q=(±1±i±j±k)/2の18個,q=(1±i±j±k)/2は1の原始6乗根
6)n=7のとき
q=1の1個
7)n=8のとき
q=±1,q=±i,q=±j,q=±kの8個
8)n=9のとき
q=1,q=(−1±i±j±k)/2の9個
9)n=10のとき
q=±1の2個
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[雑感]四元数では結合法則は成立するが,交換法則は成立せず,たとえば,
ij=k,ji=−k
である.そこで,阪本氏に
q^n=q^(n-1)・q
と定義した場合の計算をお願いしたところ,差異はなかった.
結局,mathematicaでは同じものの積を計算しているので,積に関する非可環性は問題にならないということだろう.
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