■デーン不変量と二面角の幾何学(その14)

 (その13)の証明でよいと思うのだが,最初の証明を試みたとき,次のように誤ってしまったことを白状しておく.しかもその誤りに長いこと気づかないでいたのだが,誤りは正120胞体が「万有正多面体」であることと関係している.興味のある読者は試してもらいたい.

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【1】失敗例

 6種類の正多面体での分解合同(分解相似?)の関係式は,

  N1δ5+N2δ120+N3δ600≠0  (mod π)

と書くことができる.

 複素数の積

  Z=n^N1-1u^N1・n^N2-1v^N2・n^N3-1w^N3-1

を考える.複素数の掛け算は偏角の足し算に対応し,実数n^N1-1,n^N2-1,n^N3-1の偏角はすべて0であるから,Zの偏角

  Arg(Z)=Arg(n^N1-1u^N1・n^N2-1v^N2・n^N3-1w^N3-1)=Arg(u^N1)+Arg(v^N2)+Arg(w^N3)

がnπにならないこと,すなわち,u^N1・v^N2・w^N3の虚部

  Im(u^N1・v^N2・w^N3)

が0にはならないことがいえればよいことになる.

 結局

  Z=(a1u+b1)(a2v+b2)(a3w+b3)=Re+Imi

  Im≠0

  a1≠0,b1≠0

 c2,d2は同時に0とはならない,e2,f2は同時に0とはならない

 c3,d3は同時に0とはならない,e3,f3は同時に0とはならない

  a1≠0,b1=0   (mod 2)

  m=2 → c2≠0,d2≠0,e2=0,f2=0   (mod 2)

  m≠2 → c2=0,d2=0,e2=0,f2=0   (mod 2)

  m=2 → c3≠0,d3≠0,e3=0,f3=0   (mod 2)

  m≠2 → c3=0,d3=0,e3=0,f3=0   (mod 2)

に帰着されれば,N1δ5+N2δ120+N3δ600は有理係数で線形独立であり,必要な原子が最低4種類という結論が主張できることになる.

  Im=A1+B1√3+C1√5+D1√15+(10−2√5)^1/2(A2+B2√3+C2√5+D2√15)

と展開される.

  A2=−a2(4a1a3+a3b1−2a1b3−8b1b3)/32

  B2=0

  C2=−3a2a3b1/32

  D2=0

であるが,a2,a3,b2,b3のなかには√5が含まれるから,あらためて係数を書き下すと

  A2=−(2a1c2(c3−e3)+10a1d2(d3−f3)+b1c2(c3−8e3)+5b1d2(d3−8f3))/32−15b1(c2d3+c3d2)/32

  B2=0

  C2=−(2a1d2(c3−e3)+2a1c2(d3−f3)+b1d2(c3−8e3)+b1c2(d3−8f3))/32−3b1(c2c3+d2d3)/32

  D2=0

 C2=0となるためには,a1≠0,b1=0(mod2)であるから

  d2(c3−e3)+c2(d3−f3)=0かつ

  d2(c3−8e3)+c2(d3−8f3)−3(c2c3+d2d3)=0

すなわち,7(d2e3+c2f3)+3(c2c3+d2d3)=0

  c2(7f3+3c3)+d2(7e3+3d3)=0

より

  7f3+3c3=0かつ7e3+3d3=0

 一方,A2=0となるためには

  2c2(c3−e3)+10d2(d3−f3)=0かつ

  2c2(c3−8e3)+10d2(d3−8f3))−30(c2d3+c3d2)=0

すなわち,3c2e3+14d2f3+10(c2d3+c3d2)=0

  c2(3e3+10d3)+d2(14f3+10c3)=0

より,

  3e3+10d3=0かつ14f3+10c3=0

 両者が同時に0となるのは

  c3=d3=0,e3=f3=0

の場合で,これは条件に反する.このことから,A2とC2が同時に0とはならないことがわかる.よって,Im≠0がいえる.すなわち,4次元の正多胞体の元素数は≧4である.

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【2】正多面体の構成

 立方体は8点(±1,±1,±1)を頂点とする立体として,正八面体は6点(±1,0,0),(0,±1,0),(0,0,±1)を頂点とする立体として作ることができる.正四面体は立方体のひとつおきの頂点(1,1,1),(1,−1,−1),(−1,1,−1),(−1,−1,1)を結んでできる.

 正二十面体は正八面体の各辺を黄金分割した点を結んでできるから,その頂点は12点(±τ,±1,0),(±1,0,±τ),(0,±τ,±1)でである.正十二面体の頂点は立方体の頂点(±1,±1,±1)と(±τ,1/τ,0)の巡回置換で表される点20個を結んでできる.

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【3】4次元正多胞体の構成

 正8胞体は16頂点(±1,±1,±1,±1),正16胞体は8頂点(±1,0,0,0),(0,±1,0,0),(0,0,±1,0)(0,0,0,±1)を結んでできる.正5胞体は(1,0,0,0),(0,1,0,0),(0,0,1,0),(0,0,0,1),((1−τ)/2,(1−τ)/2,(1−τ)/2,(1−τ)/2)を結んでできる.

 正24胞体の頂点の座標は

  (±1,±1,0,0),(±1,0,±1,0),(±1,0,0,±1),(0,±1,±1,0),(0,±1,0,±1),(0,0,±1,±1)で与えられる(±1の個数は2つ).正24胞体は3次元空間の菱形12面体であるが,4次元の場合には空間の特殊性から正多面体なるというわけである.

 正600胞体の頂点の座標は

  (±1,±1,±1,±1),(±2,0,0,0),(0,±2,0,0),(0,0,±2,0),(0,0,0,±2)の置換と(±τ,±1,±1/τ,0)の偶置換で与えられる.正600胞体の120個の頂点をうまくとると,正5,8,16,24胞体を作ることができる.

 4次元正120胞体の構成は4次元正正多胞体のなかでも最も厄介であるが,600個の頂点の座標は

  (±2,±2,0,0),(±√5,±1,±1,±1),(±τ,±τ,±τ,±1/τ^2),(±τ^2,±1/τ,±1/τ,±1/τ)の置換と(±τ^2,±1/τ^2,±1,0),(±√5,±1/τ,±τ,0),(±2,±1,±τ,±1/τ)の偶置換で与えられる.正120胞体の頂点をうまくとると,他の正5,8,16,24,600胞体をすべて作ることができる.その意味で,正120胞体は4次元の「万有正多面体」である.3次元の正12面体の頂点からは正4面体と立方体を作ることができるが,正8面体と正20面体は面の中心を使わなければ作ることができないから,正120胞体ほど完全な万有正多面体ではないのである.

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