■リンクと折り紙

 今回取り上げる話題は,前回のコラム「代数幾何学小話(その3)」の続編にあたります.

  [参]礒田正美編「曲線の事典」,共立出版

  [参]ドメイン&オルーク「幾何的な折りアルゴリズム」上原隆平訳,近代科学社

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【1】リンク装置の機構学

 複数の棒を互いに結合してできる連接棒を「リンク装置」と呼びます.パンタグラフのようなリンク装置利用すると拡大・縮小が可能になりますが,たとえば,円錐曲線をすべて描けないかという発想も生まれてきます.

  [参]礒田正美編「曲線の事典」,共立出版

によれば,リンク装置の一点を直線に沿って動かすとき,与えられた直線が3本ないし4本の場合に円錐曲線を作図できるそうです.

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[補]ユークリッドが考察していたとされ,アポロニウスが取り上げ,パップスが成果をあげた難題に三線問題,四線問題がある.

a)三線問題:ひとつの直線への距離の平方が,ほかの2直線への距離の積に対して与えられた比をもつ点の軌跡を求める問題

b)四線問題:1組の直線への距離の積が,ほかの2直線への距離の積に対して与えられた比をもつ点の軌跡を求める問題

 このような点の軌跡は円錐曲線である.デカルトはn本の直線の場合に一般化し,完全な解答を与えた.すなわち,3本ないし4本の直線が与えられたときには2次になり,5本ないし6本(五線問題,六線問題)では3次になり,直線が2本加わるたびに次数が1次増加する.

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 2次曲線のみならず高次曲線作図器も製作されていて,たとえば,ベルヌーイのレムニスケートは単純なリンク装置を使って描くことができます.これはワットの蒸気機関に応用されています.また,ポースリエの反転器は円運動を直線運動に,直線運動を円運動に変換する機構で,リンク装置の用途は多方面にわたっています.

 さらに驚いたことに

  [参]ドメイン&オルーク「幾何的な折りアルゴリズム」上原隆平訳,近代科学社

によれば,リンク装置の一点を直線や曲線に沿って動かすとき,任意の(高次)代数曲線を描くことができるそうです(ケンペの万能定理).

 尖点があってもかまわないし,いかに複雑な変化のある曲線でも描くことができます.あなたの名前をサインするリンク装置が存在するというわけです.

[補]ケンペの証明(1876年)には欠陥があったが,証明の技術的な困難さは克服されず,2002年になってカポヴィッチとミルソンにより完全に決着した.ケンペの職業は弁護士であったが,非常に優秀なアマチュア数学者でもあった.1879年には四色定理の不完全な証明をしたことで最も有名であるが,リンク装置にまつわる話もこれによく似ている.彼の証明は間違ってはいたが,全体的な考え方は非常に聡明なものであったという.

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【2】折り紙による正多角形の作図

 定規とコンパスだけで正3角形,正4角形,正6角形,正8角形が作図できることは簡単にわかりますが,辺の数5,7,9の場合はどうでしょうか.正5角形は古代ギリシャにおいて作図可能であることが発見されました.となれば,次に正7角形・正9角形の作図は?と考えるのは自然な成り行きでしょう.

 ところが,かのアルキメデスでさえも正7角形・正9角形の作図に成功しなかったといわれています.また,内接正多角形の作図は画家であり建築家であるレオナルド・ダ・ヴィンチの関心を惹きました.しかし,彼でさえ近似的な内接正七角形の作図を正確なものと思っていたようです.

 辺数3,4,5,6,8,10,12,15,16の正多角形は作図できますが,辺数7,9,11,13,14の正多角形は作図できないことから,正17角形もそうであろうと推察されます.ところが,1796年,ガウスは19才のときに正17角形の作図を思いつき,のみならず,nが素数の正n角形について,n=22^m+1が素数の場合に限り定規とコンパスだけで作図可能であることを発見しています.

 正7角形も正9角形も作図できないのに,まさか正17角形が作図できるとはと思うのが普通なのでしょうが,このことを用いると,m=0のとき正3角形,m=1のとき正5角形,m=2のとき正17角形となり,作図可能であることがわかります.当然,ずっと面倒になるでしょうが,正257角形(m=3),正65537角形(m=4)も作図可能です.

 22^m+1の形の素数をフェルマー素数といいます.フェルマー素数はガウスによって1世紀にわたる眠りから覚まされ,数論と幾何学に新たな美しさを吹き込んだことになります.フェルマーはこの型の数がすべて素数だと勘違いしていて必ず素数を与える式として考え出されたのですが,m=5のときは素数ではなく,現在,m=0,1,2,3,4の5個以外にフェルマー素数はみつかっていません.6番目のフェルマー素数の探索がコンピュータを使ってなされていますが,はたして本当に存在するのでしょうか.

 アルキメデスは円柱とそれに内接する球の体積比が3:2であることを発見した記念に,自分の墓の上に円柱の形をした記念碑をおくように遺言したといわれています.アルキメデスと同じように,ガウスは正17角形を墓石に彫るよう遺言しています.このことはガウス自身がその発見をいかに重視したかを物語っています.数々の大発見をしたガウスですが,19才の青年がアルキメデスをもってしてもできなかった古代ギリシア以来2000年の謎を解いたのですから,まさに驚きとしかいいようがありません.この正17角形の作図は彼を本格的に数学の道に入らせるきっかけとなったといわれています.

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 正多角形の作図は円周等分問題という幾何学問題ですが,x^n−1=0という代数方程式の解と密接な関係にあります.正5角形の作図は黄金比と関連していて,2次方程式:x^2−x−1=0を解く,すなわち(√5+1)/2を求めることによって可能となりました.ギリシャ人は黄金分割を用いた見事な方法で正五角形の作図に成功したのですが,この方法は二次方程式の幾何学的解法を利用した賢明な方法といえます.

 一方,正7角形,正9角形はそれぞれ3次方程式:x^3+x^2−2x−1=0,x^3−3x+1=0に帰着します.したがって,正7角形,正9角形の作図や倍積問題のように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けません.

 ところが,リンク装置を使えば角を3等分できます.また,近年になって折り紙を使っても角の3等分が可能であることが示されました.また,折り紙を使えば倍積問題が解けます.折り紙は3次方程式・4次方程式を解く力をもっているというわけです.

[補]折り紙の折り目による包絡線として円錐曲線を表すことができますから,折り紙は2次方程式を解く力ももっています.4次を超える能力はありませんが・・・.

 定規とコンパスでは正7,9,11,13,14,・・・角形を構成できませんが,折り紙では2^u3^v+1という形の素数になるとき構成することができますから,構成できない最小の正n角形はn=11であり,以下22,23,25,29,・・・と続き,より多くの正多角形を構成することができます.

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