これまでの検討で,正多角形の元素数は∞,正多面体では4,5次元以上の正多胞体では3であることがわかっている.4次元空間の正多胞体では≧2と下限だけが与えられている.この状況をなんとか打破することはできないだろうか?
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【1】4次元空間の正多胞体
4次元多胞体では,頂点,辺,面,胞の個数の間に,シュレーフリの公式:
v−e+f−c=0
が成立する.これを高次元へ一般化したものがオイラー・ポアンカレの定理
f0=v,f1=e,f2=f,f3=c,・・・
であるが,4次元空間においては,点vは空間cと直線eは平面fと双対的に対応する.正多胞体の頂点数,辺数,面数,胞数を掲げる.
頂点数 辺数 面数 胞数
5胞体 5 10 10 5
8胞体 16 32 24 16
16胞体 8 24 32 8
24胞体 24 96 96 24
120胞体 600 1200 720 120
600胞体 120 720 1200 600
次の表で(p,q)の組合せを調べると,それぞれ5個の4面体がf3,8個の立方体がf3,16個の4面体がf3,24個の8面体がf3,120個の12面体がf3,600個の4面体がf3である正多胞体であることを示している.
境界多面体 境界面p 頂点に集まる面q 辺に集まる胞r
5胞体 正4面体 3 3 3
8胞体 立方体 4 3 3
16胞体 正4面体 3 3 4
24胞体 正8面体 3 4 3
120胞体 正12面体 5 3 3
600胞体 正4面体 3 3 5
また,この2つの表では,それぞれの詳細について,たとえば,正600胞体(4次元正20面体)は頂点数120,稜数720,正三角形数1200で,600個の正4面体状胞体が各辺のまわりにr=5個ずつ集まっているという状況にあることがわかる.
このことをすべての正多胞体について記すのはやめておくが,言葉で説明する(あるいはこれを描く)のは易しいが,これを理解するのがいかに難しいかわかるだろう.端的にいって,人間の直観や勘が働くのはたがだか3次元空間までで,次元が大きくなるに従い,格子点の配位は非常に複雑となり,われわれが3次元空間でイメージするものとは大きく異なってくる.すなわち,高次元では幾何学的直観が効かないので,多胞体は理解するのが難しい対象ということなのである.
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【2】4次元正多胞体の双対性
境界多面体 頂点数 双対性 3次元対応
5胞体 正4面体 5 自己双対(非中心対称) 正4面体
8胞体 立方体 16 16胞体と双対 立方体
16胞体 正4面体 8 8胞体と双対 正8面体
24胞体 正8面体 24 自己双対(中心対称)
120胞体 正12面体 600 600胞体と双対 正12面体
600胞体 正4面体 120 120胞体と双対 正20面体
4次元には6種類の正多胞体がある.正8胞体(4次元立方体)のほか,
正5胞体(4次元正4面体:自己双対)
正16胞体(4次元正8面体)
正24胞体(相当する正多面体はない:自己双対)
正120胞体(4次元正12面体)
正600胞体(4次元正20面体)
である.正8胞体と正16胞体,正120胞体と正600胞体は互いに双対,正5胞体と正24胞体はそれぞれ自分自身に双対である.
双対性からみて,正4面体,正6面体,正8面体の多次元への拡張はわかりやすいと思われるが,3次元空間の正12面体,正20面体,4次元空間の24胞体,120胞体,600胞体は,より高次元においては対応するものをもたない.しかし,それよりも,三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つ<正24胞体,正120胞体,正600胞体>あるといったほうがわかりやすいだろう.
ここで最も気になるのが正24胞体である.正24胞体に相当する3次元正多面体はない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.
すなわち,正24胞体(24胞,正3角形のみからなる96面,96辺,24頂点)こそが,四次元特有の物体であると考えられるのであるが,正24胞体は,四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねてできることから,その意味で4次元版の菱形十二面体に相当する.
24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものであろう.この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがある.
