正5胞体を正600胞体にうまく内接させたいのであるが,それには4次の回転行列が必要と思われる.
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【1】3次の回転行列
空間を回転させる行列で直交変換となっているパラメータ数が3つの「回転」かつ「直交」行列として
(1)オイラー角に基づくもの
(2)ロール・ピッチ・ヨーに基づくもの
がある.(1)はz軸まわりの回転α→新しいy軸まわりの回転β→新しいz軸まわりの回転γ,(2)はz軸まわりの回転φ→新しいy軸まわりの回転θ→新しいx軸まわりの回転ψの3段階によって表すもので,両者に本質的な違いはない.
x,y,z軸の周りの回転では使いにくいので,任意の軸の周りの回転行列を探してみたところ,単位ベクトル
n=(α,β,γ)
を回転軸とし,その周りに正の回転方向にθだけ回転する回転行列が見つかった.それはα,β,γは方向余弦で,α^2+β^2+γ^2=1を満たすものとして
R(1,1)=α^2(1-cosθ)+cosθ
R(2,2)=β^2(1-cosθ)+cosθ
R(3,3)=γ^2(1-cosθ)+cosθ
R(1,2)=αβ(1-cosθ)+γsinθ
R(2,1)=αβ(1-cosθ)-γsinθ
R(1,3)=αγ(1-cosθ)-βsinθ
R(3,1)=αγ(1-cosθ)+βsinθ
R(2,3)=βγ(1-cosθ)+αsinθ
R(3,2)=βγ(1-cosθ)-αsinθ
で表される回転行列である.
4次の回転行列が必要になるのであるが,3次の場合と本質的に異なる構成方法とは思われない.ところが,実際に構成しようとするとうまくいかない.そこで思いついたのが四元数である.たとえば,
ω=(1+i+j+k)/2
は,
ω^2=(−1+i+j+k)/2
ω^3=−1
ω^4=−(1+i+j+k)/2
ω^5=(1−i−j−k)/2
ω^6=1
より1の原始6乗根である.すなわち,ωは4次元空間内の60°回転に対応していることになる.
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【2】四元数
数を実数から複素数に広げると大小の順序はまずくなりますが,平方根を常にとれるし,だから2次方程式は必ず解けるし,もっと一般に代数方程式は常に根をもつことになり,現象がずっと単純になって見通しよくなります.その意味で複素数は究極の数です.交流理論や相対論など物理学の進展の多くは複素数なしには成し遂げられなかったでしょう.
しかし,複素数は2次元平面上に存在すると考えてよい数体系であり,平面的あるいは曲面的な意味しかもちませんから,空間的な現象への応用を目指して,アイルランドの数学者ハミルトンは複素数を拡大した数体系を創造しました.
複素数ではかけ算は回転に相当し,平面上の回転をexp(iθ)=cosθ+isinθとすればZ’=exp(iθ)Zと記述できますが,ハミルトンは3次元空間での回転を記述する試みの中から,複素数の類似である3個の実数の組からなる新しい数(x+yi+zj)を導入して,(a+bi+cj)(x+yi+zj)のような積を同じ空間内のベクトル(α+βi+γj)として表そうとしました.しかし,空間の回転をとらえるというはじめのアイデアは失敗に終わり,結局,4次元へ跳躍することによって4個の実数の組よるなる四元数(x+yi+zj+wk)を発明しました(1843年).
四元数は複素数に似ていますが,ただ1つではなく3つの虚数をもつ数体系で,i^2=−1,j^2=−1,k^2=−1,ij=k,jk=i,ki=j,ji=−k,kj=−i,ik=−jなる性質をもち,(x+yi+zj+wk)(x−yi−zj−wk)=x^2+y^2+z^2+w^2となります.四元数ではかけ算の交換法則は成り立ちません(ab≠ba).四則演算の法則に変更を加えない限り,3次元空間への拡張はできなかったのです.
複素数では加法,減法,乗法と0を除く除法が定義され,かつ,交換,結合,分配法則が適用できる数の集合=体と呼ばれる代数的構造をなしています.実数は体を構成しますが,有理数は最小の体を,複素数は最大の体を構成します.したがって,複素数以上に数の世界を広げようとすると,われわれがなじんでいる交換法則などのどれかが壊れてしまいます.超複素数の世界ではある規則が犠牲にされなければなりませんが,ある規則を犠牲にする段になると,最も苦痛の少ないのは乗法の交換法則だったのです.
四元数は群,環,体などの代数的構造の理論という分野の中で不可欠な役割を担ったのですが,1843年,ハミルトンが発見して以来3次元運動の力学系を記述するために使われてきて,スペースシャトルの制御でも利用されています.また,電磁気学や相対性理論,三次元の非ユークリッド幾何学の法則を記述するのにも応用されています.
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【3】衝撃の事実
あれこれ試行錯誤していたのであるが,どうしてもうまくいかない.そこへ一松信先生から衝撃の手紙が舞い込んできた.120÷5=24なので,一見正600胞体の120個の頂点からうまく選べば正5胞体が24個含まれても良いように見えるが,正600胞体の頂点を結んでも同じ中心をもつ正5胞体は作れないというものである.
一松先生の解説によると,
[1]正600胞体の720本の辺がきれいに720個の正10角形(平面にある真の正10角形)をなすことに注意する.各頂点には6個ずつの正10角形が通る.そして,中心対称の2頂点以外の任意の2点に対しては,その両方を頂点とする正10角形がひとつ定まるか,両頂点を中心と結ぶ半径が垂直あるいは60°の倍数になる.
[2]半径1の外接球面上で一対の点を北極と南極におくと,他の点を標準座標で表すと
緯度南北18°と54°の位置に12点ずつ(正20面体の頂点)計4×12
緯度南北30°の位置に20点ずつ(正12面体の頂点)計2×20
赤道上に12・20面体の形の頂点30
両極2点を加えて120個という位置である.
[3]したがって,北極からの距離は2sin18°,2sin36°,2sin54°,2sin72°,2sin30°,2sin45°,2sin60°,2sin90°のいずれかになるが,半径1の超球に内接する正5胞体の1辺は√(5/2)であり,このどれとも合わない.
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