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【3】4次元正多胞体の巡礼(包含関係)
[1]正8胞体(4次元超立方体)は16頂点(±1,±1,±1,±1)を結んでできる.3次元の立方体では8個の頂点をひとつおきにとると正四面体ができるが,4次元立方体では正16胞体(4次元の正八面体)ができる.
正8胞体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとる.4本のベクトル(1,1,1,1),(1,1,−1,−1),(1,−1,1,−1),(1,−1,−1,1)は互いに直交し,長さは2すなわちもとの正8胞体の1辺の長さに等しい.この4頂点と中心に対する4頂点の合計8頂点は互いに直交する4本の軸上にあるから,正16胞体をなすことになる.(なお,3次元では正四面体,4次元では正16胞体になったが,5次元以上の空間では正多面体にならず,1種の準正多面体になる.)
[2]正24胞体の頂点の座標は
(±1,±1,±1,±1)・・・正8胞体の頂点
(±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)・・・正16胞体の頂点
の24点である.3次元空間で立方体の8頂点(±1,±1,±1)と正八面体の6頂点(±2,0,0),(0,±2,0),(0,0,±2)を結ぶと菱形12面体ができるから,正24胞体は3次元の菱形12面体の4次元版と見ることができる.4次元ではその特殊性から本当に正多面体になるわけである.正24胞体の頂点をうまくとると正16胞体をなし.その代表的な軸は
(1,1,1,1),(1,1,1−1),(2,0,0,0)
で,これらは互いに60°をなす.
たとえば,ひとつの面(2,0,0,0),(1,1,1,1),(1,1,1,−1)の中心(4/3,2/3,2/3,0)に対し,この面を境とする胞(正八面体)の中心(1,1,0,0),(1,0,1,0)を結ぶ形となるから,正24胞体の二面角は120°になることがわかる.
正24胞体の構成には他の方法もあり,(その14)で述べた(±1,±1,0,0)を置換した24点から作るものである.これは正8胞体の2次元面24個の中心をとったものである.
[3]3次元の正八面体の各辺を黄金分割した12点をとると,正20面体の頂点になるが,この操作を正24胞体の各胞(正八面体)に施すと120個の正四面体に囲まれた準正多面体ができる.正600胞体はこの図形から作ることができる.最初の正24胞体の頂点をτ倍して(±τ,±τ,0,0)の置換と(±τ,±1,±1/τ,0)の偶置換をとるのであるが,正600胞体の120個の頂点をうまくとると,正5,8,16,24胞体を作ることができる.
4次元正120胞体の構成は4次元正正多胞体のなかでも最も厄介であるが,600個の頂点の座標は
(±2,±2,0,0),(±√5,±1,±1,±1),(±τ,±τ,±τ,±1/τ^2),(±τ^2,±1/τ,±1/τ,±1/τ)の置換と(±τ^2,±1/τ^2,±1,0),(±√5,±1/τ,±τ,0),(±2,±1,±τ,±1/τ)の偶置換で与えられる.
これを√2倍して回転すると
(√5,√5,√5,1),(τ^2,τ^2,√5/τ,1/τ),((3√5+1)/2,1/τ,1/τ,1/τ),(τ√5,τ,1/τ^2,1/τ^2)およびこれに偶数個の負号をつけた点の置換,((3√5−1)/2,τ,τ,τ),(3,√5,1,1)およびこれに奇数個の負号をつけた点の置換,(±4,0,0,0),(±2τ,±2,±2/τ,0),(±2,±2,±2,±2)の置換で与えられる.
興味深いことに,正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.3次元の正12面体の頂点からは正4面体と立方体を作ることができるが,正8面体と正20面体は面の中心を使わなければ作ることができないから,正120胞体ほど完全な万有正多面体ではないのである.
正120胞体の胞の中心は正600胞体の頂点をなし,それらを繋ぐ線分720本は正600胞体の辺と同じ配置である.ところが,正600胞体の辺はちょうど72個の平面上の正10角形をなし,その内角は144°,したがって正120胞体の二面角も144°となる.正120胞体の二面角が正確に144°であることはいささか意外であろう.
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